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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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SAO編 主人公:マルバ
二人は出会い、そして◆違うよって言わなきゃいけないのに
  第二十二話 第五十六層フィールドボス攻略会議

 
前書き
投稿しようとしたらFirefoxの不具合か何かで開いていたタブがひとつ勝手に閉じて後書きを完全に書きなおすはめになってかなり落ち込んでます。 

 
「せえいッ!マルバさん、スイッチ!」
「了解、行くよ!」
シリカは弱点を突いた短剣の連続技の後、敵の盾に拳で強烈な打撃技を打ち込んだ。双方に相当なディレイが課される。マルバは自らの技の反動で吹き飛ばされるシリカの影から走り出ると、チャクラムを握りしめたまま敵の盾を更に連続攻撃した。
二人が対峙している敵は現在の前線である第五十六層のフィールドエネミーの中では最強である亜人型モンスターである。とにかく盾が邪魔でなかなかダメージが通らないのだ。
邪魔なら壊してしまえばいい、というのが最近の二人の戦術だ。
マルバの拳は盾にめり込み、その耐久値を削りきった。そのまま振りぬき、敵に拳を命中させる。一気に吹き飛ぶ敵。
「シリカ!」
「任せてください!行きます!!」
シリカは硬直中のマルバの頭上を飛び越えて短剣を振りかぶった。スカートが大きくはためく。
「はああああああああッ!!!」
怒涛の六連撃体術技、『風刃(フウジン)』。フィニッシュに短剣技へとつなぎ、合計十一連撃を決める。盾を失い、為す術がなくそれを全て受けた敵は断末魔を上げる暇もなく爆散した。

「ふう……。マルバさん、今のどうでした!?」
「ソードスキルの軌道もほとんど完璧に操れるようになってきたね。システム外スキルにも慣れてきたってとこかな。」
「ほんとですか!ありがとうございます!!」
「あー、でもひとつだけ気になる点がある。」
「?……なんですか?」
「スカートの時に人の頭上飛び越えるもんじゃないよ。」
「……見ました?」
「硬直してたからね、見えなかったけどさ。」
「ううう……以後気をつけます……」


二人は第五十六層の圏外村に入った。今日はこの村『パニ』の外れの洞窟で少し手強いフィールドボスの攻略会議があるのだ。シリカにとっては初めての攻略会議である。
街に入ったのに【Innner Area】の表示が出ないのには最初抵抗があったシリカだが、マルバについてまわるうちにそれにも慣れた。

二人は攻略会議が始まるまで時間を潰すことにした。主街区から遠く離れた圏外村とはいえ、いろいろな特産物が売っている。二人はヨーグルトらしきものを買食いし、持参のホットジンジャーを飲み、それでも時間が余ったので日なたでゆっくりする。マルバもシリカも、もはやお互いをただのパーティーメンバーだとは思っていなかった。自らの命を預ける、大切な仲間である。それはシリカにとってのピナ、マルバにとってのユキに似た関係だった。この世界で生きるにあたってなくてはならない存在。近くにいると安心する存在。隣にいて欲しいと思う存在。
芝生に寝転ぶ二人と二匹は、この上なく幸せな時を過ごしていた。しかし、その時もすぐに終わりを迎える。攻略会議開始を告げる笛の音が聞こえてきた。
「そろそろ行くか。始まるみたいだし。」
「そうですね。ちょっと緊張します。」
二人は身を起こし、洞窟へ向かった。ユキはマルバの足元で背景に溶けるように見えなくなる。ピナはそんなユキを横目に見ながら、シリカの肩に飛び乗った。



そして、攻略会議。

一向に進まない攻略会議に苛立ったのか、血盟騎士団副団長のアスナが机を強く叩いた。机の上に載った『ミラージュ・スフィア』の立体映像が一瞬ブレる。
「フィールドボスを、村の中に誘い込みます。そして、ボスが村のNPCを殺している間に、ボスを攻撃、殲滅します!」

その過激な発案にマルバとシリカはとても驚いた。当然のように反論が上がる。最初の反論者は《黒の剣士》、キリトだ。
「ちょっと待ってくれ!NPCは岩や木みたいなオブジェクトとは違う。彼らは……」
「生きている、とでも?」
アスナはあくまでも冷静に、理論的にキリトの反論を切り返した。
「あれは単なるオブジェクトです。たとえ殺されようと、また再湧出(リポップ)するのだから。」

キリトはそれ以上反論できずに黙り込んだ。次なる反論者は……
「待って下さい。いくらリポップするからといって殺してもいい理由にはならないんじゃないですか?」
……新参者、シリカだった。ここに彼女がいるとは思わなかったアスナは目を見張り、シリカの傍らに立つマルバを見やった。彼はシリカと同じような目をしてアスナを見ている。すなわち……彼女の計画が不服なのだ。

