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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第2楽章~約束の流れ星~
  第23節「防人の絶唱(うた)」

 
前書き
前回、危うく2話分くらい書く所だったんだよなぁ。筆がノッていたというより、4話観ながら書いてたからでしょうけど。

それを分割する事で出来た分が今回です。防人の唄を聞け!
 

 
「……まさか、唄うのか!?『絶唱』をッ!?」
 鎧の少女の顔色が変わった。身動きが取れない今、次に来る攻撃の直撃を免れないからだ。
 でも、今姉さんが唄おうとしているのは……その歌は、歌ってはいけない禁断の唄だ!!
「ダメだ姉さん!その歌は!!」
「翼さん!!」
 俺と立花の叫びを聞くと、姉さんはゆっくりとこちらを見る。
 その表情はとても穏やかで……姉さんの心境がよく伺えた。
 やめろ姉さん!俺達を守った上で……奏さんの元へ行こうだなんて、考えるな!!
 
「防人の生き様……覚悟を見せてあげるッ!!その胸に、焼き付けなさい……」
 俺達の方からすぐに鎧の少女へと視線を移して、姉さんはそう豪語した。
 その言葉はおそらく、この場にいる者全てに向けられていて……姉さんがただあの日の生き恥を雪ぐだけではなく、俺や立花に"人類を守る者"としての覚悟を固めさせる為の礎になろうとしている事を実感させた。
「やらせるかよ……好きに……勝手にッ!」
 少女が握るソロモンの杖からノイズが召喚される。しかし、身動きが取れないからか、それとも絶唱への恐怖からか。その狙いは外れ、ノイズ達は姉さんの遥か後方に放たれた。
 やがて、剣を天高く掲げた姉さんはゆっくりと唱え始めた。
 命を燃やし、血を流しながら唄う絶
ほろ
びの唄を……。
 
Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) baral(バーラル) zizzl(ジージル)──」
 
Gatrandis(ガトランディス) babel(バーベル) ziggurat(ジーグレット) edenal(エーデナル) Emustolronzen(エミュストローゼン) fine(フィーネ) el(エル) zizzl(ジージル)──」
 
 辺り一体の空間が、半球状をした紫色のフィールドに覆われる。
 姉さんは刀を納め、ゆっくりと少女へ近づいて行く。
 縫留られた身体を動かそうと藻掻く少女へと、まるで抱擁と共に口付けを交わすように密着する。
 最後の一節を唄いきった時、シンフォギアから放たれた圧倒的なエネルギー波が、姉さんを中心に、その場にいた全てを吹き飛ばした。
「う、うわああああああーーーーッ!?」
 
「あっ……がっ、はっ……」
 ほぼゼロ距離で絶唱を食らい、何本もの木にぶつかりながら後方へと吹っ飛ばされる。
 公園の池の真ん中に置かれた岩にぶつかってようやく、あたしの身体は浅い水の中へと落ちた。
 全身を襲う鈍い痛み。でも、ゆっくり寝ている暇はあたしにはなかった。
「ぐっ……ああッ……!うぐっ……がっ……ううっ……!」
 全身を鋭い痛みが駆け抜ける。ネフシュタンの鎧に備わった自己再生能力だ。破損した箇所を再生しようとして、装着してるあたしの身体を破片が侵食しようとしている痛みが、全身のあちこちから突き刺してくる。
(ぐっ──クソッ……ネフシュタンの侵食が……ッ!この借りは……必ず返すッ!)
 侵食の痛みに耐えて立ち上がると、空高く跳躍する。
 おそらく奴らは追って来られないだろう。だったら今は、フィーネの所に戻った方がいい。
 この破片を取り除いてもらったら、すぐにリベンジしてやる!!
 
 この時のあたしは、何も分かっていなかった。
 
 フィーネの本当の狙いも、あたし自身の本当の気持ちも。
 
 そして……あたしの帰りを待ってくれている、優しい人がいる事も……。
 
 ∮
 
 絶唱の余波で抉れた地面。その真ん中に、姉さんは独りで立っていた。
 ダチョウノイズの粘液はノイズごと消し飛んでおり、俺と立花は急ぎ、姉さんの方へと走る。
「姉さん!!」
「翼さーーーん!!翼さ……うわっ!!」
「立花!」
 つまづいて転びそうになった立花を、何とか支える。
 そこへ、急ブレーキを踏む音と共に、二課の黒い自動車が停車する。
「無事かッ!翼ッ!!」
 ドアを開けて出て来たのは、叔父さんと了子さん。
 二人とも険しい表情で姉さんの方を見ている。
 
