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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第59話 冷血なる虫使い!対決トミーロッド!

side:リアス


 私達が出会った謎の男性、彼の口から放たれた帰れなくなるという言葉に私は動揺を隠せなかった。


「帰れなくなるって一体どういう……」


 私が話そうとすると彼は手を振りそれを止めた、そして懐からノートを取り出すと何かを書いて私達に見せてきた。


『そのスーツには盗聴器が仕組まれている』


 と、盗聴器ですって!?そんなものがこのスーツに付けられていたなんて……でもこの人字が汚いわね!?辛うじて読めたけどもうちょっと綺麗に書いてほしいわ。


「……」


 私の表情を見た男性は居たたまれなくなったのか暗い表情をしていた。悪いことをしたわね……


 まあそれはそれとして問題はセンチュリースープの方ね。私達がいる空間はとても広くて大きな氷柱が何本も生えた神秘的な場所だったわ、恐らくここがグルメショーウインドーの真下なのね。


「でもこれって……」


 センチュリースープがある場所に出るオーロラは全く見えないわ、まさか本当に無いんじゃ……


 そんな最悪な可能性を考えているとアーシアがおずおずという風に男性に話しかけた。


「あ、あの……それって本当なんですか?」


 アーシアは怖そうな表情を浮かべてそう呟いた。まあそれが本当なら私達の会話も全部聞かれているって事だし良い気分はしないわね。


「……」
「あ、あの……」


 だが男性はアーシアの質問には答えず黙ったままだった。


「お嬢ちゃん」
「は、はい……」
「口は禍の元だ」
「ふえっ?」


 えっと、要するに知ったらマズイ事でもあるのかしら?そう思っていると男性は凄い速さでノートに何かを書いてアーシアに見せた。


『盗聴器は依頼人のモンローヤッコリ氏が仕掛けたものだ。確認したから間違いない』
「あ、あわわ……」


 いや教えてるじゃない!?しかも字は余計に汚くなってるし!依頼人なんかもう名前が違うじゃない!


 そんなツッコミを心の中でしながら彼は船で起きたことを教えてくれた。私達がアイスヘルに向かった後、第二陣の美食屋や船で多くのグルメSPが殺されたこと、カーネル氏が盗聴器をスーツに仕込んだことなどを教えてくれた。


『だがどうしてカーネル氏は盗聴器なんか仕掛けたんだ?普通にスープがないならそれでおしまいなのでは?』


 ゼノヴィアもノートに字を書いて会話をしていた。とても綺麗な字ね……


『さあな。唯一つ言えるのは奴は俺達の事を駒としか思っていない事だ、スープが無いと知れば俺達にはもう用はない、そのまま引き返すだろう』


 スープがない……その言葉を突き付けられた私は思わず駆け出してしまった。そしてスープが堪っているはずの場所に手を伸ばす。


(センチュリースープは透明度が高いわ。だから目に見えないだけで実際はちゃんと……)


 だが私が触れたのはスープではなく冷たい氷の大地だった。センチュリースープはもう無い、その現実が私の中に重く圧し掛かってくる。


「あ―――――っ!!」


 その時だった、どこかで聞いた大きな声がこの広い空間に響いたの。声がした方を見るとそこにはゾンゲがいたわ。彼らもここに無事にたどり着いていたのね。


「なんだこりゃあ!?スープがな……」


 ゾンゲがスープが無いと叫ぼうとした瞬間、男性は彼の眼前に素早く移動して指を肩に突き刺した。


(あれはノッキング!?)


 彼の行った事は船でイッセーがグレイトレッグを指でノッキングした光景と同じだった。でもイッセーよりも鮮やかで無駄のない動きだったわ。


「う、うわあぁぁあ!?ゾンゲ様が!?」
「安心しろ、ノッキングしただけさ」


 ゾンゲの部下達が騒ぐけどやっぱりノッキングしただけだったみたいね。


「ふぅ、危なかった。危うくスープが無え事がバレてしまうところだったな」


 ……あら?今彼普通に話しちゃったわよね?盗聴器があるのにスープが無いって言ったわよね。


 私はチラッと男性を見る、彼はいかにもやっちまったぜと言わんばかりの表情になっていた。


「な……なにやってるのよ!バカ――――――ッ!!?」


 そしてアイスヘルの氷山に私の叫び声が木霊するのだった。




―――――――――

――――――

―――


 side:??


