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ある晴れた日に

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592部分:誰も寝てはならぬその十


誰も寝てはならぬその十

「今日は私が出すから」
「何を出すの?」
「クレープよ」
 にこりと笑って加山の問いに答えた。
 そうしてこんなことを言うのだった。
「我がスタープラチナの誇るクレープをお見舞いに持って行くから」
「クレープか」
「それかよ」
 まさにそれだと返した野茂と坂上だった。
「まあいいと思うけれどな」
「俺も。御前の店のクレープって美味いしな」
「クレープは最高のお菓子の一つよ」
 こうまで言う明日夢だった。
「だから余計にね」
「持って行くのね」
「そういうこと。さて、クレープを持って行って」
 それはもう決まったのだった。今回の見舞い品はそれになった。
「それで皆でね」
「ああ、そうだな」
「それで行きましょう」
 他の面々もそれで頷いた。
「あいつの行った先が気になるけれどな」
「それもな」
「奈々瀬ね」
 茜は野茂と坂上が誰のことを言っているのかすぐにわかった。
「あいつが何処に行ったかね」
「携帯つながるか?」
「俺達の方は駄目だけれどな」
「こっちもよ」
 実際にメールを打ってみた。しかしそれは全くだった。
 茜はそれを見てだ。残念な顔で携帯を制服のポケットに収めた。
「駄目よ」
「そうか、やっぱりな」
「あいつ携帯も切ってか」
「奈々瀬気が弱いから」
 明日夢はこのことから心配していた。
「だから何かあったら」
「そうね。今頃街中を彷徨ってるわ」
 恵美はこのことをまるで見透かした様に述べた。
「多分ね」
「そうなの。街の中を」
「戻って来るわ」
 恵美はここでも見透かしていた。
「絶対にね」
「戻って来るの!?」
「あの娘と未晴の絆も深いものよ」
 だからだというのだ。彼女が戻って来ると。
「だからね。絶対にね」
「その言葉信じさせてもらうよ」
 桐生の言葉は真摯なものだった。
「それでいいね」
「ええ。信じてくれていいわ」 
 恵美はその彼に冷静な言葉で返したのだった。
「きっとね」
「さて、それじゃあ」
 ここで話が一段落した。するとそれで彼女は言葉を変えてきたのであった。
「返りましょう」
「そうね。じゃあ」
「もうお昼休みも終わりだしね」
 千佳と加山がそれに応えた。
「帰ろう、これで」
「クラスにね」
 こう言い合ってその屋上から去った。そうして彼等は彼等のやれることをするのだった。
 その夕方坪本はバイクに乗っていた。その背にはあの加住がいる。
 二人はひとしきり走った後で川辺で止まった。そのうえでヘルメットを脱ぎバイクに並んで腰掛けてそのうえで休息に入ったのであった。
「ねえ」
 するとだった。加住がすぐに彼に声をかけてきたのであった。
「ちょっといいかしら」
「何だよ」
「今の坪君ね」
 その彼を見ながらの言葉である。
 
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