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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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立花響バースデースペシャル
  翳る太陽と小さな木陰

 
前書き
Happy birthday 響!(ハーメルン時代での投稿日は9月13日でした)
最推しの誕生日特別編は、翔ひびの濃厚なイチャラブ……ではなく!
宣言通り、なんとグレ響ルート!

それとアテンション。今回、グレ響とヘタ翔の関係性に重きを置いて書いてるので、本編と比べて聖遺物などの細かい設定が雑めです。ふわっふわしてます。
そこはあまり気にせず、『もし少しでも歴史が違えば、こんな関係もあったかもしれない』という面の方をメインでご覧頂ければなと思います。

翳る太陽を照らす為、やがて木陰は星と輝く──。
ヘタ翔くんとグレ響、その物語をご覧あれ! 

 
 ……カーテンの隙間から射し込む朝日に、いつも通りの時間に目を覚ます。

 目を開ければ、見慣れた白い天井。起きる為に身体を起こそうとして、被った掛け布団の下で何かにしがみつかれている事に気が付く。こんな事をして来るのは、この部屋に一人しかいない。

 顔を左に向ければ、そこには……ツンツンしている普段とは違う、穏やかな寝顔の彼女が寝息を立てていた。

 この寝顔、是非とも写真に収めておきたい。左腕は彼女にしがみつかれている影響で動かせない。右腕で何とかスマホを取ると、シャッター音を消して彼女の寝顔を写真に収める。

 その直後、彼女の目がゆっくりと開いた。

 慌ててスマホをベッド脇に置こうとしていると、彼女はまだ眠そうな声で呟いた。

「……おはよ……。もう朝ぁ……?」

 寝惚け眼でそう聞いてくる彼女は、とても可愛らしく思えた。

「おはよう、響さん。もう朝だよ」
「ん……もうすこし、だけ……」

 そう言って響さんは、再び眠りに落ちてしまった。

 こうやって、朝に弱い彼女の寝惚け顔を堪能出来る時間は貴重だけど、朝ごはんを作るためにも、まずはベッドから抜け出さないといけない。

 少しドキドキしながらも、僕は彼女から抜け出す方法を考え始めていた。
 
 ∮
 
 風鳴翔、16歳。現在、特異災害対策機動部二課の職員寮にて、立花響と同棲中。
 ここまでの経緯を語ると、少し……いや、かなり長くなる。
 
 まず、順を追って説明しよう。

 彼は2年前、姉の翼とその親友にしてパートナー、天羽奏によるアイドルユニット、『ツヴァイウィング』のライブを鑑賞しに行った日の事。そこで後に〈ライブ会場の惨劇〉と呼ばれる事になるノイズの大量出現に巻き込まれた。

 姉がアイドルとして活動する裏で、ノイズの脅威から人々を守る『シンフォギア装者』である事も知っている翔は危険を承知で、会場から逃げ遅れてしまった人々を避難誘導していた。

 そんな中、ノイズと戦う姉とその親友のいるすぐ近くに、取り残された少女の姿を発見する。

「あれは……立花さんッ!?」

 翔は彼女が同じクラスの、とても元気な笑顔が印象的な少女……立花響であると気が付く。

 だが、駆け出した時にはもう遅く、砕け散った奏のシンフォギアの破片が、少女の胸に深々と突き刺さっていた。

 駆け寄る翔、息も絶え絶えに目を閉じかける少女。

「立花さんッ!ねえ、しっかりしてよ立花さんッ!」
「おい、死ぬなッ!目を開けてくれッ!生きるのを諦めるな!」

 薄れゆく意識の中、少女の耳に奏の声が響き渡る。
 やがて奏は意を決したように立ち上がる。

「翼、翔、その子を頼む……」
「奏……?」
「奏さん……?」
「……いつか、心と体を空っぽにして、歌ってみたかったんだよな……。今日はこんなにたくさんの連中が聞いてくれるんだ……。だからあたしも、出し惜しみ無しでいく……。とっておきのをくれてやる……。絶唱……」
 
「奏ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「うっ、あっ……ああ……うわあああああああああッ!!」

 ……そして、一人の少女は破滅の歌を唄い、その身は塵となり消え去った。

 その日、灰燼舞い散る一面の夕焼け空の下で、風鳴の名を持つ姉弟はそれぞれ、その腕に『撃槍』の少女を抱いて泣いていた。
 その歌と、その声と、その涙は……少女の記憶に強く残る事となる……。
 
 ∮
 
 ライブ会場の惨劇から暫く。

 もう一度、家族の皆と過ごす日常へ戻る事を夢に、辛いリハビリを乗り越えた響に待っていたのは……周囲の人間からの心無い迫害による地獄の日々だった。

 どこかの週刊誌が、惨劇の被害はノイズによるものではなく、その1/3が人的災害によるものだと報道した事がきっかけとなり、世論はライブ会場に居合わせた被災者やその遺族らへの同情から一転。ネットでの個人情報の特定による吊し上げ等が始まり、被災者を迫害・差別する風潮が日本中に広まっていたのだ。

 何も知らぬ無辜の人々は正義の名の元に、被災者に石を投げつける。
『人殺し』に『税金泥棒』……多くの人々はそんな言葉で被災者らを、いい気味だと嗤っていた。
 
 響もまた、そんな人々の心無い迫害に晒され、傷付いていく事となる。

 家では近隣住民から、ありとあらゆる罵詈雑言を書かれた紙を家に貼られ、窓から石を投げ込まれた。優しかった父親は職を失い酒浸りとなり、母や祖母に暴力を振るうようになって、それから失踪してしまった。

 学校では持ち物を壊され、机にペンで汚い言葉を書かれ、被災者への差別意識を煽る記事の雑誌や新聞が机の上に積まれ、クラスメイトを主とした全ての生徒らからいじめを受けた。教師でさえそこに歯止めはかけられず、日に日に彼女へのいじめはエスカレートしていった。

 更に運の悪い事に、響の幼馴染で親友の小日向未来がライブの直後、両親の仕事の都合で引っ越してしまったのだ。

 響は完全に孤立した。日に日に心を閉じていく彼女には、母親と祖母以外で味方になってくれる人間は残っていなかった……。

──たった一人を除いては。
 
「立花さんから……離れろ!」

 教師のいない教室に響き渡る、一人の男子生徒が放った大きな声。
 響を取り囲んでいた生徒達が、一斉に彼を振り返った。

「風鳴……?」
「何だよ、今いい所なのに止めん「いいからそこを退けッ!」

 その生徒の名は風鳴翔。惨劇の日、響と共にあの会場に居合わせた彼は、響を取り囲む生徒達の列を割って、彼女の前へとしゃがみ込んだ。

 頬には痣。口の中を切ったのか、口角からは血が流れており、お腹を抑えて倒れている所から察するに蹴られたのだろう。

 翔は怒りを呑み込みながら、彼女に手を差し伸べた。

「立花さん、行こう」
「オイ風鳴、待てやコラァ」

 響の手を取って立ち上がらせた翔の肩を、一人の男子生徒が掴む。
 振り返ると、クラスのガキ大将ポジションの生徒が、不満げな表情でそこに立っていた。

「そいつは人殺しの税金泥棒だぞ?助ける必要がどこにあんだよ?」
「逆に聞くけど、何を根拠にそんな事を?立花さんが誰を殺したって?立花さんが何を盗んだって言うんだ?寄って集って女の子を酷い目に遭わせて、何が楽しいんだ!」
「そいつはあのライブ会場にいたんだろ!?そんで生き残った!どこの新聞でも毎日のように言ってるだろうが!あの会場で生き残った奴は人殺しだって!」

