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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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SAO編 主人公:マルバ
二人は出会い、そして◆違うよって言わなきゃいけないのに
  第二十三話 葵

 
前書き
アイリア、痛い目に遭うの回。 

 
「マルバ!」
ミズキは、立ち尽くすアイリアを一瞥したあとマルバの後を追って駆け出した。
シリカもその後を追おうと考えたが、結局その場を動かなかった。今はアイリアと話をするべきだと考えなおしたのだ。

「あの、アイリアさん。」
「あぁ……。私は……、また……!」
「アイリアさん!!」

シリカの叫びにようやく我を取り戻したアイリアは急いでマルバの後を追おうとするが、シリカに進路を阻まれた。
「シリカさん、どいて!」
「どきません!今アイリアさんがマルバさんを追いかけたって逆効果ですよ、落ち着いてください!」

シリカとアイリアは洞窟の入口で押し問答になった。
「アイリアさん、マルバさんがこの世界に来たのはマルバさんがそう望んだからです。アイリアさんのせいじゃないですよ!」
「ううん、違うの!私があの時に限ってお兄ちゃんにわがまま言わなければあんなことにはならなかったの!私のせいなの!!」
「事故のことだってアイリアさんの……葵さんのせいじゃないです!マルバさんだって言ったはずです、事故だったんですよ!?誰かのせいで起きたことじゃないんです!」

名前を呼ばれて、アイリアは一瞬動きを止めた。
「お兄ちゃんから聞いたんだね……。でも、確かに私があの時あんなことを言わなければお兄ちゃんは事故には遭わなかったんだ。私だって客観的にみれば私のせいじゃないことくらい分かるよ、それでも私があんなことを言ったからお兄ちゃんは事故に遭ってしまった!私はお兄ちゃんが許してくれるまで謝り続けなきゃいけないの!」
「落ち着いてください、マルバさんは葵さんを恨んでなんかいませんよ!恨んでいないんだから許すもなにもないだけです、マルバさんが葵さんを許さないわけがないじゃないですか!」
「なんでそんなこと言えるの!?事故を見たわけでも、私がなにをしてしまったのかも知らないのに、お兄ちゃんに会ったこともないシリカさんがなんでそんなことを!!言えるはずがないのに!!」

アイリアは思いっきりシリカを睨みつけた。シリカはその視線を跳ね返そうとするかのように叫び返す。
「マルバさんを見てれば誰だって分かりますよそんなの!!」
「そんなわけないでしょう!?」
「分かるものは分かります!!マルバさんは……現実世界で葵さんが自分のせいだっていって自分を責めるのを止められなくて、後悔していたんですよ?許さないわけがないじゃないですか!!」
「そんなはずない!お兄ちゃんはいくら私が謝っても、私の方を見ようともしなかった!!それまでずっと仲がよかったはずなのに、あの時以来ずっと私を避けていた!!私のことを許していない証拠じゃない!!」
「それは……恨んでもいない葵さんが謝るのを聞きたくなかったからに決まってるじゃないですか!!」

シリカの叫びが誰もいなくなった洞窟にこだました。アイリアは叫ぶべき言葉を失い、叫ぼうと開いた口からはなんの言葉も出てこない。
しばらくして、彼女は絶望したように言葉を紡いだ。
「それなら……私はお兄ちゃんに謝るべきじゃなかったっていうの?……私はずっとお兄ちゃんが嫌がることをしていたっていうの?……お兄ちゃんを不幸にしてしまってから、私はずっとお兄ちゃんのために尽くしてきたつもりだったのに……私がしていたことは意味がなかっただけじゃなく、お兄ちゃんを更に追い詰めていたって言うの……?そんなの……あんまりだよ……私は……そんなつもりじゃ……」

アイリアはふらりと立ち上がった。
「謝らなきゃ……お兄ちゃんに……。……あ、でも、それは……またお兄ちゃんを傷つけるだけ、なのか……。……私がお兄ちゃんにできることなんて、謝ることくらいしかないのに……!」

なにもしないうちに、アイリアは地面に再び膝をついてしまった。その唇からは独り言のように言葉の群れがこぼれ落ちる。
「私は……どうすればいいの……?謝ることもできず、許されることのない私は、お兄ちゃんになにができるっていうの……?」

