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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第4楽章~小波の王子と雪の音の歌姫~
  第34節「衝突する好意」

 
前書き
これ書いてたのはグレ響狙いで回したGoGoガチャからヴァンパイアハンター響が出た頃ですね。
今ではグレ響入手済みなのですが、力グレ響も欲しいッ!
あとグレ響の前日譚メモリアも欲しいッ!

さて、いよいよ修羅場です。
覚悟の準備が出来ている人だけお進み下さい! 

 
 階段を一気に駆け下りる。万一人が飛び出してきてもぶつからないよう、下の階を確認してから降りつつも、スピードはなるべく早めに。
 そうして1階まで一気に駆け下りた俺は、病院の外に出た瞬間、リディアンの方へと向けて走り出す。
 小日向は元陸上部。立花の走る速度より上だと見積もった上で、俺が病院を出るまでの時間と小日向があの場を飛び出した時間から……まだ走れば追いつくはずだ!
 病院の敷地から出ると、リディアンの校門を飛び出して行く小日向の姿があった。
「小日向!」
 その後ろ姿を追いかける。だが……流石は元陸上部。その脚は健在か!
 しかし俺も、叔父さんと緒川さんに鍛えられ、シンフォギア装者としてこの街を守る身。一般人に負けるほど、ヤワな鍛え方はしていないッ!
 思いっきりペースを上げて走ると、距離はあっという間に詰められて行った。
 すぐ後ろにピッタリと付いた辺りで、目の前を走る相手の名前を呼んだ。
「小日向!」
「……!」
 小日向はようやく足を止めると、驚いたような顔で俺の方を振り返った。
「風鳴くん……」
「小日向……久し振り、だな……」
 立花に再会し、同じ時を共に過ごすようになってからずっと、いずれ会わなくてはならない人物だと覚悟していた、立花の親友。
 立花の1番の理解者である、小日向未来……。今、ようやくその彼女と会うことが叶った。
 さて、どうなるか……。平穏に話し合えるといいんだけど……。
 
 ∮
 
「翔くん、どうしたんだろ……?」
「でも、ようやく2人きりになれたわね」
「えっ?」
 翼からの一言に、響は驚く。
 翼は響の方を見ながら、彼女に語りかける。
「……今はこんな状態だけど、報告書は読ませてもらっているわ。翔と2人で力を合わせて、あなたが私の抜けた穴をよく埋めてくれているという事もね」
「そそっ、そんな事全然ありません!いつも翔くんや二課の皆に助けられっぱなしです!」
「ふふ、もっと自信を持ちなさい。おじさまに鍛えられた翔と並び立つなんて、あなたの実力が確かな証拠よ」
「そ、そうですか?……えへへ、嬉しいです。翼さんにそんな事、言ってもらえるなんて」
 人差し指で頬をぽりぽりと搔く響。
 翼はそれを微笑ましげに見守ると、表情を引きしめた。
「でも、だからこそ聞かせて欲しいの。あなたの戦う理由を。ノイズとの戦いは遊びではない。それは、今日まで死線を越えてきたあなたになら分かるはず」
 そう問われると、響は困ったような顔をした。
「よく、わかりません……。わたし、人助けが趣味みたいなものだから、それで……」
「それで?それだけで?」
「だって、勉強とかスポーツは、誰かと競い合って結果を出すしかないけど、人助けって誰かと競わなくていいじゃないですか?わたしには特技とか人に誇れるものなんてないから、せめて、自分に出来ることで皆の役に立ててればいいな~って。えへへ、へへ……」
 そう言って窓の外の青空を見上げながら笑う響を、翼は見つめる。
 競い合わなくても……誇れるものがない……そして、皆の役に立つ……。
 これらの言葉に、翼は底知れぬ闇を感じずにはいられなかった。
 以前、翼は翔に響との出会いについて尋ねた事がある。その時聞いた話は、あまりにも凄惨なもので……13歳の少女の心を壊すには、充分過ぎるほどのものだった。
 それを踏まえた上で聞いたこの言葉に、翼は翔を重ねる。
 やはり、この2人はよく似ている。翼はそう確信していた。
「……でも、きっかけは、やっぱりあの事件かもしれません」
 響が遠い目で語り始め、翼も夢の中でさえ見たあの日を思い返す。
「わたしを救う為に奏さんが命を燃やした、2年前のライブ。奏さんだけじゃありません。あの日、沢山の人が亡くなりました。でも、わたしは生き残って、今日も笑ってご飯を食べたりしています。だからせめて、誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったり、ご飯を食べたりしたいから」
 穏やかな顔でそう語る立花に、翼は再び考える。
 やはり、彼女は少しだけ、自己評価が低いのかもしれない。周囲からの激しい迫害が、彼女の心に深い傷を作っている。
 そして、それが意味するところは即ち……。
 
