| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

グランバニアの食文化と宰相閣下の扱い方

 
前書き
ヘンリー等がアサルトライフルの視察に来る前の話 

 
(ラインハット城:プライベートエリア)

ラインハット城内の王族用生活エリアの一室で、とある夫婦が会話をしている。
次世代のラインハット国王である第一王位継承者のコリンズ王太子夫婦だ。
王太子妃であるポピーは身籠もっており、かなり目立ってきたお腹を愛おしそうに摩りながら10ページも無い小冊子を熟読している。

「それかい、君の可愛い妹君が持って来た情報誌ってのは?」
「ええ、私の可愛い妹のリュリュが誰彼構わず配り回っているサラボナ通商連合が全世界向けに発行した無料旅行冊子よ」

そう言うと近付いてきた夫に冊子を渡すポピー。
受け取ったコリンズも表紙を見て、肩を竦めながらそこに書かれている文字を読んだ。
『今、グランバニアが熱い! 2年後には世界中の猛者が集まる武闘大会開催!』

コリンズは妻をからかう様に冊子の見出しを読み出した。
「恥ずかしいから声に出して読まないでよ!」
「君の故郷の事だろ……恥ずかしがるなよ(笑)」

「恥ずかしいわよ、内容とそれを持って来たリュリュの考えが!」
「内容? どれどれ……」
コリンズは妻に促されるかの様に、手にした小冊子のページを捲る。

そして今度は声には出さずに内容を読み進めた。
その内容とは……

『今、旅行に行くならグランバニア王国だ! 2年後に迫った武闘大会の為、日々発展し続ける町並みの他に、直ぐにでも体験して欲しい他国には無いモノがある。それは何かというと……食文化だ!!』
「しょ……食文化ぁ!?」

冊子を読んでたコリンズが思わず声を出す。
そんな夫を見て、溜息で先を読む様に促すポピー。
そして再度冊子へと目を落とした。

『グランバニア王国は現国王が王位に就いて20年ちょっとの時が経過している。その中で最近になって新たなる食がグランバニアでは流行しているのだ』
知らなかった情報に思わず妻を見るコリンズ。

「へー……ポピーは知ってるの?」
「まぁ……ね」
妻があまり言いたがらなそうなので、続きを読む事にする。

『グランバニア王国独自の食文化は多数あるが、今回は2つほど紹介しよう。そのうちの1つ……寿司だ!』
「寿司?」
「美味しいわよ」

『寿司は非常に美味なのだが、どのようなモノか知ると顔を顰める読者もいるだろう。だが食せず判断するのは間違いだ。その旨さたるや神秘と言っても過言じゃ無い』
「どんだけ美味いんだ?」
「輸入したくなるくらいよ」

『さて……では寿司がどのようなモノか説明しよう。酢を適量混ぜた白米を一口サイズに握り、その上に生の魚介類の切り身を乗せて醤油を少量付けて食す! 生の魚介類と聞いて生臭い食べ物を想像する読者も多いだろうが、この寿司はそんな事無い。酢飯と醤油……そして人によっては好みの分かれるワサビという香草を摺りおろしたモノを間に挟むのだが、想像しているより臭みなど無いのである』

「俄には信じがたいな……」
「私も最初はそう思ったわ」
冊子に書いてある通り顔を顰めるコリンズに、優しく否定を入れるポピー。

『この寿司には数多くの種類があり、上に乗せる食材(この食材の事を“ネタ”と言う)で注文する。マグロ・サーモン・真鯛・アナゴ等々あり、また別の形態ではあるがイクラ等を酢飯の上に乗せ溢れない様に海苔と呼ばれる海藻を紙の様に広げ乾燥させた食材で包む寿司も存在する』

「魚介類の種類によって形態も変わるのか……」
「そこには書いて無いけど、海苔と酢飯でネタを棒状に巻いた寿司もあるわよ」
寿司経験者の妻に感心するコリンズ。

『さて……次の食文化を説明しよう。次の食はラーメンと言う名でグランバニア王国内に浸透している食べ物だ。これも食材の内容によって多数の種類に分かれるのだが、ラーメンも他には無い独特の食文化である』