「私とて、人類守護の使命を果たす防人……」
 俺達の視線が集まる中、姉さんはゆっくりと振り返った。
 ヒビ割れ、破損したギア。足元には真っ赤な血溜まり。
 そして何よりショックだったのは……。
「こんな所で、折れる剣じゃありません……」
 両眼と口から血を流し、瞳孔の開いた虚ろな目をした姉さんの顔だった。
 そして、姉さんはそのまま糸の切れたマリオネットのように、力なく地面へと倒れる。
 倒れる瞬間、俺は慌てて駆け出し、ボロボロになった姉さんの身体を抱き留めた。
「姉さん……姉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「あ……あ、あ……翼さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
 白い月が照らす夜空に、俺と立花の叫び声だけが、静かに吸い込まれて行った。
 
 ∮
 
「辛うじて一命は取り留めました。ですが、容態が安定するまでは絶対安静。予断の許されない状況です」
「よろしくお願いします」
 リディアン音楽院のすぐ隣にある病院の廊下。オペを担当するドクターに、叔父さんと黒服さん達が頭を下げる。
 無論、俺もその隣で静かに頭を下げていた。
 やがて頭を上げると、いつものワイシャツの上からスーツを着た叔父さんは、黒服さん達へと向き直り、指令を下す。
「俺達は、鎧の行方を追跡する。どんな手がかりも見落とすな!」
 ぞろぞろと病院の外へ出ていく、調査部の黒服職員達。
 それを見送ると、俺は待合室のソファーに座って俯いている立花の左隣に腰を下ろした。
「……立花のせいじゃないさ。俺だってあの場にいながら、何も出来なかった……」
「……でも、私がもっと強ければ、翼さんは……」
 ……ダメだ。励まそうにも、いい言葉が浮かばない。
 立花だけじゃない。俺も立花と同じ事を考えてしまうからだ。
 姉さんが絶唱を唄う事を防げなかった。それは、俺の不甲斐なさでもある。
 そう考えると、何も言えなくなってしまう……。
 
「……二人が気に病む必要はありませんよ。命に別状はありませんでしたし、絶唱は翼さんが自ら望み、唄ったのですから」
 突然耳に飛び込む第三者の声に、俺達は顔を上げる。
「緒川さん……」
 そこには、端末を自販機にかざして飲み物を購入する緒川さんがいた。
「翔くん、少し昔話をしようと思うんだけど、いいかな?」
「……お願いします」
 俺だけじゃ立花を励ませない。ここは緒川さんの助け舟に乗るとしよう。
 そう思い、俺は緒川さんに話してもらうことにした。
 姉さんの心の支えにして、無二のパートナー。俺にとっては、もう一人の姉のような存在だった人。
 先代ガングニール装者、天羽奏
あもうかなで
さんの話を……。
 
「……響さんもご存知とは思いますが、以前の翼さんはアーティストユニットを組んでいました」
「ツヴァイウィング、ですよね……」
「その時のパートナーが天羽奏さん。今はあなたの胸に残る、ガングニールのシンフォギア装者でした。2年前のあの日、奏さんはノイズに襲撃されたライブの被害を最小限に抑えるために、絶唱を解き放ったんです……」
「絶唱……翼さんも言っていた……」
「シンフォギア装者への負荷を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に解き放つ絶唱は、ノイズの大群を一気に殲滅せしめましたが、同時に奏さんの命を燃やし尽くしました……」
「それは、私を救うためですか……?」
 緒川さんは何も答えない。その沈黙は、立花の質問を敢えて否定も肯定もしない、正しい答えだったと思う。
 
 湯気を立てる珈琲を一口飲み、緒川さんは話を続ける。
「奏さんの殉職。そして、ツヴァイウィングは解散。独りになった翼さんは、奏さんの抜けた穴を埋めるべく、がむしゃらに戦ってきました……」
 絶唱を解き放つ直前の、姉さんの言葉を思い出す。
『防人の生き様……覚悟を見せてあげるッ!その胸に、焼き付けなさい……』
 きっと奏さんが生きていれば、姉さんもあんな真似はしなかっただろう。
 そう思うと、やっぱり奏さんの死が悔やまれる……。
「……不器用ですよね。同じ世代の女の子が知ってしかるべき恋愛も遊びも覚えず、ただ剣として戦ってきたんです。でもそれが、風鳴翼の生き方なんです」
 
