| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第6楽章~魔塔カ・ディンギル~
  第62節「流れ星、墜ちて燃えて尽きて、そして──」

 
前書き
満を持して最終回!泣いても笑っても、これで完結です!
XVが終わるより前に完結させられた思い出、忘れてなるものか!

それでは、無印編の終わりをどうか見届けてください! 

 
 西に傾く太陽の下。戦いが終わり、静けさを取り戻した街に、シェルターから出てきた人々が戻って行く。
 崩壊し、瓦礫が溢れ、所々で煙が上がる街。しかし、その静けさに人々は、平和が取り戻された事を悟るだろう。

 そして、崩れ落ちた魔塔の元に集った翔、翼、クリス、純、その他当事者たちの前に、敗北し項垂れる黒幕に肩を貸して歩いて来る、響の姿があった。
「お前、何を馬鹿な事を……」
 黄金の輝きは失われ、もはや再生能力を失い、ボロボロに崩れ落ちていくばかりとなった青銅の鎧を纏うフィーネは、呆れたように呟いた。
「このスクリューボールが……」
 敵であるフィーネにも手を伸ばした響の姿に、クリスも半ば呆れつつ、笑っていた。
「みんなにもよく言われます。親友からも、変わった子だ~……って」
 フィーネが瓦礫に腰を下ろすと、響はその隣に立ってそう言った。

「……もう終わりにしましょう、了子さん」
「私は『フィーネ』だ……」
「でも、『了子さん』は『了子さん』ですから」
「…………」
 その言葉に、フィーネは少しだけ顔を上げた。

「きっとわたしたち、分かり合えます」
「……ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間。統一言語を失った我々は、手を繋ぐことよりも、相手を殺す事を求めた……」
 瓦礫から腰を上げ、フィーネは響や装者達、見守る二課の面々に背を向け、夕陽へ向かって歩いて行く。
 まるで、自分と彼女達は分かり合うことは出来ないのだ、とでも言うように。
「そんな人間が、分かり合えるものか」
「人が、ノイズを……」
「だから私は……この道しか選べなかったのだッ!」
 鎖鞭を握り締める、フィーネの手。
 その手には悔しさと、そうなってしまった人類への哀しみが握られている様な気がした。

「……なら、どうして僕を助けてくれたんですか?」
「……なんだと?」
 純はクリスの隣から歩み出ると、フィーネに問い掛けた。
「フィーネ……本当はあなたも、信じたかったんじゃないですか?人類が殺し合う事ではなく、手を繋ぐことで分かり合える事を。月を壊さなくても、言葉が違っていても、いつかはそんな未来がやって来ることを」
 フィーネは純の言葉に答えることなく、ただ振り返る。

「歪んでこそいますが、本当のあなたはとても優しい人である筈だ。でなきゃ、僕はあの時、とっくにあなたの手で殺されている。……さっきの戦いでもそうです。手を繋ぐことを諦めたからこそ、あなたは絆を束ねて抗った立花さんを前にしたあなたは、ムキになってしまった。そうでしょう?」
「ボウヤ、それはあなたの勝手な……」
「思い込みかもしれませんね。それでも、感謝はさせてください。ありがとうございます。クリスちゃんにひもじい思いも、寒い思いもさせずに世話してくれて。僕にクリスちゃんとの約束を、守らせてくれて。そして……僕とクリスちゃんを、出逢わせてくれて。本当に、ありがとうございます」
「…………」
 見当違いだ、と言い返す事も出来たはずだ。だが、フィーネは言い返すことも無く、ただ黙って顔を背けて夕陽を見つめた。
「人が言葉よりも強く繋がれること。分からないわたしたちじゃありません。だから了子さんももう一度だけ、信じてみませんか?」
 響はそう言って、フィーネの方へと歩み寄って行った。

「……ふう。………………──でああぁぁッ!」
「──ッ!?」
 ひとつ、溜息を吐いたフィーネは、カッと目を見開いて振り返ると、その鎖鞭を勢いよく伸ばした。
 不意打ちでこそあったが、難なく躱した響は拳を突き出し、フィーネの胸元で寸止めした。

「了子くんッ!もうよせッ!」
「私のォォッ!勝ちだああああああッ!」
「え……あッ!?」
 響が振り返ると、鎖鞭の狙いは最初から自分では無いことに気が付いた。
 勢いよく、空へとどんどん伸びていく鎖鞭の向かう先には……砕けた月が白く輝いていた。
「──まさかッ!?狙いは……」
「もう遅いッ!でぇああああああああッ!」