「それなら僕だって一緒さ。僕も姉さんのライブを見に、あの会場で、立花さんと一緒にだったんだからね!」

 その言葉に、クラスメイト全員が苦い顔をした。

 被災者の中で唯一、日本中から同情の視線を一身に集めているトップアーティストの弟が、これまで歪んだ正義の免罪符の元に虐め続けてきた少女を庇う。それもその理由として、その言葉以上に重く、理にかなうもののない答えをぶつけて来たからだ。

「じゃあ風鳴くん!どうしてそいつが生き残って、どうして〇〇くんが死ななくちゃいけなかったのよ!」

 食い下がったのは女生徒のリーダー格。あの惨劇で命を落とした、将来を嘱望されていたサッカー部キャプテンのファンだった生徒であり、響への虐めの引き金を引いた張本人だった。

「〇〇くんの未来は希望に満ちていた筈よ!でもその人生は、あの惨劇で永遠に失われた。なのにそいつは……立花響は何の取り柄もない!〇〇くんに比べれば、彼の方が何倍も価値ある生命だってわかるはずよ!〇〇くんに比べればそんなやつ、クズみたいなものじゃない!こうなるのも当たり前──」
「いい加減にしろッ!」

 翔の大声は、その場にいる全ての生徒の肩を震え上がらせた。
 これまでに覚えたことのない激しい怒り。普段は物静かな印象の彼が、本気で怒っていることは目に見えて明らかだった。

「生命の価値だって?何様のつもりだよ!そんなくだらないものを量る為に、彼の名前を出すな!死んだ彼が浮かばれない!」
「ッ!!」

 更に翔は、その場にいる全員を睨み付けて叫んだ。

「いいか?姉さんのライブ会場で起きた悲劇を理由に、立花さんを傷付けるなッ!そんな事、僕が許さないッ!これ以上、姉さんの夢を汚されてたまるかッ!そんな連中に、姉さん達の音楽を聴く権利はないッ!恥を知れッ!」

 その一言を最後に、翔は響の手を引いて教室を出ていく。
 後に残された生徒達は、ただ2人を見送る事しかできなかった。

 ∮
 
「……ごめん、立花さん。僕がもっと早く勇気を出せていれば……」

 保健室で治療を受け、顔や身体のあちこちにガーゼを貼られた響を見て、翔は響に謝罪した。

 彼は普段から、響がこのようにいじめられ続けていたのを知っていた。
 何度も止めようと、足を踏み出そうとしていた。

 しかし、やはり怖かったのだ。学校中の生徒全てを敵に回すのが。

 飛び出そうとする度、足が震えた。息が詰まりそうになって、呼吸が短くなった。
 そうやって何度も何度も、結果的に響が傷つけられていくのを、ただ見ているだけになってしまっていた事が、悔しくて仕方がなかった。

 だが、今日のはそんな臆病風をぶった斬る程に凄惨なもので、彼はとうとう勇気を振り絞って飛び出したのだ。

「……なんで……」
「……え?」

 響の呟いた言葉に、翔は首を傾げる。

「……なんで、わたしなんかを……?」

 あまりにも深く傷つけられ続け、心を閉じかけていた響は、それが分からなかった。
 何故、翔が自分を助けてくれたのか……その単純な理由さえ、理解出来ないほどに。

「……人が人を助けるのに、理由が必要かな?」
「……え……?」
「この気持ちは、理屈じゃないんだ。僕は、立花さんを助けたかった。だから飛び出したんだ。……覚悟を決めるまでに時間を掛けてしまった事は、責められても仕方が無いけど……」
「……」

 響はやはり信じられない、というような表情で翔の顔を眺めている。

 翔は困ったような表情をすると、指で頬をポリポリと搔いた。

「……えっと……これからも、何かあったら……その……ぼ、僕に……頼って……いいんだよ?」
「……」

 年頃の男子としては、同年代の女子からまじまじと顔を見つめられる、というのはどうしても照れてしまう。
 それも相手が無言なので、翔もしどろもどろになりながら、それでも何とか会話を続かせようと必死だ。

「……た、頼りないかもしれないけど……僕は、立花さんの味方だから!立花さんが呼べば、必ず助けに行くから!」

「……わたしの、味方……。本当に、助けてくれるの……?」

 いつ頃からか半分閉じかけるようになっていた響の目が、一瞬だけ見開かれる。

 翔は響の顔を真っ直ぐに見つめて宣言した。

「約束する……。僕は、立花さんの力になりたい。立花さんを守りたいんだ……」
「……ッ!わたしを……守る……」

 誰も助けてくれない。誰も傍にいてくれない。わたしが居るから、大切な家族も傷つけられる。

 それならいっそ、わたしなんて……。そこまで思い詰めていた彼女にとって、その言葉は──
 
 ∮
 
 翔の一喝以来、響に対する虐めは沈静化。虐めの中心だった生徒らも、暫く音沙汰無し。息を潜めるように学校生活を送っていた。

 少しずつではあるが、響もようやく平穏な学生生活が戻って来ている事に安堵し始めていた頃……その事件は起きてしまった。

 あの一件以来、翔は下校するまではずっと響に付きっきりで、彼女を守っていた。その徹底ぶりたるや、担任に頼み込み、席を隣に変えてもらうほどだった。

 最初はまた虐められるのではないかと不安だった響が、安心して教室に来る事が出来たのも、翔が隣にいてくれるという安心感からだろう。

 やがて、響の中には翔への信頼が生まれつつあった。

(翔は……わたしの事、見ていてくれる……。わたしの事、本気で守ろうとしてくれてる……)

 下校前、響は隣を歩く彼の顔をチラリと眺める。

(わたし……翔の事、信じていいのかな……。本当に、翔がこれからも、わたしの味方でいてくれるなら……)

 ふと、視線に気がついたのか、こちらを振り向く翔。慌てて目を逸らすと、彼はクスッと微笑んだ。

 胸が少し、ドキッとする。このまま平穏な日々が続けば、凍りつきかけた響の心は溶け、以前のような笑顔を取り戻す。そう思われていた。
 
 ……しかし、その信頼が長く続くことは無かった。
 
 それは、翔が目を離した短い間の出来事だった。
 教室を出て下校しようとして、翔は響を待たせてトイレへと用を足しに行っていた。

 事件が起きたのは、その僅かな時間……。
 
「……立花、響」
「ッ!誰……?」

 振り向いた先に立っていたのは、同じ学年で隣のクラスの女子だった。

 ぽつり、と呟くように響の名前を呼ぶ声は、聞く者を震え上がらせるほどの怨念に満ち、ドス黒い言霊が見える気さえしたという。

「私の……私の翔くん……」
「え……な、何……?」

 一歩、また一歩。ゆらり、ゆらりと近づく女生徒。
 後退る響の目に映ったのは、その手に握られた裁縫バサミだった。

「かえして……私の翔くんを……かえせ、返しなさいよおおおおおお!」
「ッ!?なっ、何!?何なの!?」

 振り上げられる逆手持ちの裁縫バサミ。響は驚きながらも、振り下ろされるそれをなんとか避ける。

「私の翔くん!私だけの翔なのに……なのに、なのになのに!お前こそ何なのよ!翔くんに四六時中ずっと付き添っててもらえるなんてどんな汚い手を使ったのよ!?」
「は……?何それ、知らない……!」
「許せない許さない許しはしない許せるわけがない!翔くんを独占するお前を私は生かしておかない許さない!」
「ッ!?」

 足が縺れ転んだ瞬間、女生徒は響に馬乗りになる。

 逃げられない響。狙いを付けて両手で振り上げられるハサミ。

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 狂ったような笑いが廊下に反響する。

(わたし……ここで、殺されるの!?──嫌だ……嫌だ、嫌だ!助けて、誰か……翔……ッ!)