「そんなの……酷すぎます……」
 立花の頬を涙がつたう。小さく嗚咽しながら泣き始めた立花の右肩に、俺はそっと手を置いた。
「そして私は翼さんの事を何も知らずに、一緒に戦いたいなんて……奏さんの代わりになるだなんて……」
「僕も、あなたに奏さんの代わりになってもらいたいだなんて思っていません。誰も、そんな事は望んでいません」
「緒川さんの言う通りだ。立花は立花だろ?」
 そう言うと、立花はハッとしたように顔を上げた。
 それを見てから、俺は更に続ける。
「奏さんの立場は奏さんだけのものだ。だったら、立花は立花だ。姉さんの後輩、"立花響"として姉さんを支えてくれればいいんだよ」
「私は……私として……」
「そうそう。それだけは絶対、他の誰でもない"立花響"にしか出来ない事なんだからな」
 自然と零れた微笑みと共に、肩に置いた手で立花の頭を撫でる。
 汗で少しだけベトッとしていたけど、頬に触れた時と同じ柔らかい感触が掌に伝わった。
 それを見ていた緒川さんは優しげに微笑むと、立花へと向けて言った。
「ねえ響さん、僕からのお願いを聞いてくれますか?」
「……え?」
「これから先も、翼さんの事を好きでいてあげてください。翼さんを、世界でひとりぼっちになんてさせないで下さい」
 そう言った緒川さんの目は、とても優しくて……心の底から姉さんの事を慮ってくれているのが伝わった。
「俺からもよろしく頼む……。姉さん、不器用だから友達少なくてさ。これからも仲良くしてくれると嬉しい……」
 俺も緒川さんと一緒に立花を見つめる。それを聞いて、立花は静かに頷いた。
「はい……」
 
 ∮
 
 どこまでも、どこまでも、下へ下へと落ちていく空の中で。
 
 ふと、懐かしい姿とすれ違った気がして目を開く。
 
 目を開いて身体を縦に直すと、視線の先には……
 
 あの頃と変わらない奏の後ろ姿があった。
 
 こちらを振り返った奏の顔は、どこか哀しげに私を見つめる。
 
 そんな顔はしないでほしい。私は奏に向かって叫んだ。
 
「片翼でも飛んでみせる!どこまででも飛んでみせる!だから笑ってよ、奏……」
 
 いつの間にか空は海の中へと変わっていて、私の意識は深い奈落の底へと落ちていく。
 
 最後に映った奏の顔は、振り向いた時よりも哀しそうに……無言で何かを伝えようと、私を見つめ続けていた……。 
 

 
後書き
防人、とうとう絶唱しました。
「その胸に焼き付けなさい」のニュアンス変えてみたつもりなんですけど、伝わってるだろうか……?
それと緒川さんの名台詞も一文だけ変更しました。溝が早めに埋まってるので、嫌われる理由がありませんからね。

奏「はい、ここで新コーナー『天羽奏のお悩み相談室』~!」
翼「えっ?奏、さっきの物悲しい終わり方の後にこんな事してていいの!?」
奏「大丈夫大丈夫、だって本家アニメも今の本編も、翼は泣かされっぱなしじゃないか。ここでくらいはっちゃけようぜ」
翼「そ、そんな事言われても……」
奏「さて、今日のお便りはこちら!SN
ソングネーム
・弟リニティーさんから!」
翼「ど、どうも……?」
奏「『奏さん、どうもご無沙汰してます。いつも姉がお世話になっております』そりゃどうも~」
翼「え?今、姉って……」
奏「『実は最近、一つ悩みがあります。それは決めゼリフ。自分だけ決めゼリフと呼べるものがないような気がしているんです』なるほど、そりゃあ悩みどころだな」
翼「そう言われてみると、確かに……」
奏「『立花の「へいき、へっちゃら」や「だとしても!」、姉さんのSAKIMORI語、まだしばらく敵役やってるあの子の「ちょせえ!」や「ばーん♪」、司令の「~だとぉ!?」、奏さんの「生きるのを諦めるな!」のような、印象的に残る決めゼリフが欲しいです』うーん、こいつは難しいかもな」
翼「いや、お前も中々印象的なセリフは多かったはずでは……」
奏「はいはい、送り主の個人情報は伏せような~。で、決めゼリフか……こればっかりはこの先見つけて行くしかないと思うぞ。こういうセリフって言ってる本人の内面や価値観を象徴してるからな。だから、それを見つけられるのはお前自身だけだ。いつか、そう言う口癖が出来たら、それを使えばいいと思うぞ?」
翼「もしくは、普段時々出て来る防人語から一つ、多用するのもアリだな。知らぬ間に定着して驚くくらいだぞ」
奏「そうだな。それじゃ、今回のコーナーはこれで終わりだ。それじゃ、またな!」
翼「一体私は何をしていたんだろう……」

次回、OTONAとの修行!お楽しみに! 
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