「あなたらしい、ポジティブな理由ね。だけど、その思いは前向きな自殺衝動なのかもしれない」
「自殺衝動?」
「誰かのために自分を犠牲にする事で、古傷から救われたいという、自己断罪の表れ……なのかも」
 そう。私や翔と同じだ。自分を犠牲にする事で、あの日の後悔から救われたい……それらと同じ思いが、この子の中にも存在している。
 立花響もまた、私達と同じ十字架を背負っているのだ。
「あのぅ……わたし、変な事言っちゃいましたか?」
「え?……ううん。あなたと私、それに翔はよく似ていると思っただけよ」
「わ、わたしと翔くんと翼さんが……?」
「ええ。経験者だもの、分かるわよ」
 自嘲気味に苦笑しつつ、私は続ける。
「でも、そんなあなただからこそ、尚更似合う娘は他に居ないわね」
「へ?」
「好きなんでしょ、翔の事」
「ふぇぇぇぇ!?ななっ、そっ、それは……その……」
 包み隠しもせずにそう言うと、立花は途端に真っ赤になって慌て始めた。
 可愛らしい……そのまま抱き締めて、撫でくり回してしまいたいくらいだ。
「事ある毎に翔と睦み合っているらしいじゃないか。……乳繰り合う、とまでは行っていないんだな?」
「乳繰りッ……!?って、どど、何処からの情報なんですかそれ!?」
「無論、緒川さんと櫻井女史だ。特に昨日のデュランダル輸送の際は、2人で抱き合って眠っていたと……」
「了子さぁぁぁぁぁん!?何を言いふらしてるんですかぁぁぁぁぁ!!」
 この慌て様……やはり、歳相応の付き合いなのだろう。
 やれやれ、可愛い義妹が出来てしまったものだ。……いや、正確には未来の義妹だが。
「立花、これは姉としての言葉なのだが……」
「えっ、あっ、はい……?」
「その……翔にはお前しかいないんだ。おじさま……風鳴司令の元で本格的に鍛え始めたのも、自分の事を"俺"と呼ぶようになったのも……それから、率先して人助けをするようになったのも、全て立花との縁に端を発している。翔自身は気付いていないかもしれないが、これだけ強く影響を与えているんだ。立花が正直に自分の気持ちを伝えれば、きっと答えてくれるだろう」
 それは私が保証する。なぜなら私は風鳴翼、翔のただ一人の姉なのだから。
「翼さん……。ありがとうございます」
「応援しているぞ、立花。それとも名前で呼んだ方がいいか?」
「なっ、名前で!?そっ、そそそそ、それは一体つまりその、どういう意味でですか!?」
 先程以上に真っ赤な顔であわあわ、と慌てる未来の義妹に、冗談だ、と笑いかける。
 ああ、これは……その日が来るのが楽しみだ……。
 
