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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第2楽章~約束の流れ星~
  第22節「落涙」

 
前書き
皆さんお待ちかね、クリスちゃん大暴れの巻。
やっと原作四話です。じっくりとお楽しみください。 

 
「馬鹿な……。現場に急行する!何としてでも、ネフシュタンの鎧を確保するんだ!!」
 弦十郎自らが出動する為、黒服達が車を手配し始める。
 普段はマイペースな了子も、この時ばかりは眉間に皺を寄せていた。
「ええ、行きましょう。……急がないと、翼ちゃんが()()かもしれないわ」
「唄うって……まさか絶唱を!?」
 了子の言葉に、藤尭が目を見開く。
「あの鎧は2年前のあの日に奪われた物だ。それを前にして、翼が冷静でいられるとは思えない……」
「絶唱……装者への負荷を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に引き出す諸刃の剣……」
「絶唱を口にすれば無事には済まない。翼、早まってくれるなよ……」
 弦十郎と了子は司令室を飛び出し、エレベーターへと走った。
 翼が唄う前に、間に合わせなければと焦燥しながら。
 
 ∮
 
「預けた勝ちを受け取りに来たぜ」
「預けられた覚えなどない。その鎧、今夜で返してもらおうか!」
 挑発的な笑みを浮かべる鎧の少女に、姉さんは刀を向けて構える。
 少女もまた右手に持っていた杖を構え、左手には棘だらけの鞭を握る。
 前回現れた時、姉さんはこの少女に足止めされていたらしい。姉さんと互角にやり合う辺り、実力はかなりあるはずだ。
 ネフシュタンの鎧を取り返す為にも、まずは無力化しなくては……。
「やめてください翼さん!相手は人です!同じ人間ですッ!!」
 などと考えていた矢先、立花が姉さんへとしがみつく。
 立花、確かにその気持ちは分かるが、ちょっと落ち着──
 
「「戦場(いくさば)で何をバカな事をッ!!」」
 ……姉さんと鎧の少女が、同時に同じ言葉を発する。
 オイオイ、この人達意外と似たもの同士らしいぞ……?
 一拍置いて、姉さんと鎧の少女は互いの顔を見て、挑発的な笑みを零す。
「むしろ、あなたと気が合いそうね?」
「だったら仲良くじゃれあうかい?」
「ああ……参るッ!」
 少女が振るった鞭が地面を抉り土を巻き上げる。
 姉さんは立花を突き飛ばすと、そのまま跳躍してそれを躱した。
 慌てて突き飛ばされた立花を受け止める。やれやれ、立花の甘さにも困ったものだけど、姉さんも姉さんで今回は冷静さを欠いているのでは?
「まったく……立花、大丈夫か?」
「ありがと……って、翔くん!翼さんを止めないと!」
「分かってるさ。だけど落ち着け。なにも姉さんはあの子を傷付けるために戦っているんじゃない。ネフシュタンの鎧を取り戻す為にも、まずは無力化しないといけないだろ?」
 立花を宥めるようにそう言うが、立花は納得出来ないという顔をしている。
「例えるなら……武器持った犯罪者相手に銃を向ける警官を見て、立花は同じ事を言えるのか?」
「そ、それは……」
「そういう事だ。相手を傷付けたくて刃を交えるんじゃない。世の中、話し合いで解決出来ることばかりじゃない。でも、話を聞く事くらいまでなら誰にでもできる。だからこれは、話し合う為の手段の一つなんだ」
「話し合うための、手段?」
「そう。話を聞いてもらうためのアピールタイム、または交渉手段。武器を収めてもらうために自分も武器を振る、というのはかなりの皮肉だけど……拳や刃を合わせなくちゃ分からない事もあるんだよ」
 立花の方から、今度は姉さん達に視線を移す。姉さんと鎧の少女の戦いは、拮抗していた。
 
 姉さんが放った〈蒼ノ一閃〉は、少女が放つ鞭の一振りで簡単に弾かれ、狙いを外れて爆発した。
 驚きながらも姉さんは、着地体勢をとりながらも大剣を振り回す。
 少女はそれらを軽々と躱し、刃を鞭で受け止める。
 剣を受け止められ隙が生まれた姉さんの腹に、少女の蹴りが炸裂する。
「ッ!?がはっ!!」
「姉さん!!」
 後方に勢いよく吹き飛ばされる姉さんに、少女は言い放った。
「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよな?あたしのテッペンは、まだまだこんなもんじゃねぇぞ?」
 何とか受身を取り、地面に足を付けて後退る姉さん。
 しかし、少女の鞭が追い打ちとばかりに振るわれ、跳躍する。
 地面を抉り、木をへし折って振るわれ続ける鎖鞭。姉さんが押されている……いや、どちらかと言えば、姉さんの動きの方に精彩が欠けている!?
 やっぱり姉さん、冷静さを保てていないんだ!
 