 あわや、その凶刃が振り下ろされるかと思われた、その時だった。
 
「うおおおおおおおおッ!」

 廊下を駆ける足音と怒号。

 声の主を振り向いた瞬間、女生徒はその腕を捻り上げられた。
 カチャン、と音を立ててその手からハサミが落ちる。

「彼女に何をしたッ!」
「いっ!痛い!痛いよ翔くん……」
「問答無用ッ!少し頭を冷やせッ!」

 女生徒を立ち上がらせ、響から引き離した翔は、そのまま彼女に背負い投げを決める。

 背中を床へと強打し、女生徒は気を失った。

「はぁ……はぁ……立花さん、大丈夫……?」

 女生徒が動かなくなった事を確認し、翔は響へと手を差し伸べる。

 しかし……先程の女生徒の発言に含まれていた、翔への強い執着心。

 そこから、何も察することが出来ない響ではなかった。
 

 パシッ

 
「え……?」

 突然払われた手に、翔は困惑した。

 響は自力で立ち上がり、背中やスカートの塵を払うと翔を睨み付けた。

「……嘘吐き。守ってくれるって言ったクセにッ!」
「ッ!それは……ごめん……」
「もういい……あんたには二度と関わらない!」
「立花さん……」

 そう言って歩き去ろうとする響。翔は響を引き留めようと、その手を掴んだ。

 しかし、響はそんな翔を睨み付けると、掴まれた手を強く振り払う。

「話しかけないで……。もう、あなたの助けなんて要らない!」

 翔の手を振り払った響は、そのまま振り返ることもなく駆け出して行った。

「たっ、立花さん!」

 翔には、彼女の背中を追いかける事ができなかった。

 こうして、2人が築きかけていた信頼は、翔への愛と響への嫉妬に狂った、一人の女生徒の凶刃によって引き裂かれてしまった。

 それから響は完全に心を閉じてしまい、翔は彼女から避けられ続けたまま、中学を卒業していってしまったのである……。
 
 ∮
 
 それから2年。翔は特異災害対策機動部二課の協力者となりながら、響が進学したリディアン音楽院の姉妹校、アイオニアン音楽院に通っていた。

 あれ以来、響に避けられ続けた彼は、喧嘩別れとなってしまった事が今でも心残りだった。

 もう一度会えないものかと、何度か二課に来るついでにリディアンの道行く生徒達を観察したが、未だに見つける事ができない。
 どうやら提出物は出しているものの、登校してこない日が多いらしい。

「はぁ……。今日も見つけられず、かぁ……」

 姉や叔父である二課の司令官、弦十郎に差し入れを届け、翔はとぼとぼと帰路に着く。
 中学の卒業後、翔は二課へと入る覚悟を固めた。

 理由は大きく2つ。大好きな姉や叔父の助けになりたいから。そして、2年前に救う事が出来なかったあの娘のように、助けを求めている人を1人でも多く救いたいから……。

 その一心で彼は、ノイズ出現時には現場で避難誘導を行い、最前線で戦う姉とは別の方向から人々を助けていた。
 
 そんなある日の事だった。

 二課でのミーティングに向かう道中、ノイズの出現警報が鳴り響く。

「こちら翔!現場に急行します!」
『無茶はするなよ!翼がそちらへ向かっている!』

 すぐさま通信機を片手に現場へと急行した翔は、早速逃げ遅れた人が居ないか探し始める。

 やがて、翔は逃げ遅れた男の子を発見した。

「君!ここは危ない、早く逃げるよ!」
「お、おにーちゃん、だぁれ?」
「特異災害対策機動部。君達をノイズから守るお仕事さ。ほら、掴まって!」

 子供をおぶると、力の限り全力で駆け出す翔。

 しかし、気付いたノイズ達は翔と少年に狙いを定め、名前の通り雑音のような足音を立てながら近付いてくる。

 更に運悪く、曲がった先にもノイズが待ち構えていた。

 前後両方をノイズに囲まれて、後退る翔。しかし、少年を庇う姿勢だけは崩さない。それこそが彼の常在戦場、それこそが己のするべき事だと確信しているからだ。

 だが、ノイズ達は無慈悲にも迫って来る。
 もはやこれまでか……。そう思われたその時……黄色い流星が、戦場を駆け抜けた。
 
「ノイズとは異なるエネルギー反応を検知!」
「アウフヴァッヘン波形、パターン照合!この反応は、昨日の……!」
「ガングニール、だとぉ!?」

 二課の職員達、そして弦十郎が驚く。
 そこに現れたのはつい昨日、突如として現れ、ノイズを倒して去って行ったガングニールの装者……立花響であった。

「立花……さん?」
「……ッ!」

 翔の姿を見て目を見開く響。しかし、直ぐにノイズの方へ向き直ると、首のマフラーで口元を隠し、拳を強く握り締めるとノイズの群れへと突撃して行った。

 アームドギアはその手に無く、響はその拳でノイズ達を殴って砕く。

 その目に浮かべるのは、自分の人生を狂わせたノイズへの憎しみ。それを倒す力を得た彼女は、握った憎悪を叩きつけるように戦う。

 翳り擦れた表情に、翔は強い憂いを感じずにはいられなかった。
 
 やがて、翔と少年を取り囲んでいたノイズは全滅する。
 そのまま無言で立ち去ろうとする響を、翔は慌てて引き留めた。

「立花さん……」
「……わたしに、構わないで」
「待って、立花さん!」
「……話しかけないで」
「……あの時の事、まだ気にしているんだね……」
「……守るって、言ったクセに……」

 絞り出すように呟く響。その言葉に、翔は口を噤むしかなかった。

「助けるって、言ったクセに……。それなのに、お前は……この嘘吐き!偽善者!あんたなんか信じるんじゃなかった!」
「ッ……!」

 胸に突き刺さる言葉の数々。そうだ、自分は絶対に守ると言っておきながら彼女の身を、生命を、危険に晒した。
 それも、自らに関わる事でありながらも、自分ではどうしようもない原因で……。

 ギアの力で強化された身体能力。その跳躍力でビルの上を飛び越え、夜の闇に消えて行く彼女の後ろ姿を……翔はじっと見つめていた。

 ……それでも、彼は響の事を放ってはおけなかった。

(……嫌われても仕方ない……偽善者の汚名も、反論の余地がない……。それでも、僕は──)
 
 
 
 それから1ヵ月近く。翔はノイズが出現する度に、戦場の只中へと駆けるようになった。
 風より早く、姉よりも早く。最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に現場へと向かい、逃げ遅れた人々を導きながら彼女を探した。

 それだけではない。リディアンに来る度、今日は登校しているのかと、道行く生徒達の中から響の姿を探した。正門だけでなく、裏門も。更には校舎の玄関前まで探して。
 戦場で、学び舎で、街中で。何度もその姿を見つけ、何度も顔を合わせ、その度に拒絶された。