その問いに答えたのはシリカだった。
「……葵さんがここにいられるのはマルバさんのおかげなんでしょう?それなら、することなんてひとつだけです。迷うことなんてないです。……ただ、助けてくれてありがとう、って言えばいいじゃないですか。」
「…………いまさらそんなことを言ったところで、どうしようもないじゃない。私はずっとお兄ちゃんを傷つけ続けていたっていうのに。……私が生きている限りお兄ちゃんが傷つくっていうんなら、いっそあの時助からなければ……!」

風を切る音と共に、シリカの平手がアイリアの頬を捉えた。アイリアは横っ飛びに吹き飛ばされ、HPが一割弱も減少する。シリカのカーソルが一瞬で橙色に染まった。
「そんなこと言わせません!!マルバさんはなんで事故の時葵さんをかばったと思ってるんですか!!葵さんを助けたかったからでしょう!?助けられた葵さんが助けられなかった方がよかったなんて言ったら、マルバさんがしたことは何だったんですか!?マルバさんは自分の命を懸けて一体何を守ったって言うんですか!?マルバさんがやったことは無意味だったって言いたいんですかッ!!」
「……ッ!私は……ッ!!」
「葵さんを助けなければマルバさんは確かに事故で半身不随になんてならずに済んだかもしれません。でも、マルバさんは例え結果的に半身不随にってしまったとしても、嬉しかったはずなんです!!葵さんを助けられて、嬉しかったに違いないんです!!その嬉しさを台無しにしないであげて!!!」
「私はッ……そんなつもりじゃ……!!」
「そんなつもりじゃなかった!?ふざけないでください!!葵さんが謝ることがあるのなら、それはマルバさんが必死で助けた命を粗末にしたことだけ!!謝るなら、蔑ろにした自分自身に謝れえッ!!!マルバさんが助けた葵さんに失礼だあッ!!!!」

シリカは叫びながらアイリアを平手で何度も打つ。その度にアイリアのHPががくんがくんと減り、ついにそのゲージが黄色く染まった。最後に一撃、と振り上げた右手は……しかし、振り下ろされることはなかった。

アイリアはシリカの腕を掴んで、震える声で謝った。
「ごめん、なさい……!」
「……それは、何に対する謝罪ですか?」
「……ずっと傷つけていたお兄ちゃんに。私のために怒ってくれたシリカさんに。……助からなければよかったなんて言った自分自身に。本当に、ごめんなさい……!!」

シリカは振り上げた手をゆっくりと下ろし、その腕を掴んでいた手を振りほどくと両手で包み込んだ。
「……圏外だっていうのに本気で殴っちゃって、ごめんなさい。怖かったですよね。でも、こうでもしないとあたしの気が収まらなかったんです。」
「……ううん。シリカさんは私のために怒ってくれたんだから。オレンジカーソルにさせちゃってごめんね。」

アイリアは今度こそしっかりと立ち上がった。その目には後悔が見て取れるが、迷いはない。
「私、お兄ちゃんに謝ってくる。今度こそ謝ることを間違えないよ。」
「そうですね、それがいいと思います。……頑張ってください!」
「うん!」

アイリアは洞窟を駆け出していった。シリカはそれを見送ると、先に宿屋に向かうことにした。オレンジカーソルとなってしまったシリカは町中だというのにハイディングを駆使しなければならなかった。





「マルバ!」
「……ミズキ、か。僕を追って来たの?」
マルバは丘の上に座り込んでいた。ミズキはマルバの横に腰掛ける。飛んできたフウカはミズキの肩の上の定位置に止まった。フウカの羽からこぼれた光に、マルバはまぶしそうに目を細める。
「当たり前だろ、いきなり走ってくなんてどうしたんだよ。それにあいつ、お前のことお兄ちゃんって呼んだよな?どういうことだ?」
「……ちょっと聞いてくれないかな。僕もちょっとどうしたらいいか分からなくなっちゃってさ。」

