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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第4楽章~小波の王子と雪の音の歌姫~
  第33節「密かな不安」

 
前書き
「戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~」、前回までの3つの出来事!
1つ!響が自分の内に芽生えた、翔への恋心を自覚。
2つ!度重なる失敗から、フィーネに見捨てられたくないクリスが焦りを見せる。
3つ!弦十郎の言葉から、響は迷い続ける事で答えを見つける事を心に決めた。

COUNTDOWN TO LOVELY HEART!
響の想いが翔に伝わるまでの時間は……? 

 
「ただいま~。はあ~、お腹へったよ~」
 寮の玄関を開け、響はふらふらしながら部屋へと戻って来た。
「もう、帰ってくるなりなに?」
「いや~、朝から修行するとやっぱりお腹空いちゃってさ~」
 響を出迎えた未来は、腹の虫を鳴かせる親友の様子に微笑みながら提案した。
「しょうがないなぁ。だったら、これからふらわーに行かない?わたしも朝から何も食べてないから、お腹ぺこぺこなんだ」
「ふらわーっ!行く行くっ!未来もお腹空いてるなら、すぐに行こっ!」
「ふふ、待って。すぐに出かける準備するから」
 そう言うと、未来は自分の机に置いてある財布や部屋の鍵を取りに行く。
 響は、口角からヨダレを垂らしそうになりながら、ふらわーの美味しいお好み焼きを思い浮かべる。
「はあ~、ふらわーのお好み焼き~。想像しただけでお腹が鳴っちゃうよ~……」
 
 その時、響のケータイに着信が入った。
「って、あれ、電話だ……誰だろう?……って、翔くん!?」
 翔からの突然の電話に、慌ててケータイを落としそうになる響。
(翔くんからの初めての電話ッ!何の用だろう?待って待って、落ち着いて!深呼吸、深呼吸……!)
 深く息を吸い込み、吐き出して、高まる動機を胸から感じながら電話に出る。
「も、もしもし……?」
『おはよう、立花。今、時間は空いているか?』
「え?どっ、どうしたの急に?」
『姉さんの病室までお見舞いに行くんだけど、一緒に来てくれないか?』
 翔からの電話。それは、入院している翼のお見舞いへの誘いだった。
 弟である自分だけでなく、あの時守った後輩の元気な顔も見せることで、翼を安心させておきたい……。それが翔の狙いだった。
『本当は緒川さんにも来てもらいたかったけど、今はちょうど任務中でさ』
「へ~……緒川さんって、どんな仕事してるんだっけ?」
『調査部のリーダー、かな。拳銃片手にヤクザとか、反社会性力を相手にしては、悪い奴らの悪事の証拠を集めてくるのが役目なんだ』
「おお!?緒川さんのお仕事、映画みたいでかっこいい……」
 改めて緒川の仕事内容を聞き、感心してしまう響。
 その様子を思い浮かべたのか、翔は微笑む。
 
『それで、どうする?』
「もちろん行く!翼さんを元気づけてあげたいもん。その前に、お昼食べてからでもいい?これから未来とふらわーでお好み焼き食べてくるんだっ!」
『小日向とか……。それは大事だな。俺も昼飯を済ませてから合流しよう。2時に病院へ集合だ』
「わかった。また後でね」
 そう言って通話を切ると、響はスマホをポケットに仕舞う。
「……ふー、ドキドキした~……」
「響、どうしたの?」
 振り返ると、既に支度を終えた未来が立っていた。
「ううん、何でもない。ただ、ふらわー寄った後に用事が出来ただけ」
「そう……。なら、いいんだけど……」
「それより早く行こうよ~。すっかりお腹ペコペコだよ~」
「……うん。行こう!おばちゃんのお好み焼き、楽しみだね」
 そう言って2人は部屋を出る。おばちゃんが焼いてくれる、世界一のお好み焼きを食べるために。
 ……しかし、響は気が付かない。親友の表情が、すこし不安を滲ませていた事に。
 