 それでも翔は諦めない。同じ言葉を、あの日から変わらない胸の思いを真っ直ぐにぶつけた。
 そしてある日の夜、とうとう彼女の怒りが爆発した。

「しつこい……。何なの、毎日のようにやって来てうだうだうだうだ……!わたしに関わらないでって言ってるのに……!」
「そういうわけにはいかない。僕には立花さんをそんな風にしてしまった責任がある!」
「わたしはもう誰も信じない……。あなたもどうせ、自己満足でわたしを助けただけなんでしょ……?そんな偽善者なんかに用はない……!どうせ傷付くなら、わたしは独りでいい!ほっといてよ!」

 侮蔑と怒りを込めた冷たい視線が翔を射抜く。ほぼ完全に閉じられ、凍りついた心が歩み寄る者を拒む。

 最初は助けを求めていたが、あの日、自分を襲った恐怖の前に、自ら握った手を離した彼女は、人を信じることさえ恐れるようになってしまった。

 もはや暗闇の中でただ一人、閉じこもる方が楽なのだ。そうやって他者を拒絶することで守る心はより深く、より暗く沈み、冷たくなっていく。

 そんな彼女の心に投げかけられる最大の言葉を、翔は何度も呼びかける中で探し続ける。

 やがて、彼が見つけた一番の言葉は──
 
「なら、僕は嫌われてもいい……」

 それは、自らの胸に刃を突き立てるような苦しみを伴う、心からの言葉。
 沈み凍えて固まった、その心を必ず溶かす。そんな彼の決意そのものだった。

「君を傷付けた事実も、偽善者の汚名も、僕には反論の余地がない……」
「だったらなんで……」
「“だとしても”ッ!もう手遅れかもしれないけど、僕は立花さんを支えたいんだ!僕の中ではあの約束、まだ終わってないんだよ!」
「……ッ!」

 その一言に、響は目を見開く。
 この人はそこまで言ってなお、あの日の約束に拘るのかと驚きを隠せない。

「そっ、そんな約束、わたしはもう……!」
「忘れたなんて言わせない。言わせてやるもんかッ!……立花さん、約束は1人じゃ出来ないものなんだ。人と人との繋がりなんだ!この約束まで忘れてしまったら、立花さんは本当に独りになってしまう!そんな事、僕は絶対にさせないッ!忘れさせてなんてやるものかッ!」
「な……」
「もし、それでも忘れたなんて言うのなら……もう一度、ううん、また何度でも約束しよう。立花さんは僕が守る!何があっても助ける、どんな時でも君の味方だ!だから……もう一度だけ、僕を信じて欲しいッ!」
「……ッ!?」

 握られた手。あの日と変わらず、真っ直ぐに見つめてくる瞳。
 記憶に蘇る温かさに、響はその手を振り払った。

「……なんなの……」

 その温もりはきっと、彼女を引き戻す希望そのもの。

 しかし彼女はそれを恐れる。もしも信じたとして、また裏切られてしまったら……。そう思うと、温もりを知ってしまう事の方が怖かった。

「立花さん……」
「ついてくるなッ!」
 
 そうして少女は、温もりの前から逃げ出した。

(なんなの、あの気持ち……。知らない……知らない、知りたくない!温もりなんて、直ぐに消えちゃうのに……!)

 握られていた手を見て、先程までの温かさが少しずつ消えて行くのを感じながら、響はそれを否定し続ける。

(どうせ皆いなくなる……。だったらわたしは、誰かなんて要らない。どうせ独りになるなら、最初から独りでいい……ううん、独りがいい……)

 夜の街を跳びながら、響は自らに言い聞かせる。

 その本心も分からぬまま。ただ、その行方は自分が傷つかないで済む場所へと……。
 
 ∮
 
「聖遺物護送任務、ですか?」
「そうだ。発見された聖遺物は天逆鉾(アマノサカホコ)。研究の為、永田町地下にある特別電算室、通称『記憶の遺跡』へと輸送される事が決定した。今回の任務は、その護衛だ」

 司令室にて、弦十郎は送られてきたデータをモニターに映しながら翼に説明する。

 添付されていた画像には、古ぼけた槍の刃が映っている。調査の結果、どうやらかつては高千穂峰山頂に封印されていた完全聖遺物だったが、火山の噴火に巻き込まれて破損したものとの見解らしい。

 柄の部分は地中に残っていたため既に回収されたが、刃の部分は様々な人の手を転々と渡っており、つい最近まで行方知れずだったという。

「作戦決行は明朝0500、開始までに了子くんから届いたこのデータに目を通しておくんだ」
「了解!」

 ちなみに、その了子はというと現在、記憶の遺跡に呼ばれて出張中だ。
 翼はデータの入ったチップを受け取り、緒川と共に司令室を後にするのだった。
 
 翌日、翔は今日も朝から響を探していた。

 普段の響の戦闘スタイル、そして彼女の性格から、独学で磨いた武術だと推察した翔は、町外れの森林公園を散策していた。
 他に一人で技を研ける環境が存在する場所は、既に探したからだ。

 やがて、激しい掛け声と打撃音が聞こえ、翔はその場所へと足を進める。
 その先では予想通り、探していた少女が拳を突き出し、樹木へ蹴りを入れ鍛錬する彼女がいた。

 彼女に気付かれないようにゆっくりと近付く。声をかけようとした、その時だった。
 

 ヴヴヴヴヴゥゥゥゥ────!!
 
「ッ!」
「警報……!?」

 街の方からノイズ出現の警報が鳴り響いた。
 響は直ぐに鍛錬を辞めると、森を飛び出して行った。翔も慌ててそれを追いかけながら、通信機を取り出す。

「翔です!友里さん!ノイズの出現地点は!?」
『それが……聖遺物、天逆鉾の護送車両をノイズが襲撃しています!』
「なッ!?」

 その耳に届く、聖なる歌。
 視界の先から届く黄色い閃光。その後に、オレンジ色の人影が空高く跳び上がった。

 翔は移動用に乗ってきていたマウンテンバイクに飛び乗ると、全力でペダルを漕いでそれを追いかけた。
 
 ∮
 
 戦況は宜しくなかった。
 ノイズの数はおびただしく、もはや翼1人では捌ききれない数であった。

「くッ……。この数はいったい……」
『統率されている、としか思えないわね』
「その声、櫻井女史!?」
『やっほ~翼ちゃん。ピンチだって聞いて、記憶の遺跡から繋がせてもらってるわ』

 いつものマイペースな了子の声に安堵感を覚えつつも、周囲のノイズへの警戒を続ける翼。
 了子からの言葉に、翼は耳を疑った。

「ノイズが統率されている、とはいったい……?」
『聖遺物の中には、ノイズを統率・制御する為のものもあると考えられているの』
「なんですって!?」
『ノイズを倒す為の力が聖遺物なら、逆にノイズを操る為に造られたものだってある筈よ。このノイズ達の動き、どう見ても何者かに制御されているとしか思えないわ』
「くッ……どうすれば……」
『もう少し踏ん張って、そのノイズ達を片付けて。狙いが天逆鉾で、敵の作戦が物量押しだとすれば……次にノイズを追加する時、強いアウフヴァッヘン波形が観測されるはずよ。藤尭くん、サーチよろしく』
『了解!』

 藤尭が周辺のアウフヴァッヘン波形を計測しながら、監視カメラに怪しい人物が映り込んでいないかを確認し始める。
 翼はアームドギアを握り直し、再びノイズへと向かって行く。

