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レーヴァティン

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第八十一話 東国その七

「喧嘩でも買ってきたよ、ただ」
「ただ?」
「喧嘩位じゃ切らないよ」
 つまり相手の命を絶ってはこなかったというのだ。
「犬がけしかけられもしたけれどね」
「まあ犬位なら」
 香織も言ってきた。
「あんたならあっさりとね」
「やっつけてきたけれどね」
「命は奪って来なかったたいね」
「喧嘩位じゃそうしなかったよ」
 喧嘩相手が犬をけしかけてきてもというのだ。
「峰打ちで終わりにしていたよ」
「そうたいか」
「ああ、あたしも無用な血は流したくないしね」
 命のやり取りでもない限りはというのだ。
「そうしてたい」
「終わらせていたとね」
「ああ、江戸は喧嘩も多かったがね」
「火事と喧嘩は何とやらというたいな」
「その通りだよ、毎日何回も喧嘩していたよ」
 そうだったというのだ。
「それで全部峰打ちでね」
「勝っていたたいな」
「そうだったよ、峰打ちしても傷まないしね」
 刀がというのだ。
「いい道具だよ」
「そうたいか」
「じゃあこれからもね」
「道中を進んでいくたいな」
「そうしていこうね」
 こう言ってだ、桜子も前に進むのだった。一行はどれだけ強い魔物が出て来ても全く後れを取ることはなかった。
 水戸までの旅は順調だった、しかし。
 その中でだ、英雄は夜に共に飯を食いながら仲間達にこんなことを言った。
「何か違うな」
「順調にか」
「進んでいるとな」
 猪の鍋、それを全員で食いつつ幸正に答えた。
「そうも思うがな」
「かえって不安になるんだな」
「順調だとな」
「心配性、いや」
 幸正は鍋の中から箸で猪の肉を取った、味噌で味付けされているその肉は固いがそれでも味はよかった。
「人生ではか」
「そうだ、順調にいっている様に見えてな」
「急に何かが起こるか」
「そうだ、だからな」
 それでというのだ。
「こうして順調だとな」
「何かが急に起こるとか」
「思ってしまう、よくある話だな」
「それはな、我もな」
「そういうことはあったな」
「ああ、これでいけると思っていたことが」
 それがというのだ。
「急にだ」
「何かが起こったりしてだな」
「状況が変わったりした」
「それも悪くだな」
「そうなったりもしてきた」
「何でもそうだ、こうして旅も順調だとな」
「何かが起こるとか」
 幸正は今度は山菜、鍋に猪と肉と共に入っているそれを食いつつ英雄に問うた。
「思うか」
「例えばこの肉にな」
「あたることもか」
「あるかも知れないしな」
「それで肉をじっくり煮たんだな」
「火を通す様にした」
 実際にというのだ。
「こうして順調だと何かが起こるからな」
「成程な、猪も虫がいるからな」
「豚肉だからな」
 猪を家畜にしたものが豚だ、だから猪も豚肉と同じく寄生虫がいたりするのだ。むしろ野生の獣は寄生虫の問題が付きまとうと思っていい。 
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