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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第37話:真っ直ぐな意志

 
前書き
読んでくださる方達に最大限の感謝を。 

 
 突如姿を現した透は狙ってか偶然か、クリスだけでなく未来までをも解放すると追跡してきた琥珀メイジ3人との戦闘を再開した。

「最優先攻撃目標、攻撃開始」
「了解」

 感情を感じさせない言葉を発しながら襲い掛かってくるメイジ達を、透は2本の剣だけで巧みに相手取る。

 最も近くに居たメイジのライドスクレイパーを右の剣で弾くと、そいつを無視してスクラッチネイルで攻撃してくるメイジを回し蹴りで蹴り飛ばし、それを隙と見て魔法の矢を放ってくるメイジに左の剣を投げつけた。

「へぇ……」

 特に危な気も無く、3人のメイジを相手に一歩も退かないどころか完全に手玉に取っている透。その姿に颯人は舌を巻いた。
 こうして見ていて分かった。彼の強みはその軽快なフットワークだ。素早く動き回りながら、最も脅威度の高い相手を的確に攻撃し、しかも決して深追いすることなく即座に次の相手に狙いを変える。判断力、反応速度。危機察知能力、全てが高水準で纏まっていなくては成し得ない事だ。

 そんな事を考えながら、颯人は襲い来るノイズを片っ端から撃ち抜いていた。白メイジに拘束された時にクリスがソロモンの杖を落としたからか、残ったノイズが無作為に動き颯人もメイジも関係なく襲い掛かってきたのだ。
 このままでは公園から出て一般人にまで襲い掛かる危険すらあった。それ故に、颯人はメイジを後回しにしてノイズへの対処を行っていたのである。

 その時、彼の目に未だ拘束されているクリスの姿が映った。魔法を掛けた白メイジが健在だからか、未だ彼女を拘束している魔法の鎖は健在だ。
 まぁここで派手に動かれて更に状況が面倒臭くなられては堪ったものではないし、今すぐ助ける義理はないだろうという事で颯人は彼女を放置していた。

 それが良くなかった。クリスは苦労しながらも膝を立てて上半身を起き上がらせると、以前颯人に拘束された時と同じ方法で抜け出したのだ。

「あたしを、無視すんな! アーマーパージ!!」
「ッ!? やっべ!?」

 気付いた時には、クリスの体から弾け飛んだネフシュタンの鎧の破片が炸裂した手榴弾の様に颯人に飛んできていた。

「ぬおっ!?」
「うわぁっ!?」
「ぐわっ?!」

 高速で飛んできた鎧の破片を颯人と奏はギリギリのところで回避する。見ると響も近くの未来に覆い被さるように伏せていた。
 ついでに言うと、白メイジも回避に成功していたようだ。癪だが流石は幹部候補、と言ったところか。結局飛び散った鎧の破片の直撃を喰らったのは、奏の相手をしていた白メイジだけだったらしい。

 そして────

「Killter Ichaival tron」

 アーマーパージで発生した土煙に紛れてシンフォギアを纏ったクリスは、透と戦闘を繰り広げる琥珀メイジにガトリングに変形させたアームドギアを構え引き金を引いた。

「透から離れやがれぇぇぇッ!!」
[BILLION MAIDEN]

 放たれた無数の銃弾が、透に圧倒されていた琥珀メイジ達に襲い掛かる。透も射線上には居たが、クリスが引き金を引く直前その場を飛び退いて難を逃れていた。

「どうする、颯人?」
「まずは残ったノイズを何とかしよう。クリスって子がコントロール失ったからか好き勝手動いてやがる」
「あと響も」
「忘れちゃいねえよ」

 言いながら視線を向けると、そこでは白メイジ相手に必死に食い下がっている響の姿があった。

「うおぉぉぉぉっ!!」
「ちぃっ!?」

 所々危ない場面はあるものの、白メイジに対抗してみせる響。弦十郎との修行が実を結んだ証拠だ。あの白メイジが幹部候補としては弱い方に入るのも理由の一つだろうが、生半可な実力では対抗する事も難しいだろうことを考えると彼女の成長具合が伺える。
 その彼女の様子を、未来は信じられないと言った様子で見つめていた。