「統率されたノイズの群勢、何するものぞッ!推して参るッ!」
 
 その時、何かがぶつかる重い音と共に突き出された拳が、数体のノイズを天高く吹き飛ばした。

「ッ!立花……」
「……邪魔……ッ!」

 現れた響はいつも通り、1人でノイズの群れへと突っ込んで行った。
 翼は慌てて声を掛ける。

「おい、立花!この数を相手に一人で戦うなど無謀だ!ここは連携を……」
「うるさい……!わたしは一人でもやれる……!」

 ノイズの群れはどんどん数を減らしていくが、響は翼の言葉を無視し、どんどん離れていく。

「うわあああ!」

 突如聞こえた悲鳴に振り返ると、そこには天逆鉾の入ったケースを手にした黒服へと迫るノイズの姿があった。

「ッ!やめろ!」

 間に割って入ろうとする翼。しかし、その眼前に突撃し、地面を抉るノイズ達。

「う、うわああああああああッ──」

 出遅れたその瞬間、黒服はのしかかって来たノイズと共に炭へと変わった。

「ッ!あ……ああ……」
「ッ……!」

 目の前で、死体も残さず分解される黒服職員。
 その手に握られていたケースが、黒炭と共に地面に落ちた。
 
「……よくも……よくも!うわああああああああ!」

 翼はアームドギアを手に、残るノイズの群れへと突っ込んで行く。

『翼ッ!落ち着け!』

 弦十郎の声も聞かず、翼は自らの持てる刃の全てをノイズへとぶつけて行く。しかし、この戦場に於いて激情に駆られているのは、翼だけではなかった。

「……お前達が……お前達がいるから、わたしは……ッ!」

 響の全身から怒気が立ち上る。先程以上に、より強く拳を握った響は跳躍し、ありったけの力を込めた蹴撃を放つ。

 道路を埋め尽くすほどのノイズの群れに穴が空き、地面が抉れる。

 足元から眼前、そして周囲を見回し、響はノイズに憤怒の視線を向ける。

「あんた達は全員、わたしの手で壊してやるッ!全部、全部、全部、全部ッ!一人残らず壊し尽くしてやるッ!」

 突き出す拳が胸を穿ち、繰り出す脚がその体躯をへし折る。
 掴んで投げ、倒れたところを踏みつけ、抱く憎悪の全てをぶつける。
 力任せに地面を殴りつければ、その衝撃波が周囲のノイズを纏めて散らした。
 
「姉さんッ!立花さんッ!」

 現場に着いた時、そこは修羅と化した2人が暴れる惨状だった。
 装者2人は揃って眼前のノイズをただ斃すのみ。声をかけた翔の事など気付いていない。

「姉さん!立花さん!……ッ、これ、聖遺物の……」

 翔は視界の隅に停まっていたトラックの近くに、転がっていたアタッシュケースを見つける。
 回収しようと近付いた翔、そこへ……フライトノイズが迫る。

「次は……ッ!?翔!!」
「え……ッ!?」

 2人が気づいた時にはもう遅く、螺旋状となったフライトノイズは輸送車に突き刺さり……爆発した。

「うわあああああああああああああッ!」
「ッ!!」

 爆風に吹き飛ばされ、翔の身体が宙を舞う。
 翔の元へ向かうべく走り出そうとした翼の隣を、橙色の疾風が彼女よりも早く駆け抜けた。

 両足のパワージャッキを展開させ、強化された脚力で加速・跳躍し、爆風で飛び散る鉄塊を砕き壊して、翔の身体を抱える。
 その両手で翔を抱えた響は、首のマフラーをたなびかせながら着地した。

 脚が地面に摩擦し、火花を散らしてようやく止まる。
 地に膝を着くと、響は抱えた翔に呼びかけた。

「何してんの!こんな所までついて来て、馬鹿なの!?」
「……たち、ばな……さん……。……天逆鉾、は……?」

 響は、手を伸ばせば取れる場所に転がるアタッシュケースを見る。

「あんなもの、どうだっていい……!それより、何でこんな所まで……」
「だって……立花、さんと……ねえさん、が……しんぱい、で……」
「ふざけないでッ!……何の力もないあんたが、そんな事……分からないよ!」
「……そう、だね……。さすがに、ボクも……今回ばかり、は……バカな……こと、を……かはっ」

 爆風のダメージで吐血し、弱々しくなっていく翔の声。響は自分の頬から、熱いものが滴り落ちるのを感じた。
 空からぽたり、と雫が落ちる。やがて雫は数を増し、土砂降りの雨となって降り注いだ。

(……嫌だ……嫌だよ……。こんな、別れなんて……わたしはやだよぉ……)



 いつしか、その人がわたしの日常の何処かにいる事が当たり前になっていた。

 どれだけ突き放しても、どれだけの罵倒をぶつけようと、バカみたいに同じ事を言う為だけにまたやって来る。

 最初は鬱陶しいだけだった。何の音も届かない、雑音ひとつない、わたしだけの世界に土足で踏み込んで、それを壊そうとする厄介者。

 何も無い暗闇と、あらゆる雑音をかき消す雨の音だけがあればいい。

 助けてくれる誰かなんて、どうせ1人も居ない。誰もわたしを助けてくれないなら、わたしも誰も助けない。裏切られるくらいなら、傍に居てくれる誰かなんて要らない。最後には皆居なくなる、だったら最初から独りでいた方が楽だ。……そう思って、居たはずなのに。

 今、腕の中で息も絶え絶えにわたしの顔を見上げているこの人は、あの日から……2年前からずっと変わらずに、わたしの事を思ってくれていた。

 ああ、そうだ……。わたし、なんて馬鹿なんだろう……。この人が死ぬかもしれない今頃になって、漸く気が付くなんて……。

 この人はわたしにとって……こんなにも大きな存在だったなんて……。
 
 ……嫌だ……嫌ダ……。
 
 離れたくない……。失イたくナイ……。
 
 だって、わたしにはもう、この人しか……。
 
 
 
「お願いだから……生きてよ……翔!」
 
 
 
「あらあら、涙のお別れかしら?」

 突如響く第三者の声。顔を上げた響の目に飛び込んできたのは、黒い衣服に身を包んだ金髪の女性だった。その手には銀色の杖が握られており、放つ雰囲気は只者ではなかった。

「あんたは……」
「私の名はフィーネ……まあ、名乗る意味なんてないのだけどね。私が用があるのは、そこのケースの中に入ってるものなんだから」
「ッ!?」

 残るノイズを殲滅し終えた翼も、その女性に気が付き驚く。

「動くな!何者だッ!?」
「あら怖いこと。でも残念、あなたに私を脅す事は出来ないわよ、風鳴翼。天羽々斬のシンフォギア装者さん」
「ッ!私の名を!?」

 次の瞬間、翼の方へと向けられた杖から光が放たれ、出現したノイズが翼を取り囲んだ。

「なッ……!?それは……!」
『アウフヴァッヘン波形検知!間違いありません、あれは完全聖遺物です!』

 探知機が女性の杖からのアウフヴァッヘン波形を捉える。
 了子の推測通り、ノイズを操る完全聖遺物の出現に、二課の職員全員が驚く。

「これは『ソロモンの杖』。バビロニアの宝物庫の鍵にして、ノイズを自在に操る完全聖遺物……。手に入れるのも、起動するのにも苦労したのよ」
『ソロモンの杖、だとぉ!?』
『やっぱり……実在していたのね』