 ∮
 
「小日向……久し振りだな……」
 声をかけられ振り返ると、そこには……わたしが今さっき、逃げ出してきた光景の中にいた人がいた。
 息も切らさず追ってきて、私の顔を見つめている風鳴くんは、あの頃とは随分印象が違う気がする。
 背も伸びたし、顔つきも変わったような……。なにより、あの頃の弱々しさが見受けられない、むしろお姉さんに雰囲気が近付いたような気さえする。
 でも、そんな印象は今どうでもいい。問題なのは……。
「風鳴くん……どうして君が響と一緒に居るの?」
「それは……」
「ここひと月、響が毎日のように寮を出て行くことはに風鳴くんが関係してるんでしょ!?」
「……ああ。しかし、これは立花が自らの意思で始めた事だ」
「それって何!?響は何をしているの!?君と響って一体どんな関係なの!答えてよ!!」
 気持ちの波が塞き止められず、勢いに任せてどんどん質問攻めにしてしまう。
 それも、まるで責めるような激しい口調で。
 風鳴くんは困ったような顔をして……やがて、こう口にした。
「立花からはどこまで聞いている?」
「響は全然何も話してくれないんだもん!修行って何?いっつも急用で何処かへ行っちゃうのはどうして?帰りが遅くなるのはどういう事なの!代わりに答えてよ!!」
「何も話してないのか……!?やれやれ、立花らしい……分かった。俺から代わりに説明……」
「響らしい……?」
 ──その独り言が、何だか一番癇に障った。
 たかだか1ヶ月そこらの関係で、響の事を分かりきってたようなその口ぶりが、私の心に火を付けてしまった。
「君に響の何が分かるっていうのよ!あの日、あの時、辛い目に遭ってる響を見ていたのに助けようとしなかった君が!響がどんなに傷付けられても、前に出ていこうとしなかった卑怯者のくせに!」
「そっ、それは……俺だって出て行きたかったさ!でも、出来なかったんだ……。あの頃の俺は、心が弱かったから……出て行きたくても脚が震えて、動けなくて……」
「ッ……!」
 知っている。その感情を、その気持ちを……その震えを、わたしは知っている。
 それはあの時のわたしと同じ。響を支え続けはしたけれど、響の前に立って庇えるほど、わたしは強くなかった。
 だからこそ、わたしはあのいじめに巻き込まれずに済んだ。だからこそ、わたしは響の友達でい続けられた。
 だけど、心の何処かではやっぱり、強さを望んでいたんだ。
 そして、前に飛び出そうとしては脚が竦んで動けなくなっている、同じクラスの男子生徒を見て……わたしは、その望みを彼に押し付けた。
 身勝手なのは分かっている。だけど、踏み出せないわたしよりも、後一歩踏み出しさえすれば届く場所にいた風鳴くんに、わたしは期待してしまった。
 わたしの代わりに、響を庇ってくれるんじゃないかって。
 響の居場所になる事しかできないわたしの代わりに、響の盾になってくれるんじゃないかって。
 
 ……ただの押し付けだって、わかっているのに……。
「……言い訳なんて聞きたくない!この偽善者!!」
「ッ!!」
 その時の風鳴くんの顔を見て、わたしは後悔した。
 今の言葉は風鳴くんを一番傷付ける言葉だった……。それなのに……その言葉は身勝手なわたしの、汚い部分から出たものだって頭で理解していたはずなのに……。
 わたしは、その言葉のナイフを躊躇い無く振り下ろしてしまった。
 黙って立ち尽くすだけの風鳴くんが、なんだか怖くなって……わたしは、その場から逃げ出した。
 本当に……わたしって、嫌な子だね……。
 親友の大切な人に、こんな事言っちゃって……謝りもせずに逃げ出して……。
 もう、消えちゃいたいよ……。わたし、どうすればいいのかな?
 誰か……教えてよ……。
 
「偽善者……か……」
 翔は走り去っていく未来の後ろ姿を、ただ見つめている事しかできなかった。
 先程の未来の言葉が胸の奥に突き刺さり、重く、重く残響する。
 その言葉は、言われても仕方ないことだと理解していた言葉だ。
 それでもやはり、言葉にされてしまうと重みが違う。
「……俺は……偽善者、なのかな……」
 未来が消えていった角を見て、誰にともなく独りごちる。
 古傷を抉られたような気分で、少年は立ち尽くしていた。
 
 ∮
 
 どれくらい走り続けたんだろう。気が付いたら、いつもの商店街の真ん中だった。
 そういえば、今日は特売があるんだっけ……。
 でも、あんな事を言っちゃった後だから……こんなに沈んだ気分で買い物なんて……。
「はぁ……。わたし、もうどうすればいいのか、分からないよ……」
 響……わたし、帰ったら響にどんな顔すればいいんだろう……?
 
