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ソードアート・オンライン 幻想の果て

作者:真朝
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七話 短剣使いとの決闘

 
前書き
今回若干視点が入り乱れる回となっております。
読んでくださっている方、読みづらかったら申し訳ありません。

そして遅れてしまいましたが新年明けましておめでとうございます。 

 
戦闘開始を告げるDUELのシステムメッセージがパーティメンバーであるシュウ、そして《聖竜連合》の短剣使いとの間で弾けた瞬間、短剣使いロンが地を蹴りシュウに迫った。

速い――レベルアップの際得られるステータスアップポイントを敏捷値に多く配分しているタイプのプレイヤーなのだろうロンは瞬時に距離を詰めると右手のダガーを閃かせる。それに対しシュウは身を傾けながら前方に構えた盾を傾け、受け止めるのではなく受け流す彼の防御スタンスでその攻撃を捌く。

始まってしまった攻略組との決闘を見守ることしか出来ず、もどかしい感情ばかりが胸に溜まっていく。相手と対照的にステータス配分が筋力型であるシュウは大きな動きを見せず、圧倒的なスピードで攻撃と離脱を繰り返すロンの攻撃を受けることしか出来ずにいるように見えた。

「しっかしあいつもノりいいなー。ま、こんなシチュエーションなら燃えるよな」

同じく決闘を見守っているアルバが暢気にもそんなことを喋るのについ睨むような目を向けてしまう。だがアルバはその視線を意にも介さず、刃と盾が擦れる金属音を響かせ交錯を繰り返す二人の戦いを観戦している。

「……アルバ、どうして止めたんだ」

心配など微塵もしているようには見えない少年の思考が理解できず、先程シュウが決闘を承諾したとき止めに入ろうとした自分を留めた彼にそんな声をかけてしまう。

「んー?まあシュウなら大丈夫かなって思ってさ」

「そんなわけないだろ、相手は攻略組だぞ。どう考えたってこんなデュエル無謀すぎる!」

シュウがコミュニティの中では最もレベルが高いプレイヤーの一人であることはパーティメンバーであるトール自身よく知っていた。しかし相手は攻略組、現在の最前線の階層に当然とっているだろう安全マージンから鑑みて相手のレベルが一回り近くは上であることは確実だろう。

レベルの差はステータスパラメータという絶対的な数値で戦闘力の差を生む。加えて筋力型であるシュウに対して相手は敏捷型、AIに従って行動するモンスターならいざ知らず、高速で動き回るプレイヤーは捉えることすら容易ではないだろう。

まともな勝負になるとは思えないのはキョウジら他の中層プレイヤーも同じなようで、戦いを眺めるその表情は一様に暗い。しかしただ一人アルバだけは愉快そうな色すら見える面持ちでいた。

「まあいい勝負すればいいって言うし、そんなに気にすることないんじゃねえか?」

「いい勝負になんて出来るわけないだろこんなの、晒し者にされるようなもんじゃないか」

悔しさに歯を噛み締めながら、いまだ一方的に攻撃を受け続けているシュウを見つめる。強く出れない自分に代わり交渉し、譲歩を引き出してくれた少年が攻略組の力を見せつけるショーの生贄にされているようなこの光景はトールにとって耐え難いものだった。

「別に俺はシュウが負けるとは思わないけどな」

「……何だって?」

「よく見てみろよアレ、多分ろくにダメージ通ってないぜ」

アルバに促されるままに戦闘を注視すると、異様な事実に気づく。降りかかるダガーの刃、時折ソードスキルの発光を纏いながら迫るそれをシュウは冷静に、落ち着いた表情のままで左の盾、突撃槍(ランス)の護拳を駆使して(ことごと)く受け流している。

まるで盾の上を滑るように流れていくダガーはその威力を発揮できているようには見えない、一方的に攻めている側であるはずの《聖竜連合》、ロンは立場が逆であるかのように焦燥で顔を歪ませていた。攻撃後追撃に移らず即座に離脱しているのは高い敏捷性を生かした戦法というわけではなく、体勢を立て直す隙を突かれるのを避けてのことのようだ。

「シュウ……あんなに巧かったのか?」

「タンカー役任せてると気づきにくいかもしれねえけどさ、目が良いんだろうな、シュウの盾捌きは並みじゃねえと思うぜ、だてに安全マージン外してレベリングしてるわけじゃないってことさ」

攻略組の攻撃と渡り合うシュウの本領を垣間見て思わず息を呑んでしまう。しかし、いかに防御が卓越していたとしてもこの世界の法則はゲームという枠組みの中にある。受ける瞬間に僅かだが、システムのダメージ判定により「抜ける」ダメージがあるはずだ。