 弦十郎の驚く声と、()()の呟きが通信機から聞こえる。

「くッ……!その杖、押収させてもらうぞ!」

 翼はアームドギアを構え、自らを囲むノイズに斬りかかった。

「さて……それじゃあ、『孤高の装者』さん。そのケースは貰っていくわよ」

 翔を抱きかかえて俯く響へと向き直り、フィーネは歩み寄っていく。

 響の肩は震えていた。怯えではなく、強い怒りで。

 歯を食いしばり、その目にこれまでで一番の憎悪と憤怒を宿し、響はフィーネを睨み付けた。

「……お前が……ノイズを……。これまでのも、2年前のあの惨劇も、全部お前の仕業かッ!」
「ええ、その通りよ。それが何だと言うの?」



「……許さナイ……」

 胸の内側から、ドス黒い感情が湧き上がる。

「お前ガ……わたシの人生ヲ……!わタシノ全テを狂ワセた……!ワたシから全てヲ奪ッタ……!」

 やがてその感情は全身へと広がっていき、響を染め上げていく。

(許さナイ……許セナい……!こいつガ全部奪っタんダ……!こいツは……殺サナきゃ……)

 ギアが胸から赤黒く染まっていく。並んだ歯は鋭く尖り、瞳孔ごと見開かれた眼は血のように真っ赤に染まる。

「おおおおおおお……うわああああああああああああああああぁぁぁッ!!」
「ッ!?これは……まさか、ガングニールの暴走!?」
「ウウウッ!がァァああああああああッ!」

 獣のような唸り声を上げ、全身を赤黒く染め上げた響は、フィーネへと飛びかかる。

 しかし、フィーネは響へと杖を向けながら後退、現れたノイズ達が響の前へと立ち塞がる。

「ウガァァァァアアアアッ!ああああああああぁぁぁッ!」

 響は目の前に現れた新たな敵に標的を変えると、理性をかなぐり捨てて暴れ狂い始めた。



「……うう……あッ……」
「ッ!おい、翔!しっかりしろ!」

 見上げると、そこには泣きそうになっている姉さんの顔があった。
 僕は……ああ、そうか……。爆風に巻き込まれて、立花さんに助けられて……それから……。

「……ッ!ねえ、さん……立花さん、は……」
「……あそこだ」

 姉さんが向いた方向を見ると、そこには……変わり果てた立花さんの姿があった。

 全身を影で覆ったように赤黒く染め、獣のような唸り声を上げながら、ただひたすら目の前のノイズを屠っている。

 貫手で胸を刺し貫き、首を引きちぎり、頭を掴んでぶつけ、槍とした右腕で抉り削る。見るに堪えない、惨い有様だった。

「櫻井女史いわく、メディカルチェックしてみなければ原因は分からないらしいが……立花のガングニールが、立花の怒りに反応して暴走しているらしい」
「……ぼう、そう……?」
「このままでは……立花自身も危うい……」

 そう言って姉さんは、僕を見つめて、決意を固めた表情を見せる。

「だから、立花は私が全力で止める。翔、お前は立花が元に戻った時に──」

 姉さんが生命を懸けるつもりだと理解した僕は、咄嗟にその言葉を遮った。

「いや……、その役目は……ぼくが、やる……」
「──え……?」

 姉さんの腕の中から体を起こして、よろよろと立ち上がる。

 全身のあちこちが痛む。立っているのがやっとだし、一歩歩く度に激痛が身体を走る。

 今にも倒れそうになるのを、ありったけの精神力で堪えながら、数歩先にあるアタッシュケースの前へと膝を着いた。

「多分……立花さんが、シンフォギア装者になったのは……あの日、胸に突き刺さった奏さんの……ギアの破片だ……」

 フィーネはどうやら立花さんに気を取られているらしく、チャンスは今しかないと確信した。

 震える手でケースを開くと、中に収められた朽ちかけの刃が光を放っている。多分、暴走した立花さんのフォニックゲインが、天逆鉾の欠片を起動させたのだろう。

かつて姉さんの歌が、天羽々斬の欠片を呼び起こした時のように。

 それを握り締めると、僕は姉さんに向かって続けた。

「聖遺物の欠片から造られた、シンフォギア……。その破片が人体に取り込まれて、立花を、シンフォギア装者にしているのだとすれば……。逆説的に、聖遺物を人体に取り込む……事、で……シンフォギアに並ぶ力が……」
「お前まさか……!やめろッ!そんな無茶をすれば、お前は……」
「他に方法があるかッ!」

 今の声で、フィーネがこちらを振り返った。立花さんをノイズに任せて、こちらへと走ってくる。

 その、前に……やらなきゃ……。助けなくちゃ……立花さん、を……。

「ごめん、姉さん……。こんな愚弟の……最後のワガママ、押し通させてくれ……」
「ダメだッ!翔!そんな結果の見えない、部の悪い賭けにお前の命を晒せるかッ!」
「何をごちゃごちゃとッ!それを私に寄越せええええ!」

 背後には、止めようと走り寄る姉さん。前方には、奪おうと迫るフィーネ。

 どちらが先に来るよりも早く、僕は────その刃を胸に突き立てた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ウガルルルルルルル!……ううっ!?」

 曇り空の戦場を照らす、眩い閃光が辺り一面を包む。

 その光に戦場に立つ戦士の全てと、本部から見守る大人達の全てが目を閉じる。

 やがて、光が収まり誰もがその目を開いて彼の姿を見た。

 先程まで、その命のロウソクを燃やしきるかと思われていた少年は……神々しさを放つ戦装束に身を包んでいた。

 全身を覆うのは赤地に銀色のラインが入ったスーツ。その上からは四肢と胸、そしてその頭部に、表面にクリスタルが嵌め込まれたアーマーを装着しているかのような外見。

「翔……?」
「なっ……なんだその姿は……!?」

 驚き、目を見開く翼とフィーネ。

『これは……翔くんの身体から、天逆鉾の反応が検出されていますッ!』
『了子さん、これは……』
『まさか……人間の身体と聖遺物が、融合したというの!?』
『融合……だとぉ!?』

 友里、藤尭、了子、そして弦十郎も、予想外の展開と前例のないイレギュラーに、揃って驚きを隠せずにいた。

「そこを退いてください。僕には今、成すべき事があるんです!」
「ふざけるなッ!その胸の聖遺物、力づくでも取り出させてもらう!」

 フィーネはソロモンの杖で、翔へとノイズを放つ。しかし──

「邪魔だッ!」

 その手に握られた輝く槍を地面に突き刺す。すると突如地面が隆起し、ノイズ達を空へと跳ね飛ばした。

「なッ!?」
「はあああッ!」

 打ち上げられたノイズに向けて、翔は槍を回す。
 すると槍の先端から発生したエネルギーが火球となって周囲に浮かび、円陣を組むように並んだ。

「はッ!」

 回していた槍を止めて、突き上げるようにかざす。

 すると火球は宙へと勢いよく飛んでいき、ノイズを残らず爆散させる。

 真昼の曇天に真っ赤な花火が咲いた。

「一撃で、あれだけの数のノイズを……!?」
「……退いてください。今、僕はあなたよりも立花さんに用があるんです」
「くッ……」
「今ならまだ話し合いで間に合いますが、退いてくれなければ……」