「小日向さん?どうしたの、浮かない顔して」
「……え?」
 顔を上げると、そこには見知った顔が立っていた。
 陽の光を反射してきらめく綺麗な金髪に、宝石みたいな碧い瞳。
 整った顔立ちに、シュッとした背筋。そして片手にはエコバッグ。
 まるで、絵本の中から出て来た王子様のような雰囲気を持つ、誰が見てもイケメンだと答えるだろうと確信できる男の子。
「爽々波くん……」
「悩み事かい?……いや、その顔は間違いなく悩み事だね」
 わたしの顔を、その海の底へと繋がっていそうな……見つめているだけで引き込まれそうな紺碧の瞳で見つめると、爽々波くんは確信したようにそう言った。
 こういう察しのいいところが、彼の細やかな気遣いに繋がっている。
 共学の高校なら、きっと校内で一番モテるんじゃないかな?
「どうかな?僕でよければ、相談に乗るよ」
「え?でも……」
「小日向さんには、いつもお世話になっているからね。この前教えてもらった味噌汁の隠し味も、親友から大絶賛されたし」
「わたしの方こそ、この前教えてくれたローストチキン、響も美味しいって言ってくれて……」
「小日向さんの親友の子、何作っても美味しく食べてくれるじゃないか」
「爽々波くんの方こそ、同じ部屋のお友達がどんな料理でも美味しいって言ってくれるんでしょ?」
 お互いに顔を見合わせ、笑い合う。
 買い出しで偶然知り合って、お互いの夕飯のレシピを教えあったりしているうちに、わたしと爽々波くんは仲良くなっていた。
 どうやら爽々波くんの親友も、響と同じでよく食べる男の子らしい。
 こうやって、お互いの親友の事や料理の話をしていると、楽しくてつい時間を忘れてしまう。
「それで、どうする?大丈夫そうなら、僕は行くけど……」
「……じゃあ、聞いてくれる?」
 誰に相談すればいいのか分からなくて、迷っていた所に差し伸べられた手。
 独りでグズグズ悩んでいるより、全部吐き出してしまった方が気が楽になるはずだし、きっといい解決方法が見つかるかもしれない。
 だから、わたしは爽々波くんの……この屈託のない王子様スマイルを信じてみる事にした。
「それじゃあ立ち話もなんだし……。そこの店で、お茶でもしながら話そうか」
 それからわたしは、爽々波くんの奢りでケーキセットをご馳走になりながら、事の顛末を話す事になった。 
 

 
後書き
『花咲く勇気』のアマルガムver.実装が決定して、翔ひびver.の花咲く勇気を妄想しちゃった思い出。これも二次創作やってる人間のサガですかね……。
こう、メロディーにもバイオリンの音が入ってる感じのやつをですね……(両手でろくろを回す動き)

未来「特売の卵……あ!最後の1パック!」
モブ客「確保!よし間に合ったー!」
未来「ああっ……!最後の1パックだったのに……これじゃあチャーハンが作れないよ……」
純「あの、ちょっといいですか?」
未来「えっ?わたし、ですか?」
純「よかったら、この卵を」
未来「ええっ!?いいんですか!?」
純「実はルームメイトから、別の店で卵を買ってしまった、って連絡が入ってて丁度困っていたんだ。冷蔵庫に入りきらないし……それなら、僕が持っているよりも、君に分けてあげた方がいいと思って。迷惑かな?」
未来「いえ、そんな!ありがとうございます!……その制服、もしかして……?」
純「ああ。君の通うリディアンの姉妹校、私立アイオニアン音楽院の1年。爽々波純、よろしくね」
未来「ああ~、あの。私立リディアン音楽院1年、小日向未来です」
純「小日向さん、か……素敵な名前だね。よろしく」
未来「いっ、いえいえ、こちらこそ……」

2人の出会いはこんな感じだったとか。
なお、この時出会ったイケメンが「アイオニアンのプリンス」だと未来さんが知る事になるのは、次の日の昼休み、友人達と雑談に興じていた時の事である。

キャラ紹介②
爽々波純(イメージCV:宮野真守):16歳。誕生日は12月12日。血液型はA型。身長180cm/体重68.2kg
趣味、家事全般と自分磨き。好きなもの、歌と演奏。それと洋菓子でのティータイム。
一人称は「僕」で、常に柔和な笑みを浮かべている少年。
とても穏やかな性格で秀才気質。翔の親友であり、常に自分に「王子様」で在ることを課している。
かつて家族ぐるみで仲の良かった幼馴染の少女、『クリス』との約束を果たすために自分を磨き続け、「プリンス」のあだ名を持つ今に至る。
夢は世界を股にかけて活動する音楽家。その夢には、「生き別れとなったクリスを探し出し、迎えに行く」という願いも込められている。
しかし、残っている写真に映る銀髪の少女は、ネフシュタンの鎧をまとう少女に酷似しており……?

次回、ギザギザハートな393の前に現れたプリンス純くん。
果たして罪悪感どっさりな393は親友と翔くんに謝れるのか!?
次回もお楽しみに! 
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