『なにやってるのよ!バカ――――――ッ!!?』
「……」


 場所は変わってここは砕氷船の中、そこにカーネルがモニターでリアス達の会話を盗聴していた。


「ふん、やはりスープはなかったか。前からその情報はあったので懸念はしていたが残念だ」


 カーネルは落胆した様子を見せると船に設置された無線で部下達に指示を出し始める。


「船を出せ、この大陸から出るぞ」
『島に残った美食屋達はいかがいたしましょうか?』
「全員置いていく。ジョアの話ではイッセーは我らの邪魔になる可能性があるそうだ、この大陸で死んでもらうとする」
『はっ!』


 カーネルはそう言うと高級そうなソファにドカッと座り込んだ。


「センチュリースープは惜しいが『獅子豚』に『瑠璃亀の涙』、『無限ブドウ』……まだまだ魅力的な食材はわんさかある。さてジョアよ、次の食材はなんだ?」


 そしてカーネルを乗せた砕氷船はゆっくりとアイスヘルを離れていくのであった。



―――――――――

――――――

―――


side:祐斗


 バリーガモンを倒した僕はマッチさんを回復させた後、小猫ちゃんや滝丸君にも回復の魔剣を渡した。


「……ふぅ、助かりました。祐斗先輩、ありがとうございます」
「無事でよかったよ、小猫ちゃん。でも少し見ないうちに随分と大きくなったね」
「おっぱいがですか?祐斗先輩も男の子なんですね」
「いや、背の方なんだけど……」


 小猫ちゃんの変化には驚いたがこれも仙術の効果らしい。まさか物理的に大きくなれるなんて仙術って凄いんだね。


「良し、これでまだ何とか動けそうです」


 回復を終えた小猫ちゃんは肩を回しながら体をほぐしていた。アーシアさんと違って最低限しか回復させてあげられなかったけど動けるようにはなったみたいだ。


「マッチさんと滝丸君はまだ目を覚まさないね……」
「お二人ともかなりのダメージを負っていますからね。特にマッチさんは危ない状況です、早くアーシアさんと合流しないと……」


 僕達は悪魔だからまだいいが人間であるマッチさんと滝丸君はダメージが大きくて未だ気を失ったままだ。今は安静にさせておかないといけないね。


「それよりも小猫ちゃん、気が付いているかい?」
「勿論です。ボギーウッズとバリーガモン、あの二人はまだ生きています」


 小猫ちゃんの仙術で探ったんだけどあの二人はまだ強い生命力の輝きが見えたらしい、つまりまだ動ける可能性があると言う事だ。


「もし復活されたらかなり厄介だ。殺しはしなくても動けなくさせないと……」


 回復したことによって少しだけ精神力も癒せた僕は神経毒を出す魔剣を生み出した。ココさんの毒に比べたら弱いが無いよりはマシだろう。それを倒れている二人に向かって投げつけて刺す。


「ぐおっ!?」
「があっ!?」


 
 やっぱりまだ余力があったんだね、でもこれで暫くは動きを封じれたはずだ。後はイッセー君達の方だけど……!?


 背後から凄まじい殺気を感じて振り返る、すると僕の目には赤い鬼と触手の生えた魔獣が戦っている光景が目に映った。


(あれは鬼?でも両腕が龍のような鱗がある……もしかしてイッセー君の中にある『鬼』と『龍』が混ざっているのか?)


 今までイッセー君が本気を出した際に背後に見えた赤い龍のイメージ、だが今のイッセー君の背後には鬼の顔と龍の腕を持った怪物が浮かび上がっていた。もしかするとあの鬼の部分がイッセー君の言っていた赤い鬼なのかな?


