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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──

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序章
  二重奏の前奏曲 Ⅱ

『それでは、CQC形態バトルロワイヤル──始めッ!!』







さて──とベレッタを抜きながら、傍から見れば執拗なまでに──辺りを確認する。早速、悲鳴やら怒号やらが聞こえてきた。
噂には聞いてはいたが、やはりロクな人間がいないようだ。
かといって、こんな学校に進学したいという俺も俺なのだが。

はぁ……と一息つく暇もなく、右側から足音が響いてくる。コンクリート製の建物故に、物音は反響しやすいのだ。
しかし、足音を消さずに来るとは……余程の素人なのか。武偵中学生と言えど、それくらいは教わってそうなモノだが。


──視線を向ける。


ナイフ片手に駆けてくるのは、1人の男子生徒。見るからに体格もよく、徒手格闘ではこちらが不利だろう。
少しでも間合いをとるため、俺はクイックドローしたベレッタの引き金を引き、9ミリ弾(ルガー)を彼の足元へ撃ち込む。

それは予測済みだったのか、着弾する前に身体の軸の向きを変えて避けたソイツは、持てるだけの脚力を存分に発揮して──


「っ、はぁっ!!」


──俺の足元から、逆袈裟にサバイバルナイフを振りかぶる。当たれば御の字、避けられても捨て身の連続攻撃、といったところか。

勿論、そう簡単に当たってやるワケにはいかないな。俺だって入学しようと必死なんだから。
少なくとも、足音すら消さない武偵に負けてたまるか──!

振りかぶられたナイフの持ち手を足場に、俺は渾身の月面宙返り(サマーソルト)を放ってやる。
爪先に鈍い感触を感じるのも一瞬、着地して体勢を整えた俺の眼前には、脳震盪を起こして気絶していた男子生徒がいた。

背中がついているので、試験官の元に従えば、失格である。
そうしている間にも、あちこちで叫び声が聞こえてくる。まだまだ先は長そうだ。







──9階層。俺は何とか、ここに来るまでの間に出会った人間を倒しきることが出来た。
それほど強い、というワケではないのだが……全員何かしらの弱点や隙があり、ここまで来れたのはそれを上手く利用させてもらったおかげだ。

階層を制覇した人間なのに、この程度の力量か──と疑問に思うほどには。
そんな疑問を頭の片隅に置きながら、俺は忍び足(スニーキング)で金属製の階段を上り、10階層への移動を試みる。

出入口付近まで来た時、俺はマニアゴナイフを取り出した。
武器、というのもあるが──刀身を鏡にして、周囲の状況を確認することが出来るこの武器は、非常に使い勝手が良い。

片手にはベレッタ。片手にはナイフ。これが今の俺が出来る最善且つ、最強の対近接攻撃手段である。
武偵中で培った知識を反芻しつつ、俺は背を壁に預けて刀身を鏡にし、息を潜めながらそっと先の様子を窺った。


(誰か……居るな)


澄んだ光の中にしっかりと視認出来たソイツの後ろ姿は、大男と形容すべきか。
最初の男とは似もつかない、正真正銘の大男。これは──少しばかり、手強いかもしれないぞ。

ソイツは何かを感じ取ったのか、身体をこちらに向け──足音を殺して歩いてくる。
咄嗟にナイフを引っ込めたが、これは……見られたか?

足音こそ聞こえないものの、その気配はだんだん大きくなっていく。それはさながら獰猛な肉食獣のようで、扱いを間違えれば一瞬で終わる。そんな相手だ。


「──いるんだろ。コソコソ隠れてないでさっさと出てこい」


一帯に響き渡る、唸り声の如く低い声。声の反響から考えると、相対して5メートルといったところか。
にしても……バレてる、とはな。今の今まで奇襲攻撃を掛けた時は、バレることなんてなかったのに。


「……そう、簡単にはいかないか」


そう嘆息して、俺は警戒は怠らないまま、ベレッタとマニアゴナイフを構えながら室内へと飛び出す。
彼の大男を視界に入れた瞬間、張り詰めた空気が一帯を包み込むような気がした。
これは……威圧感、と形容すればいいのか。手強そうなことには変わりない。そうだと直感が告げている。


「……ほう」


何やら関心したように呟きを漏らした大男だが、コイツ──見るからに俺たちと同年代ではないぞ。20、いや、30代後半と言ったところか。

となると、コイツは試験官の1人と考えるのが賢明。陰から動向を窺っていた、ということか……!
何故だろうか──と訝しみ、その旨を端的に告げてみせれば、試験官から返ってきたのは、酷く抽象的な語。


「……言えることは、ただ1つ。『選別』。それだけだ」


選別──? と俺が眉間に皺を寄せた、その時。
ヤツは宣言すら無しに大男さながらの脚力でこちらの懐まで飛び込み、そのまま鳩尾に掌底を叩き込むモーションへと移行していく。