「ひ、響が……そんな──!?」

 呆然とする未来だったが、何時までもここに居るのはまずい。戦いの余波に巻き込まれる危険がある。

 そんな危険を放置する弦十郎ではなかった。徐に未来の背後に慎次が姿を現すと、彼女の腕を取りながら声を掛けた。

「大丈夫ですか?」
「ひゃっ!? だ、誰っ!?」
「説明は後で。今はこの場を離れましょう!」

 有無を言わさず未来を戦場から連れ去る慎次。後の事は彼に任せれば、諸々の説明も済ませてくれるだろう。彼女にとっては寝耳に水の話で困惑するだろうが。

 とにかくこれで無用な被害を気にする必要は無くなった。
 颯人と奏はさっさとノイズを片付けてしまおうと攻勢を強める。

「えぇい、こんな筈では──!?」

 一方響の相手をしていた白メイジは思っていた以上に善戦する響に苛立ちを隠せなくなっていた。
 目に見えて焦り出す白メイジ。それもその筈で、この作戦はメデューサからの命令なのだ。失敗すればただでは済まされない。

 焦りが響にも伝わったのか、一瞬の隙を突かれて距離を詰められる。

「やぁぁぁっ!!」
「しま──」

 至近距離に接近され、回避は間に合わないと察した白メイジは咄嗟に防御の姿勢を取った。魔法は使わない。魔法で障壁を張るよりも、響の拳が直撃する方が早い。

「ぐぅっ!?」

 ギリギリ防御に成功した白メイジだったが、ダメージは彼が想像していた以上だった。踏ん張ろうにも足が地面から離れ、軽く吹き飛ばされてしまう。

「がはっ?! ぐぅ…………ん?」

 地面に背中を叩き付けられ、一瞬呼吸が止まった白メイジだが何とか痛みを押し殺して立ち上がった。
 その際、彼は琥珀メイジ達に攻撃してこちらには気づいていないクリスの後姿を見た。クリスは透から琥珀メイジを遠ざけるのに集中しており、白メイジの事には気付いていない。

 それを見て白メイジは仮面の奥で顔を醜悪な笑みの形に歪めた。今の彼にとって、クリスは格好の的でしかなかったのだ。

「馬鹿め、所詮小娘だな!」
〈イエス! キックストライク! アンダスタンドゥ?〉
「ッ!? 危ない!!」

 クリスに向けて放たれる、白メイジの魔力を集束させた飛び蹴り。放たれた瞬間にそれに気付いたクリスだが、その時にはもう目前まで飛び蹴りが迫っていた。

 正に絶体絶命…………その窮地を救ったのは、先程まで白メイジと対峙していた響であった。

「間に合えぇぇぇぇぇッ!!」

 響は右腕のガントレットのジャッキを引き、地面を殴りつけた。

「な、何だあれッ!?」

 その行動に、ノイズの相手をしながら響の様子を窺っていた奏は困惑する。今まであんなことした覚えはないし、出来るとも思っていなかったのだ。アームドギアに変化するガントレットに、ジャッキが付いているなど彼女にとっても知らなかった事である。
 それは響にとっても同様であった。彼女はこんなことが出来るなんて思っていなかった。
 ただ無意識に、只管にクリスの元へ一直線に駆け付けたいと思ったら、体が自然と動いていたのである。

「うぉおおりゃぁぁぁぁっ!!」

 ジャッキを引いたガントレットには、本来アームドギアに変化する為のエネルギーが内包されていた。それが地面に叩き付けられジャッキが戻ると、パイルバンカー宜しく打ち込まれたエネルギーは行き場を失い彼女の体を押し出す推進力となる。更に腰のバーニアで加速を得て、一気にクリスに接近した。

「な、わっ!?」
「くぅっ!?」

 白メイジがクリスに狙いを変え必殺技を放つ直前、彼女は飛び出し半ばタックルも同然にクリスに飛びついて白メイジの飛び蹴りを回避させた。

 狙いを外れた白メイジの飛び蹴りが地面を穿ち、派手な爆音を響かせる。

 思わぬ形で窮地を脱したクリスは、堪らず響を問い詰めた。

「つつッ!?…………な、何でお前──!?」
「何でって、放っておけないよ!」
「何言ってんだ!? あたしらは敵だぞ!?」
「敵じゃない! 話せばきっと分かり合えるよ!」
「何を根拠に──!?」