であるならば結果は変わらない、回復ポーションを飲むわけにもいかないこんな状況が続けばいずれHPが限界を迎えるだろう。

「それによ、シュウは本当に生きてるからな、この世界で」

「……?」

「たかが十程度のレベル差ぐらいで――あんなゲーマー根性が抜けてないような連中に負けたりはしねえよきっと」

独白のようにそんなことを呟くアルバ。彼が何を思い、どう考えてそんな確信を抱くに至っているのか、やはり理解することが出来ず、トールは返す言葉を見つけることが出来なかった。



   *          *          *



「ちぃっ!」

何度目かの特攻の後、舌打ちを漏らしながら相手から飛び離れる。生意気な口を聞く新顔を軽くあしらい、立場をわきまえさせる、そんな予定は大きく狂わされていた。

タンカー役を担っているにしては小ぶりの盾に、間接部の守りは鎧の内側に打ち合わせてあるのだろう黒革のみが露出している複合鎧(コンポジットアーマー)。本格的なタンク系プレイヤー、いや一般的な重装型の剣士プレイヤーと比しても防御力は一段落ちるだろうその軽装ぶりからして決着はすぐにつくと見当をつけていた、のだが。

どうしてこんなに堅い――――!?

見舞った斬撃の数は二十、放ったソードスキルは五を数えるがそのどれもが決定的なダメージを与えているようには感じられなかった。中層のランス使いは焦る素振りすらなく逆雫形の盾、武器防御判定のあるらしいランスの護拳を操りこちらの攻撃を捌いて見せた。まるで表面に魔法の油でも塗ってあるかのごとくダガーは軌道をずらされ、敵の芯を捉らえることは無かった。

その段に至って認めざるを得ない事実をロンは噛み締めていた。中層のランス使い、シュウの防御スキルは自身の攻撃が通用しないレベルにまで達していると。格下と見下した相手がその実、こちらを上回るものをもっていたと認識することは屈辱だったが、状況の打開にその認識は必要不可欠だった。

完璧に受け流されているにせよ多少のダメージは抜けているだろう、初撃決着モードで開始されたこのデュエル、このまま攻撃と離脱を繰り返せばいつかは敗北判定の一つであるHPバーがイエローゾーンに達する条件は満たされるかもしれない。

だが最大手ギルド《聖竜連合》の一人であるということ、そして攻略組としてこれまでのアインクラッド攻略を牽引してきたプレイヤーの一員であるという自負がそんな勝ち方を許さなかった。足を止め、距離を空けた先のランス使いを睨み据えながらその守りを突破する方法を模索する。

こちらに半身で立ち向けられる盾、正面からの攻撃は全てあの盾に受けられると見て間違いないだろう、あの卓越した受け流しを突破するには攻撃を逸らしきれない重さの一撃を打ち込む程度しか考えられないが、ロンのステータスは敏捷偏重、武器は短剣に属するダガーだ。筋力型のステータスポイント振り分けを行っていると思しき相手の腕力を上回る重量を捻り出せる術は無い。

速度についてもこちらのダガーの軌道を予測して余りある目を持ち合わせていることは実証されている。ならば――と、ダガーを逆手に持ち替え後ろ腰のポーチ、そのポケットの一つに空いた左手を伸ばす。(にわ)かに警戒を強めるシュウの前で、二本のピック、投擲用武器であるそれを取り出した。

「シッ!」

投剣スキル、《ダブルシュート》の青いライトエフェクトに包まれながら投じられた二本のピックがシュウに向かい飛ぶ。マスター近いスキル熟練度の補正を受け矢のような速さで迫るそれをシュウは盾を突き出し受ける。

この世界で唯一の遠距離攻撃手段と言える投剣スキルの攻撃力は軒並み低い、それでたいしたダメージが望めるわけもなく硬質な音を響かせてピックが弾かれるが、その時ロンは地を蹴り、低空を飛ぶようにしてシュウの真横、大人一人分程の距離を空けた地点に着地していた。

「らあぁぁっ!」

再度地を蹴ると同時、ダガーが深紅の光を帯び始める。それに伴い敏捷値による補正を超えた加速が体にかかるのを感じた、ソードスキルのシステムアシストが働いているのだ。高速戦闘に慣れない者には消えたようにすら見えるかもしれない速度で、鋭角的な軌道を描き盾を正面に構えたままのランス使いの背後に跳ぶ。

短剣用奇襲技《リープハインド》、状況に応じた動きで対象の背後を取ることを可能としたそのソードスキルによる回り込みで後ろをとり、引き寄せたダガーを振るって無防備な首元を刈る、筈だったがしかし、得られた手ごたえは堅い金属に弾かれる感触のみ、狙いとは程遠いものだった。

「――つっ」

軽く身を回したシュウが掲げたランス、その護拳に必殺の気合を込めて放った斬撃は受けられるばかりか、撥ね退けられてしまっていた。

(後ろに目でもついてんのかこいつは――――っ!?)