「中層プレイヤーがこんなところで何をやっているんですか。」
「わたしは中層プレイヤーじゃありません。攻略会議は今回が初めてですけど。それで、どうなんですか?」
「……リポップするのなら、それはモンスターと同じ。あなたはモンスターが生きているなどと言うつもりはないでしょう?」
「……?何を言っているんですか?モンスターは生きているに決まってるじゃないですか。」

この発言に、あたりは騒然とした。よもやモンスターが生きているなどと言い出すプレイヤーがいるとは思わなかったのだろう。それもそのはず、普通の攻略組にとってみればモンスターは自分たちの経験値とコルの出処以上の意味を持たない。いちいち生きているなどと思ってモンスターに憐憫の情を持つ者などいない……はずだった。

その場のプレイヤーたちが異質なものを見る目でシリカを見た。シリカは予想だにしなかった展開に慌てて、マルバを見やる。マルバはシリカをプレイヤーたちの視線から遠ざけるように立ちはだかった。そんなシリカに対し、アスナは言葉を続ける。
「モンスターが生きている、などという戯言をこの場で聞けることになるとは思いませんでした。なんでそんなことを言い出すのかは分かりませんが、攻略組にそんな甘い考えを持ってモンスターを狩っている者はいません。そんな気持ちで戦いに臨み、本当に攻略ができると思っているのですか!?」

それに答えたのはシリカではなく、マルバだった。
「……アンタは、攻略組の全プレイヤーが本当にモンスターが生きていないと思っていると信じているんだな。」
「当たり前よ。マルバくん、まさかあなたまでモンスターが生きているとか言い出すつもりじゃないでしょうね?」
「当然、そのつもりだよ。」
アスナは安堵の溜息をついた。
「そうよね。さすがにそんなこと言わないよね……」
「何を言っているんだい?僕は、当然モンスターは生きているって言ったんだよ。君たちがその考えをを異質だと思う以上に、僕にとっては君たちの考えが異質……いや、異常だと思うよ。なんであいつらが生きていないと思うのか、僕には理解できない」

アスナは……いや、その場のほとんどのプレイヤーが唖然としてマルバを見た。
「マルバくん……あなたは何を……?」
「僕にとって……いや、僕たちにとってみれば彼らは間違いなく生きているんだよ。僕たち、ビーストテイマーにとってはね。」
マルバはユキを呼んだ。ユキはマルバの足元の空間を歪ませるようにして現れ、ぴょんと跳んでマルバの腕に収まる。
「ビーストテイマーじゃなくても、あいつらが生きているって直感的に思うプレイヤーは他にもいるはずだよ。……僕たちは絶対にアスナの計画には賛成できないね。それでも強行するって言うなら、僕たちは今回の攻略からは抜けさせてもらう。」



その場は騒然となった。アスナは予想外の事態に呆然として指揮官としての役割を果たせる状態にない。
そんな中、一人のプレイヤーが立ち上がった。
「《閃光》さん、俺もアンタの意見には従えないね。俺の使い魔は間違いなく生きている。それならNPCだって生きていて当然だ。だろ?」
大きな盾を担ぐ彼の肩にはキラキラと輝く羽を持った鷹が止まっていた。ビーストテイマーなのだろう。
彼はパーティーのメンバーに向かってわりぃ、俺抜けるわ、と断ってからマルバのそばまでやってきた。マルバは彼に礼を言う。

「俺も、モンスターは生きているって思うな。あいつらが生きてないんだったらいままで死んでいった奴らは一体何に殺されたっていうんだよ。プレイヤーが戦ってるのはあくまでもモンスターなんだ。システムや茅場晶彦じゃない。」
次に立ち上がったのは他でもないテツオだ。月夜の黒猫団の他のメンバーも立ち上がって口々にマルバの言い分に賛成する。

「私もアスナさんには従えない。私が今まで戦ってきた相手は間違いなく生きていた。私の動きを読んで、私に殺されないように必死だった。単なるアルゴリズムだからって生きてないなんて言わせないよ。」
最後に立ち上がったのはフードをかぶった謎のプレイヤーだった。素顔が隠れていて誰なのかは分からない。

「さて、これで九人だ。アスナ、無理に決行するっていうなら九人も攻略人数が減ることになるよ。それでもその計画のまま進めるの?」

アスナは唇をわなわなと震わせてから、音を立てて椅子を引き、そこに座り叫んだ。
「私の意見に反対だと言うのなら、代替案を提示してください!」





結局のところ、いつも通り前衛を立ててヘイト値を管理し、スイッチを繰り返して倒すことになった。

会議が終わり、マルバは先ほど味方に立ってくれたプレイヤーたちに礼を言って回った。そこで二人のプレイヤーがマルバとパーティーを組みたいと申し出てきた。
一人は大きな盾を持つ剣士、ミズキ。もう一人はフードの槍使い、アイリア。
特に断る理由もなく、マルバとシリカはそれを喜んで受け入れることにした。互いに自己紹介を行う。

