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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第93話『到着、一悶着』

ミーティングから1週間が経過し、8月に入った。まだまだ日差しも強く、夏真っ盛りである。

そんな中、魔術部一行はとある場所に来ていた。


「着いたぞ。ここが魔導祭の会場だ」

「「おぉ〜!」」


終夜の声に顔を上げると、目の前にはオシャレな彫刻が施された石造りの壁が聳えていた。言わずもがな、会場の外壁である。その立派さに、思わず晴登たち1年生は感嘆の声を零した。
全体像はよくわからないが、言えることはとにかく大きい。高さは学校の屋上を上回っていると思う。


「相変わらず異様な光景よねぇ」

「山の中じゃないと、こんな派手なもん目立ちすぎるからな」


終夜たちも、以前目にしたことがあるのだろうが圧倒されている。
それもそのはず、鬱蒼とした森の中に、ポツンとこんな巨大な建物があるのだ。奇怪なことこの上ない。
というのも、当然と言えばそうなのだが、これは魔術に関連する施設であるがゆえに、人里離れた山奥に位置していたのだ。
おかげで、学校からバスに乗って2時間もかけて山の麓に行き、そこからさらに1時間の間山登りしている。既に疲労が溜まっていた。


「それじゃ、入口まで行くぞ」

「「はい」」


とはいえ、この光景を見て心が躍らない訳がなく、疲れはすぐに吹っ飛んだ。

終夜の指示に従い、入口を目指して壁を沿うように歩いていると、すぐにこの会場は円形なのだと気づく。ドームやコロシアムと似たようなものだろうか。


「こっから中に入れるからな」


そう言って終夜が示した方向にあったのは、これまた大きな門であった。イメージとしては関所に近い。
会場といい、門といい、魔術っぽさが垣間見えて、とても雰囲気が出ている。外国に旅行に来たのかと錯覚してしまいそうだ。


「それにしても、やけに出店が多いですね……」

「そりゃ魔導祭は"魔術師たちのお祭り"みたいなもんだ。出店があったって不思議じゃない」


終夜の言葉に納得しながら、晴登は門の付近に出店が林立する様子を眺めていた。
まるで夏祭りにでも来た気分だ。まだ開会式までに1時間はあるはずなのに、もう人が集まってきていて、少し騒がしい。


「……あれ?」


しかし、ここであることに気づいた。
出店に並ぶ客が大人しかいないのだ。20代くらいの若者から、60代くらいのお年寄りまで幅広くいるが、肝心の10代の少年少女の姿が全くない。
あれらの大人が保護者だとしても、選手である子供たちの姿がこの場にないのは不自然である。


「三浦、どうした?」

「その、大人ばっかりだなと……」

「……あーそういや言い忘れてたな。実はこの魔導祭って、中学生限定じゃなくて、魔術師なら誰でも参加できるんだよ」

「えぇっ!?」


ここに来て一番のカミングアウトだった。
しかし思い返せば、『全国魔導体育祭』という名前のどこにも『中学』の文字がない。加えて『全国』であり、『市』でも『県』でもないのだ。
……これは予想してたよりも、かなり大きい大会なのではなかろうか。


「ちなみに、この大会の最年少チームは俺たちだぜ」

「それ大丈夫なんですか!?」


どうして去年、日城中が予選落ちしたのかわかった気がした。
魔術とは練度が物を言う。つまり、子供のチームよりも大人のチームの方が優れていて当たり前なのだ。
しかも晴登たちは最年少チームときた。これでは優勝どころか、最下位の可能性の方が圧倒的に高い。


「心配すんなって。お前らも結構魔術には慣れてきてる。本戦に行けるかはわかんねぇけど、いいとこは狙えるはずだ」

「そ、そうですか……」


1度はこの舞台を経験している終夜の言葉だ。ここは素直に受け取っておこう。
それでも、予選は1人で戦わなければいけないから、不安を拭い去れる訳ではないが。


「……あれ? 終夜じゃん。それに緋翼ちゃんも」


唐突に、その声は背後から聞こえてきた。
口調は男っぽいが、声の高さ的に女性だと思う。


「あ! 星野先輩じゃないですか!」

「お久しぶりです!」

「やっほ〜。終夜も相変わらず元気そうだね。緋翼ちゃんは……まだ成長期は来てないかぁ」

「余計なお世話です!」


振り返ると、そこには黒髪ショートの綺麗なお姉さんが立っていた。前髪には星の飾りが付いた髪留めを付けており、上下とも黒のジャージを着ている。
それにしても、今「先輩」って……


