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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第4楽章~小波の王子と雪の音の歌姫~
  第38節「撃ちてし止まむ運命のもとに」

 
前書き
遂に皆さんお待ちかね!赤き鎧に深紅の魔弓、皆大好ききねクリ先輩いつものスタイルが戻って来たぞ!
昼間の特別編を読んでから読むと、きっと色々と想像が膨らむかと思います。
では、『私ト云ウ音響キ、ソノ先ニ』『魔弓・イチイバル』、そして『絶刀・天羽々斬』でヤーヤーヤーヤー出来るようにスタンバった上でご覧下さい! 

 
 翔と、小日向さんの友達が向かった方向から爆発音と共に煙が上がる。
「響……」
 その一点を見つめ、小日向さんは心配そうにその友達の名前を呟いた。
 かく言う僕も、彼女の前だからこそ落ち着いているものの、さっき目の前で見たものに対して疑問を抱き続けている。
 歌とともに翔達2人が変身して、なんだかアニメチックな強化スーツっぽいものを身にまとって、超人的な身体能力で僕達を救った。
 あれは一体……。

 そんな僕の疑問は、次の瞬間どこかへと吹き飛ばされる事になった。

「──Killter(キリター) Ichaival(イチイヴァル) tron(トロン)──」

 風に乗ってこの耳に聞こえてきた声が、僕の記憶を呼び覚ます。
 この声は……僕は、この歌声を知っている。
 人間が他人を忘れる時はまず、その声から忘れていくと言うけれど……これはただの声じゃない、歌声だ!
 例え忘れてしまっていても、一度聞けば鮮明に思い出せるあの歌声だ!
 でもどうして彼女の歌が……。確かめなくてはならない。
 いや、間違いなく彼女はすぐそこにいる!だったら僕は──。
「爽々波くん!何処へ!?」
「行かなきゃ……。あの子の声が聞こえる!!」
「ま、待ってよ爽々波くん!危ないよ!」
 小日向さんの静止を無視して、僕は森の中へと駆け出した。
 そこにいるんだね?もうすぐ、逢えるんだね!?
 待ってて、直ぐに追いつくから……クリスちゃん……!!

 ∮

 響の拳に吹き飛ばされた鎧の少女は、公園内の道を抉って作られたクレーターの真ん中から起き上がる。
(くッ、なんて無理筋な力の使い方をしやがる……。この力、あの女の絶唱に匹敵しかねない──ぐうっ!?)
 先程の一撃で砕け、穴が空いた鎧が再生を始め、鎧が少女の体組織に侵食し始める。穴が塞がろうとするほど、ビキビキという音と共に鎧が身体に食い込んでいく。
(食い破られる前に、カタを付けなければ……ん?)
「その場しのぎの笑顔で、傍観してるより──」
 目の前にいる響はただ、歌い続けているだけだった。
 追撃しようと思えば、いつでも出来るはずだ。それなのに彼女は、それをしてこない。
 彼女ばかりか、先程乱入してきた翔までもが追撃ではなく、アームドギアによる伴奏の方を優先し、こちらの様子を伺っている。
 それが少女には、どうしても腹立たしくなった。
「お前ら、馬鹿にしているのか?あたしを……“雪音クリス”を!!」
「……そっか、クリスちゃんって言うんだ」
「なっ!?」
 怒りをぶつけた自分に対し、穏やかな笑顔で返す響に驚くクリス。
 そんなクリスに、響は呼びかける。
「ねえ、クリスちゃん?こんな戦い、もうやめようよ!ノイズと違ってわたしたちは言葉を交わすことができる!ちゃんと話し合えば、きっと分かり合えるはず!だってわたし達、同じ人間だよ?」
「そもそも、俺達が戦う必要性など元々ない筈だ。やましい目的でなければ、直に話し合えば済むことだったはず。それをせず、ここまでして力づくで誘拐しようとするのは何故だ?話してみろ。もしかしたら、俺達なら君の力になれるかもしれないぞ?」
 翔も加わり、説得を試みる。しかし、クリスは……。
「……お前、くせぇんだよ!嘘くせぇ……ッ!青くせぇ……ッ!」
 怒りと共に握った拳を響にぶつけ、蹴り飛ばす。
 響は後方へと吹っ飛び、植えられている木をへし折って転がる。
「立花ッ!」
「テメェもだ!うらあああッ!!」
 続いて翔へと狙いを定めたクリスは、両腕のふさがっている翔へと向けて飛び蹴りを放つ。
 しかし、その飛び蹴りは少ない動作で避けられ、着地したクリスは更にに2、3撃連続で蹴りを繰り出す。
 しかしそれを少ない動きで回避した翔は、響の分のお返しだと言わんばかりに、続くクリスの殴打を躱すと同時にカウンターの一蹴りを見舞う。
 練習用に何度も見返した特撮と違い、後ろを向きながら……ではなかったが、綺麗なカウンターキックがクリスに命中する。
「うっ!?うう……ぐあああーーーッ!」
 真横へと吹っ飛ばされたクリスは立ち上がろうとして、鎧の侵食に悲鳴をあげた。
「どうしたの、クリスちゃんッ!」
「……まさか、ネフシュタンの鎧の──」
 ネフシュタンの鎧の再生能力がもたらす危険に気が付き、2人の顔色が変わる。
 しかし敵に心配されるなど、クリス自身のプライドが許さなかった。