「翼さん!!」
「姉さん!!」
 思わず立花と揃って飛び出そうとする。しかし、少女はそれを阻むようにこちらへと杖を向けた。
「お呼びではないんだよ。こいつらでも相手してな」
 杖の中心部に嵌められた宝玉から、黄緑色の光が放たれる。
 光は俺達の眼前に着弾すると……その光から四体のノイズが現れた。
「なっ!?」
「えっ……ノイズが、操られてる!?どうして!?」
「そいつがこの『ソロモンの杖』の力なんだよ!雑魚は雑魚らしく、ノイズとでも戯れてな!」
「ソロモンの杖……ノイズを操る力を持った、完全聖遺物だと!?」
 現れたノイズは、これまで見たことが無い個体だった。
 トーテムポールのように細長い体躯、丸い頭に嘴が付いた鳥みたいな顔。腕は無く、細い両足だけが身体を支えている。
 縦に長い巨体は、立花の身長の5倍以上はあるだろう。ダチョウ型、というのが適切だろうか?
「新種に初手で接近戦は避けたい、一旦離れるぞ立花!」
「わあっ!!」
 立花の手を引いて駆け出す。しかし、ダチョウノイズ達の能力は予想していないものだった。
 
 ダチョウノイズらの口から、吐き出された白い粘着質な液体が吐き出される。
「えぇっ!?うぇぇ何これ……動けない!?」
「拘束用の粘液だとぉ!?このっ!!」
 立花の手を引きながら、なおかつ別々の四方向から放たれたのでは避ける事もできず、俺と立花は、四方からの粘液に揃って囚われてしまった。
 ベトベトしてる上に粘着力が高く、まるで蜘蛛の糸のようにこちらの動きを封じてくる粘液に、生理的な嫌悪感を覚える。
「そんな……ウソ!?」
「立花!しっかりしろ!」
 ってか、俺はともかく立花にこんなばっちいモンをぶっかけるんじゃねぇ、このせいたかのっぽ共!!
 クソッ!腕に力を集め、両腕のエルボーカッターで切断出来れば……ダメだ、腕が動かせないように刃が触れない位置を狙って拘束されてる!
 こいつら、ノイズのくせに頭が良いぞ!?
 
 ……ということは、あのソロモンの杖って完全聖遺物に備わっているのは、ノイズを召喚して操る能力……。しかも、結構細かい命令を下せる代物なのでは?
 ソロモン王の名を冠する聖遺物といえば、『ソロモンの指輪』なら有名だ。
 全72柱の悪魔を従える魔術の王。神に授けられたその指輪こそが、悪魔達を従える契約の象徴だと言うが……杖、か。
 従えていたのは悪魔ではなく災厄
ノイズ
そのものであり、その聖遺物の実態は指輪などではなく杖だったというわけか……。
 感心してる場合じゃないな。とにかくこいつを何とかしないと……!
 
「はあああーーーッ!!」
「……ッ!?」
 姉さんが再び大剣を手に突進する。
 両手で持った鞭で防ぐ少女に、姉さんは吼える。
「その子達にかまけて、私を忘れたかッ!!」
 姉さんが一瞬の隙を突いて足を払い、少女はバランスを崩してよろめく。
 更に姉さんは何度も少女に回し蹴りを繰り出し、両脚の刃を振るう。
 少女も負けじとその脚を鞭で受け止め、啖呵を返す。
「ぐっ……!!この、お高くとまるなッ!」
 そのまま姉さんの足を掴むと、力任せに放り投げた。
「なっ!?ぐううううッ!」
 地面を抉って吹っ飛ばされ、地面を転がる姉さん。
 更に少女は跳躍し、素早くその先へと回り込むと姉さんの頭を踏みつけた。
「のぼせ上がるな人気者。誰も彼もが構ってくれるなどと思うんじゃねぇッ!!」
「くっ……」
 鎧の少女は姉さんを見下ろすと、俺たちの方を見ながら言った。
「この場の主役だと勘違いしてるなら教えてやる。狙いはハナッから、そいつらをかっさらう事だ」
「え……わたし、たち……?」
「何だと!?」
「鎧も仲間も、アンタにゃ過ぎてんじゃないのか?」
 姉さんは囚われた俺達の方を見て、鎧の少女を睨み付ける。
「……繰り返すものかと、私は誓った!!」
 空へと剣を掲げると、千の剣が闇を裂いて降り注ぐ。
 