 鎖鞭が月の欠片へと突き刺さる。フィーネは己の立つ地盤を砕きながら、それを力任せに背負い投げる。
 鎖鞭が抜け、地上に戻ってくる頃……月の欠片はその軌道を地球へと向けていた。
「月の欠片を落とすッ!」
「なッ、なんだとッ!?」
「お、おい、なんてデタラメだ……ッ!月を……引っ張りやがったのかッ!?」
 翼とクリスが空を見上げ、あまりにも突拍子もないフィーネの悪足掻きに目を見開く。
「諦めきれるものかッ!私の悲願を邪魔する禍根はッ!ここでまとめて叩いて砕くッ!この身はここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからなッ!聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって世界に蘇るッ!どこかの場所ッ!いつかの時代ッ!今度こそッ!世界を束ねる為にぃッ、ハッハハッ!」

「それがあなたの本当の望みなんですかッ!?」
 純は、狂気に満ちた笑みを浮かべるフィーネへと叫んでいた。
「大切な人に想いを伝えたくて始めたんでしょう!?それがどうして人類を支配する事に繋がるんですかッ!?」
「相互理解を失い、殺し合う事でしか……痛みでしか繋がれなくなった人類など、あの御方が悲しむだけだッ!なら、私は統一言語を取り戻すと共に、間違った方へと進んでしまった人類を束ねてみせるッ!あの頃の人類へと、もう一度……ッ!その為にも私は滅びぬ!私は永遠の刹那に存在し続ける巫女、フィーネなのだぁッ!」
 限界を迎えたネフシュタンが崩れていく。棘は折れ、肩鎧は地面に落ち、頭を覆っていた装飾も既に外れている。
 それでもなおフィーネは次の輪廻こそは、と声高らかに宣言する。

 トンッ……

 寸止めされていた拳が、フィーネの胸元に軽く当たった。
 一迅の風が吹き抜け、フィーネの長い金髪が広がる。
「────あ」
「……うん、そうですよね。何処かの場所、いつかの時代、蘇る度に何度でも。わたしの代わりに、みんなに伝えてください」
 響は拳を下ろすと、フィーネの顔を真っ直ぐに見つめて言った。
「世界をひとつにするのに、力なんて必要ないってこと。言葉を越えて、わたしたちはひとつになれるってこと。わたしたちは、未来にきっと手を繋げられるということッ!……わたしには、伝えられないから。了子さんにしか、出来ないからッ!」
「お前……まさか……」
 微笑む響に、フィーネはその意図を察して驚く。
「了子さんに『未来』を託すためにも、わたしが『今』を守ってみせますねッ!」

(──響、ちょっとそこ退いてくれ)
 その時、響の脳内に翔の声が響いた。
「え……?」
(翔くん何を……)
(まだ手を伸ばせる人が、もう一人だけ残ってる。その人を助けさせて欲しい……)
(わ、わかった……)
 響がフィーネの前から横へと逸れた、次の瞬間だった。

「……Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) zizzl(ジージル)──」

「ッ!?翔くん、それって!?」
 次の瞬間、フィーネの胸の中心部に深々と、一本の矢が突き刺さった。
 矢の飛んできた方向を見る響。そこには、生弓矢の絶唱を解き放ち、アームドギアを下ろす翔の姿があった。

「翔くん!どうして……」
「落ち着け響。この力は……生弓矢は壊すだけの力じゃない。『生命』を司る聖遺物だ」
「え……それって……?」
 響がフィーネの方を振り返ると、フィーネは苦悶に顔を歪めてはいなかった。
 むしろ、突き刺さった矢から流れ込む力に驚いているようですらある。
「生命を司る生弓矢。その力は死者をも甦らせる、と伝わっている。フィーネ、あんたに消された“了子さん”を返してもらおうか。その肉体は、元々あんたのものじゃない」

「……そうね……。なら、その前に……」
 フィーネは先程までとは打って変わり、穏やかな表情で装者達を交互に見回す。
「クリス……いままでごめんなさい……。あなたには、辛い思いばかりさせてしまったわね……」
「あ……。……い、今更謝られたって……許して……やるもんかよぉ……」
 涙声になりながら意地を張るクリスを見て、フィーネは微笑む。

「爽々波くん……クリスをお願い。……辛かった日々の分まで、その子を愛してあげて頂戴……」
「フィーネ……。分かりました……約束します。クリスちゃんは僕が、幸せにしますよ……」
 純の言葉に、フィーネは満足したような表情で、今度は翼と二課の面々を見回した。

