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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第38話:手品で出来るコト

 
前書き
先週、更新有ランキングでTOP10に二日ほどランクインしました!ありがとうございます!!

読んでくださる方達に最大限の感謝を。 

 
 自然公園での戦闘の後、フィーネを追って飛び立った透とクリスの2人は拠点である洋館に戻ってきていた。

 クリスは表情を憤怒に染めていた。それも当然だ。あまりにも一方的に役立たず宣言され、しかも間違いでなければ響諸共ノイズの攻撃を受けていたかもしれないのである。
 幸いな事にその攻撃は翼によって防がれたので未遂に終わったが、あの瞬間フィーネがクリスを切り捨てたのは明らかだった。

 疑っていなかったとは言わない。最近の透への仕打ち等もあって、クリスはフィーネに対し少なくない不信感を抱いていた。
 しかし、それと同時に信じてもいたのだ。矛盾しているかもしれないが、世界から争いを無くすと言う言葉、そして自分と透に居場所をくれたフィーネの事を心のどこかでは確かに信じていたのだ。

 にも拘らずこの裏切りである。クリスの感じた怒りは想像するに難くない。

「フィーネッ!!」

 蹴破る勢いで洋館の扉を開けたクリスの先には、酷く冷めた目で自分達を見つめてくるフィーネの姿があった。彼女のまるでゴミを見るような目に、クリスの怒りは更に燃え上がる。
 その横では、透が頻りに周囲を警戒していた。

「……扉を開ける時はノックをしなさいと、教えなかったかしら?」
「そんな事どうだっていい!? それよりも、あれは一体どういう事だ!?」
「あれ、とは?」
「失望したとか、用はないとか……あれはどういう意味だって聞いてんだ!?」

 クリスが怒り心頭と言った様子で訊ねると、フィーネはわざとらしく大きな溜め息を吐いた。それが更にクリスの神経を逆撫でする。

「そのままの意味よ。もうあなた達に価値は無いの」
「価値は無い、だと?」
「えぇそうよ。世界から争いを無くしたいとか言ってたけど、あなたのやり方じゃ争いを無くす事なんて出来やしないわ。せいぜい一つ潰せば、新しく二つ三つ生み出すくらいかしら」

フィーネの言葉に、クリスは俯いて震える拳を握り締めた。

「…………透の言う通りかよ、くそ」

 実は以前、戦う目的を透に話した時に言われたのだ。力で争いは無くならない。争いは争いを呼ぶだけだと。
 それでも力を持つ者に対しての怒りを捨てきる事は出来ずフィーネに協力していたクリスだが、その心の中には戦いに対する疑念が燻っていた。

 それ故にか、フィーネに戦う理由を否定されても驚くほど冷静でいられた。クリスが怒りを抱く理由はただ一つ、フィーネに響共々攻撃された事だけである。

「ん? 何か言った?」
「何でもねえよ。でも、あたしをあの……融合症例共々攻撃しようとしたのは確かだ。その事に対する落とし前は付けさせてもらうぞ!」

 クリスは本気でフィーネを一発殴るつもりで、右の拳を胸の前に掲げる。
 その様子にフィーネは微塵も取り乱すことなく、侮蔑の視線をクリスに向けた。

「あぁ、そう言えば一つあったわ」
「あ? 何がだ?」
「価値よ、価値。ま、価値があるのはクリスじゃなくて透の方だけれど…………ね?」

 フィーネがそう言った直後、館内の2人から見て死角になるところから次々とメイジが姿を現した。その光景にクリスは目を見開き、透はクリスを背後に庇った。
 先程から透が周囲を警戒していたのは、このメイジ達の気配を薄々と感じていたからだった。

「こ、こいつらは透を狙ってるって言う!? どう言う事だフィーネ!?」
「透の古巣と取引したのよ。透を差し出す代わりに、魔法使いを何人か貸してくれってね」
「テメェ──!?」
「正直ね、透1人じゃ不安だったのよ。ウィズと明星 颯人、2人の魔法使いに対して透は1人。二課の装者も合わせると戦力不足は否めないわ。それを透1人差し出すだけで解消できるんだから、利用しない手はないわよね」

 さも当然のように言うフィーネを、クリスは射殺さんばかりの視線で睨み付ける。
 その間にもメイジ達は少しずつ距離を詰めてきていた。透は片時もメイジ達への警戒を緩めることなく、クリスと共に徐々に館の入り口に向け下がっていく。

