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ソードアートオンライン~性別不詳の槍術士~

作者:araiittetu
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3.月夜の晩に射す光

 
前書き
導入がこれで終わりだと思った!残念!まだ続くのさ!
今回はシリカ登場。これで原作とは一部食い違いも……ある意味ここからが本番です 

 


 sideシリカ

 どうして、こうなっちゃったんだろう。

 私は、夜の帳に沈んだ町の中をゆっくりとした歩調で歩いていた。

 ついさっきまでは、ここにある1つ1つが宝石のようにまばゆくと輝いて見えていたのに、今では私を縛る牢獄のように感じられる。

 製作者・茅場晶彦が宣言したデス・ゲーム。一度でもHPがゼロになった瞬間。私たちの脳は焼かれ、死んでしまうという信じられないような内容。けれど、こうしてリアルの体へとログアウトが出来ない現状。あの宣言から3時間になるというのに、一向に取られる気配のないナーヴギア。この事実があの言葉が真実であることを示していた。
だからこそ考えてしまう。どうして私がこんな目に合わなきゃならないのだろう。

 私がこのゲームを始めたのは、本当に偶然だった。子供心からくる興味からこのゲームに魅了され、お父さんに無理を言って買ってもらった。本当に買えるとは思っていなかったが、どうやらお父さんもやりたかったらしい。帰ったらやらせろよ!なんて言っていたけど、どうやら返すのはしばらく後になりそうだ。そもそも、私が返せるかどうかも分からない。

「どうして、こうなっちゃったんだろう……」

 意味を持たないつぶやきは、水面に沈む小石のように掻き消えていく。

 もしかすると、国の偉い人や警察の人たちが出られるように対策をしてくれるかもしれない。もしかすると、これが全部嘘で、ほんの少しの間だけ此処に留まっていればすぐに帰れるかもしれない。

 でも、そのすぐは一体何時になるのか。そもそも本当に脱出できるのか。そんな不安が私の心を締め付けていく。

 寒い。現実世界にある体からの情報は遮断されている。仮想世界に置かれたアバターが寒さを感知するかは分からないが、この暖かな場所ではありえないだろ。では、この震えは何なのか。

 体の芯から冷えていくような悪寒に、思わず自らの体を抱きしめて寒さをやり過ごそうとする。けれども寒さは一向になくならない。いや、むしろひどくなっている。


    人が、恋しかった。


 誰かと話したい、集団の中の1つでありたい。少なくとも、そこにいればこの寒さも凌げるのではないか。そんな思いが頭をよぎる。

 そうだ。きっとそうに違いない。どこかのレストランに入れば誰かしら人がいる。そこに入ればこの渇きも少しは紛れるのかもしれない。そして話しかけてくれる人がいれば御の字だ。またお金はかなりある。それを節約しながら使えば、いつかきっと誰かが助けに来てくれるはずだ。

 私は顔を上げる。そしてすぐにでも近場のレストランへと駆け込もうとした。けれども足が動かない。それは寒さではなく、私の目の前に立っていた女性に目を奪われたからだっ た。

 不思議な人。それが一目見た彼女への印象だった。

 風に揺れる長髪は月の光を浴びて幻想的な色を映し出し、華奢な体は彫刻のような白さを輝かせていた。

 誰もいない通りを一人、ぼんやりと空を見上げるその表情は、私の抱える不安とは別の色を隠すようにも写る。私はこの時、ただでさえ少ない女性プレイヤーに出会ったためか。彼女なら大丈夫という確信にも似た勇気を奮い。

 気づくと私は、その人に声をかけてしまっていた。






・・・・・・NOWLOADING・・・・・・






 ひどく眠い。

 それがフィールドから帰ってきて、最初に頭をよぎる思いだった。

 数時間ほど前から連続して戦闘を続け、ようやくレベルも2へと上がることが出来た辺りから、少しずつ睡魔が襲ってきた。

 最初は大丈夫とも考えたが、何度も冷や汗をかくような場面になれば流石に危ないと気づく。さらに武器や防具に耐久度があるらしく、知らない間にかなり消耗していたのも帰還を決定した理由だ。

 そういったわけで、レベルアップボーナスのステータスの割り振りは後ですることとして、今は一刻も早く布団に潜り込みたいとの一心で宿へと向かっていた。

 静かだ。余りにも静か過ぎる。

 もう夜にはなっているとはいえ現実ではまだ8時。それなのに、町にいるのはNPCばかりでプレイヤーの姿が一人も見当たらない。

 宿屋に篭ったのか? それとも全員で次の町へ?