 ∮
 
 二課の司令室に、いつもと違った黒い礼服の弦十郎が入室する。
 ソファーに腰掛け、ネクタイを緩める弦十郎に了子が話しかけた。
「亡くなった広木防衛大臣の繰り上げ法要でしたもんね……」
「ああ。ぶつかる事もあったが、それも俺達を庇ってくれての事だ。心強い後ろ盾を、喪ってしまったな……。こちらの状況はどうなっている?」
 弦十郎は顔を上げると、了子に基地の防衛システム強化の進行具合を尋ねる。
「予定よりプラス17パーセント~♪」
「デュランダル輸送計画が頓挫して、正直安心しましたよ」
「そのついでに防衛システム、本部の強度アップまで行う事になるとは」
 いつもの軽いノリで答える了子。何処かホッとした顔をする藤尭。
 そして、防衛システム強化の進行をチェックしていた友里が振り返る。
「ここは設計段階から、限定解除でグレードアップしやすいように折り込んでいたの。随分昔から政府に提出してあったのよ?」
「でも確か、当たりの厳しい議員連に反対されていたと……」
「その反対派筆頭が、広木防衛大臣だった」
 友里の疑問に答えながら、弦十郎はカップに珈琲を注いだ。
「非公開の存在に血税の大量投入や、無制限の超法規措置は許されないってな……」
 
 溜息を一つ吐き、珈琲を一口飲んで弦十郎は続ける。
「大臣が反対していたのは、俺達に法令を遵守させることで、余計な横槍が入ってこないよう取り計らってくれていたからだ……」
「司令、広木防衛大臣の後任は?」
「副大臣がスライドだ。今回の本部改造計画を後押ししてくれた、立役者でもあるんだが……」
 歯切れの悪い言葉に、友里も藤尭も首を傾げる。
「強調路線を強く唱える、親米派の防衛大臣誕生……つまりは、日本の国防政策に対し、米国政府の意向が通りやすくなったわけだ」
「まさか、防衛大臣暗殺の件にも米国政府が……?」
 その時、基地の火災探知機のアラームが鳴り響く。
 モニターに映し出された映像を見ると、どうやら改造工事中のブロックの1つで、機材が出火してしまったらしい。
「た~いへん!トラブル発生みたい。ちょ~っと見てきますわね」
「ああ」
 そう言って了子は、飲みかけの珈琲が入った紙コップを置いて、火災が発生したブロックへと向かって行った。
 
 ∮
 
 ……最近、響を遠く感じてしまう。
 私の追いつけないどこか遠く……遥か遠くまで行ってしまっている。そんな気がしてしまうのは何故だろう?
 ここ1ヵ月近くの響は、放課後になる度に何処かへ行っちゃうし、今朝も早くから修行とか言ってお昼まで戻らなかった。放課後、後をつけたら公園で筋トレしていたのを見た時は本当に驚いた。一体、何をしているんだろう……。
 
 ……風鳴翔。中学生の頃に同じクラスだった男子生徒。リディアンの3年生で、トップアーティストとして有名な翼さんの弟。
 そして、響が苦しんでいるのを知っていながら、手を差し伸べてくれなかった卑怯な人……偽善者。
 ……ううん。本当は優しい人なんだって、頭の中では分かってる。そうじゃなきゃ、響があんな顔する筈ないもん。
 昼間、電話に出た時の響の顔は……今まで見たことがない表情だった。
 嬉しそうで、恥ずかしそうで……それでいて、とても楽しそうだった響の顔。
 あの顔を見る限り、きっと響は──。
「……そういえば、この向かいの病院。翼さんが入院してるんだっけ?」
 何気なく、本棚から窓の方へと視線を移す。
 
 窓の向こう側、病室の窓の奥に見えた光景に、わたしは図書室を飛び出した。
(どうして、響が翼さんと一緒に……!?それに、一緒に居た青い髪の男の子は……!!)
 見てはいけないものを見てしまったような気分になり、逃げるように走る。
 行き先なんて分からない。ただ、ひたすら走り続けた。
 わたし、どうしたらいいの……?
 分からないよ……響……。
 
 ∮
 
 数分前、翼の病室にて。
 
「最初にこの部屋を見た時、わたし、翼さんが誘拐されちゃったんじゃないかって心配したんですよ!二課の皆が、どこかの国が陰謀を巡らせているかもしれないって言ってたし、翼さんは今、病み上がりですし!」
「も、もうその話はやめて!片付けもしなくていいから……私は、その、こういう所に気が回らなくて……」
 驚く響、恥ずかしそうに顔を赤らめる翼。そして、翔は病室の有様に呆れていた。
 病室内は、まるで強盗に荒らされたかのように散らかり放題になっている。
 本や資料、新聞や週刊誌が床一面に散らばり、薬瓶や珈琲入りのカップはひっくり返っており、丸められたティッシュはゴミ箱に入っておらず、花瓶の花は枯れたまま。
 おまけに、衣服どころか下着まで部屋中に散乱しているという始末だった。
「姉さん、緒川さんがいないとすぐにこれだよね……。立花、覚えておくといい。これが姉さんの数少ない欠点のひとつ、『片付けられない女』だから」
「も、もう!翔まで私を弄る事ないでしょう!」
「まったく……緒川さんから頼まれてるんだ。姉さんの部屋、片付けさせてもらうぞ」
 