「俺はミズキ。剣も持ってるけど、俺の一番の武器はこの盾さ。《盾攻撃スキル》っていうエクストラスキルを持ってるもんで、盾で攻撃できんだよ。シルドバッシュっていえばいいんかね。ただ、筋力値はこいつを持てるぎりぎりまでしか上げてないもんだから、攻撃は期待しないでくれや。その分防御は任せといてくれよ。」
ミズキの肩の鷹が高い声で鳴き、一度羽ばたいてみせた。その羽はキラキラと光を放っていて、羽ばたくと同時にその光がわずかにこぼれ、あたりに飛び散る。
「おう、そうだ。こいつが俺の使い魔、フウカだ。デバフの付加と回復ならこいつに任せといてくれよ。毒、麻痺毒、盲目、なんでもござれさ。」

ミズキとフウカの自己紹介が終わると、アイリアがフードの下から小さな声で自己紹介を始めた。マルバはその声に違和感を覚えた。どこかで聞いたことのある声だが……?
「私はアイリア。武器は片手用の短槍で、盾も持ってるから一応前衛もできるよ。この槍は小さくて取り回しがいいタイプだから、棍としても使えるんだ。使い魔はいません。よろしくね。」
フードの下からの自己紹介は親しみやすそうな人柄が伺える口調だったため、マルバたちはなぜ彼女がそんなフードをかぶっているのか余計に分からなくなった。

「あのさ、なんでそんなフードかぶってるの……?それに、僕は君の声を聞いたことがある気がするんだけど、どっかで会ったことあったっけ?」
マルバの問いに、アイリアは肩をびくっと震わせて、しばらく沈黙した。そして、その手がフードに添えられた。
「私がこれをかぶってる理由は……マルバと会う決心がつかなかったから、かな。でも、やっと決心がついたよ。今度こそ私はちゃんと謝らなきゃいけないんだから。」

「謝る……?僕に?」
マルバの脳内は疑問でいっぱいになった。なにかがおかしい。彼女の素顔は見るべきではない気がする。しかし、なにがこうもマルバを不安にさせるのだろう……?それに、謝らなきゃいけないことってなんなんだ……?

「そう、あなたがこのアインクラッドに閉じ込められたのは私のせい。私は今度こそあなたに謝らなきゃいけないの。ごめんね……」

フードが取られ、黒髪が宙に舞う。その顔を見て、マルバは絶句した。
「ごめんね、……お兄ちゃん」
「あお……い……?」

マルバとアイリアの視線が交錯する。
マルバがかつてシリカに言った言葉が脳内に蘇った。

――――もし彼女がまた自分のせいだって思ってるんだったら、今度こそ真正面からその目を見て、違うよって言わなきゃいけないんだ――――

今度こそ真正面からその目を見て、
違うよって、
言わなきゃ……
いけない……のに……!

気づいたら、マルバは敏捷補正に物を言わせて全力で駆け出していた。その瞳から、再び逃げるために。 
 

 
後書き
はい、ついに葵さん出てきました。いつか出てくると思っていた方はいると思いますが。
最初から読みなおしてみたら、自分の文章の読みにくさに唖然としました。最近はけっこうマシになってきている気がしますが、今までこんな駄文に付き合ってくださってありがとうございます。文章の読みにくさは直すのがむずかしいですが、改行のしかた等でこうした方が読みやすい、とかありましたらぜひアドバイスください。


ミズキの使い魔のミズキについての裏設定と表設定です。
種族名Airy Hawk(エアリィホーク)といいます。直線移動はそれなりに高速ですが、小回りが利かないためピナより移動力は劣ります。
キュアウィンドというデバフ回復スキルを持っていて、これがけっこう強力です。敵にデバフを付加するスキルも多くあります。
ユキたちSnow Hareは索敵スキルを持つプレイヤーが増えたおかげで雪原地帯で散見されるようになり、すでにそれほどレアモンスターとは言えませんが、Airy Hawkは飛行型モンスター故にエンカウントすること自体が少なくけっこうなレアモンスターです。


……裏設定も増えてきました。基本的に裏設定は書いている時に思いついた本編に関係がない設定のことで、本編にでてこないため矛盾はないはずなのですが、どこか矛盾があったら教えて下さい。

予告通り、次回は後書きを会話体にしてみます。 
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