「お、君たちはもしかしなくても新入生かな?」

「そうですよ、聞いてください。今年はなんと、入部した3人とも魔術を使えるんです!」

「ひゅ〜。それはツイてるねぇ!」


星野と呼ばれた女性と目が合ったかと思うと、終夜がそう説明した。彼女はそれを聞いて、嬉しそうに口笛を吹く。


「部長、この人は……?」

「紹介するぜ。この人は去年の日城中卒業生、でもって魔術部に所属していた星野(ほしの) (ゆえ)先輩だ」

「よろしく〜!」


終夜の紹介に合わせて、月はピースして挨拶してくる。どうやら終夜に負けず劣らず、元気な性格をしているようだ。晴登たちも慌てて挨拶を返す。
今まで考えもしなかったが、この魔術部にも先輩がいたとは。ということは、終夜たちより凄い魔術師だったりするのだろうか……。


「にしても先輩、どうしてこんな所に?」

「そりゃ答えは1つじゃない? 私もこの大会に参加するからよ」

「え、そうなんですか!?」

「そうそう。私が入学した高校で、偶然魔術師がいてね〜。流れでチーム組んで出場することになったの」


終夜と緋翼の問いに、月はあっさりと答えていく。しかし、内容は全くあっさりしていない。
言い方的には、彼女の行った高校に魔術部の様な部活があった訳ではなく、ただ魔術師が見つかったというようなニュアンスだ。だが、そんな簡単にいるものだろうか。魔術師とは。


「……ん? ちょっと待ってください。てことは、もしかして櫻井(さくらい)先輩もいるんじゃ……?!」

「終夜ビンゴ。あの子も同じチームで参加するよ。今はいないけど、後で会いに行かせるね。それじゃ、頑張って〜」


月はそう言って、手を振りながら去っていった。とても快活な人だったな。
にしても、終夜が口にした「櫻井先輩」という人も気になる。たぶんその人も魔術部に所属していたのだろう。でもって、月と同じ高校に入学しているといったところか。
2人とも、一体どんな魔術を使うんだろう……!


「くぅ〜まさか先輩に会えるなんてなぁ〜!」

「でも喜んでばっかりはいられないわよ黒木。あの人たちは……今年は敵なんだから」

「わかってるよ。成長した俺らの力を見せてやろうぜ。いいな1年共!」

「「は、はい!」」


終夜に突然振られ、慌てて大きな声で返事をした。
終夜も緋翼もいつになくやる気に満ちている。先輩が相手だとそうなってしまうものなのかな。例えば来年はこの2人が相手に……


「それはちょっと勘弁かなぁ……」


想像して、晴登は身震いするのだった。






今日の日程は、今から1時間後に開会式を行なった後、さらに1時間後から予選が4つ一気に行なわれる。なんでも、この会場以外にも会場がいくつかあり、そこで予選を実施するそうだ。山の中という地の利を最大限利用している。


「ということで、まだ時間が余ってる訳だが」

「それなら、皆でこの屋台を回りましょうよ!」

「それはいいけど、この人数だとさすがに多いな……よし、お前ら2年だけ別行動な」

「うわ〜バッサリ切り捨てたよこの人」


終夜に対して北上がそう提案したが、なんとも言えない条件付きで承諾される。
2年生たちは不服そうな顔をしていたが、屋台を回れることには変わりないので、すぐに切り替えて散策を始めるのだった。


「よし、それじゃ行くか」

「えぇ……」


何事もなかったかのように話を進める終夜に、思わず嘆息してしまう。
全く、カッコイイ時とダメな時の差が如実に表れるんだから、この人は。







「よう、黒雷のボウズ、今年も来たのか」


開会式までに正午を跨ぐので、適当に屋台で昼食を済ませつつ巡っていると、ふとそんな声が聞こえてきた。
辺りを見回すと、全体的に暗い色調で整えられた店の中に、眼帯と髭がよく目立つ、ソフトモヒカンヘアのおじさんが手を挙げている。


「もうボウズはやめてくれよ、マーさん。俺も来年から高校生なんだぜ?」

「はっ、高校生だろうと俺から見ればボウズなんだよ」


それに応えたのは終夜。どうやら2人は知り合いなようだ。
とはいえ、どうやったらこんないかつい人と知り合うのだろうか。去年の魔導祭でも会ったとか?


