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ソードアート・オンライン 幻想の果て

作者:真朝
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六話 攻略組

五十八層の北西部に位置するラ・ヴァン鉱山跡地。良質な鉱石資源の産出地として開発が進んでいたが、ある一定層まで坑道の削掘が進んだ時内部からモンスターが湧き出すようになり、今では一般の炭鉱夫は立ち寄れず廃れてしまった、という設定上の歴史を持つこのダンジョン。

跡地とはいっても豊富な鉱脈は健在らしく内部ではハイグレードの装備品に加工できる鉱石が採れる採掘オブジェクトが湧出(ポップ)し、出現するモンスターを容易に狩れるレベルにまで達したプレイヤーからは人気の素材収集スポットとなっている。

ぼろぼろの掘っ立て小屋に鉱山入り口から伸びる錆びきったトロッコのレール、廃れてしまった印象を十二分に漂わせたその鉱山前の広場にやってきたシュウ達三人は常に無い風景をそこに見つけ、顔を見合わせていた。

「なにやってんだアレ?」

共通で抱いた疑問をアルバが呟く。三人の視線の先、鉱山の入り口前には険悪そうな雰囲気を醸し出している二つの集団が睨み合っていた。入り口側に居る集団は十人以上はいるだろう大規模なものだ。

それに対して向かい合うのは四人。いずれも剣士系プレイヤーであるのは一目瞭然の格好をしているが彼らは一様に苦渋の表情を浮かべていた。それにひきかえ大集団のプレイヤー達は余裕のある表情の者ばかりだ、中には侮るような含み笑いをしている者もいる。

「あいつらは……見覚えがあるな」

「ああ、少人数の方はコミュニティにも参加してる中層プレイヤーだよ、俺は集まりで何度か話したこともある」

シュウの呟きをトールが頷きながら裏付ける。そして三人が意識を奥側、鉱山の入り口を塞ぐように陣取っている集団に移したとき、不明な状況の中である一つのことに先んじてシュウが気づいた。

「《聖竜連合》、か」

重装備型のプレイヤーに共通する銀に青の差し色が入ったプレートメイル、そしてマント留めなどに見られるエンブレムは彼らが攻略組に参加するギルドの中でも最大手である《聖竜連合》であることを示していた。

「何で《聖竜連合》がこんなに……」

「なんにせよ、面倒なことになっていそうだな」

困惑するトールに返しながらシュウは溜め息を一つ吐くと止めていた歩みを再開し、集団に近づいていく。立ち止まっていたトールとアルバもそれにならい足を踏み出した。



やがて《聖竜連合》側の一部が近づいてくるシュウ達に気づき顔を向ける。それに反応して振り返った中層プレイヤー側の青年も三人に気づき声を上げた。

「トール達じゃないか」

「どうも、キョウジさん……取り込み中みたいですね」

「ああ、レアドロップの鉱石を狙ってきたんだけどな……連中が」

苦々しげに言葉尻を濁らせ、《聖竜連合》の方を見やる青年。すると連合側の一人が場に加わったシュウら三人を見据えると倣岸な声音で告げた。

「お前らもここの鉱石狙いか?悪いが今日ここは俺達《聖竜連合》が使わせてもらう。悪いがよそをあたってくれ」

言葉の内容とは裏腹に、全く悪びれた様子も見せない男の言いようにトールが目を丸くして耳を疑う。アインクラッドの最前線で活動する《聖竜連合》の規模がいくら大きなものだとしてもダンジョンをまるまる一つ、それも他のプレイヤーを妨害してまで独占するというのはあまりにも横暴が過ぎると言えたからだ。

「おいおい、いくらなんでもそりゃないだろ!レア鉱石がドロップしやすいオブジェクト枯らされたら再湧出(リポップ)まで数日かかる時もあるんだぜ!?」

「よそって……あなた方が攻略組なのは知っていますが、俺達だって前線を目指して装備を強化するためにここに来ています!ここの採掘量なら少しぐらい俺達に使わせてもらってもいいんじゃありませんか?」

「ああん?何で俺達が――っ」

顔をしかめて何事か言いかけた男を手で制し、《聖竜連合》の集団から長大な突撃槍(ランス)を背負った一人の男が詰め寄っていたアルバとトールの前に出てくる。背は高く、MMOに手を出すゲーマーにしては大分体格の良い男だった。かしゃりと身に纏ったプレートメイルの音を立て男が足を止めると、トールとアルバを見下ろしながら口を開く。