〈千ノ落涙〉
 
 無数の刃に鎧の少女はバックステップを踏んで後退する。
 その隙に姉さんは立ち上がり、サイドステップと共に駆け出した。
 それを追う鎧の少女。二人がぶつかり合い、公園内で何度も爆発が起こる。
「そうだ!私もアームドギアが使えれば!」
 立花が動かない腕に力を込め、願うように見つめる。
「出ろ!出ろぉ!私のアームドギア!!」
 しかし、シンフォギアは何も反応しない。何度念じても、アームドギアが形成されることはなかった。
「何でだよぉ……どうすればいいのかわっかんないよぉ……」
 泣きそうな声で立花は俯く。クソッ、俺もアームドギアさえ使えれば……この状態じゃ出せても振り回せず、落としちまうだけだ……!
「どうすれば……どうすれば立花も、姉さんも助けられるんだ!!」
 
 ∮
 
 何度目かの打ち合いの末、少女が鎧の力に振り回されているわけではなく、その力が本物だと気がついた頃だった。
 少女はその手に握る完全聖遺物、ソロモンの杖の力で何体ものノイズを召喚し、私へと嗾ける。
 ノイズの増援を蹴散らし、少女へと刃を振り下ろす。
 少女も負けじと刃を受け止め、懐に飛び込んだ所で格闘戦を交えて距離を取る。
「はぁっ!!」
 小刀を3本、少女へと投擲すると、少女は狙い通りそれを鞭で弾き返した。
「ちょせえ!!そんなの食らうか!」
 少女は高く跳躍すると、鞭の先に溜めたエネルギーを球状に固めると、力任せに投げ放った。
「それじゃ、こっちの番だ。たあああーーー!!」
 
 〈NIRVANA GEDON〉
 
「──ぐあっ!!」
 防ぎきれず、爆発とともに後方へと吹き飛ばされ地面を転がる。
「姉さん!!」
「翼さん!!」
 弟と後輩の声が聞こえる。身動きの取れない自分達よりも、私の方を心配してくれるとは……まったく……。
「ふん、まるで出来損ない……」
 爆煙の向こうからこちらへと向かって来る少女の言葉に、あの日の光景が頭を過る。
「確かに、私は出来損ないだ……」
 私がもっと強ければ……。あの時、私が奏を守れていれば……。
「この身を一振りの剣として鍛えてきた筈なのに、あの日、無様に生き残ってしまった……。出来損ないの剣として、恥を晒して来た……」
 そして、今度は血を分けた大切な弟と、その弟が守ると誓った後輩を失うかもしれない……。
「だが、それも今日までの事。奪われたネフシュタンを取り戻す事で、この身の汚名を雪がせてもらう!!」
 それだけは……そんな無様だけは絶対に晒せない!
 防人として……先輩として……姉として……家族として!!
 何としても、二人だけは絶対に守りきって見せる!!
 ……たとえ、この生命に変えてでも──。
「そうかい。脱がせるものなら脱がして……──ッ!?なっ、動けない……ッ!?」
 
〈影縫い〉
 
 先程投擲した小刀が少女の影に突き刺さり、身体をその場に縫い止める。
 これで避ける事は出来ない。確実に、邪魔される事無く唄う事が出来る。
「月が出ているうちに、決着を付けましょう……」
 月を覆い隠そうとする雲を見上げ、私は剣を天へと掲げた。 
 

 
後書き
NGシーン、あるいは少しのズレで有り得たかもしれない展開。

響「えぇっ!?うぇぇ何これ……動けない!?」
翔「拘束用の粘液だとぉ!?このっ!!」
響「わあっ!?脚が滑った!わああっ!?」(尻もちをつく)
翔「立花ッ!大丈夫か!?」
響「いたた……うへえぇ、もう身体中がベトベトだよぉ……って、翔くんこそ大丈夫!?なんか凄くバランス取りづらそうだけど!?」
翔「ああ……立花が転んだ時に脚が縺れてな……。すまない立花もう足が持たなっうわあああ!?」(バランスを崩して転倒)
響「うわあああ!?ちょちょちょっ!翔くん顔が近いって!!っていうかどこ触ってるの!!」
翔「すっ、すすすすまない立花!本ッ当にごめん!!今すぐ離して……ちょっ、これ、離れない!?ベットベトにくっ付いてて掌が剥がれない!?」
響「うそおぉぉぉ!?あっ、ちょっ、翔くん……その手、あんまり動かさなッ……ひゃうっ!?」
翔「だああああああ姉さん早く何とかしてぇぇぇぇぇ!!」
(お互い粘液でグチョグチョになった状態で、翔が響を押し倒しているような姿勢に)
翼もといANE「きっ、ききき貴様あの二人に何ということを!!」
クリス「知るかッ!あああ、あたしは何も悪くねぇ!!ってかお前らそういうのは家でやれぇぇぇぇぇ!!」

戦場でナニをヤッてるんだと怒られる展開。二人揃ってダチョウノイズに襲われるって展開と一緒にこういう構図が浮かんだけど俺は悪くない!!
それはさておき、次回は絶唱回です。防人の唄を聞きましょう。 
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