「凄い気迫……私達じゃとても近づけません……!」
「今は回復に専念しよう。このままじゃ足手まといにしかならない」
「先輩たちは大丈夫でしょうか?」
「……」


 僕たちの戦いが小さく見える程の高次元の戦い……イッセー君、朱乃先輩、どうか無事でいてくれ!



―――――――――

――――――

―――


side:イッセー


 飛んでくる無数ともいえるような寄生昆虫、それをフライングフォークの連射で撃墜していく。だがその数は多く俺のフォークを回避した昆虫が背後から襲い掛かってきた。


 だが昆虫たちに何かが突き刺さった、それは朱乃が放った雷の矢だった。俺の背後にいる朱乃が仕留めそこなった昆虫を迎撃していく。祐斗の攻撃すらかわす高い俊敏性を持つ昆虫たち、だがそれらは的確に撃ち抜かれていく。


(朱乃、トラウマを乗り越えたんだな……!)


 朱乃が放っているのは唯の雷じゃない、そこには光の力が込められていた。朱乃の父であるバラキエルは堕天使、つまり光の力を使うことが出来る。その血を引く朱乃も光の力を使えるが朱乃は自身の中に流れるその血を嫌悪していた。


(自分のせいで母親を死なせてしまった朱乃は、自分自身を汚れた存在として嫌っていた)


 だが朱乃は自分の中に流れる堕天使の血を受け入れた。試行錯誤を繰り返して何とか光の力を使えるようになった朱乃はその力を存分に発揮していた。


 そもそも光の速さは秒速30万㎞、一秒に地球を7周半もできる速さだ。その速さから放たれる雷光の矢をかわせる生物などこの『グルメ界』側の人間界でもそうはいないはずだ。


(俺は朱乃を見くびっていたのかもしれないな。足手まといどころか俺を確実にサポートしてくれている、本当に俺にはもったいないくらいの良い女だよ)


 心の中で朱乃に感謝しながら俺は闘志を燃やしていく。そして5連釘パンチで多くの昆虫を塵に変えていく。


「オラオラオラオラァ!!」


 怒涛の連撃で昆虫たちを粉々にしていく、朱乃の雷の矢も的確に昆虫たちを仕留めていった。


「はぁ……はぁ……」
「や、やりましたわね……」


 目の前にいた昆虫たちを倒した俺と朱乃はトミーロッドを睨みつける。


「ど、どうだトミーロッド。お前の虫たちは全部倒したぞ」
「次は貴方の番ですわ」


 俺と朱乃がそう言うとトミーロッドは欠伸をしながら俺達をあざ笑った。


「なに言ってんの?虫はまだまだいるよ」
「!?ッ朱乃、下だ!」


 氷の大地が砕けてそこからムカデが現れて俺達に襲い掛かってきた。


「ナイフ!」
「雷神の裁き(エル・トール)!」


 ムカデの首を切り落として朱乃が雷の一撃で消し炭に変える。だがムカデが出た穴から再び大量の昆虫が現れて俺達に襲い掛かってきた。


「まだこんなにも……!」
「来るぞ!」


 襲い掛かってくる昆虫たちを迎撃していく俺達、だがその数はさっきよりも多く打ち漏らした昆虫が俺や朱乃を傷つけていく。


(トミーロッド!こいつ一体どれだけの昆虫を体内に宿しているんだ!)


 今も口から昆虫を吐き出しているトミーロッドに俺は恐怖を感じてしまった。これだけの寄生昆虫を難なくと産み出してくるとは……流石に限界はあるだろうがこの様子だとまだまだ産めるだろうな。