 握った槍を突き付け、フィーネを睨む翔。

 フィーネは暫く黙った末に、バックステップで飛び退いた。

「今日の所は引いてあげるわ。次に会う時は覚悟なさい……!」
「ッ!待て……!」

 フィーネは立体道路を飛び下り、そのまま路地裏へと姿を消した。
 そして翔は槍をクリスタルの中へと収納すると、最後のノイズを踏み殺した『立花響のような怪物』に向かって行った。

「ぅぅうううう……!」
「……立花さん」
「ッ!うがああああああああぁぁぁッ!」

 翔の姿を見て、新たな獲物だと認識したのか咆哮と共に飛びかかる響。

 しかし、翔は防ぐ動作さえ取ろうとしていない。響はそのまま右腕を槍へと変じ、翔の頭上から突貫する。
 
 〈狂装咆哮〉
 
「ううううううう!うがああああああああぁぁぁッ!」
「翔ッ!」

 あわやその頭蓋は咆哮と共に狂槍に貫かれるかと思われた。

 しかし……そうはならなかった。

「ふんッ!」
「グルルッ!?」

 その槍は、翔の片手で止められた。あまりにも意外な展開に、呆気に取られる一同。

「君にそんな顔は……似合わないッ!」

 次の瞬間、その槍は粉砕される。

 突き立てる為の槍を軸にしていた響は宙でバランスを崩し、翔の上へと落下していった。

「ぐがああああああああぁぁぁッ!」
「立花さんッ!」
 
 落下してきた響だったそれを、翔は両の腕で受け止めてくるりと一回転すると、その胸に抱き締める。

「ッ!?」
「やっと……つかまえた……」

 抱き締められた響の姿をしたそれは、その腕から逃れようと藻掻く。

 しかし、翔はそれを離さない。どれだけ暴れようと、背中に回したその手を絶対に緩めない。

 そのまま耳元で、彼女の心を取り戻すため、優しく囁く。

「立花さん……僕は無事だよ。ほら、見ての通りピンピンしてる。信じられないなら……今君を包んでいる温かさがその証拠さ」
「ガルルルル……ッ!」

 その頭に手を置いて、優しく撫でる。

 すると彼女の心に届いているのか、唸り声が止み、つり上がっていた目尻が少し下がった。

「立花さん……。約束、守りに来たよ。約束通り、君を迎えに来たんだ。ほら、そんな所に閉じこもってないでさ……戻ろうよ」
「ううううううう……あああぁぁぁッ!」

 段々と抵抗が弱まっていき、体から力が抜けていく。
 暴走している響に、元の心が戻り始めているのが見て取れた。

「もう、怖くないよ……大丈夫。僕は君の傍にいるし、僕はもう君から離れない……。独りになんて、二度とさせてやるもんか……」
「うっ……がああっ……うっ、あっ……ああ……ッ!」

 真っ赤に染まり爛々と光る眼から、透明な雫が頬を滴る。

 最後のひと押しに、翔は彼女の顔を真っ直ぐに見つめると、満面の笑みを浮かべて言った。

「だから、一緒に帰ろう……立花さん。僕達の、帰るべき場所へ……」
 
「うっ……ううう……ああっ、あ……んっ……うわあああああああああん!」

 その一言で全身を覆っていた影が一瞬にして消え、ギアを纏っていない、いつもの灰色のパーカーを着た少女は泣きながらその胸へと顔を埋めた。

 少年の姿もまた一瞬にして元通りの、物静かな少年へと戻る。

 響は雨に濡れながら、まるで幼い子供のように翔の腕の中で泣きじゃくった。

「ごめんなさい……!ごめんなさぁぁい……!あんなに優しくしてもらったのに……わたし……あんな冷たい言葉ばっかりで……」
「いいんだ……。僕だって悪い。僕の至らなさが招いた事でもある」
「でも、根本的に悪いのはわたしだよ……!また、怖い思いするんじゃないかって……あんな事ひとつで、翔の事信じられなくなって……!」
「……やっと名前で呼んでくれた」
「……え……?」

 不思議そうに首を傾げる響に、翔は可笑しそうに笑った。

 ようやく泣き止んだ響の、今度は泣き腫らしたせいで真っ赤になった目は、濡れたまつ毛が儚さを醸し出す。

「今までずっと、"あなた"とか"あんた"ばっかりで、名前じゃ一回も呼んでくれなかったじゃん」
「そうだっけ……?」
「そうだよ……。名前で呼んでくれて嬉しいよ」
「あ……うう……。じ、じゃあ……翔もわたしの事……名前で呼べばいい……」
「えっ……そ、それは……その……」

 泣き顔と、赤く染まった頬を隠すように、響は俯き顔を逸らす。

「……じゃ、じゃあ……その……ひ……響、さん……?」
「……ッ!……ん……」

 2人の間を甘い雰囲気が漂う。それに合わせたかのように、曇り空が割れて日が射し込む。

「おい、お前達……」

 振り返ると、翼が少し不機嫌気味な表情で二人の方へと近づき、青い光と共に私服姿に戻る。

「戦いを終えたとはいえ、戦場で睦み合うのはどうかと思うぞ」
「ね、姉さん……?何でそんなに機嫌悪そうな顔してるの?」
「べ、別にッ!……まあ、今回は大目に見てあげる。でも翔、あなたは本部に戻ったら、色々とやるべき事があるんじゃないかしら?」
「あ、ああ……。そう、だね……」

 翔の身体がふらつき始める。気付いた翼が慌てて駆け寄ると、翔はそのまま響の腕の中に崩れ落ちた。

「翔ッ!?」
「ちょっ!?ちょっと!大丈夫!?」
「ああ……体力が……そろそ、ろ……限界……」

 疲労がどっと押し寄せ、翔はそのまま目を閉じる。

「わっ!?ちょ、ちょっと!翔!こんな所で眠らないで!」
「そっ、そそそそうだぞ!どうせなら私が運んでやるから、こっちで眠れ!」
「あなたは何を言っているわけ……?」

 こうして、山あり谷ありの道のりを越えて、翔と響の間に新たに芽生えた絆。

 この絆はもう二度と途切れること無く、二人を繋ぎ留めていく事だろう。

 何故なら、彼女はようやく気が付いたから。どんな事があっても、必ず傍で手を握っていてくれる人が居る事に。
 いつの日も、どこまでも。絶対に守ってくれる、彼女の味方(ヒーロー)

 交わした約束はいつまでも彼女の胸で、空に架かった虹のように輝いている。
 ∮
 
 深夜、リディアンの隣に建つ病院にて。

 メディカルチェックを受け、命に別状はないという診断結果を貰ったものの、念の為に検査入院する事になった翔の病室。

 そこではベッドの上で眠りにつく翔とは別の人影が蠢いていた。

 ゆっくり……ゆっくり……。そっと近付き、彼のベッドの傍までやって来る。
 やがて人影はごくり、と唾を飲み込むと意を決したように、彼の上へと覆い被さった。



 昼間、疲労で倒れてぐっすりと寝てしまった影響か、今夜はどうも寝付けなかった。

 ただ横になって、窓から射し込む月明かりを見つめる。

 ようやく眠気が来たかと思った頃……部屋に入って来る、誰かの気配があった。

 息を潜め、足音を潜めて近付いてくる気配。僕は寝ているフリをして、その気配の主が傍まで来るのを待った。

 気配の主はやがて、ベッド脇に立ち唾を飲み込む。

 何をするのかと思っていたら……ギシ、というベッドに体重を預けた音と共に、マットレスが沈むのを感じた。

(……登って来た?誰が、何のつもりで……?)

