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レーヴァティン

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第八十一話 東国その二

「食い方がちゃうわ」
「あの人達は食べることも仕事ですよ」
 良太がこう言ってきた。
「ですから」
「それでやな」
「食べることも」
 それもというのだ。
「どうしてもです」
「参考とか比較にしたらあかんか」
「忍者とは根本から違います」
 食べることについてというのだ。
「あの人達は満腹をしても」
「満腹を超えてやな」
「実際はそうでなくとも」
「そうした食い方やな」
「はい、ですから」
「それがしも普通に食べてええか」
「そうかと」
「そういうことやな、しかしな」
 ここでさらに食って言う耕平だった。
「ここの寿司ほんま美味いな」
「それはそうですね」
 良太も同意だった、うにを食いつつの言葉だ。見れば耕平は今度は蛸、生のそれを美味く食べている。
「桜子さんが言われる通り」
「ほんまやな、これが江戸前か」
「江戸前寿司のですね」
「美味しい店の味やな」
「そうですね」
「おう、江戸一でい」
 親父が言ってきた、見るからに頑固そうな初老の親父だ。
「おいらの寿司はな」
「そこでそう言うんやな」
「あたぼうよ、こっちはもう物心ついた時から朝から晩まで握ってるんだ」
「朝から晩までか」
「おうよ、毎日か」
「おっさん寺子屋行ってたんか」
「寺子屋に行ってない時以外はだよ」
 親父もそこはちゃんと言った。
「おいらは寿司を握ってたんでい」
「そういうことか」
「そうでい、ちゃんと読み書きも出来るからな」
「それではあれか」
 今度は当季が言ってきた。
「魚へんの文字全部読めるか」
「鯖とか鯨とか鮫とかだな」
「あれ全部読めるんじゃな」
「それはもう寿司屋なら当然だろ」
 それこそと言う親父だった。
「鮪でも何でもな」
「河豚でもぜよ」
「河豚?うちでも扱っているがな」 
 親父は河豚については眉を顰めさせてこう返した。
「出すのは寿司だけだからな」
「刺身や鍋はないんじゃのう」
「ここは寿司屋でい」
 これが親父の返事だった。
「それなら当たり前だろ」
「そういうことか」
「そうでい、刺身や鍋は他の店で食いやがれ」
 親父は当季に彼が注文していたこはだを出しつつ答えた。
「いいな」
「わかりやすいわ」
「だからここは寿司屋なんでい」
「だったら寿司しか出ないって訳ぜよ」
「茶碗蒸しはあるけれどな」
 それでもというのだ。
「刺身は鍋は他の店で食いな」
「わかったぜよ、それじゃあ酒も貰うぜよ」
「酒はあるぜ」
 親父もそれはあると答えた。
「好きなだけ飲みやがれ」
「ではそうさせてもらうぜよ」
「お寿司には酒であります」
 峰夫は鰯を食べつつ述べた。
「やはり」
「そうか、酒もか」
「寿司にはでありますが」
「俺は寿司の時はな」
 英雄は秋刀魚を食べつつ言った、青魚も充実している店だ。
「思えばあまり飲まないな」
「そうでありますか」
「蕎麦の時は飲む時もあるが」
 それでもというのだ。
「寿司の時はな」
「飲まないでありますか」
「そうだ」
 実際にというのだ。 
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