「まあ、12年間、退屈しない程度には楽しかったわよ……」
「了子くん……」
「だから、私は『櫻井了子』じゃなくて、フィーネだって言ってるじゃないの……。もう、本当に頑固なんだから……」
 弦十郎に向けて、呆れたような微笑みを向けると、フィーネは最後に……目の前に並んだ二人を見つめる。

「……ふぅ。あなた達二人は、本当に……放っておけない子達なんだから」
 そう言ってフィーネは、二人の胸の中心を、それぞれ指先でつついて言った。
「胸の歌を、信じなさい……」
 そして……次の瞬間、フィーネは真っ白な灰へと代わり、風と共に崩れ落ちる。その消滅を、この場にいる全員が静かに見届けた。

 代わりに、打ち込まれた矢が光り輝き、鏃を中心にして風に舞う灰が全て集まり、人の形へと固まっていく。
「…………っ」
「司令ッ!」
 その形を見て、弦十郎は駆け出した。
 やがて灰は一人の女性のシルエットを形作り、その輝きが一際強くなった瞬間、その肉体は元の姿に再構成された。
 地に崩れ落ちそうになった彼女の身体を、弦十郎が支える。

「……ん……んぅ……?」
 弦十郎の腕の中で、戻って来た女性……櫻井了子はゆっくりとその瞼を上げた。
「……あれ……私、何を……」
「ッ……了子くん……」
「……弦十郎……くん……?」
 寝惚け眼で周囲を見回し、自分を支えている人物が誰なのかを認識して、了子は呟いた。
「私……何で、弦十郎くんに……」
 最後まで言いきる前に、弦十郎は了子の身体をそっと抱き締める。
「……おかえり……了子くん……」
「……えっと……ただいま……?」
 寝惚けながらも困惑している了子。その身体を抱き締める弦十郎の表情は──とても、安堵に満ちていた。
 二人の様子を、五人の装者と八人の高校生、そして集まって来た何人かの職員達が見守っていた。

 ∮

「……軌道計算、出ました。直撃は……避けられません」
 弦十郎と了子、二人の再会の感動に浸る間もなく、藤尭は月の欠片の落下軌道の計算を終えた。
 持って来ていた端末の画面を覗き込み、友里と緒川も歯噛みする。

「オイオイオイオイ!?あんなやべぇモンがここに落ちたら……」
「僕達どころか、この街は……いや、日本そのものが……」
 空を見上げ普通の高校生達は、迫る危機に怯えていた。

 しかし、響は真っ直ぐに空を見上げると……一歩ずつゆっくりと、歩き出した。
「響……」
「なんとかする」
「あ……」
 振り返った親友の顔に、未来は何も言えなくなってしまった。
 その顔はとても頼もしさと、決意に満ち溢れていて……止められる理由なんて何処にもなかったのだから。
「ちょ~っと行ってくるから。生きるのを、諦めないでッ!」
 そう言って微笑むと、響は助走をつけ、再びその羽を広げると飛び立って行った。

「ぁあ……響……ッ!」
 すると、未来の肩に手が置かれる。振り向くと、そこには翔が何かを告げるような眼差しでこちらを見ている。
「……待っててくれ。必ず戻る」
 翔は未来の肩から手を離すと、未来の手に()()()()()を握らせる。そして響の後に続くように走り出し、天高く飛び立った。
「……響……翔くん……」
 二人が命を懸けて成し遂げようとしている、人生最大の『人助け』。
 未来は空へと消えて行く後ろ姿を、涙と共に見送った。

Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) baral(バーラ) zizzl(ジージル)──」

 雲を突き抜け、大気を越えて、地球の外へと飛び立って行く。

Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) zizzl(ジージル)──」

 その唄は遥か地上に残った者達にも、一言一節、ハッキリと聴こえていた。

『ごめんね翔くん……付き合わせちゃって……』
『気にするな。あの日、言っただろ?俺は響と同じ空を見ていたいんだ……たとえ、それが宇宙だろうと関係ない。だって宇宙(ソラ)に変わりはないからな』
 響の隣で、翔はそう言ってはにかんだ。
 それを聞いて響は、安心したように微笑み返すと、翔の手をそっと握った。

『──そんなにヒーローになりたいのか?』
『あ……』
『姉さん!?雪音に純まで……!?』
 突然の声に振り返ると、そこには……地上から追ってきた仲間達の姿があった。