 しかし、先ほどまでフィールドにいたが、同じ場所にいたのは精々数人程度。もっと先に行った奴らもいたが、あちらは帰ってきた気配はない。多分MMOの経験者なんだろう。

 まぁ初心者の俺には関係ないだろう。そんなことより今はふかふかのベットが重要だ。夕食の方は……必要なのだろうか。その辺りは今度調べておこう。

「あ、あのっ……!!」

 NPCだけとばかり思っていた所にかけられた突然の声に、俺はとっさに身構え、声のかけられた方向に目を走らせた。

 声の先にいたのは女性用初期装備に身を包んだ1人の少女。整った顔立ちではあるが、かなり若い印象を受ける。多分中学生くらいだろう。

 不安に揺れる瞳は俺が振り向いたことで一瞬たじろいた様にも見えたが、胸に運んだ両手に力を入れると、

「も、もしかしてβテスターの方ですか?」

 正式実装前のバグやシステム調整の為に選ばれた一般のプレイヤー。彼らはこのゲームが死に直結する前に実際に体験し、そのノウハウを知っている1000人からなるプレイヤーがβテスターである。

 多分だが、この少女は俺がβテスターでこの周辺について詳しいと考えて声をかけてくれたのだろう。

「ごめんね。俺はβテスターどころかMMO初心者だから、多分質問されても分からないと思う」

 俺は苦笑いをしながら彼女に告げた。

 多分落胆するだろう。彼女にとってはやっと見つけた蜘蛛の糸。それが目の前でいきなり千切れたのだから。

 しかし予想に反して、彼女が浮かべたのは落胆ではなく驚愕。大きく見開いた目で俺を見つめていた。

「で、でも。救助がくるかもしれないですし。待っていたほうが安全ですよ?」

「それは、そうなんだけどね……」

 実際、ここで救援を待っていたほうが安全だ。例え来なくとも、誰かが攻略するのを待ち、安全になった場所で必要最低限のコルだけを集めればそこまでの危険を冒さずにクリアまで生き延びることができる。

 ただ、それは俺にはできない。俺自身が許さない。

「ただ、それを待ってる間にも犠牲は出る。人一人が動いた程度で変わるものじゃなくても、動かないといけない。動かなくちゃ、いけないんだ」

 これは、自戒。目の前の彼女にではなく、自分に言い聞かせるようにつぶやいた言葉。世界に負けないように、潰れないために何度も何度も言い聞かせ続けた言葉だ。目の前の彼女には、奇異の目で見られるかもしれないが。

「……私には、真似できません」

 今度は俺が戸惑う番だった。現実世界で同じことを聞いた人たちは、俺に対して哀れみや嘲りを返した。それが普通の判断で、それが普通の反応だと信じて疑わなかった。

 だからこそ彼女のような賞賛の言葉は、自らを卑下するような返答への返しを俺は知らない。どんな言葉をかければよいのか分からない。俺が内心で慌てている間にも、彼女の瞳は暗いものへと変わっていく。ただ、この光景がとても見知った懐かしいものであったから、今でも頭に残る風景であったからだろうか。

「あ……」

「大丈夫。きっと上手くいく。皆が笑って帰れる日がきっと来るから、それまで待っていて欲しいな」

 気がつけば、彼女の頭を優しく撫でていた。

 思い出されるのは、はるか昔の記憶。怖いことがあった時、つらい事があった時にかけられた言葉、頭に伝うぬくもりに救われた記憶。

 彼女の頭を撫でながら、はるか過去に思いをはせる。

「……っ」

 一瞬驚いた顔の彼女は、まっすぐに俺を見つめたまま、一筋の線を頬に描き出した。

「あ、あれ……?おかしいな」

 とめどなく溢れるものは彼女の意思とは無関係に地面を濡らす。困惑しながらも何度も顔を拭えど、その涙は止まらない。

「今は、この瞬間だけは、悲しんでもいいんだよ。この世界では、感情は隠せないらしいから」

 脳から送られる信号を包み隠さずに反映し手しまうからこそ起こる弊害。多少オーバーな演出ではあるが、今回ばかりは感謝する。

 だってそうだろう?今まで不安と戦ってきた少女が初めて素直になれたんだ。

 素直になれる場所になれたんだから、それを教えてくれたシステムに、少しばかりの感謝の念をこめながら、彼女の涙が止まるのをゆっくりと待つのだった。 
 

 
後書き
つ、次でほんとに導入編終了。後は少しずつ進行していくけど、オリジナル話のオンパレードになる予感がががが!

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