「申し訳ないが俺達は最前線に挑んでいる、攻略を進める為にも装備の強化は急務なんだ。どうかここは譲って欲しい」

他の者達と比べ真摯な眼差しで請うその男にトールが声を詰まらせ押し黙る。SAOのクリアに対する意識が高いトールだけあり現実に前線でアインクラッド攻略を推し進めている彼らのその台詞は抵抗し難いものだった。

最前線プレイヤーへの引け目故に抗論できず歯を食いしばるトール。と、それまで目を細めて状況を見ていたシュウがその肩に手を置き、顧みたトールと顔を合わせると後退を促すように首を振った。

「トール、少し下がっていてくれ。アルバも」

「シュウ……」

「いいから、悪いようにはしないさ」

不安げに表情を曇らせながらもトールが身を引き、不服そうにむくれていたアルバもシュウが前に出たのを見ると不承不承といった様子で同じ位置まで下がる。攻略組のプレイヤーを相手に欠片も怖じ気を感じさせない立ち振る舞いで見返してくるシュウの視線に、《聖竜連合》の男は居心地悪そうにしながらも再び口を開いた。

「こちらの言い分は今言った通りだ。迷惑をかけるとは思うが、理解してもらえないか」

「いや、到底理解できそうにないな」

男の主張を真っ向から斬って捨てたシュウの返答にトール達中層プレイヤー側からは戸惑いの、《聖竜連合》側からは怒気を孕んだどよめきが上がる。連合側の男達から大量に浴びせかけられる敵意の視線を気にも留めず、シュウは続ける。

「装備の強化?あんたら攻略組のプレイヤーに見合う装備に加工できる代物はここならレア鉱石ぐらいなものだろう、だったら奥の良質なオブジェクトが湧くエリアだけに絞ってもいいはずだ、ダンジョン全域を独占しようなんて、度が過ぎている。レアリティの低い鉱石なんかあんた達の役には立たないだろう?……ああ。いや、そうか」

溜め息を吐きながら言葉を一旦切り、今気づいたというような声を芝居がかった仕草で上げるシュウ。瞳は動じさせず、口端を僅かに持ち上げた冷笑を浮かべて淡々と言葉を紡いでいく。

「そういえば近頃は金属の相場が値上がりしてるそうだな、中層プレイヤーが増加してきたせいで供給が追いついていないんだったか。鉱石素材を売りさばいて儲けるには丁度いいタイミングだ」

シュウが口にしたその話題に相対する男の表情が険しく歪む。背後の面々も言われんとしていることを察したのか数人の男が気まずそうにして身じろぎする様子が見える。

「ここで一日掘りまくればレアを除いても相当な量の鉱石が採れる。ましてやダンジョン全体分ともなれば相当な稼ぎになるな。だが一般プレイヤーを妨害してまでそんな荒稼ぎをしたと知れたら――さぞかしギルドの評判は落ちるだろう、新聞を出してる情報屋あたりが食いつきそうなネタだ」

情報(ネタ)の横流しをほのめかす発言に男や《聖竜連合》の面々の顔に焦りが覗き始める。トップギルドとして名を馳せる彼らだけにギルドの悪評が広まることは忌避すべき事態のはずであった。

彼らが攻略の為という建前の裏で過剰な利益を得ようとしていたことを察した後方のキョウジら、中層プレイヤー達の間に漂っていた諦めの気配も、次第に連合側を非難するような険悪なものへ変化していく。

「ってめぇ、そんなことしてタダで済むと思ってんのか!?」

連合の中でもいかつめの外見をした男が一歩踏み出し、腰に帯びた長剣に手をかけながらシュウを睨みつけ典型的な脅し文句を叫ぶ。が、当のシュウは。

「タダですまないのか?まさか《聖竜連合》ともあろうギルドがそんな犯罪者(オレンジ)ギルド紛いの真似をするとは思わなかったな」

などと肩をすくめて言い返す。脅す素振りを見せたものの実際にそんな真似ができるわけがない男はぐ、と喉を詰まらせ、剣の柄を握るだけにとどまった。《聖竜連合》の知名度の高さを逆手にとって格上の集団相手に強気で責め立てるシュウに背後から見守っていたアルバは先程までの不満顔はどこへやら愉快気に笑う。

