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ソードアートオンライン~性別不詳の槍術士~

作者:araiittetu
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2.開幕・回り始める歯車

 
前書き
まだまだ本格的攻略は起こりませんですともええ。
もう少し導入は続きます。 

 
 鐘が鳴り止むころ、俺たちは『はじまりの町』の広場にいた。

 そこにいたのは大勢のプレイヤー達。正確な人数はわからないが、もしかすると現在アクセスしている全プレイヤーが集まっているのかもしれない。

 広場は喧騒に包まれていた。どうしてこの場所に集められたのか。なぜログアウトできないのか。運営側からの連絡が未だにないのはどういうことか。その怒りと戸惑いの声は広場全体を包み込み、今にも爆発しそうな雰囲気だった。

「あっ……上を見ろ!!」

 どこからか聞こえた誰かの声。

 それにつられるように上を見上げれば、赤く染まる空が、さらに濃い、真紅の市松模様に彩られていた。よく見ればそこには【Warning】と【System Announcement】の文字が同じ赤いフォントで書かれている。

なるほど。こうやって運営からのメッセージを送信するのか。でもそれなら、どうしてこの広場に全員を……。

 そこからの変化は劇的だった。真紅のシステムメッセージからどろりと流れ落ちる赤い液体は地面に落ちることなく、空中でその姿を変えていく。

 その広場を埋め尽くさんとするほどの赤は、20メートルはあろうかというほどの赤いフードつきローブをまとった人間の姿にへと形を変えた。顔が映らないその頭部は、さながら悪い魔法使いかラスボスのような雰囲気を纏い、俺たちをその薄暗い闇が覆う顔で見下ろした。

 周りから出る声は、戸惑い。一体これは何なのか。チュートリアルの途中かゲームのバグなのか。誰もがこの状況を理解できず、不安だけが広がっていく。

 ローブの男が動く、その動作は妙にゆったりと、けれども何処か堂に入った動きで両手を大きく広げた。そして聞こえるのは低く、落ち着いた声。

「プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ」



・・・・・・NOWLODING・・・・・・



 そこで聞かされた内容は、簡単に信じることのできない内容だった。

 曰く、脱出不能のサバイバルゲーム

 曰く、蘇生不能のデス・ゲーム

 曰く、脱出のすべは唯一つ

 このゲームを、クリアすることだけ。

 外からの介入は不可能。行おうとすればその者の脳はナーブギアによって電子レンジよろしく温められ、数秒後にはこんがり焼きあがるという状況らしい。回線の切断。電池切れ。どんな状況でも現実に戻ることはできない。

 茅場晶彦の作り出した世界。それを観賞するこの状況こそが彼の目的。その目的のためか。先ほどまでとの違いがこの広場全体に起こっていた。

 広場に集まったの眉目秀麗の男女はもういない。どこにでもいるような男性たち。どこにでもいるような女性たち。魔法から解き放たれ現実の体に戻された彼らは、怒鳴り、喚き、叫んでいた。既に消えた男を呪い、叫んでいる。

 茅場晶彦から『プレゼント』と称し、渡されたアイテム『手鏡』

 それにより顔を初めとした身長、体重、体の部位を始めとした全てが現実のものと置き換えられた。

 なぜ?どうして?

 疑問から現れる声は先ほどからどんどん大きくなり、一種の狂気にも思える雰囲気を形成していた。

 その行為が、全く意味のない行為と知らずに、何も変わらない無駄の積み重ねと知らずに。
 拳を握る。先ほどまでの太く、凛々しい腕じゃない。どこまでも白い華奢な腕。背は少しだけ縮み、髪は先ほどまでの短髪ではなく、腰まで届くロングヘア。そして顔は、どこまでも女らしくあった。

 もうこの顔は先ほどまでここにいた『サク』ではない。ここにいるのは紀野枝真人(きのえまきと)。俺が最も長く付き合い、最も忌み嫌うおれ自身の顔。

「……やれるものなら、やってみな」

 誰が負けてやるものか。

 誰か逃げてやるものか。

 誰が泣いてやるものか。

 恐怖は、ある。先ほどから喉の水分を否応なく吸い取っていく。どうしてこうなったのか。どうして俺がこんな目に遭うのか。そこまで悪いことをしたであろうか。

 足は先ほどから震えが止まらない。頭の中はある筈のない心臓の音がガンガンと鳴り響き、霞むことのない無い視界はぼやけはっきりとしない。このまま気を失えば、全てが夢であったなんてご都合主義全体の物語が巻き起こるかもしれない。このまま宿に篭り、誰かがクリアするまで待てばリスクを冒すことなく生き残れるかもしれない。そんな甘い考えが。頭を駆け巡る。

 しかし、けれど、だからこそ出来ない。してしまえば俺は負ける。この顔に、この運命に、こんなものを押し付けた人ならざる何かの意思に。漠然とした不安。堕ちることへの、腐る事への不満。そんな人間になることを認められない。認めたくない。

 強くなければ生きていけない。とは、誰の言葉だったか。少なくともこの状況では、的を得ている言葉。だからこそ、俺は――

「やれるものならやってみな!」

 叫ぶ。天に届けと。聞こえるはずのないこの計画の実行者へと。

 奮い立つように。絶望に負けないように。この狂気に抗うように。

 誰も彼もが自分の声を、意思を認識しないこの世界で。

 彼らにとって俺は有象無象の一人であり、今は俺のようなものにかまっている暇など無い。それよりもこの現状を変えるために怒鳴り続けている。それが実を結ぶかどうかは別として……。

 俺は広場を離れるように歩き出した。

 決意が鈍らないうちに歩き出さなきゃいけない。足が動くうちに戦わなくちゃいけない。

 そうして俺は、戦場へと脚を運んだ。

 これが、俺ことサクのなりそめであり。ただ、俺が本当に動き出すのはもう少し先。今から語られるのは。始まりまでの物語。勇者と出会い。世界を変える少し前のお話。 
 

 
後書き
次のオリジナル話の導入が終了しだい、本編が始まります。
ヒロイン候補では歩けど、魔改造開始の合図でもあったりします。

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