「ぶっ飛べよ!アーマーパージだぁッ!!」
 その一言で、ネフシュタンの鎧が弾け飛ぶ。飛び散った鎧の破片が四方八方に飛び散り、土煙を上げる。
「うわ──ッ!?」
「くっ……!ん、なっ──!?」
 次の瞬間、2人の耳に聞こえてきたのは、ここ1ヶ月で聞きなれたあの歌だった。

「──Killter(キリター) Ichaival(イチイヴァル) tron(トロン)──」

「この歌って……」
「聖詠……まさか!?」
「見せてやる、『イチイバル』の力だッ!」

 ∮

「イチイバル、だとぉ!?」
 弦十郎が驚きの声を上げた直後、ディスプレイには『Ichai-Val』の文字が表示された。
「アウフヴァッヘン波形、検知!」
「過去のデータとも照合完了!間違いありません、コード・イチイバルです!」
 藤尭、友里によるデータ照合により、その事実に間違いはないことが確定する。
「失われた第2号聖遺物までもが、敵に渡っていたというのか……」
 ノイズ襲撃の際、どさくさに紛れ強奪されたネフシュタンの鎧に加えて、行方知れずとなっていたイチイバル。更には狙われたデュランダルに、二課の情報を握られているという事実。
 内通者はかなり前からこの中に紛れ込んでいる。弦十郎は、現在ここにいないある人物に、疑いを向け始めていた。
 長い付き合いで、互いに大きな信頼を寄せている筈の人物。二課で最も重要な役職に就いている、あの人物へ……。

 ∮

「その姿、わたし達と同じ……」
 煙を吹き飛ばし、再び目の前に現れたクリスの姿は、ネフシュタンの鎧ではなく、新たなるシンフォギアを身に纏っていた。
 両肩と上乳を露出した大胆なデザイン。赤と黒を基調とし、差し色に一部白が入ったカラーリング。
 腰の後ろから広がる真っ赤なスカートパーツに加え、頭部を覆うメットパーツや両足首部分のパーツは何処と無く、赤いリボンを思わせる。
「……唄わせたな。あたしに歌を唄わせたな!」
「え……」
「教えてやる……あたしは、歌が大っ嫌いだ!!」
「歌が嫌い……?」
「ッ!?立花、避けろ!イチイバルの特性は……!」

 翔が叫ぶ瞬間、クリスの両腕を覆う装甲がスライドし変形。
 クロスボウの形状を取り、彼女の手に握られる。
「傷ごとエグれば、忘れられるってコトだろ?イイ子ちゃんな正義なんて、剥がしてやろうか!!」
 5発連続で発射された矢は、地面に弾着して爆発する。
 響と翔はとにかく走り、迫り来る矢を掻い潜る。
「遠距離超火力!それがイチイバルの特性だ!」
「ええっ!?って事はつまり……」
「離れた所から派手にドンパチ!いつでもどこでも、花火大会し放題って事だ!」
 近接戦闘特化型の響と、オールマイティだが弓の大きさからイチイバルに比べて連射性に劣る翔。
 二人共、派手に弾幕を張られると弱いタイプである為、この状況は圧倒的に不利。一気に形勢が逆転していた。
 クリスは跳躍し、曲芸師さながらの空中回転で着地すると、クロスボウ型のアームドギアを3つの銃口が三角形に並んだバレルが二連装、左右合計4門のガトリング型へと変形させ、構える。
「──逃がすかッ!揃って仲良く蜂の巣になりなッ!」

〈BILLION MAIDEN〉

「うわああああああああッ!?」
「立花ッ!!おおおおおおおおおおおお!!」
 容赦なく叩きつけられる銃弾の嵐に、翔は再びアームドギア・生弓矢を高速回転させて銃弾を弾き返す。
 しかし、それも長く持つわけではない。攻めの一手を見つけなければジリ貧だ。
 クリスはトドメを刺すべく、スカートパーツを展開させる。
 スカートパーツの中に収納されていたのは、大量のミサイルだった。
「さあ、お前らの全部……全部、全部ッ!全部全部ッ!否定してやる!そう、否定してやる!!」

〈MEGA DETH PARTY〉

「くッ!?不味い、こいつは防ぎきれない……ッ!」
「駄目、翔くん!!」
 二人に降り注ぐミサイルの雨、鉄矢の暴風。
 地形を変えてしまうほどの銃弾とミサイルを撃ち続け、爆煙が周囲を包んで覆う。
 息を切らしながら、先程までターゲットだった者達が立っていた場所を睨むクリス。
「はあ、はあ、はあ……ッ!どうだ……!これだけの弾丸を叩き込めば……ッ!!」
 煙が晴れた瞬間、クリスの目に飛び込んできたのは、2人を守るようにそびえる、青いラインの入った銀色の壁だった。
「盾……?」
「剣だッ!」
 見上げると、それは〈天ノ逆鱗〉を防御に応用し、剣の上に悠然と立つ蒼き剣姫……風鳴翼が立っていた。