それも一瞬のことで、反応すら出来なかった俺は、それをモロに喰らい──数メートル後ろまで吹っ飛ばされていく。


「……っ、かはっ……!」


受け身すらとれずに壁に打ち付けられた俺は、即座に身の安全を確認する。骨折や内臓損傷の有無。このままで闘えるのか──という、判断材料を得る為に。

その是非を確定してみせれば、身体は朦朧とする意識の中でよろめきながらも立ち上がり、慣れた手つきでナイフを仕舞ってから、日本刀──《緋想》──を抜いた。


──刹那、俺が感じている全てが、まるで《緋想》の刀身の如く明瞭に感じられた。
研ぎ澄まされた、視覚、聴覚、嗅覚。一点の汚れもない、酷すぎるほどに澄んだ世界。

『明鏡止水』と呼んでいる俺だけの世界は、《緋想》によって創られたモノだ。
……否。《緋想》をトリガーとして、という方が正解か。


大男は訝しげな表情を見せつつも、そのまま1歩のみで俺の懐へと潜り込む。動体視力が捉えた大男は、中国武術の発勁(はっけい)の構えをとった。


──流石に、速いな。


そう嘆息した瞬きの刹那、視界は明瞭なスーパースローの世界へと変わっていく。
《明鏡止水》だから成し得る、俺だけの世界。止水、或いは緩りと流れゆく流水の如く、時は流れていく。

瞬時にベレッタを収めた俺は、逆手で《緋想》を薙ぎつつ、最初のようにヤツの手を踏み台にして、月面宙返りを叩き込む。

しかし、それが反応出来ないワケじゃないだろう。腐っても武偵校の職員。《《普段の》》俺なんかが余裕で勝てるような相手じゃないハズだ。


──それは普段の俺なら、の話なのだが。


そして予想通りに事は進み、蹴り上げようとしていた足は片手で受け止められる。横薙ぎに振るった《緋想》も、手の動きそのものを止められた。


「……この程度か」


宙吊りの姿勢を余儀なくされた俺は、勝ち誇ったように呟く男目掛け、内心で「それは何方(どっち)の台詞なんだろうね?」とほくそ笑んでから──


……刹那。響き渡るは、轟音と聞き間違わんばかりの、反響音。
持てるべく脚力を存分に発揮した成果であり、彼の者を屠るべき一撃であり、そして何より、《明鏡止水》の恩恵でもあり。


──天井を踏み台にし、大男の額目がけて……脳震盪で済むほどに威力を落とした発勁(はっけい)を叩き込んだ。
驚愕に目を見開いた大男の顔が面白くて堪らない。

直後、その巨漢がグラリと後ろ向きに傾く。緩んだ足の感触を振り払い、俺は一回転して着地した。
鈍い音が響き、床が僅かに揺れる。埃がそと、舞い上がった。

油断大敵とはコレだろうな──と安堵したのも束の間に、3連バーストの銃撃音を《明鏡止水》の聴覚が捉えた。

恐らく、横薙ぎに、俺の頭部を狙った射撃。容赦ないヤツだ ──と思いながら、クイックドローしたベレッタの銃弾とあちらの銃弾を、持てるべく動体視力を利用して相殺する。

1つにも聞こえそうな3つの金属音は互いに跳ね返り、床や壁へと新たな傷を付けていく。
《緋想》とベレッタを構え、俺は視線をそちらに向けた。


「……ご親友のお出ましか。ご苦労さま」







俺と目が合うやいやな、口角を上げて笑う彩斗。
それは先程まで見た笑みとは僅かに違く、しかし、俺だからこそ理解出来たモノ。

なっている……のか。アレに。あの世界に。彩斗が手にしている日本刀──《緋想》──が、それを暗に物語っている。


「本当にお前と手合わせることになるとはな。ここまで来て言うことでもないが……出来れば、お前とやり合いたくない。《緋想》を抜いたお前は──《明鏡止水》だろ?」
「その言葉、そっくり返していいか? ……普段のお前が最上階からここまで来れるとは考え難いな。
そして、頭部への正確な射撃。あれが出来る今のお前は──HSSに他ならない。
……どうやら、筆記試験後に廊下で出会った時からなっていたみたいだが」


微笑を湛えて問う彩斗は、俺の違いに気が付いたらしく。
しかし、それは俺だって同じこと。だからこそ──やり合いたくないのだ。《明鏡止水》である、彩斗を相手に。

……というか、普段の俺の言われようが酷いな。確かにそれほど強くはないが。

HSS──正式名称、ヒステリア・サヴァン・シンドローム。
これこそが俺が持つ特異体質で、所謂、遺伝系の精神疾患だ。
性的興奮をトリガーとして発動され、それと同時に脳内のβエンドルフィンが過剰分泌されることにより……常人の凡そ30倍の身体能力を引き出すことが出来る。