「カ・ディンギルも完成し、魔法使いへの対抗手段も手に入れた。もう怖い物などない! だからあなた達は用済みなのよ!」

 上機嫌に笑いながら、駄目押しでソロモンの杖からノイズまで召喚するフィーネにクリスも形勢不利を感じずにはいられなかった。ただでさえ2人は先の戦闘での消耗を癒し切れてはいないのだ。
 この数を相手に戦えば不利である。

「くっ!?」

 イチイバルを纏って戦おうとするクリスだったが、透がそれを制した。それを何故と問う前に、彼は指輪を嵌めた右手をハンドオーサーに翳した。

〈スパーク、ナーウ〉

 ベルトから詠唱が響き、透が右手を翳すと眩い光が周囲を包み込んだ。唐突な光に誰もが眩しさに目を瞑り、その場で動きを止める。
 その影響を受けなかったのは、魔法を使った本人である透と彼がやろうとした事にいち早く気付いたクリスだけであった。

 周囲の魔法使いが目眩ましに隙を晒している間に、透は目を瞑って閃光から視界を守ったクリスの手を引いて洋館から逃げ出した。

〈コネクト、ナーウ〉

 洋館から出ると同時に眼前に発生させた魔法陣を潜り抜けると、その瞬間には透はライドスクレイパーに跨っておりクリスの手を引いて自身の後ろに乗せて飛び立っていった。

 その直後にぞろぞろと館から出てきて、同様にライドスクレイパーを取り出して追跡の為飛び立つメイジ達。
 彼らが飛び立つと、最後に悠々と姿を現したフィーネは飛行型ノイズを複数召喚しそいつらも2人の追跡に向かわせた。

 一気に追われる身となった2人の、既に胡麻粒レベルに小さくなった姿を見て薄く笑みを浮かべると踵を返して洋館の中に戻っていくのだった。




***




 翼の見舞いから一夜明けて、学園での日常に戻っていた響。
 しかしその心は重く沈んでいた。

 何を隠そう、親友の未来に今まで秘密にしていたシンフォギアの事やノイズとの戦いの事などがバレてしまったのだ。
 以前颯人からの助言もあり、順を追って未来にだけは色々と事情を説明しようと思っていた。その矢先にあれである。

──未来……──

 偶発的に巻き込まれた事で何も説明しない訳にもいかなかったので、緒川の口から色々な事情をされた未来。
 その後帰宅を許された彼女が、遅れて帰宅した響に掛けた言葉は拒絶であった。それも当然か。今まで親友と言って、嘘など吐かないとまで言っておきながら秘密を抱えていたのだ。未来からすれば裏切られた気持ちであっただろう。

 結局その日は未来との間に溝を感じながら一夜を明かし、今朝は必要最低限の会話だけで距離を置きながら登校した。
 時間が経っても未来から感じる壁は一向に薄くなる気配を見せず、挙句の果てには安藤達の発言により昼食を途中で中断して食堂を飛び出して行ってしまった。

 このままではいけない。関係修復の意味でもけじめの意味でも、未来とちゃんと話をすべきだと考えた響は出ていった未来を追って屋上へと辿り着いた。

「未来、聞いて!」

 屋上で静かに佇む未来は、響からの声にしかし振り返る事をしない。その事に罪悪感の様な物を感じつつ、響は彼女に謝罪の言葉を口にした。

「まず、これだけは言わせて……ごめんなさい!」
「どうして響が謝るの?」
「未来はわたしの事、ずっと心配してくれてたのに、わたしはずっと未来に隠し事して心配かけ続けてきた。私は──」

 自身の胸の内を明かそうとする響だったが、その彼女の言葉を未来が遮った。

「──言わないで」
「……え?」

 響の言葉を遮って振り返った未来の目からは、涙が零れ落ちていた。

「これ以上、私は響の友達でいられない……ごめん!」

 泣きながらそう言って、響の横を走って通り過ぎようとした未来。

 しかし響はそれを許さなかった。

「待って!?」

 真横を通り過ぎようとする未来の手を掴み、彼女を引き留める。まさかここで引き留められるとは思っていなかったのか未来は驚愕に目を見開き、半ば力尽くで響を振り払おうとした。

「ッ!? 離して!?」
「未来お願い! 話を聞いて!!」

 ここで未来を行かせてはいけない。響はその一心で未来を引き留め、その強引な姿勢に未来は半ばパニックを起こしてしまう。

 そして────

「止めてッ!?」

 未来は思わず渾身の力で響を突き飛ばし、響は思わず手を離してその場に尻餅をついてしまった。
 大した力で突き飛ばされた訳ではないが、親友に力尽くで距離を離された衝撃が響の思考を停止させ呆然とした表情で未来の顔を見つめる。