「それより、この前売った石はどうだったよ?」

「え!? あぁ、その話ね……うん、まぁ凄かったよ、うん」

「何だぁ? そんなに慌てちまって」


突然のマーさんと呼ばれる男性の一言で、終夜が動揺し始めた。焦りながら、ちらちらとこちらの様子を窺っている。
石? 一体何のことだろう……って!


「終夜、あんたまさかあの石を買ったのは……」

「い、いや、確かに夢渡石(ユメワタリイシ)はマーさんから買ったものだけどよ! でもいいじゃねぇか! あれのおかげで、今こうして結月という素敵な仲間にも出会えた訳だし?! それならウン千万円なんて安いもんだろ?!」

「それとこれとは話が違うわよ! このアホ!!」


終夜の必死な弁明に、緋翼がこれまでの中でも一際大きい声で怒鳴る。そのあまりの勢いに、晴登たちまで思わず気圧されてしまった。

それにしてもまさか、異世界へ渡るために使ったあの石が、この人から買った物だとは。値段も値段だが、それ以上にマーさんという人物の方が気になってしまう。何者なんだこの人は。


「まぁまぁそう怒んなよ、チビの嬢ちゃん」

「チビ言うな! 思い出したわ。あんた去年も終夜に声かけてたでしょ。何してんのか気になってたけど、まさか中学生に高額な物を売りつけてたなんて……」

「はっはっは。こっちは商売やってんだ。金さえ払ってくれるなら、子供も大人も等しくお客様なんだよ。ま、さすがにあの額を払うとは思ってなかったけどな……」


マーさんが堂々とした態度で語り始めたかと思ったら、最後の方は何だかビビってる感じだった。そりゃ確かに、一介の中学生が何千万円を支払ったとなれば、驚かない訳がない。


「ところで、その結月ってのはそこの銀髪の娘かい?」

「はい、そうですが……」


「──つまり、異世界から人を連れて来たってのか?」


突然、マーさんの声色が低くなった。そして睨みつけるように結月を見つめる。彼女はその視線に表情を強ばらせた。
その急な態度の変化に気圧され、晴登たちも押し黙ってしまう。


「本来、この世界と異世界は交わらぬもの。当然、お互いに不可侵不干渉が暗黙のルールだ。けれど、夢渡石はそれを可能にしちまう。だから破格の値段にして、下手な輩に手を出させないようにしていた」


マーさんは口調も表情もそのままに語り始めた。
確かに、そう言われると値段の件は納得してしまう。


「別に黒雷のボウズが買ったことを詰ってる訳じゃねぇ。こいつなら信用できると思って俺は売ったんだからな。──だがまぁ、異世界から人を連れて来るたぁ、大層なことをしてくれたもんだな」


マーさんの圧が一層増す。何も言い返すことはできない。
結月は元は異世界の人間。それをこちらの世界に連れて来たとなると、"不干渉の鉄則"を破ったことになる。その影響は晴登には計り知れないが、もしかしたらヤバいことになるのかもしれない。

それもこれも全ての責任は──


「ごめんなさい、全部俺のせいなんです。あの石で異世界に渡ったのも、結月を連れて来てしまったのも俺の責任です」

「……」


これ以上、終夜に責任を負わされるのを見過ごせず、晴登は前に出て、頭を下げて謝罪した。マーさんはその姿をじっと見つめている。

……こんな時がいつかは来るんじゃないかと思っていた。
今まで誰にも指摘されなかったけど、晴登の心はずっとモヤついていたのだ。結月をこちらの世界に連れて来てしまった時、初めに異世界に帰そうとしたのも、この世界に留まらせてはいけないと思ったからなのである。
とはいえ、結月自身がここに残ると決めた時から、晴登だって覚悟はしていた。