つまり、意図して行ったというワケではないにしろ──《《そういうこと》》は起こってしまったのだ。不幸にも。
対して彩斗の《明鏡止水》は、《緋想》を抜刀した時のみ発動される。

《緋想》は妖刀と呼ばれる中でも封印刀の一種であり、ソレが抜刀された時は、《明鏡止水》の発動と彩斗自身が持つ《《超能力》》の増強を意味するのだ。

曰く、陰陽術。彩斗の始祖である安倍晴明から代々と業を継ぎ、大成されてきた超能力の一種。
ただでさえ桁違いな能力を持つというのに、その威力が更に跳ね上がったワケだ。

何度もソレを目にしてきている俺からすれば、相手にはしたくない。絶対に。


「安心しろ、キンジ。今のお前なら──Sランク合格は確実だ。だから存分に負けていいぞ」
「待て。何で闘う前提で話を進めてるんだ、お前は」


特段、《明鏡止水》だから好戦的というワケでもない。普段から好戦的なワケでもない。
……これはつまり、彩斗なりの冗談。軽口ということだ。

安堵しつつ天井を仰ぎ見た時、キラリと光を反射する何かが視界の端で姿を見せた。
あぁ──やっぱり、闘わなくちゃならないかもな。嫌でも。
俺はそれらを指さし、彩斗へと告げる。


「なぁ、気付いてるか? 一帯に配置された監視カメラの数々だ。恐らくだが……あれで監視してるんだろうな、俺たちのことを。レプリカかもしれないが」
「……ふぅん。力量があっても、態度によっては不合格ってことも有り得るのか。じゃ──始めようかな」


天井を見渡しながら軽い口調でベレッタを構えた彩斗は、間髪入れずに俺の頭部目掛けて発砲した。

それをHSSの動体視力によって上体を反らすことで避け、起き上がった反動でフルオート射撃をお見舞いしてやろうと思ったのだが──どうやら、俺の思い通りにはいかないらしい。

いつの間にか肉薄し、背を屈めた彩斗は、《緋想》を逆袈裟に振りかぶってくる。「身体を起こしたら斬るぞ──」と言わんばかりに。

仕方なくそれをバク宙で避け、当たれば御の字と顎目掛けて蹴りを放つ。感触が感じられないことを確認しながら着地した俺は、銃口を防弾制服へと向けて──引き金を引いた。

銃弾は右螺旋状に回転し、超速ともいえる速さで飛来していく。
彩斗はそれを《緋想》で一刀両断にすると、再度、俺の元へと肉薄してくる。

……くっそ、銃弾を一瞬で真っ二つにするなんて──どんだけ斬れ味いいんだよ、あの刀っ!!

胸中でそうボヤキつつ、俺はバタフライナイフを開き、振りかぶられる刀と交差させるように刀身を当てた。火花が激しく散り、鍔迫り合いになる。
そして互いに起こす行動は、1つ。


──焚かれたマズルフラッシュは、ほんの一瞬で。


銃口から放たれていく銃弾は、全て彩斗の頭部目掛けて飛来していく。俺の方が、僅かの差で発砲するのが早かったのだ。
しかし、これは──どうやって対処する? 避けようがないぞ。

そんな俺の期待と不安半々、彩斗は視線を銃弾に固定したまま、術を発動するための範囲を《《指定》》し、直後、眼前に《《境界》》を展開した。

発動の直前は視線が固定されると知ってはいても、中々に対応しにくいのだ。

これは、時空間移動術の一種。あの境界は時空を繋ぐ働きを持っているらしく、物体の移動手段として最適なのだと──彩斗が言っていた。

しかも、物体にかかったエネルギーは潰えることがないのだから、今回に至っては恨めしい。

瞼のような形をして展開されたそれは、銃口から放たれた銃弾を吸い込んでいく。
それを確認した彩斗は、静かに瞬きをして境界を閉じ──


「……こんなモンだな」


呟いた彩斗は俺と距離をとりながら腕を掲げ、自身の背後に扇状の境界を展開させた。そこから放たれていくのは、俺が先程発砲した、銃弾。

彩斗はそれを己がモノにし、攻撃手段へと変えたのだ。
俺の身体スレスレを通過していった銃弾は、壁にめり込み、傷痕では済まない弾痕を残していく。

コンクリートを抉る音が止んだ時、試験終了を知らせるブザーの音が、一帯に鳴り響いた。







・如月彩斗:強襲科入試試験、Sランク合格
・遠山キンジ:強襲科入試試験、Sランク合格
 
 

 
後書き
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