「くっくっ……性格悪っり」

「どっちが、っていうのは聞かないほうが良さそうだな……」

トールとアルバのそんなやり取りを背にしながら、シュウは大分空気の変化したその状況を終わらせるべく再度口を開く。

「なに、あんた方が攻略組だというのは理解しているさ。だから奥の良質オブジェクトぐらいは諦めよう、だが――」

「わかった」

その言葉の終わりを待たず、相対していた男がどこか安心したようにも見える面持ちで承諾の意を表す。それに伴い《聖竜連合》の面々がざわめきだすが、男がじろりと背後に視線を飛ばすとたちまち大人しくなる。どうやら男は連合の中でもかなり立場が上の人物であるらしい。

「奥を譲ってくれるとまで言ってもらえているんだ、欲張りすぎて恨みを買うことはない。――そちらはその条件で納得してもらえるのか?」

「ああ。浅い位置のオブジェクトでもレアの確率が全く無いわけじゃない。どのみち運次第なんだ、そこは我慢するさ」

言いながらシュウが後方のキョウジらの方を見ると、彼らも了解するらしく頷きを返している。その条件は攻略組と中層プレイヤー達、双方の利害をすり合わせた妥協の限界に適うものでもあった。

そうして緊張していた事態が一応の収束を見せたところに、水を差すような声が上がった。

「待ちなよ、シュミットさん」

《聖竜連合》の内から上がったその声の主が場の視線を集めながら歩み出てくる。漆黒のライダースーツを思わせる上下一体型の革製防具に同素材製と思しきチョッキを羽織った、重装プレイヤーが多い《聖竜連合》では珍しい軽装備型の男だった。

「シュミットさん、あんた最近丸くなりすぎだよ」

「ロン、しかしな……」

シュウと対話していたシュミットという名らしい男性の横に立つと、歩み出てきた男はシュウと向き合う。背丈はお互いにほぼ変わらない程度だが男、ロンの目つきは傍目にも明らかな相手を見下すものだった。

「俺達はクリアのために、前線で戦ってる攻略組だぜ、金を蓄えることになんの悪いことがある?その金でいい装備を買い集めて俺らが強くなれば攻略も早まる、お前ら中層で遊んでる連中にとってもそれは悪くない話だろ?」

蔑みきったその発言にトール達中層プレイヤーの間に再び憤りの感情が渦巻き始め、中には殺気すら感じさせる睨みを飛ばすものもいた。再び険悪化した空気に慌ててシュミットがそれを引き起こしたロンを制止しようとするが、視線の温度をそれまでより大幅に低下させたシュウがそれよりも早く口を開く。

「おためごかしは結構だ」

「なんだと?」

「心にも無いことを言わなくていいと言ったんだよ、そんなことだからあんたらは人気が低いんだよ、《血盟騎士団》なんかと違ってな」

「は……何を言ってやがる、連中と俺達で何が違うっていうんだよ」

気に障る発言だったのか、特にシュウが台詞の後半出した《聖竜連合》と同じく最前線で活動するトップギルドの一つ、《血盟騎士団》の名に反応し、やや気色ばんだ様子を見せロンが声を荒げる。それに対しシュウは溜め息まで吐きながら呆れたと言うようなような姿勢をつくっている。

「クリアのためというなら最前線の迷宮区の攻略にいそしんでるはずだろう、現に《血盟騎士団》は今もそうしてるはずだ、攻略組なら安全マージンは十分にとってるだろうしな。だがあんたらはこんな大所帯で出稼ぎなんかしてる、はっきり言ったらどうだ?自分達の目的は最強のギルドっていう地位だとな」

《聖竜連合》のプレイヤー達、特にシュミットの表情が渋いものになる。最前線で活躍するギルドの内で一般プレイヤーからの人気、という点で彼らが《血盟騎士団》に遅れをとる最大の原因がそこだった。

最速でのSAOクリアのために迷宮区を攻略し続ける《血盟騎士団》。一方で《聖竜連合》の方針は攻略、というより最強ギルドという立場の維持に向いていた。レベルという数字で強さというものが明確に現れてしまうこの世界の特性故か、攻略という意思の有無に関わらず弱者のままでいることを、先達に遅れをとることを恐れそういった傾向が見られるプレイヤーは少なくなく、《聖竜連合》はそんな人種が最も多く集まったギルドでもあった。

SAO内において一人にしか発現していない、ユニークスキル《神聖剣》の保持者であるヒースクリフ。稀少な女性プレイヤーでありながら《閃光》の異名を持つレイピア使いであるアスナ。ヒーロー性に富んだ二人のプレイヤーを擁するという事実も加わり、デスゲームからの開放を望むプレイヤー達の人気は自然、《血盟騎士団》の方へ向かい、最強ギルドの立場維持の結果として攻略組にいる《聖竜連合》にとってはコンプレックスを抱かずにはいられない存在となっている。