「この責任は、必ず取ります」

「……そりゃ、お前さんが一生その娘の面倒を見るってことか?」

「……はい、そうです」


一生、と言われて少しだけ躊躇ったが、それでも晴登の覚悟は揺るがない。一生だろうと何だろうと、結月の存在を否定させないためなら何だってやってやる。


すると、その晴登の決死の言葉を聞いたマーさんは──ニカッと笑った。


「はっはっは! こいつは傑作だ! ちょっと脅してやるつもりが、まさかプロポーズを聞けるなんてな!」

「えぇっ!?」


マーさんは腹を抱えて大笑いする。その急な手の平返しに、晴登は唖然とするしかない。


「冗談……なんですか?」

「いいや、全部が冗談って訳じゃねぇ。異世界に干渉したことは良いこととは言えねぇからな。けど、だからといって何か罰則がある訳でもねぇんだ。そんなに怯える必要はねぇよ。むしろ、異世界人を見ることができて俺は嬉しいくらいだ」


両手を広げて、喜びを表現するマーさん。
さっきまでの威圧が嘘のようだ。


「しかも見たところ、かなりの実力者じゃないのか? 例えば──レベル5とか」

「っ!」


そのマーさんの言葉に、この場にいた全員が息を飲んだ。まさか、一目見ただけで相手の実力を見切ったということか。


「お、当たりか? ははは、商人やってると目が鍛えられるからな。そうさな……8割くらいの確率で当てられるぜ?」

「「凄っ!?」」

「にしても、これでこの大会に出場するレベル5は3人になった訳だ」

「3人? 結月以外にあと2人いるんですか?」

「おうとも」


マーさんの目利きに驚いたところで、さらに驚くべき情報が入る。
なんと、この大会には能力(アビリティ)の最高峰、レベル5が結月以外に2人いると言うのだ。確か国に数名しかいない程、超レアだと言うが……って、そういえば魔導祭は『全国』大会なのだった。ならレベル5の魔術師が集まるのは、当然っちゃ当然なのか。


「そいつらの能力(アビリティ)は"聖剣(せいけん)"と"黒龍(こくりゅう)"つってな、強さも規模もとにかく桁が違う」

「な、なるほど……」


どちらの能力(アビリティ)名も、聞くだに強そうなものだった。
"聖剣"と言えば、何とかカリバーとかいう超有名な剣を想起するし、"黒龍"と言えば、これまた伝説の存在が頭に浮かぶ。
けど後者に関しては、結月の"白鬼(びゃっき)"と似た感じがした。でも、"黒"って何だよ……。


「マーさんの言う通りだ。俺も去年一昨年と見てきたが、とんでもねぇ人たちだ。しかも、2人とも同じチームだってんだからシャレにならねぇ」

「えぇっ!?」

「優勝候補、【覇軍(コンカラー)】。それが奴らのチーム名だ。もっとも、候補というよりはほぼ確定なんだがな」

「……」


あまりに驚きすぎて、もはや言葉も出ない。そんな化け物みたいな人たちが同じチームだなんて、そんなのもはや卑怯じゃないか。
晴登は改めて、優勝することの無謀さを知った。


「だが、その嬢ちゃんの実力次第じゃ、お前さんらもいいとこ目指せるんじゃないか?」

「ふっ、結月だけじゃねぇ、他のメンツだって調整はバッチリだぜ。今年こそは本選に出てやるよ」

「そいつは楽しみだな。期待してるぜ、黒雷のボウズ」

「だから、その呼び方やめろって」


一通り軽口を交わすと、マーさんと終夜は笑い合った。
どういう関係なのかはわからないが、ただの商人と客って訳でもなさそうだ。何だかまるで友人同士である。


「ちなみに今日は何も買わねぇのか?」

「生憎金を持ち合わせてなくてな」

「んだよ。なら情報代も取れねぇじゃねぇか」

「それくらいで金取ろうとすんな」


マーさんはつまらなそうにボヤくと、終夜がツッコむ。うん、やっぱり2人は仲良しな気がするな。
……にしても、ちゃっかりしてるなぁ。


その後、マーさんに見送られながら、一行はその店を後にした。
立ち話で結構時間を使ったし、開会式のために、そろそろ会場に入った方が良さそうだ。

こうして晴登は、いよいよ魔導祭の舞台へと足を踏み入れるのだった。

 
 

 
後書き
結月「ねぇハルト、さっき言ってたことって本当?」

晴登「え? ど、どのこと……?」

結月「一生ボクの面倒見てくれるって……」

晴登「え!? あ、うん、まぁ……」

結月「そっか……嬉しい」

晴登「な、なら良かった……」

伸太郎「やっぱりお前ら爆発しろよ」

晴登「やめて!?」 
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