 理屈などなくただ助けたいから助けた響と、何故助けられたか理解できないクリスが状況も考えず言い争う。

 その一方で、戦局逆転の好機を見事に逃すことになった白メイジは殺気の籠った目で自分の邪魔をした響を睨み付けた。

「この……ガキがッ!? あと一歩と言うところでッ!?」
「「ッ!?」」

 言い争いをしていた2人だったが、白メイジから殺気を向けられて弾かれるようにそちらを見る。

 ライドスクレイパーを片手に、怒り心頭と言った様子で迫る白メイジ。流石に言い争いを止めて白メイジを迎撃しようとする2人だったが、それよりも早くに透が動いた。

「ッ!?」

 白メイジの攻撃が外れた瞬間の爆発で、透の意識がそちらに逸れていた。それを好機と見て3人の琥珀メイジが飛び掛かる。
 が、透はそれに即座に反応。一糸乱れぬ動きで襲い掛かってきた3人の琥珀メイジを、透はカリヴァイオリンで素早く一蹴。

 自身への脅威を即行で取り除いた彼は、白メイジの方を向くと両手に持っていたカリヴァイオリンを白メイジに向けて投擲した。

 弧を描き白メイジに迫る2本の剣。投擲すると同時に透は駆け出しながら右手の指輪を交換してハンドオーサーに翳した。

〈イエス! キックストライク! アンダスタンドゥ?〉
「っ!?」

 投擲されたカリヴァイオリンと聞こえてくる魔法の詠唱に、自身に迫る脅威に気付いた白メイジは響とクリスへの攻撃を止めて透の迎撃に意識を向けた。

「ぐ、くそっ!?」

 時間差で飛んできたカリヴァイオリンをライドスクレイパーで弾き、その隙を突くように駆けてきた透に薙ぎ払いを放つ。
 しかし透はそれを前転で回避するとその勢いを利用し、立ち上がりながら魔力を集束させた右足を白メイジの無防備な腹に叩き込んだ。

「がぁぁぁっ?!」

 透の必殺蹴りを喰らった白メイジは、大きく蹴り飛ばされ落下した先で変身を解除された。落下した先で辛うじて意識がある時に何やら悪態を吐いていたようだが、それが誰かの耳に入る事はなく彼はそのまま意識を手放した。

 クリスに迫る危機を排除出来たからか、透は一息吐くと立ち上がった。それと同時に白メイジに弾かれて明後日の方向へ飛んでいたカリヴァイオリン2本が再び弧を描いて戻ってきたのを、彼はノールックで2つともキャッチしてみせた。

 気付けば周囲から戦闘音は聞こえなくなっている。ジェネシスのメイジは全て倒れ、颯人と奏の活躍によりノイズも殲滅されたらしい。
 見れば、ノイズを倒し終えた2人が悠々と3人の下へ向かってきている。決して殺気立っている訳ではないが、クリスと透は油断なく2人を見据えている。

 有り体に言えば一触即発の雰囲気。それを感じ取り、響は慌てて両者の間に割って入った。

「ま、待ってください奏さん、颯人さん!? クリスちゃん達も!?」

 必死に戦いを止めようとする響の様子に、颯人と奏は顔を見合わせて肩を竦めた。と言うのも、この時点で2人には戦意がないからだ。先程未来への安全を考慮して無理に戦闘を行わなかった、クリスの様子からまずは話し合いをする余地があると2人も感じ取ったのだ。
 つまり、これは響の早とちりと言う事である。

 言ってしまえばこの程度なのだが、クリスの方も2人に対して尋常ではない警戒心を向けていた。

「お前、まだそんな事言ってんのかよ、この馬鹿!?」
「馬鹿じゃない! 私には立花 響って言う名前があるんだよ!!」
「知るかそんなの!? この際だからハッキリ言っとくけどな、あたしは敵と馴れ合うつもりなんか────」