 その隙に未来は屋上を逃げるように立ち去り、響はその場に取り残されてしまった。

「どうして……こんな」

 響の心は後悔と罪悪感、絶望感で包まれた。

 何故、もっと早くに未来に事情を説明しなかったのか。多少なりとも事前に説明をしておけば、未来を悲しませることはなかった筈だ。

 未来に嘘をついてしまった。彼女は響の事を信じてくれていたのに、響はそれに応えなかった。

 未来に拒絶されてしまった。強引に引き留めようとした挙句、彼女を泣かせて突き飛ばされ、彼女はそのまま響の前から立ち去ってしまった。

「いやだ……いやだよぅ──!?」

 足元から崩れて、暗い海の中へ落ちていくかのような絶望感に響の目に涙が浮かび零れ落ちた。一度流れると、涙は止め処なく流れ落ちる。

「うぅ、うあぁぁぁぁぁ──!?」

 誰も居ない屋上で、響は1人涙を流し続けていた。




***




「…………Oh, Jesus」

 響が未来と仲違いする様子を、颯人はガルーダの目を通じて二課本部からこっそり見ていた。

 先日の戦いの後、巻き込まれた少女が響の親友であり以前彼女が相談を持ち掛けた理由でもある相手である事に心配になって使い魔で様子を探っていたのである。
 その結果はご覧の通り、修羅場とも言える仲違いの様子をバッチリ見てしまい、颯人は居た堪れなさと罪悪感で思わず顔に手を当て天を仰いでしまった。

「どうした、颯人?」

 突然ぼやいた颯人の様子に奏が問い掛けると、彼は顔から手をどかして事の顛末を彼女に説明した。

「修羅場到来。響ちゃんがお友達の未来って子と喧嘩しちまった」
「未来……それって──!?」
「そ、この間響ちゃんが相談してきたお友達って子だろうよ。昨日の戦闘で巻き込まれた子だ」
「うわっちゃぁ……まずそう?」
「かなりまずいな 未来って子は今は何も聞きたくないって感じだし、響ちゃんは滅茶苦茶落ち込んでる。もしこんな状態で出撃して見ろ、ろくすっぽ戦えずに的になっちまうぞ」

 シンフォギアは装者の精神状態にコンディションを大きく左右された。精神的に乗っている状態であれば普段以上の力を発揮できる。逆もまた然りだ。

 とは言え、颯人は状況を絶望的に捉えてはいなかった。彼から見て、未来は完全に響を見限っているようには見えなかったのだ。
 恐らく、今の未来は自分でも感情をコントロールできていないのだろう。頭では響の事情などを理解しようとしているが、心が声を大にしてしまい体を勝手に動かしてしまった。
 響を突き飛ばしたのもこれだろう。

 となれば、希望は十分にある。

「とにかく、奏は後で響ちゃんを少しでもいいから元気付けといてくれ。俺は未来ちゃんの方に行くから」
「響の事は構わないけど、行くってどうするんだよ?」
「今回の一件、俺らにも責任の一端はあるだろ? なら、2人が仲直りできるように一肌も二肌も脱がないとな」
「出来んの? 話聞く限り拗れた感じだけど?」
「な~に、何とかなる何とかなる。俺を誰だと思ってる? 奇跡の手品師の息子だぞ。手品ってのは人を驚かすだけじゃないって事を見せてやるよ」

 そう言って自らの胸を軽く叩く颯人を見て、奏は先程まで感じていた不安が薄れていくのを感じた。

 颯人は普段ふざけて人に悪戯したりする困った奴だが、その結果が齎すものは結局のところ笑顔であった。その場ではムカついたとしても、後になれば笑い話で済む程度に抑えられていたし抑えられるように彼自身考えていた。

 彼はその技能を、誰かを笑顔にする事に注いでいたのだ。
 その彼が何とかなると言うのなら、きっと大丈夫だろう。

 奏はそんな確信を抱き、響を少しでも元気付ける為にどうするべきか頭を働かせるのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第38話でした。

はい。フィーネが透を売りました。どう考えてもこの作品の二課を相手にするのに、透1人が増えただけでは戦力不足ですからね。因みに先に言っておきますと、フィーネは月の破壊など本当の目的をジェネシスに明かしてはいません。これ言っちゃったら流石に彼らも手を貸さないどころか絶対邪魔するんで。

原作では未来とクリスの出会いから響と未来の関係の修復と言う流れになりましたが、今作では颯人と奏が大きく出張る事になります。彼の性格的に、こういう事を放置するとか考えられませんしね。面倒見のいい奏も居るなら尚更です。

執筆の糧となりますので、感想その他評価やお気に入り登録等よろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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