『こんな大舞台で挽歌を唄う事になるとはな。立花には驚かされっぱなしだ。それに着いて行く翔の行動力にもな。お前はまさしく、益荒男だとも』
『親友が世界を救う為に、大切な人とたった二人で命張ろうとしてるんだ。黙って見てると思っていたのかい?ねえ、クリスちゃん』
『まあ、一生分の歌を唄うには、丁度いい場所なんじゃねぇのか?』
『あ……ふふッ!』
『やれやれ……やっぱり何処までも防人で、何処までも王子様なんだな……。でもそれでこそ、俺の自慢の姉さんと、俺が知る中で最ッ高の親友だ!』
 五人は並んで笑い合うと、それぞれのパーソナルカラーを軌跡と描き、向かってくる月の欠片へと羽ばたいた。

「不思議だね……静かな宇宙(ソラ)──」
「本当の……剣になれた?」
「悪くない……時を貰った」
「夢、天に飛んでゆけ……」
「さあ、星へと変わろう──!」
 五人はそれぞれ手を繋いで円を作り、もう一度、更に羽ばたいた。

『それでも私は、翔や立花と……、もっと唄いたかった』
『──ごめん、なさい……』
『バーカッ!こういう時はそうじゃねぇだろッ!』
『……ありがとう、みんなッ!』
 笑い合う三人を見て、純が人差し指を立てる。

『ひとつ、悔いがあるとすれば……クリスちゃんの口の悪さ、もう少し直せるように出来なかったことかな~……』
『なッ!?しょ、しょうがねぇだろ!』
『純、お前本当に雪音の事大好きなんだな』
『翔だって、もう少し立花さんと二人で過ごしたかったんでしょ?』
『当たり前だろ?』
『もっ、もー!翔くんってば~』
 頬を赤らめるそれぞれの恋人を見て、翔と純はクスッと笑った。

『むぅ……。こうなるくらいなら、私ももう少し早く緒川さんに……』
『姉さん、緒川さんに伝え忘れた事あるでしょ?』
『なぁっ!?しまった、筒抜けか……ッ!』
『えっ!?翼さんの好きな人って緒川さんだったんですか!?』
『響、気付くのが遅いぞ……』
 こうして最期の歌を唄いながら、そしてたわいもない会話で笑い合いながら、五人は月の欠片へと近づいて行った。

『──開放ッ!全開ッ!行っちゃえ、ハートの全部でぇぇーーッ!』

 加速していく中で、五人の脳裏にはこれまでの出来事がモノクロに、まるで走馬灯のように駆け巡っていった。

『みんながみんな夢を叶えられないのは分かっている。だけど、夢を叶えるための未来は、みんなに等しくなきゃいけないんだッ!』

『誰かに笑われる事だってあるし、時には否定されるかもしれない。だけど、挑戦しない成功なんてない。躊躇わず、信じて突き進めば、きっとこの手に光はやって来るッ!』

『命は、尽きて終わりじゃない。尽きた命が、『遺したもの』を受け取り、次代に託していくことこそが、人の営み。だからこそ、剣が守る意味があるッ!』

『諦めないという事は、時に辛さを伴う。それを貫き続けるのはとても難しくて、困難極まりない道程だ。だから、時には逃げたっていい。でも、歩みだけは止めちゃいけない。逃げたとしても立ち止まらず、また次の場所を目指し翔くことこそが、『諦めない』という気持ちなんだッ!』

『たとえ声が枯れたって、この胸の歌だけは絶やさないッ!夜明けを告げる鐘の音奏で、鳴り響き渡れッ!』

「「「「「響け絆!願いと共に……ッ!」」」」」

 もう、目的地までは目の前となった所で、五人はそれぞれの手を離して加速する。
「──これがわたしたちの……」
「俺たち五人全力の……」

「「絶唱だあああああッ!」」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」」」

 翼が振るう極大の剣が。クリスが放つ無数のミサイルが。
 純が最速で投擲する盾が。翔がつがえた数多の光矢が。
 そして、響が繰り出す全力の拳が。
 その全てが月の欠片へとぶつけられ……やがて、地球目掛けて落下しようとしていた巨大な石礫は、粉々に粉砕された。

 地球の環境を一変させる未曾有の大災害は、五人の少年少女らの歌によって防がれたのだった……。





 ∮


 成層圏の外での、月の欠片が破壊された事による爆発の光景は、地上にまで届いていた。
 夜空を切り裂いて煌めく幾つもの光……大気の中で燃え尽きていく月の破片を見上げて、未来は大粒の涙を零しながら膝を着いた。

