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ある晴れた日に

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590部分:誰も寝てはならぬその八


誰も寝てはならぬその八

「今はね。落ち着いてよ」
「そうかよ。じゃあ」
 それを聞いて遂に落ち着いた春華だった。
「わかったよ。じゃあな」
「ねえ凛」
 明日夢は彼女に声をかけた。
「もう少しだけ考えてみてね」
「え、ええ」
 凛にはいつもの明るさはなかった。仲のいい、あまりもの仲のよさに怪しいものまで囁かれる明日夢の言葉に対してもであった。
「そうね」
「静華もよ」
 茜は彼女に声をかけた。
「わかったわね」
「わかったわ」
 力のない返答だった。普段の能天気とまで言える明るさは何処にもない。凛と全く同じだった。
 そしてだった。彼女達だけではなかった。
「なあ」
「ああ、そうだな」
 坪本と佐々が顔を見合わせていた。
「何かよ、そんなのが相手だしよ」
「竹林だってな」
 二人も五人と同じ考えになってきていたのだ。
「あんなのだしな」
「ちょっと考えるべきじゃねえかな」
「だよな」
「ああ」
 こんな話をするのだった。そして牽引役になっている野本も何時になく沈黙してしまっていた。彼にとっては珍しい深刻な顔になってしまっていた。
 従兄弟の声にもだ。何処か虚ろに返すのだった。
「あのね」
「わかってるさ」
 こう言うだけだった。
「けれどな」
「そうなんだ」
「今はちょっと静かにさせてくれ」
 従兄弟に対して告げた。
「頼むな」
「わかったよ。じゃあ」
 ここで全員別れた。そしてその時に牧村が来た。彼は今日も自分の席でギターを奏でていた。そして音楽と彼女を見ているのだった。
 その日の昼休みだった。明日夢達は校舎の屋上に集まっていた。そこは四方を高いネットで覆われ青いベンチが幾つか置かれていた。だが誰もそこには座らず入り口のコンクリートのところに集まってそのうえで話をしているのだった。
 五人はいない。そして坪本と佐々、それに野本もいない。残ったメンバーでそれで話をしているのだった。
 空は青い。そして白い雲がまるで千切られた綿の様にそこに散りばめられている。その中央に白い太陽が眩い光を放ってそこにあった。
 その下で彼等はそれぞれ立ったり座り込んだりしている。最初に立って腕を組んでいる明日夢が入り口の建物の上に座っている恵美に言った。
「春華止めたけれど」
「あれね」
「あれでよかったのかしら」
「少なくともあのままの流れは止めたわ」
 そう答えるのだった。
「それはね」
「そうね。あのままだったら春華は」
 どういった行動を取るのかもうわかっていた明日夢だった。
「三人に殴り掛かってたわね」
「そうなってもどうにもならなかったわ」
 こう言うのだった。
「それでね」
「そうね。それはね」
 確かにその通りだと答えた明日夢だった。
「あのままだったら」
「それは止めたわ」
「ええ。けれど」
 また言う明日夢だった。
「どうなのかしら。それで」
「それで?」
「その春華達よ」
 彼女達だというのだ。
「あのままでいいのかしら」
「そうだよね。本当にね」
 彼女の隣でコンクリートの上に座っていた桐生が言う。
「このままだと本当に」
「壊れるんじゃないかしら」
 茜は入り口のところで立っていた。
 
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