「ふんッ、死に体でおねんねと聞いていたが、足手まといを庇いに来たか?」
「もう何も、失うものかと決めたのだ!大事な弟も、可愛い後輩も、2人まとめて私が守る!!」
 翼は剣の上から、クリスを見下ろしながらそう宣言する。
『翼、無理はするな……』
「はい……」
 弦十郎の自身を慮る声に、翼は静かに答える。
「姉さん……!?」
「翼さん……?」
 剣の後ろから見上げる2人を見ながら、翼は言った。
「気付いたか、二人共。だが私も十全ではない……力を貸してほしい」
「当たり前だろ、姉さん!」
「はい!勿論です!」
 ここに来て翼が加わり、更に戦況が逆転する。
 範囲攻撃である〈千ノ落涙〉や、動きを封じる〈影縫い〉、中距離牽制攻撃の〈蒼ノ一閃〉などといった離れた距離の相手にも届く攻撃手段を持ち、更に実力は2人よりも高い世界最初のシンフォギア装者。
 間合いを詰められれば、クリスの勝機は一気に傾いてしまう。

 その上で、翼はクリスを倒すのではなく、無力化するつもりでここに立っていた。
 響はクリスとも分かり合いたいと願っており、自分もネフシュタンの鎧やイチイバルの事について問い質さなくてはならない。
 無論、翔は響を支える事と同時に、自分と同じ事を考えているだろうという事も、姉である彼女には理解出来ている。
 やがてクリスが次の一手に出ようと銃口を向け、引き金を引く直前だった。

「もうやめるんだ!クリスちゃん!!」

 戦場に突如響き渡る、5人目の声。
 声の方向を一堂が振り向く中、翔と……そして、クリスが驚愕の表情を浮かべた。
「ッ!?お、お前……」
「純っ!?何でお前がここに──」
「ジュンくん……!?」
「「「ッ!?」」」
 クリスの一言に翔、響、翼は揃って息を飲んだ。
 戦場の只中で、まさかの再会を果たす2人。8年と数ヶ月の時を超えて、クリスが叫んだ憎しみの歌が、皮肉にも彼女の運命を引き寄せる事になったのである。 
 

 
後書き
いやー、ようやく純クリのターンです。
クリスちゃん推しの全読者様、お待たせしました!
ここからは、クリスちゃんにも手を伸ばすための布石が敷かれて行きますので、ご期待ください!

ところでクリスちゃんのアームドギアが銃なの、真相意識で幼少期の象徴としてトラウマになってるからだったよね確か。
って事はつまり、シンフォギア本体にリボンの意匠が見受けられたり、大胆に肩とか胸とか露出してるのって、少なくとも伴装者世界だと"約束"が深く影響しているんじゃないだろうか……?
つまりイチイバルのシンフォギアそのものが、クリスちゃんの花嫁衣裳と言っても過言ではないのでは!?(お前本当のバカ←)

翼「なあ、翔。1つ言ってもいいか?」
翔「なんだい、姉さん?」
翼「お前、前回私のセリフを盗んだな?」
翔「えっ!あ、あれは別に姉さんのセリフをパクッたとかじゃなくて、お約束というかなんと言うか……」
翼「その上、3期で私が言うセリフのオマージュまでやっているだと!?」
翔「狙ったわけじゃないんだ……ただ、口を付いて出ていただけなんだ……」
翼「まあ、それは良しとしよう。私達は姉弟だからな、似たようなボキャブラリーをしているのだろう」
翔「姉弟だからね、是非もないよ」
翼「だが、そろそろ私とのデュエットがあってもいいのではないか?」
翔「あ~!そういや姉弟デュエットやった事ないよね」
翼「これは作者に頼んで、一度はやってもらうべきなのでは?」
翔「うーん、今後の展開的にその機会あるかなぁ?」
翼「お前は基本的に立花に付きっきりだからな。私と組んで出撃する機会さえあれば……。いっそ立花と3人で、というのはどうか?」
翔「いいと思うけど、ユニゾンが目立ち始めるのはもっと後からだからね!もうちょっと我慢しよう!」
翼「そうか……(´・ω・`)」(どうしても弟とデュエットしたいブラコンSAKIMORI)
翔「……皆でカラオケ行く?」
翼「ああ、その手があったか!」
翔「それじゃ、早速予約しよう!」
翼「ああ!私とお前、それから立花。姉弟水入らずで歌い明かそうじゃないか!」
翔「……ね、姉さん?そ、その……どうして姉妹に立花も姉弟に数えてるんだ……?」
翼「ん?いちいち説明する必要があるのか?」(ニヤニヤ)
翔「~~~ッ!?この剣、可愛くないッ!!」

次回は……、
戦場(いくさば)で巡り会う王子と姫君。
終わりの魔女がかけた呪いは、2人を夜に惑わせる。
次回、『迷子(まよいご)』!
お前はその手に、何を握る?

やたらいい声で喋る銀色の指輪が見えたって?はて、そんな聖遺物知りませんが……(すっとぼけ) 
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