「あ、ああ……流れ星…………うッ……あ、ああッ、うわあああああああああああああッ!」
 今度は皆で流れ星を見よう。響と交わした約束を思い出して、未来は泣き崩れる。
「小日向さん……」
 未来の傍へと駆け寄る恭一郎だったが、なんと声をかければいいのか分からず、口を閉ざしてしまう。
 他の面々もそれは同じであり、ただ、その背中を見つめるばかりだ。

「……むッ!?──はぁッ!」
「ッ!?危ないッ!」
 了子を友里に任せ、弦十郎が駆け出す。
 燃え尽きずにこちらへと落下してくる月の欠片が迫って来ていたのだ。
 弦十郎は跳躍すると、その破片を拳ひとつで粉微塵に粉砕し、未来と恭一郎の隣へと着地した。
 恭一郎は弦十郎が飛び出した際に月の欠片に気が付き、未来を庇う姿勢で立っていたが、拳ひとつで小型の隕石も等しい岩塊を粉砕した弦十郎に驚き、ポカンと口を開けている。

「く……ッ!?」
「風鳴司令ッ!無理をすれば傷が──ッ!」
「──五人が命を賭して守った物を、これ以上、傷つけさせるわけにはいくまい……」
「──そうですね」
 司令と共に、緒川も前に出る。
 この場で最も強い弦十郎と、それに並ぶ緒川が並び立ち、迫る月の破片から残された者達を守る為に身構えた。

「司令ッ!また欠片が──ッ!」
 新たに落下して来た影に、藤尭が叫ぶ。
「──任せておけッ!……いや、違う、あれは──ッ!」
 最初は点だったその影は、地上へと迫るにつれてその輪郭を確かにしていく。
 握っていた拳を下ろし、空を見上げる弦十郎と緒川。

「あ……ねぇ、アレって……ッ!」
「ええ、ええ……ッ!アレはきっと、ナイスなものですッ!」
「オイオイ、マジかよ……なんてこったッ!」
「星と共に来たる、か……まったく、何処まで先を行くんだ……ッ!」
「まさかここまでやるなんて……。常識が吹っ飛んでいる……ッ!」
 弓美、詩織、紅介、飛鳥、流星もまた、空を見上げて驚いていた。

「夢じゃないんだね……!?これは、現実なんだね……ッ!小日向さん、空をッ!」
「ヒナ……ヒナッ!上を向いてッ!ほら、ヒナッ!」
「いやッ!わたし1人でこんな流れ星なんか見たく──」
 恭一郎と創世に促されるも、悲しみのあまり顔を上げようとしない未来。

 しかし次の瞬間、地面へと何かが降り立った足音と共に、光が弾けるのが見えた。
 顔を上げる未来。その目に飛び込んで来たのは……。

「よッ……っと、おっとと……」
「っと……大丈夫か?」
「……え?あ……あああ…………ッ!」
 大気圏外から無事に生還してきた、五人の装者だった。

「え、えへへ……よく分からないけど、無事だったみた──」
「響ぃッ!」
 次の瞬間、未来は響の元へと駆け出し、思いっ切り飛び付いた。……隣の翔も一緒に引き込んで。
「──わああああッ!?いたた……もう、未来ったら……」
「──のわあああッ!?こ、小日向……加減はしてくれ……」
「ご、ごめん……嬉しくて、つい……」
 未来に飛び付かれて転けた二人は、顔を見合わせて笑った。
「……ただいま、未来」
「言ったろ……必ず戻るって」
「うう……おかえり……おかえりなさッ……うッ、うううぅッ!」
 二人の間で、こぼれ落ちる涙の意味が変わっていく。
 響はそんな未来をしっかりと抱き返し、翔はそっとその頭を撫で続けるのだった。

「いいのか、キョーちゃんよぉ」
「空気を読んでいるのさ。今は黙っているべき時なんだよ、常にうるさい君と違ってね」
「おうテメェもっぺん言ってみやがれ!」
「紅介、落ち着くんだ!」
「流れ星……いや、月の欠片だから……流れ月?」
 おちょくるように肩にもたれかかる紅介に、恭一郎は溜息を吐きながらクールに返す。
 喧嘩腰になった紅介と恭一郎の間に割って入る兄を他所に、流星はそんな事をぽつり、と呟くのであった。