「雷光の矢!」
「フォーク!」


 向かってきたクワガタのような昆虫に朱乃の放った矢が突き刺さり動きが鈍る、そこを5体まとめてフォークで突き刺した。


「トミーロッド、この昆虫たちはお前が産んだ生命だ。要するにお前の子供みたいなものじゃないのか?それがこうやって無残に殺されていくのを見て何も思わないのか!」


 俺は奴にそう言うとトミーロッドは無表情で近くにあった虫の死体を足で踏み潰した。


「思わないね。死んだら唯のゴミだろう?こいつらはあくまでも道具さ」
「……下種が!」


 GTロボを操縦していたヴァーリは俺の実力を測るためとはいえ接近戦を挑んできた、グリンパーチは遠距離戦で挑んできたが上手く大技を誘って隙を作れた。 


 でもこのトミーロッドという男、今まで戦ってきた奴らとはまるでタイプが違う。奴にとって戦いは誇りも信念もない、勝つことだけを優先し決して自分の不利な場には足を踏み入れない虫のような冷たい感情と目的を果たそうとする冷静さを持っている。


(近距離戦がメインの俺にとって奴はかなり厄介な相手だ、しかも挑発しても意に介さないから自分から俺の方に来ることはない。こんなにも戦りにくい相手は初めてだな)


 今回美食會がなぜヴァーリやグリンパーチではなくこの男を送り込んできたのか改めて理解できた、それだけ向こうも本気の布陣で来ているのだろう。


(せめて凍った片方の腕が自由になればもう少し楽なんだがな……!)


 俺の片腕は先程奴の体内にいる何かによって凍らされていた。じゃあドライグの炎で溶かせばいいじゃないかと思うがそれは出来ないんだ。


 本来赤龍帝であるドライグの炎を使うには魔力などを変換させるのだが俺にはそんなものはない、だから魔力の代わりに大量のカロリーを消費してドライグの炎を使っているんだ。


(だがここまで来るのに結構なカロリーを使ってしまった。これ以上カロリーを消耗したらトミーロッドと戦えなくなってしまう)
「イッセー君!後ろよ!」
「!?ッ」


 考え事をしていた隙を突かれたのか背中に数体の昆虫がくっ付いていた。異様に体の長い昆虫は何故か攻撃はしてこないのだがその昆虫たちから嫌な予感を感じた俺は直ぐにそいつらを引きはがそうとする。


「点火♪」


 だがそれよりも早くトミーロッドが行動を起こした。奴は俺の体にくっついている昆虫に似た大きな昆虫を爪で引き裂いた。するとカチッという音と共に俺は爆発に巻き込まれた。


「イッセー君!」


 朱乃の悲鳴が聞こえるが爆風の中から彼女の元に跳んで肩を抱いた。


「大丈夫、俺は無事さ」
「イッセー君、良かった……」


 俺は朱乃を安心させて改めてトミーロッドに向き直る。


「ひゃ――――――!爆発の寸前に上着を脱ぎ棄てたか、はっはっは。でも防寒服無しで戦えるの、イッセー?」
「心配すんな、今すぐそのふざけた顔をぶん殴ってやるからよ……」


 強がってはいるがやはりライタースーツを脱いだのは不味いな、-50℃という極寒地獄をモロに受けてしまっている。このまま戦えば命はないだろう。


「イッセー君!」
「この声は……祐斗か?」


 そこに上半身裸になった祐斗が現れて俺にライタースーツを渡してきた。


「イッセー君、いくら君でもこのアイスヘルでライタースーツ無しの戦闘は自殺行為だ。これを使ってよ」
「祐斗、戦いは終わったのか?」
「うん、何とか勝てたよ。小猫ちゃんや滝丸君、マッチさんも無事さ」


 俺は小猫ちゃんの方を見てみると、コクリと頷く彼女とその側で気を失っている滝丸とマッチの姿があった。


「今の僕じゃ君の力になるどころか足手まといにしかならない、だからせめてこのスーツを……」
「祐斗、お前……」


 この極寒地獄でライタースーツを失うと言う事は死を意味する、グルメ細胞を持ち超人的な身体を持つ俺ですら危険なのに祐斗はなんの躊躇もなく俺にライタースーツを渡してきた。