その結果に驚愕するのも束の間、シュウが放つ足蹴りに気づき目を見開く。ソードスキルの仕様直後で硬直時間を強いられているロンはそれに対応することが出来ず、宙に浮いた足を刈り取るかのごとき足払いを受けてしまう。

鋭い痛みが両脛に走るのを感じながらも、急速に体が前へ傾く感覚を自覚し咄嗟に両手を地面へ向かい伸ばす。無防備な体勢で倒れることだけは避けなければならない。控えめな筋力値を奮い立たせ地についた手を足代わりに前方へ身を投げながら宙返り、体が相手に対し正面を向けられるよう捻りを加え、着地の瞬間足を屈伸させると地面を滑りながらもダガーを構える。

敵の窮地に畳み掛けようとする手合いは得てして攻撃が粗雑になり隙が出来るものだ。追撃に来るようならそこにカウンターを食らわせてみせる。そんな思考から直ちに反撃に移れるよう軽業師もかくやという体捌きで無理矢理に体勢を整えはしたが、対敵はあくまで。(したた)かだった。

こちらが体勢を崩さないのを見越していたのか、足払いをかけた位置から――いや、デュエル開始位置からほとんど動いていないまま、変わらない姿勢で観察するような視線と共に盾を向けてくるランス使い。鼻は高く、やや日本人離れした容貌だが年の頃はまだ成人に満たないだろう。しかしその精神は遥かに熟成している、若者特有の逸りともとれる勢いが全く見受けられない。

攻めづらい――はじめこそ有利な相手と見ていたがその実、鉄壁という印象が相応しいこの相手はロンにとってこの上なく厄介な難敵だった。

深く息を吐き、呼吸を整える。デュエルが始まって五分と経過していないが、防御の為最小限の動きしかとっていない相手と違い敏捷値をフルに使い走り回った自分の運動量は相当なものだろう。SAOというゲームの中ではレベルにして八十に達しているロンがその程度で息が切れることなどありえないが精神的なものはまた別だ。

これだけ動き回りダガーを振るっているというのに未だ仕留め切れていないという事実は意識的にせよ無意識にせよ、焦りという形で内に溜まり攻撃の手を粗雑に鈍らせるだろう。その時こそ目前のランス使いは反撃に転じるに違いない。

……腹をくくるしかねえか。

待っていても好機は遠ざかるばかり、ならば自分から飛び込むしかないと、決意したロンはキッと目を見開き、最後の交錯になるだろう疾走の体勢に入った。



   *          *          *



こちらに背を向けたシュウ、その奥手で《聖竜連合》のロンは次の手をどう出るか思案でもしているのか、構えながら攻撃の手を休めている。シュウの足払いが決まった瞬間はチャンスかと思われたが相手も流石に攻略組、凄まじい身のこなしで体勢を立て直すや否や反撃の姿勢すら見せていた。

一時の窮地を乗り切ったロンとシュウが睨み合い、戦闘は膠着状態に陥っている。いつしかトールは熟練プレイヤー同士の攻防に魅入られ、目を離すことが出来なくなっていた。自分が同じような条件で彼らと戦ったならば、あそこまでの判断が出来るだろうかと、不謹慎ながらもそんな考えを浮かべてしまう。

そうしてトールら中層プレイヤー達、《聖竜連合》の面々が二人のデュエルを見守る中、ロンが膝を曲げ溜めをつくる。状況が動き始める兆候にその場のギャラリー達が息を呑む気配が伝わってきた。ロンの動作に合わせてシュウもランスと盾を握り直し備える。と、その時唐突にアルバが呟いた。

「次で決まるぜ」

「え?」

その予言の真意を問いかけるより早く、短剣使いロンが地を蹴りシュウへと迫っていた。



   *          *          *



ロンが駆けた先は正面、それまでのようにすれ違い様に刃を走らせることを目的としたようなものでは無く、盾の守りを超えて懐に飛び込もうとでもしようというのか、まるで激突しにいくかのような猛進ぶりだった。更にロンは何を思ったのか、接触まで二メートルを切ったという所で地面を蹴りつけ、跳ぶ。

低空を飛びながら勢いをつけて迫るロン。しかし空中に身を躍らせたその状態では回避もままならないはずだ、それまで自分から攻撃に出ることの無かったシュウがはじめて右手のランスを僅かに引くと、向かってくるロン目掛けて鋭く突き出した。地に足がついていないロンはそれを避けることは出来ない、はずだったが。