「クリアのためというのなら、明確に攻略の意思がある俺達が強くなったほうがよっぽど良い、むしろあんたらの方が遠慮すべきだろう」

「……ハッ、口だけ達者でもな、前線を目指してるとかほざいてたけどよ、最前線じゃ一日二日モンスター狩りしたところでそうそうレベルも上がるもんじゃねえんだぞ、今更追いつけると思ってんのか?お前のレベルはどれぐらいなんだよ」

「レベルか……」

他人のステータスの詮索はマナー違反とされる行為だがこの場においてはそれを遮るものも居なかった、少しの間を置きシュウが答える。

「七十だ」

「――っ!?」

その返答にシュウのパーティーメンバーであるトール、アルバを除いた全ての人間が驚いた様子を見せる。現在の最前線は七十層、階層プラス十の数値が目安とされる安全マージンを考慮から外せば彼のレベルが最前線の適正レベルに届いていたからだ。それまで完全にシュウらを侮りきっていた《聖竜連合》の者達の見る目も幾分か変化し始める。

「……本当だろうな」

「信用できないならステータスウィンドウを開いて見せても構わないぞ」

虚偽ではないことを確認するとロンは渋面をつくりながら押し黙る。奇妙な沈黙がしばしの間続くが、やがてどういう考えに思い至ったのか、ロンは後ろ腰に差したダガーを引き抜き、鋭利な切っ先をシュウに向けた。武器を向けるという攻撃的なアクションにその場の緊張が急激に高まる。

「ロン!?何をするつもりだ」

「悪いが黙っていてくれシュミットさん。目的がどうだろうと俺達が前線を引っ張ってきたのは事実なんだ、黙って安全圏にいた連中に譲歩してやる義理はねぇ」

シュミットからの制止にも構わずロンはダガーと共に鋭い視線をシュウへと向けながら、強い口調で続ける。

「使えるかどうか見てやる、中層の。デュエルを受けろ、いい勝負が出来たらさっきの条件を呑んでやる」

「へえ……」

見下したような態度を消し、真剣な顔つきで決闘を申し出た男にはじめて、シュウの表情が取り繕ったものから変化する。それまでの相手を挑発するようなものとは異なった、楽しむような薄笑みに。

「それは分かりやすくていいな、受けて立とう」

「ちょ、シュウ……っ!?」

あっさりと承諾したシュウを止めようと、トールが動くが、その腕が隣のアルバにより掴まれ、逆に止められる。何故、と言いたそうに自身を止めたアルバをトールが見るが、大剣使いの少年は黙って首を振り手を離さなかった。

《聖竜連合》側の人間達はすでにロンの指示によりデュエルを行うスペースを空けるべく鉱山入口前の広場の隅に寄っていた。十分な空間が確保できたことを見て取ると、ロンはシュウの前方に立ち、メニューウィンドウを表示させる。

「初撃決着でいくぞ。……そういえば名乗ってなかったな。《聖竜連合》オフェンス隊のロンだ」

「意外に礼儀正しいな。俺はシュウ、所属は無い」

ロンがメニューを操作すると、シュウの目前にシステムメッセージが現れる。決闘申請を受諾するかという旨を尋ねるそのウィンドウから、プレイヤー間の決闘として最も一般的なスタイルである初撃決着モードを選択しYESのアイコンを押し込むシュウ。するとロンとシュウ、二人の目前に浮かぶメッセージウィンドウの表示が変化し、デュエル開始までの六十秒がカウントされ始める。

突撃槍(ランス)を抜き盾を構え戦闘態勢に入るシュウと同じく、ロンも右手にダガーを構え左半身を前に出すように構える。二人の間で高まっていく緊張に周囲のプレイヤー達も息を呑み見守る中、やがてカウントがゼロになり、DUELのシステムメッセージが中空に弾けた瞬間――

「っ行くぜ!」

《聖竜連合》の短剣使い、ロンが地を蹴り、瞬く間にシュウへと迫った。 
 

 
後書き
やっと戦闘パートに入れる!というところで終了です。主人公シュウがよく喋ってキャラ変わってるようにすら見えるけど設定からはぶれてないつもり……です。

アニメも終わってしまいましたね、シノン大好き派としては二期が来ることを期待せずにはいられません。最終話でヨルコさん出番あって良かった!背景だったけど……シュミットさんは顔芸が印象に残りすぎた……すごい人間らしくて結構好きなキャラだったんですけどねー。 
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