「祐斗、ありがとうな」


 俺は祐斗の優しさに嬉しくなり彼の肩を抱いた。


「その気持ちだけで充分だ、そのライタースーツはお前が使ってくれ」
「イッセー君……」


 俺は祐斗に礼を言うとあることに気が付いた、それは昆虫たちが攻撃をしてこなくなったことだ。今も俺達の背後で唯宙に浮かんだまま停止している。


(ん?この匂いは……)
「……何やってるんだい、バリー、ボギー?」


 俺はある匂いを感じたがトミーロッドの圧のある声に現実に戻されて奴を見る。トミーロッドの視線の先には倒れた美食會の二人が映っていた。


「なに負けてんのお前らァァァァァ!!」


 奇声を上げ怒りの声を荒げるトミーロッド、だが次の瞬間には冷酷な顔を見せ倒れている二人に失望した眼差しを向ける。


「もうイラネ、せめて虫のエサになれよ」


 トミーロッドは停止していた昆虫たちに指示を出して倒れている美食會の二人に向かわせた。まさか仲間を殺すつもりか!?


「寄生昆虫ども!死体に卵を産み付けな!!」
「止めろ!あの二人はまだ生きているんだぞ!?」
「させません!」


 祐斗がトミーロッドの行動に怒りを見せ小猫ちゃんが昆虫たちを食い止めようとする。だが俺は仲間を平気で殺そうとしたトミーロッドに等々堪忍袋の緒が切れてしまった。


「いい加減にしろよ、このクソ野郎がぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 俺を中心にすさまじい熱が生まれて昆虫たちを吹き飛ばした。


「トミーロッド、あの二人はお前の為に戦ったんだぞ?少しくらいはねぎらいの言葉でもかけてやれよ」


 俺は怒りをたぎらせてトミーロッドにそう言った。だが奴は心底つまらなそうな表情で笑みを浮かべる。


「……フフ、幼稚な事を言うね。約に立たない奴は全部ゴミだろう?殺してよくね?」


 トミーロッドは本気でそう思っているぞと言わんばかりにハッキリと言い切りやがった。


「だからさ~イッセー、お前も……早く死んで――――――――――!」


 そして口から大量の寄生昆虫を生み出して俺に向かわせてくる。


「トミーロッド!!仲間をゴミなんて言う真正のクズが!お前はこの場にいるどんな虫よりも害虫だ、俺が確実に仕留めてやる!!」


 俺は体から凄まじい熱を出して凍っていた腕を無理やり解凍する。


「熱い……!イッセー君の体から凄まじい熱が発生している!」


 祐斗は俺の体から出る熱に驚いているがこれは『シバリング』という生理現象で起こした物だ。


 シバリングっていうのは冬などの気温が低い時、体の体温が下がったりすると身震いして体温を保とうとする行動の事で俺はその機能を利用して体から凄まじい熱を生み出しているんだ。今の状態ならこの極寒地獄であるアイスヘルでも体温を維持できるから凍死する心配はなくなった。


 だがここまでの熱を生み出す為に相当なカロリーを消耗しちまっている、長期決戦は俺の身が持たないだろう。


「速攻で決めるぜ!」


 俺は解凍した腕も使い両腕でのフライングナイフやフォークで昆虫たちを迎撃していく、それをかわす昆虫もいたが透かさず朱乃が矢で撃ち抜いていく。


(よし、隙間が出来た!)


 両腕が使えるようになったことで攻撃の激しさが増し虫たちの包囲網に穴が出来た。俺は朱乃のサポートを受けながらトミーロッド目掛けて大きく跳躍する。


「喰らえ!10連……!!」


 俺は10連釘パンチをトミーロッドに当てようとしたが奴の口の中から見えた得体のしれない生物を見て攻撃を中断する。そしてバク中で一旦距離を取るとフライングフォークで攻撃した。


 だが奴は口からムカデを産み出してフライングフォークを防御する。


「はぁ……はぁ……」


 くそ、あの得体の知れない生物のせいで攻撃が出来ないな。かといってフライングフォークやナイフでは虫に邪魔されて奴まで届かない。


「イッセー、その幼稚なシバリングは一体後何分続くのかなぁ?」
「……ッ!?」


 どうやらトミーロッドの奴は俺が後数分しかシバリングを維持できないと読んでいるな。通常のシバリングは2時間ほどしか持続できない、それを過ぎると筋肉の震えは停止して体温は下がり始めやがて死に至る。