「……司令」
「カッコつけておいて、悪いんだけどよ……えっと……。……って、言葉に困るなこりゃ」
「何て言ったらいいのか……。あ、RN式は見ての通り、限界を超えた稼動の影響で……その……」
 翼とクリスは言葉に困りながら、純は煙を上げてパージされ、地面へと転がったプロテクターを見ながら申し訳なさそうにそう言った。
「翼、クリスくん、純くん……今は、何も言うな。奇跡を語るのに言葉などは無粋だッ!」
 とても嬉しそうに、そして安堵したように微笑みながら、弦十郎はそう言った。
「ふ、へへ」
「ははっ、それもそうですね」
「フフ」
「翼さん……」

 弦十郎に釣られて笑う三人。そこへ、緒川も歩み寄る。
「……緒川さん。ご心配をおかけしました」
「今回ばかりは、僕もヒヤヒヤしましたよ」
 いつもと変わらぬ微笑みを、少しだけ曇らせながら緒川はそう言った。
「……緒川さん……」
 大気圏の向こう側で死を覚悟した際、緒川に伝えておけばと後悔した言葉。
 伝えるならば、今ではないのか?
 そんな想いに突き動かされながらも、翼は言葉に詰まる。
「……おかえりなさい、翼さん」
「ッ……!」
 先に言葉を発したのは、緒川の方だった。
 翼は先を越され、喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
「……た……ただいま……戻り、ました……」
 今の翼では、そう返すまでで精一杯であった。
 戦場では護国の剣として強く在る彼女も、恋愛となると初心にして奥手。本命に王手をかけるには、まだまだ遠いのであった。

「……ねえ、未来。ほら、見てよ。空ッ!」
 未来が泣き止み、響と翔は未来と共に立ち上がる。
 すると響は、空を指さしながらそう叫んだ。
「え、空……?」
「うんッ!これも流れ星、だよね?前に約束したでしょ?やーっと、皆で一緒に見れたッ!」
 満面の笑みで見つめてくる響。未来の顔からも、自然と笑みが零れていた。
「あ……。……うん。うん……ッ!響と、翔くんと……それから、皆で見る流れ星……凄く綺麗だよ……ッ!」
「ああ……そうだな……。とても綺麗な流れ星だ……。俺達が、この世界を守った証だ!」
 三人は一緒に空を見上げる。約束の流星雨は、その後も尽きること無く降り注ぐ。おそらく、今夜はもう暫く降り続ける事だろう。

 響は翔と未来の手を取って、三人で星空に願いを込める。
 また、三人の姿を見ていた純も、恥ずかしげに頬を染めるクリスに微笑みかけながら、その手を握って空を見上げた。
 翼と緒川も夜空を見上げ、降り注ぐ星雨を見つめる。
 こっそりと、緒川の小指へと手を伸ばす翼。すると突然、緒川の手が翼の手の甲をそっと包み込む。
 一方的に繋がれた手。翼は肩を跳ね上がらせて緒川の方を見る。緒川は翼の方を振り向くと、悪戯めいた目付きで微笑んだ。
 緒川の滅多に見ない表情に、翼は耳まで真っ赤になって硬直した。

 こうして世界を守る為、血を流し、涙を流して、歌いながら戦い抜いた者達を、星灯りと砕けた月が照らす。
 彼ら、彼女らの歩むこの先もきっと、多くの苦難や困難が立ち塞がるだろう。
 それでも、彼女達は俯かない。諦めない。
 何故ならこの世界には、歌があるのだから──。 
 

 
後書き
……って事で、本日を以て『戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~』は完結です!ここまで応援、ありがとうございました!

ええ、はい。最終回ですよ……無印編は。
次は『戦姫絶唱シンフォギアG』の物語へと突入します!
しかし、XDのG編シナリオはまだクリアしてないので、暫く小休止期間を設けさせて頂きます!

小休止期間とはいえ、書かないという訳ではありません。
G編までの間を描く短編を、何本か投稿させていただきます!
当サイトでの復活から初めての新作投稿は、天道撃槍コラボの第2話になる事を事前に告知しておきますね!

それから、無印編完結というわけで、普段感想を書かない皆様もこの機会に、今作の総評など書いてくださればなと思います。
感想、評価、推薦待ってます!それではまた、短編で会いましょう!

更新が常に気になる方は、毎回更新する度にツイートしてるので、Twitterの方をフォローしておく事をオススメします。
多分、Twitter開いてこのSSのタイトルで検索かけたら出ますよ。

最後に、この後の展開に繋がるアンケートへの参加を、よろしくお願いします!
https://www.akatsuki-novels.com/manage/surveies/view/774 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