星河の覇皇
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第七十一部第四章 引き継ぎその十
「エウロパは違うんですね」
「士官は給与が高い」
「だからそうしたバーでもですか」
「経営が成り立つとのことだ」
「お貴族様優勢ですね」
「そうなる」
マティーニを飲みつつの言葉だ。
「いいものではないな」
「全くですね」
「私はパブも好きだというのにな」
「まあこの店はバーですが」
洒落た、だ。バーテンダーも白いブラウスに黒の蝶ネクタイにベストとジャズの趣を出している洒落た格好である。髪型も整えている。
「パブにはパブのよさがあります」
「そうだな」
「でかいジョッキで飲んだり」
「それがいいが」
「エウロパでは士官は、ですね」
「残念なことにな」
オグモは自分を軸にして述べた。
「出来ない」
「それも難儀なことで」
「兵士はカクテルを飲めない」
バーではだ。
「そうした社会ということだ」
「私にしてはどんどん飲んで欲しいですがね」
「儲けになるからか」
「それもありますが」
にやりと笑ってだ、バーテンダーはマティーニをまた一杯飲み干したオグモに対してお代わりを差し出してから言った。
「どんどん飲んでもらうとです」
「バーテンダーとしてはか」
「嬉しいものですよ」
「自分が造ったカクテル、店にある酒をか」
「どんどん飲んでもらいますと」
それがというのだ。
「嬉しいものです」
「バーテンダー冥利に尽きるか」
「そして酒を売る人間としてもです」
「有り難いか」
「はい、仕事ですから」
バーテンダー、そして店の人間のそれであるからだというのだ。バーテンダーは別の客のカクテル、ジントニックを造りつつ話した。
「売れて何よりです」
「そうなるか」
「軍人さんで言うと戦いに勝つ」
「そうなるか」
「はい、だからです」
酒を扱う者としてはというのだ。
「まことにです」
「飲んでもらうことがだな」
「一番いいことです」
「誰もがカクテルをか」
「そして店のお酒を」
「彼等はあまりカクテルを飲んでいないな」
ここでまただ、オグモは兵士達を横目で見た。相変わらず賑やかに飲んでいるが飲んでいる酒は今はブランデーだ。二つの瓶にあるブランデーをそれぞれが氷の入ったグラスに注ぎ込んでそのうえでごくごくと飲んでいる。
「ブランデーか」
「今はそれを飲んでいますね」
「かなり勢いよく飲んでいるが」
「ブランデーは強いですがね」
「それでもだな」
「若いからですね」
「私も若い時はああして飲んでいた」
オグモは彼等を見てまた述べた。
「今は出来ないが」
「強いブランデーをどんどんと」
「そうそうな、あそこまでの勢いはな」
今はというのだ。
「ない」
「飲む量は変わらずとも」
「勢いは落ちた」
飲むそれがというのだ。
ページ上へ戻る