 だが俺のシバリングはおそらく電力にして数万Wのエネルギーを放出している、だから2時間どころか後数分しか維持できないだろう。


「……お前こそどうなんだ?あれだけの寄生昆虫を出したんだ、もうそろそろ限界に近いんじゃないか?」


 奴は体内から昆虫を産み出しているが無限にあるわけじゃないだろう、そんなのは生物の構造的に不可能だ。


 昆虫が羽化するにはエネルギーが必要だ、奴の体内から産まれるからにはトミーロッドの生命エネルギーを使っているのかもしれない。そろそろ奴もガス欠に近いんじゃないかと少しの期待を込めて俺はそう言った。


「そだネ……あと1000匹くらいが限界かな?」
「なっ……!」


 その時だった、俺の右腕に鋭い痛みが走り見てみると大きな蜂が俺の腕に針を刺していた。


「ナイフ!」


 蜂をナイフで切るが腕は大きくはれ上がり激痛が襲ってきた。こんなのがあと1000匹いるっていうのかよ!?


 腕の痛みで意識が朦朧としてしまいその隙を突かれて新たな蜂や昆虫が攻撃を仕掛けてきた。


「イッセー君、今助け……!?」


 朱乃は俺を援護しようとしたがトミーロッドは先程とは比べ物にならないほどの昆虫を一気に羽化させて吐き出した。その数はあまりにも多く朱乃をあっという間に飲み込んでしまった。


「朱乃!?」


 俺は朱乃の元に向かい昆虫たちを引きはがそうとするが数が多すぎてどうにもならない、それどころか俺の体にも虫たちがまとわりついてきた。


「マズイ!このままじゃやられ……!?」


 そしてその言葉を最後に俺自身も虫に飲まれてしまった。



――――――――――

――――――

―――


side:トミーロッド


「ふ―――っ、ふ―――っ」


 ボクの昆虫たちがイッセーと女を飲み込んだのを見て勝ちを確信する。流石にあれだけの昆虫を止めることはできなかったようだね、イッセー。


「クックック……アーハッハッハ!ザマーねぇ!そのまま虫たちのエサとして朽ちていきな、イッセー!!……グッ」


 歓喜の声を上げるボクだけど気怠さと気持ち悪さが一気に襲い掛かってきたので息を乱してしまった。


「さ、流石に1000匹を一気に産んだから体力を大きく消耗したな……」


 1000匹産みはボクの体内のエネルギをゴッソリと持って行ってしまうほどの荒技だ。まだ産めなくはないけどこれ以上エネルギーを消耗すると少し不味いな、体内にいる『コイツ』の為にも温存しておこう。


「さてと……」


 美食屋イッセーと女は片づけた、後は金髪とガキとヤクザとグルメ騎士をサクッと殺して下に向かった残りの奴らも殺そうっと。あっ、そうだ。役立たずのゴミ二人も忘れずに殺しておくかな。


「おや?」


 早速行動を起こそうとしたけどそこに金髪とガキが立ちふさがった。


「ここから先には行かせません……!」
「僕達が相手だ!」


 くだらない。ボクは素直にそう思ったよ、ボギー達を倒せて天狗になっているのかな?さっさと脅して動けなくして虫たちに始末させるか。


 僕は殺気をこいつらに叩き込んだ。でもちょっと驚いたよ、ボクの殺気を受けても怯まず向かってきたんだ。


「へえ、ボクの殺気を受けても向かってこれるなんて流石はイッセーの仲間ってことはあるのかな?」


 まあ驚いたのはそれだけだけどね。ボクは向かってきたこいつらを軽く蹴飛ばしてあざ笑う。


「ぐはっ!?」
「あうっ!?」


 地面に倒れるゴミ共、所詮はこの程度だね。


「さてと、ここは寒いし早く事を済ませてセンチュリースープを確保しに行こうかな」


 後ろを向いてその場を後にしようとするボク、でもそこに剣が飛んできてボクの足元に突き刺さった。


「い、いいのか?僕達を殺さなくても?確実に殺したことを確認しないときっと後悔することになるぞ……」
「……あ?」
「貴方が強い事なんて百も承知です。でも『窮鼠猫を嚙む』という言葉がありますよ?私達だってこのまま終わるつもりはありません。追い詰められた鼠ならぬ猫の恐ろしさを思い知らせてやります……!」