マルバはぽつりぽつりと話し始めた。事故のこと、後遺症のこと、葵のこと、逃げ出したこと。

「絶対今度こそ葵のせいじゃないって言おうって思ってたのにな。あいつの目を見たら怖くなっちゃってさ。あいつがもし『私のせいでお兄ちゃんが事故に遭った』とか『こんなことなら助からなければよかった』なんて言い出したら、僕は一体どうすればいいのか分からないから。」
「……ふふ、なるほどな。いやー、若いっていいねえ!!」
「……なにその感想。ミズキだって僕と年ほとんど違わないでしょ。それにそういう問題じゃないし」
「いや、俺にとってはそんな悩みただの青春の一ページにすぎないさ。そんなもん、いちいち気にしてどうするんだよ。それじゃあれか、お前は妹が『助からなければよかった』って言ったら妹を助けたことを後悔するのか?」
「いや、そんなことはないけどさ。」
「だろ?じゃあそんなことはどうでもいいじゃねえか。それにもしあいつが『私のせいでお兄ちゃんが事故に遭った』とか『こんなことなら助からなければよかった』なんて言い出したら、その時は兄としてガツンと言ってやれ。俺が助けた命を粗末にするんじゃねえ、ってな。」
「……うん、そうだね。ありがとう、やっと勇気が出た。」
「へっ、そりゃあ良かった。それじゃ、行ってこい。俺は一足先に宿屋で待ってるからよ。」
「ああ、行ってくる!」
「おう、後でな!」






宿屋でシリカに会ったミズキは彼女のカーソルがオレンジなのに少し驚いたが、シリカが何も言わないうちに何があったのかを悟ったようだ。「お前、弱虫のマルバなんかよりよっぽど強いな。」とはミズキの談である。
二人は並んで腰掛け、ひたすら二人の帰りを待った。
三十分ほど待っただろうか。宿屋のドアが開くと、そこには楽しそうに話すマルバとアイリアがいた。そんな二人をシリカとミズキは拍手で出迎える。アイリアは再び自己紹介をし、正式にパーティーを組んだ。全員の視界の端に四本のHPバーが並ぶ。
四人はこれからの戦いを祈って乾杯した。もちろん、カップの中身はホットジンジャーである。
「これからの互いの健闘を祈って……、乾杯!」
「「「乾杯!!」」」


【Party Admitted!】
――Malva―― Lv.71
――Silica―― Lv.70
――Mizki―― Lv.75
――Iria―― Lv.68 
 

 
後書き
ふう、やっとこの回を更新し終わりました。いやー、ついに葵とマルバが仲直りして、私もほっとしましたよ。

アイリア「……私達が仲直りするシーンをそっくり飛ばしておいてよく言うよね。」
ミズキ「俺も二人が何話したかきちっと書いて欲しかったぜ。気になるじゃねぇか。」
アイリア「あ、やっぱ恥ずかしいから書かなくていい!」
マルバ「そうだよ、僕はアイリアのためを思って書かなかったんだからそこのところ勘違いしないでほしいな。別に書けなかったわけじゃないんだよ。」

そうそう、マルバの言うとおり。って……え?

シリカ「え?これマルバさんが書いてるんですか!?」
マルバ「正確には違うけどね、作者名『マルバ』になってるでしょ?」
シリカ「気づかなかった……。」
マルバ「僕は作者の性格とかが投影されてできたキャラだからね、作者の分身みたいなものかな。後書きで作者の味方をしてくれる人も必要だしね?」
シリカ「それじゃ言わせて頂きますが、わたし今回すごく損な役回りだと思うんですけど、なんでこんなことになっちゃったんですか?怒ったら人を殴るとか怖すぎるんですけど。」
マルバ「それは……ええと、そこんとこどうなの?」

いやー、シリカって怒ったら怖いってイメージがあったものだから、つい、ね。勢いで書いちゃったわけです。

シリカ「勢いでそんなキャラ付けしなくていいですー!!」
がすっ (←作者、シリカの『閃打』を喰らう)

痛い!私にはペインアブソーバ効かないんだから手加減してほしいな。
それじゃ次回予告。次回、四人の絆が深まります。四人の暫定パーティーは思ったより居心地がよく、探索もはかどります。そんな時、アイリアがした提案は?乞うご期待!

……会話体、やっぱりうまくいかなかったorz 
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