「ラーメン? これも聞いた事無いなぁ」
「そりゃそうでしょ。グランバニア発ですから」
妻の言葉に“まあそうか”と納得しながら冊子を読み進めるコリンズ。

『このラーメンと言うモノは、その食し方に些か抵抗を感じる食べ物だ。説明すると、小麦粉を主成分に卵等を練り込み仕上げた生地を細く裁断しパスタの麺の様にする……そしてその麺を各種スープに入れて食すのだ。そのスープが醤油仕立て・味噌仕立て・塩仕立て・豚骨仕立てと様々ある。味は人それぞれ好みが分かれるだろうが食べ方は共通で、ホークやスプーンの代わりに箸と呼ばれる二本のステックを駆使して、麺にスープを絡ませて口に入れ、そして勢いよく啜るのだ!』

「え、啜るの!? 下品じゃ無いかな?」
「他の食事だったら下品よね。ズルズル音を立たせるからね」
本日2回目の顔を顰めさせ、ポピーの説明を聞く。

「ラーメンはそういう食べ物なの。食事マナーは一辺倒じゃ無いって事よ」
「なるほど……流石はグランバニア。既存のマナーは通用しないか。ポピーの故郷だけあるな(笑)」
ディスる様に褒め、続きを読み始める。

『何故今回、この2つを紹介したかというと、この両方が同一人物によって考案されたモノだからだ。その人物というのが……何とグランバニア王国の現国王であるリュケイロム陛下によって発明されたのである!』

「凄いな……でも誰? ここにアンダーラインを引いたのは?」
「リュリュに決まってるでしょ。大好きなパパの偉大なる偉業を解りやすくして、大量にこの冊子を配り歩いているのよ……恥ずかしい」

「彼女らしいけど、配る全部の冊子にアンダーラインを引いてるのか? 先刻(さっき)父さんにもデール陛下にも配ってたけど……」
「根が真面目な娘だからね。間違いなく全部……しかも大量に!」

「はぁ~……色んな意味で凄い家系だな」
「私を見て言うな!」
解っていた事ではあるが、それでも笑ってしまうコリンズ。

「あれ? 君は両方とも食べた事あるのに、あまりラインハットで布教しようとしないね……何で? 美味しいんでしょ両方とも」
「美味しいわよ両方共ね。でもねお父さんが考案した事だから……」

「尚のことだろ? 君だってある種のファザコンじゃないか」
「そうよ、私もお父さん大好き娘よ。でもねリュリュと違って私はお父さんを理解してるの。自身が考案したモノを世界に自慢する様な人じゃないの。それを解っているから、私は自然に世界へ流行るのを待っているの。『私のお父さん凄いのよ。皆も食べてね♥』なんてしたら、間違いなく嫌がるからね」

「……なるほど。アンダーラインまで引いて配ってる娘が……なるほど」
「恥ずかしい限りよ」
『私のお父さん凄いのよ。皆も食べてね♥』な行動をしている娘を慮り天を仰ぐ夫婦。

「でもまぁ……美味しいのなら俺も食べてみたいなぁ」
「じゃぁ今度食べに行く? 丁度サラボナのルドマンさんが、グランバニアが発明した新兵器の視察に行くって言ってたじゃない。お義父様も行くみたいだし、それに同行する形でグランバニアに行って空いた時間にウルフに奢らせましょう」

「何で、さも当然の様にウルフ宰相に奢らせようとするんだよ?」
「あら。ラインハット王太子殿下は知らないでしょうけど、ラインハット王太子妃は給料を貰ってないからお金なんて持ち合わせてないのよ。でもグランバニア王国のナンバー2である宰相閣下なら、捨てるぐらいお金を貰ってるでしょうから、消費する手伝いをしてやろうって事よ」

「なんて言い草だ。ウルフ君キレるぞ」
「あんなヘタレ、怖くないわ」
国際問題にならないのが不思議だと思いながら、妻には逆らえない夫は大人しく状況を見守るのである。

間違いなくグランバニア宰相と言い争いをする未来を想像しつつ……



 
 

 
後書き
寿司もラーメンも美味しいよね。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