 ゴミ共はそう言って立ち上がるがそこにボクの虫たちが襲い掛かった。


「なっ!?」
「きゃああぁぁぁ!?」
「バカじゃないの?お前らの命なんて眼中にねーんだよ、カス」


 後の始末を虫に任せてこの場を去ろうとする、だがあのガキ共が言った言葉が妙に頭の中に残っていた。


『確実に殺したことを確認しないときっと後悔することになるぞ……』
『追い詰められた鼠ならぬ猫の恐ろしさを思い知らせてやります……!』


 ……くだらない、あんなゴミ共の言ったことを真に受ける気か?そう思いながらもボクはイッセーの方に視線を向ける。


(……何故倒れない?)


 イッセーは膝立ちのままでその場に立っていた、今頃虫たちに食い殺されているだろうがそれなら死体は倒れるはずだ。なのに何故未だに倒れないんだ?


(本当に死んだのか?)


 スープを手に入れるにあたって一番の障害となるのは間違いなくイッセーだ。もしあいつが生きていたら不意をついて攻撃してくるかもしれない。万が一それが当たってしまったら面倒だな、痛いのは好きじゃないし。


「やはり虫どもでは安心できないな……」


 よし、あのゴミ共の言ったことを実行してやろうじゃないか。ボクの手でイッセーの心臓をつぶして確実に殺そう。


 ボクはそう決断すると迷うことなくイッセーに向かっていく。


「確実に殺しておこう、イッセー!二度と這い上がれない深淵に深く沈みな!!」


 そしてボクの一撃がイッセーの心臓をつぶして……


「よう。やっとこうやってお近づきになれたな、トミーロッド……」


 だがボクの攻撃は何かに捕まれて止められてしまった。そして虫たちが四散していきそこから現れたのは赤い鎧を纏ったイッセーだった。


 ボクは即座に反撃しようとするが腹部に痛みを感じた、それはイッセーの腕だった。


「10×2で20連!ブーステッド・釘パンチ!!」


 凄まじい衝撃を受けたボクは乱回転しながら氷の壁に激突した。そしてゆっくりと立ち上がるが口から大量の血が流れ出て膝をついてしまう。


「何故……生きている?その鎧で虫たちの攻撃をガードしたのか?」
「生憎それだけ長くは意地出来ねえんだ。鎧を出したのはお前を攻撃する為さ」


 イッセーは鎧を解除するとボクに向かって歩いてくる、だがその際に奴の体から漂うある匂いを嗅いで心底不快な気分になる。


「お前、その匂いは『精油』……エッセンシャルオイルか!?」


 ボクの最も嫌いな匂い……『フォトンチッド』を自ら生み出しやがった。グルメ細胞の持つ自己防衛本能が働いたのか?どの土壇場で?


「これでもう虫たちは襲ってこない。ようやくお前とサシでやり合えるって訳だ!」


 イッセーはボクの眼前まで来ると見下すようにボクを見ていた。


「立てよ、トミーロッド。ここからは本当の野生の勝負だ、俺の野生をお前に存分に教えてやる……!」
「バカが……虫たちに殺されていた方が良かったと後悔させてやる……!」


 怒りの形相を浮かばせてイッセーを睨むボク、だがそこに少しだけの期待感と充実感を感じていた。

 
 

 
後書き
 イッセーだ、漸くトミーロッドに一撃を喰らわせてやれたぜ。だが相手はあのヴァーリと同じ副料理長の肩書を持つ男、一筋縄ではいかねえ。俺も持てるすべての力を発揮して奴に挑むぜ!


 次回第60話『野生の勝負!トミーロッド、本気の強さ!!』で会おうな。


 ん?小猫ちゃん達の様子がおかしいな……!?っま、まさかっ!? 
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