 気配の主がベッドに登って来たのを悟り、薄目を開く。

 月明かりに照らされたその顔は……立花さんだった。

「え……立花、さん……!?」
「あ……ッ!?」

 立花さんは「しまった」とでも言うような表情になると、そのまま固まる。
 その両手両足はマットレスを沈ませながら体を支えている。

 つまり今、立花さんは僕に覆い被さるような姿勢で、僕の顔を見下ろしていた。

「何してるの……?」
「いや……その……い、言わなくちゃいけない事、思い出して……」

 あからさまな言い訳をする立花さん。

 ちょっと目を逸らしながら言うその姿は、素直じゃない彼女の性格を表していてちょっと可愛らしい。

「……言わなくちゃいけない事……?」
「その……ありがと……。わたしなんかの傍に、ずっと居てくれて……。助けなんか要らない、なんて言っていたわたしの、本当の望みを叶えてくれて……」
「……どういたしまして」

 立花さんの本当の願い。それは、誰かに助けを求める声。
 要らないと吐き捨てながら、その裏で彼女は誰よりも助けを求めて泣き叫んでいた。

 でも、自分の気持ちにさえ蓋をして、その心を守ろうとした彼女は、いつしか忘れてしまったのだろう。
 だから、周囲がどれだけ手を差し伸べても、それを払って逃げるようになってしまった。

 ……それももう終わりだ。今の立花さんには僕がいる。今はまだ、僕だけかもしれない。けど、いつかはまた、あの惨劇の前みたいに元気な笑顔を見せてくれる……僕はそう信じている。

「それと呼び方……戻ってる……」
「え?ああ……ごめん、響さん……」

 響さん、と名前で呼ぶと、彼女は少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

「それで……だから、その……」
「……?」

 まだ何かを言い淀む響さん。

 何を言いたいか分からず、僕は敢えて黙る事で、次の言葉を待った。

 やがて、響さんはすぅ……と息を吸い込んでから、漸くその言葉を口にする。

「……責任、取ってよ……」
「え……?」
「翔が死ぬかもしれなくなった時、わたし、本気で悲しんだんだから……。翔の居ない世界なら、生きている意味なんてない……そう思えたくらいに……」
「それって……」

 遠回しだけど、そんな言い方されて気が付かないほど鈍感な僕でもない。
 次の言葉に、僕は目を見開く事になった。

「わたし……翔の事が好き……みたい……。もう二度と離れたくないし、離したくない……。ずっと、わたしの隣にいて欲しい……。翔の温もり、ずっと感じていたい……」
「響さん……」

 ああ……やっと、だ……。漸く彼女は心を開いてくれた。
 その事実が、僕には何よりも喜ばしい。その上、彼女が僕を選んでくれた事は……とても嬉しかった。

 ……ああ、そうだ。彼女の心を開く事ばかりを考えていたから、そこまで意識した事はなかったけれど……僕自身も、彼女の事が……。

「……僕もだよ、響さん」
「……え……?」
「2年前からずっと、僕は響さんが好きだった。今でも、その気持ちは変わらない。だから、もし、響さんさえ良ければ……お付き合い、してくれませんか?」
「ッ!!……そんな、こと……断るわけない!」
「そっか……よかった」

 そのまま僕達は、互いの顔を見つめ合う。

 時刻は深夜。誰もいない、二人っきりの部屋。月明かりだけが二人を照らす、ロマンチックな雰囲気で。目の前に迫る彼女は、愛を誓い合ったばかりの少女。

 条件は揃っている……。躊躇う必要は、ない。

「響さん……いい、かな?」

 両腕を首元に回して、彼女を真っ直ぐに見つめる。
 響さんは一瞬、肩を跳ねさせながら目を見開いて……やがて両目を細めて、こちらを見つめ返す。

「……ほら、するならさっさとしてよ……。待ってるの、恥ずかしいじゃん……」

 すぐ目の前まで近付けられた顔。両目を閉じた彼女の唇に、自分の唇をそっと重ねる。

 自分の心にようやく正直になった彼女は、とても温かかった。
 
 ∮
 
「忘れ物してない?弁当持った?」
「大丈夫……。……共学の学校だったら、もっと翔と一緒にいられるのに……」
「それは仕方ないさ。響さんの『ただいま』を聞く為に準備する時間、結構楽しいからね」
「……ッ!……もう、翔はまたそういう事を……」

 朝食を食べて、制服に着替え、カバンを持って玄関で靴を履く。
 部屋を出て鍵をかけ、2人は途中の道までは手を繋ぎ、一緒に登校していく。

 しかし、2人の前に立ちはだかる問題は、まだまだ多く、その未来は困難に満ちている。

 それでも2人はこうやって、手と手を取り合い、立ち向かっていくのだろう。
 二つの神槍は同じ方向へと、どこまでも真っ直ぐに進んで行くのだから。 
 

 
後書き
共に暮らすようになった翔と響。
そんなある日、二人の前に"陽だまり"が帰ってくる。

未来「響……?」

グレ響「未来……」

ヘタ翔「知り合いかい?」

再会する二人だったが……。

フィーネ「米国から手に入れたダイレクトフィードバックシステム……」

訃堂「ここに、護国の力が揃う時が来た」

平穏の裏で、大きな野望が動き始めていた。

グレ響「返せ……!翔はわたしの──」

訃堂「果敢無き哉。此奴の父親を誰と心得える?」

攫われた翔を取り返すため、たった独りで『鎌倉』に乗り込もうとする響。

弦十郎「このまま戦い続ければ、翔だけでなく、響くんの命までもが危険だ」

了子「最悪の場合……あの二人、死ぬわよ」

未来「……ッ!」

深刻化する融合症例……。

八紘「私以外の者に、お前達の父親面をさせるつもりは無い」

翼「お父様……」

緒川「翔くんは僕の事、家族の一員だって言ってくれましたから」

翔を取り戻すため、そして響を救う為。今度は皆で手を繋ぐ!

ヘタ翔「この国を護る事こそ、この身に流れる血の使命……」

グレ響「目を覚まして、翔!」

未来「お願い、応えて……神獣鏡(シェンショウジン)!」

『照らす太陽と陽だまりに集う声』

ここまで書いといてなんですが、続きはありません(真顔)
期待させといて続きがない、だとぉ!?って思われるかもしれませんけど、これだけの内容をダイジェスト形式にして、なおかつ一話にまとめるのは、察してもらえるかと思いますが、かなり大変なんですよ(苦笑)
むしろ真面目に書くと本編とは別枠投稿するべきってくらい長くなるので、悪しからず。

天逆鉾(アマノサカホコ):日本神話の一番最初の物語である、『国産み』に登場する聖遺物。その特性はレイラインからのエネルギー供給により、様々な自然現象を引き起こすというもの。その強大な力には、国土創造の逸話により付与された論理兵装としての力も関与しているらしい。
翔はこれを自身に突き刺す事で、死の迫る肉体にレイラインのエネルギーを流れ込ませ、肉体の損傷を回復させたのだが、これはほぼ無意識下で行ったものと推測される。
また、本編の翔は融合症例としての力をRN式で抑え込む事で、生弓矢から溢れる力をシンフォギアの形に固定しているが、このルートでの翔の姿は融合症例そのもの。肉体がそのまま変化している状態である。
たった一人でも君を守りたい。闇に閉ざされた未来に星の輝きを照らす為、その光槍は握られる。 
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