 数分後、俺と立花の手により、姉さんの病室は綺麗に片付けられた。
「それにしても、意外でした。翼さんはなんでも完璧にこなすイメージがありましたから」
 畳んだ服と下着を仕舞いながら、立花が呟いた。
「……ふ、真実は逆ね。私は戦う事しか知らないのよ」
「え、何か言いました?」
 立花が聞き逃した姉さんの独り言を、俺は聞き逃さなかった。
 ……忌み子として嫌われ、剣として己を鍛える事だけに精進してきた姉さん。でも、それだけじゃない事を俺は知っている。自覚してないだけで、姉さんは結構可愛いんだ。
 確かに女の子として至らない部分はそこそこある。だから俺は、立花との交流が姉さんを変えていく事を望んでいたりするのだ。
 
「おしまいです!」
「すまないわね……。いつもなら、緒川さんがやってくれるんだけど」
 姉さんの言葉に立花が改めて驚く。
「ふええぇ!?親戚以外の男の人に、ですか?」
「…………ッ!?たっ、確かに考えてみれば色々問題ありそうだけど……」
 一瞬、姉さんの頬が赤く染まったのを俺は見逃さなかった。クソッ、スマホ取り出すの間に合わなかったのが惜しい……。
「姉さん、いつまでも片付けられないと、いつか緒川さんとスキャンダルになっても知らないぞ?」
「えっ!?翼さんと緒川さんって本当にただのアイドルとマネージャーなんですか!?」
 揶揄うつもりで言った言葉に、立花が意外そうな顔で便乗したもんだからたまらない。
 姉さんは耳まで真っ赤になって反論する。
「わっ、わわ、わたしと緒川さんは別にそんな関係ではないぞ!?たた、確かに私が小さい頃からいつも一緒に居てくれたが、それは護衛としての仕事だったからであって別にいいい、異性として意識した事などこれっぽっちも!」
「小さい頃、確か当時高校生くらいの緒川さんにプロポーズした件は今でも忘れてないぞ~」
「子供の頃の話はやめてぇぇぇぇぇ!!あの時は小さかったからよ!そんな頃の話を持ち出さないでよ翔!!」
 あまりの狼狽え様に、俺も立花も声を上げて笑ってしまった。
 ああ、やっぱり俺の姉さんは可愛い。緒川さん、やっぱりあなた以外に姉さんと釣り合う男なんていないと思います。
 なので早く姉さんを嫁に貰ってください。俺が安心します。
 
 ──ふと、窓の外から視線を感じる。
 振り向くと、向かいにそびえるリディアンの校舎。その図書室の窓の奥に、走り去っていく黒髪の少女の姿を見た。
 あの髪型に白いリボン……まさか……!?
「悪い姉さん、直ぐに戻る!あとそのゼリー、早めに食べるんだぞ!」
「ちょっ、ちょっと翔!?」
「翔くん何処に!?」
 ゼリーの袋を花瓶の隣に置き、俺は病室を飛び出した。
 階段使って降りれば間に合う!何とかして、あの子に追いつかなくては! 
 

 
後書き
ふらわーでお好み焼きを食べる約束そのものは果たしました。しかし……?

翔「小さい頃から姉さん、緒川さんに懐いてたよな~。雷が怖くてくっついてたり、ホラー物見た夜はオバケが怖くて一緒に寝てもらったり……」
翼「それ以上言うなぁぁぁ!」
翔「公園で遊び疲れて眠っちゃって、緒川さんにおぶってもらって帰った日もあったなぁ。そういや、以前差し入れ持って行ったら、ライブの衣装合わせ中だったんだけど、ヒールが合わなくて転けた所を緒川さんに受け止められたり……他にもまだまだ色々あるよ?」
翼「やめてぇぇぇぇぇ!」
響「へ~、緒川さんってまるで翼さんの……」
翼「くっ!そこまで言うなら翔の方だって、昔は『お姉ちゃん大好き~(モノマネ)』って頻繁に言ってたじゃない!」
翔「だって事実だし。俺は今でも姉さんの事が大好きだぞ?」
翼「なっ……!?こっ、この弟、かわいく……いや、かわい……うう……」
響「翔くんに臆面なく大好きって言ってもらえる翼さん……羨ましいなぁ……」(ゴニョゴニョ)
翼「立花、何か言ったか?」
響「ああいえ、何でもないです!何でも!」

次回は翔くん、遂に393とのエンカウント!そして翼さんから響に送られる言葉とは!? 
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