| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ある晴れた日に

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

591部分:誰も寝てはならぬその九


誰も寝てはならぬその九

「あのまま」
「教室の中でもね。ずっとそれぞれの席で座ったままだったわ」
 千佳はその千佳の横に立っていた。
「あんな咲ちゃん達って」
「そうだね」
 加山は少し離れた場所に立っていた。
「あれはね。ちょっとね」
「いつも五人、いや六人集まってたから」
 また言う千佳だった。
「いつも」
「それによ」
「あいつ等もな」
 並んで入り口のコンクリートの壁に背をもたれさせかけて座っている野茂と坂上が言ってきた。
「どうよ、あれ」
「急に弱気になってきたからな」
「あいつ等もな」
「困ったことにな」
「そうだね」
 二人の言葉に頷いたのは竹山だった。
「うちのもね」
「野本が弱気になるなんてね」
 明日夢はそれが意外だという顔になっていた。彼は真ん中寄りに立っていた。
「あいつだけはそれはないって思っていたのに」
「そうよね。ただの単純馬鹿だと思っていたわ」
 茜の今の言葉はいい意味においてである。
「けれど違ってたのね」
「そうだね。それに」
 桐生が応えてきた。
「二人もだから」
「皆大丈夫かしら」
 千佳はまた暗い顔になった。
「このままだと。もう」
「いえ、大丈夫よ」
 だが恵美はここで皆に強い声で言うのだった。
 そうしてだった。その皆に再び話すのだった。
「一人は絶対に揺れないから」
「一人はって」
「それは」
「あいつよ」
 まずは名前を言わなかった。
「あいつは揺れてないから」
「音橋のこと?」
 明日夢はすぐにそれが誰のことか察した。
「あいつのことよね、それって」
「そうよ」
 その通りだった。恵美が言っていたのは彼のことだったのだ。
「あれは動かないわ。揺れないわよ」
「じゃあ絶対に未晴の為に」
「だから大丈夫よ」
 彼のそのぶれなさが根拠だというのだ。
「あいつがしっかりしているから」
「安心してるのね」
「私はそう思うわ。だから今は」
「今は?」
「私達のできることをしましょう」
 また皆に言うのだった。
「今まで通りね」
「それじゃあ今日もあれか」
「行くっていうんだな、見舞いに」
 具体的にはそれをするというのだった。
「あいつのところにな」
「行くか」
「そうよ。具体的にはね」
 まさにその通りだと話す恵美だった。
「今日も行きましょう。お見舞いにね」
「よし、じゃあそうするか」
「行ける奴でな」
「じゃあ皆」
 今度は明日夢が皆に声をかけてきた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