 またしても響とクリスが言い争いに突入しそうになり、颯人と奏が盛大に溜め息を吐いた。

 次の瞬間、背筋に走った悪寒に2人は揃って上空を見上げた。
 2人が見上げた先では、無数の飛行型ノイズが今正に体を捩じって特攻しようとしているのところであった。

「ヤバいッ!?」
「響、上だ!!」
「え? え!?」

 2人に警告され、漸く上空から迫る危機に気付いた響。しかし言われたからと言って彼女にはどうする事も出来ない。響には遠距離に対する攻撃手段が無いのだ。

 とりあえずで防御態勢を取る響と、少しでも数を減らそうと銃撃する颯人。奏は響のフォローをしようと彼女に向け駆け出した。

「こいつら──!?」

 無数のノイズ達はクリスと透にも降り注いだ。それに気付いた2人も共に迎撃しようと身構え──────

 それらは全て無意味に終わった。

「をっ!?」
「こいつは!?」
「へ?」
「何だ、盾?」

 出し抜けに彼ら彼女らとノイズの間に割って入るように巨大な何かが“斜めに”地面に突き刺さり、一行をノイズの脅威から守った。
 奏はそれに見覚えがあった為仕立て人にすぐに気付いたが、クリスは何が起こったのか理解できず率直な感想を口にする。

 それに対し、上の方から否と言う声が響く。

「剣だ」

 声がするところに目をやれば、そこには巨大な剣となったアームドギアの柄頭に佇む翼の姿があった。未だ万全ではないが、無理を押して馳せ参じたようだ。

「翼!!」
「翼さん!!」

 心配半分、嬉しさ半分と言った様子で声を上げる2人に、翼は力強く頷いてみせる。

 そこに、新たな声が周囲に響き渡る。

「全く……命じた事も出来ないなんて、あなた達はどこまで私を失望させるのかしら?」
「何者だ!?」

 聞きなれぬ声に翼が周囲を警戒する。
 翼だけではない、颯人に奏、ここに居る全員が声の発信源を特定しようと周囲を見渡した。

 すると高台の上に、1人の女性が佇んでいるのを見つけた。黒い服を着た金髪の女性、その手には何時の間に回収したのかソロモンの杖が握られている。

「あれは……」
「フィーネ!」
「フィーネ? それがあいつの名前か?」

 名前も名乗らず姿を現した女性の名を叫んだクリスに、颯人達は一瞬気を取られた。
 その隙にフィーネは全ての行動を終わらせていた。

 徐にフィーネが右手を掲げると、その手が青白く輝き散らばったネフシュタンの鎧の欠片が集まった。
 それだけで只者ではない事を察した颯人は、彼女を逃がすまいとウィザーソードガンを向け引き金を引いた。

「させるか!」

 放たれる無数の銃弾が、不規則な動きをしながらフィーネに飛んでいく。しかし魔法の銃弾は、フィーネが翳した手で展開されたピンク色の障壁に阻まれ一発も彼女に命中することはなかった。

 簡単に防がれた事に颯人は思わず舌打ちをする。そんな彼を尻目に、フィーネは踵を返しながらソロモンの杖からノイズを召喚した。

「やると言った事も出来ないなんてね…………もうあなた達に用はないわ」
「な!? 待てよ、フィーネ!!?」

 一方的に言うだけ言って姿を消すフィーネを見て、クリスはその後を追おうと駆けだす。
 その彼女を透は引き留めると、魔法でライドスクレイパーを召喚し後ろにクリスを乗せて飛び立っていった。

「クリスちゃん、待って!?」
「立花、今は後回しだ!」
「そう言うこった! まずはノイズ共を何とかするぞ!」

 クリスの後を追いたかった響だが、さりとてノイズを放置する訳にもいかず。

 4人で全てのノイズを掃討した頃には、クリス達の姿は当然影も形も残らないのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第37話でした。

響のガントレットのジャッキを引いてからの下りは、どうやって入れるか少し悩みました。原作ではクリスに一撃入れる為に編み出した行動ですが、こちらでは既にクリスが窮地に陥っていたので。悩んだ末に、クリスを助けると言う揺ぎ無い思いを成し遂げる為の手段としてがむしゃらに動いたって感じです。

次回からは響と未来の喧嘩の話になりますが、ここもまた多分にオリジナルの展開になると告げておきます。どんな展開になるかは次回以降をお楽しみに。

執筆の糧となりますので、感想その他評価やお気に入り登録等よろしくお願いします。

それでは。 
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