「ふっ!」

銀色に光る穂先が黒いライダースーツを貫こうというとき、ロンがダガーでランスの横腹を打った。鈍い金属音を響かせながら横からの衝撃を受けたランスは大きく狙いを外し、何も無い空を穿つ。そうして打ち払いの勢いを利用しランスを突き出したシュウの側面に降り立ったロンが勝利の確信を込めてダガーを振りかぶった。

盾は反対側にあり、ランスは振り抜いた直後、防御手段が間に合うはずもない。トールら中層プレイヤーが息を呑み、《聖竜連合》達が沸きあがる中で一人、声を上げるものがいた。

「ロン!気を抜くんじゃない!」

《聖竜連合》のシュミットだ、勝利を目前とした状況で何を――と皆が怪訝に思う中、ある事に気づいたロンの表情が凍る。この決闘の勝利条件の一つたる強攻撃のヒット、それを見舞おうと狙っていたシュウの目は変わらず、ロンの姿を捉えていたのだ。それも焦りなどまるで無い、透徹とした色のままで。

その迷いない目つきが掻き立てる不安を振り切って、ロンがソードスキルを発動しようとしたときはじめて、彼は視界の端でいつの間にか輝きを放ち始めていたそれの存在に気づいた。振り抜いた筈のランスを握るシュウの手は突きを放つにはやや不向きな、柄に対し完全な垂直に握りこまれているそれがスチールグレーのライトエフェクトを発生させながら電光石火の勢いで自身に飛び込んでくるのにロンはまともな反応を見せることも出来なかった。

「ぐ……おっ!」

ランスの柄尻を鳩尾に叩き込まれ呻くロン。突撃槍(ランス)用打撃技《シュタイン・ファウスト》。低威力だが発動から技の出が速く硬直時間も短い、ランス使いにとって近接での緊急回避に用いられるソードスキルだった。

同じランスの使い手としてその技の存在を知っていたからこそシュミットは警告を発したのだろう。それ以前に筋力型プレイヤーの攻撃を弾くのが容易過ぎたことにロンは気づくべきだったのかもしれない。迎撃にソードスキルを用いなかったこと、そして即座に発動したカウンター。シュウが初めからロンを懐に迎え入れるつもりだったことは明らかだった。

「ちぃ!?」

ダメージ判定の弱い柄での攻撃であったため、強攻撃というまでの威力には至らず決着は着いていない。SAOでは槍で突かれたとて痛みが発生することはないが、衝撃が体を突き抜けていく擬似的な感覚は慣れるものではなく、たたらを踏みながら数歩下がったロンの眼前に、シュウがランスの穂先を突きつけた。

ヒュ、と。ロンが吸い込んだ息を詰まらせる。円錐形のランスの切っ先、それが文字通りの目と鼻の先に突きつけられることによるプレッシャーは並大抵のものではなかった。触れるだけで穴をあけられそうな尖端が自分に間近でつきつけられている、本能的な恐怖もあいまりその瞬間、彼の視線がその一点に吸い込まれる。

シュウがランスを突き込むなり、引き寄せるなりしたならばロンはなんらかのリアクションを起こせたかもしれない。しかし彼がしたことは穂先を突きつける、それだけの行為だった。視線の集中に現実同様、SAOという世界の中においてはより明確に、視線を凝らした対象にのみリアルなディテールを与える《ディテール・フォーカシング・システム》により今ロンの視界の中では向けられた穂先以外がぼやけてすら見えるはずだ。

「がっ!」

そんな状態では続く攻撃、大振りでシュウが繰り出した盾による殴打をもろに受けてしまったのも無理からぬことだったろう。金属の塊で側頭部を強烈に殴りつけられ、頭を揺さぶられる感覚にロンは眩暈を起こしたようにふらつく。盾には攻撃値が設定されていないためHPの現象は僅かだが、体の自由を手放してしまったロンの目の前でシュウは悠然とランスを引き戻し、腰を落として構えを取る。

合わせてランスに生まれる橙色の光。その発光が槍身全体を包み込んだ瞬間、シュウは己が持つ筋力値の全てを込めて右足を踏み込む。

「――――ッ!」

放たれる無音の気合、大地から生じた反発をランスへと乗せることにより、ソードスキル単体が持つ威力を極限までブーストさせた突撃槍単発重攻撃技《ランメ・カノーネ》の一撃が短剣使いの中心を貫いた。 
 

 
後書き
やっとの戦闘回だったこともあってちょっと勢いで書いてしまって視点分けできてないところあるかもです……。

ご指摘ご感想してくださると大変喜びます。 
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