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星々の世界に生まれて~銀河英雄伝説異伝~

作者:椎根津彦
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揺籃編
  第三話 着任、エル・ファシル

宇宙暦788年3月28日 ハイネセン、ハイネセンポリス、自由惑星同盟軍下士官術科学校、
第28講堂 エリカ・キンスキー

 はぁあ…。夢じゃないかしら。
憧れのウィンチェスター兵曹と結ばれたなんて。うん、夢じゃないのよね、うん、うん。
「エリカ!何ボーッとしてんのよ!早く白兵戦技講堂に行かなきゃ!」
「あっ!ごめん」
あたし幸せ…。



788年4月15日13:00 エル・ファシル軌道上、エル・ファシル警備艦隊第2分艦隊、
旗艦アウストラ、副長室

 「一等兵曹オットー・バルクマン他二名、アウストラ乗組を命ぜられ、ただ今着任しました。よろしくお願いします」
「宜しい。副長のバーン少佐だ。アウストラへようこそ。残りの二人はヤマト・ウィンチェスター兵曹と
マイケル・ダグラス兵曹か。…艦長は艦長会議で警備艦隊司令部に出かけておられるので、艦長挨拶は明日
になる。今日一日は身辺整理ということで自由にしてよろしい。上陸も許可する」
「はい。ありがとうございます」
「宜しい。このあとは内務長のカヴァッリ中尉の指示に従うように」
「はい。そのカヴァッリ中尉はどちらに」
「艦橋にいるはずだ。行ってみるといい」
「はい、ありがとうございます。失礼します」



4月15日13:15 エル・ファシル軌道上、エル・ファシル警備艦隊第2分艦隊、
旗艦アウストラ ヤマト・ウィンチェスター

 副長挨拶が終わった。俺たちはそれぞれの荷物を割り当てられた部屋にとりあえず置くと、艦橋にカヴァッリ中尉とやらを探しに向かった。
…カヴァッリ中尉なんて原作に出てきたっけ?
親友だから考えたこともなかったけど、オットーだってマイクだって出てこない。まあ、原作に名前の出てくる人物だけでこの世界が成り立つ訳でもないだろう。
想像してみたら、艦艇二千隻、と簡単に言うけど、そこだけでも二十万人近い人間がいるんだよな…。
二十万人。現実世界で俺が住んでた所だって二十万人もの人口は居なかった。
そんな多くの人間が艦隊司令官の意思のもとに動く。空恐ろしいなまったく…。

 「ヤマト、カヴァッリ中尉ってあれじゃないか?他にそれらしい人もいないし」
おい、オットー君。上官を指で指すのは止めなさい。
オットーが指し示した方を見ると、制御卓に行儀悪く足を投げ出して座っている、赤いショートカットの可愛らしい女性士官が書類を見ながらブツブツ言っている。
「すみません、私はウィンチェスター兵曹と申しますが、カヴァッリ中尉でありますか?」
「え?ああ、はい。そうよ?…ああ、新着任の三人ね」
「はい、宜しくお願いします。副長より今後の指示は中尉より受けろと言われまして」
歳は二十三、四ってところだろうか。独り言が多そうだけど大丈夫かな?

 カヴァッリ中尉はまじまじと俺達を見つめている。
「貴方達も大変よねえ、十八で一等兵曹だなんて。まあ、私だって十九で少尉になったから似たようなものね。…艦隊勤務は初めて?」
十代で少尉任官?ああ、士官学校出身者か。
彼女の問いに俺が答えようとするとマイクが身を乗り出して来た。
「はい、艦隊は半年ほど部隊実習で経験したのみであります」
「貴方は?」
「マイケル・ダグラス一等兵曹であります。是非、マイクとお呼びください」
「…マイクね。了解了解。じゃあこっちの君がバルクマン兵曹ね」
「はい、オットー・バルクマンであります。よろしくお願いします」
「なるほどなるほど…黒髪がウィンチェスター兵曹で、金髪がダグラス兵曹、銀髪がバルクマン兵曹ね。
分かりやすくていいわ。…改めまして、私は内務長のパオラ・カヴァッリ中尉です。今後とも宜しく。…この
あとは一七〇〇まで身辺整理とします。時間になったらまた私の所に来るように」
「はい」
「了解です」
「了解しました」


4月15日18:30 エル・ファシル、エル・ファシル中央区8番街、レストラン「サンタモニカ」

 「ここは私の行きつけなの。ラビオリとボンゴレが美味しいのよ。ワインはまあまあね」
そうなのだ、上陸したと思ったらカヴァッリ中尉も一緒だった。歓迎会を開いてくれるらしい。
マイクはノリノリだった。もしかしたら今夜は中尉と…とかほざいている。
オットーは配置表を覚えないと…とか言ってアウストラに残るつもりだったのが無理矢理連れ出された。

 とりあえずの乾杯が済むと、カヴァッリ中尉が切り出した。
「細々とした事はいずれ覚えるでしょうから、貴方達の配置だけ教えておくわね。ウィンチェスター兵曹は射撃管制主任補佐になります。バルクマン兵曹は航法管制第1オペレータ。
ダグラス兵曹は艦隊陸戦隊本部付となります。我々のアウストラはエル・ファシル警備艦隊、第2分艦
隊の旗艦戦艦だから、結構忙しいわよ」
「はい、質問です」
「なあに?ダグラス兵曹」
「俺の事はマイクとお呼びください…ではない、俺は陸戦隊希望ですから、艦隊陸戦隊に配属なのは分
かるんですが、なぜアウストラに艦隊陸戦隊の本部があるんですか?通常、陸戦隊本部は艦隊旗艦に
配置されません?」
いい質問だなマイク。でも中尉にマイクと呼んでもらえないのは残念だろう…。俺がいきなり主任補佐というのも面食らうが、マイクの言う通り陸戦隊の配置が少々おかしくないか?

 カヴァッリ中尉はコホン、と咳払いすると、周りを少しだけ気にしながら再び話し始めた。
「ダグラス兵曹の言う通り艦隊陸戦隊本部は、通常は艦隊旗艦に置かれるわ。でもここはエル・ファシル。最前線ということで陸戦隊本部要員はローゼンリッターから人員が派出されてるのよ」
ローゼンリッター。同盟軍最強の白兵戦部隊、”薔薇の騎士“連隊だ。
帝国からの亡命者の子弟で構成される、同盟でも帝国でも有名な部隊だ。部隊規模は連隊ながらその戦闘力は陸戦一個師団に匹敵する、と言われている。
「ひぇー。マジですか」
マイクが思わず肩をすくめる。
「でも、それが理由なんですか?」
「そうよ。何でも、艦隊司令官のリンチ少将がローゼンリッターを嫌いみたいなのよ。そんな奴等を艦隊旗艦に置けるか、という事で、アウストラにお鉢が回ってきたの」
「そんな滅茶苦茶な理由って…」
「お陰で第二分艦隊の編成までおかしくなってるわ。まったくもってローゼンリッターが悪い訳ではないけれど、散々ね」 
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