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戦国異伝供書

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第十七話 大返しの苦労その九

「そのことは認めよう」
「それは何よりです」
「精々生きておれ」
 長益は松永に告げた。
「そして平蜘蛛を残してな」
「そうしてですか」
「天寿を全うせよ」
「まあ天寿を全うするのなら」
「平蜘蛛もか」
「残してもいいと思っております」
「ならそうせよ、馬鹿なことは思ってもせずにな」
 松永に邪心があることは絶対と見ての言葉だ、だがそれを起こすことのない様にとだ。長益は彼に言うのだった。
「そうしてじゃ」
「茶器をですな」
「残してじゃ」
 そのうえでというのだ。
「生きよ」
「そうさせて頂きます」
 松永も頷いた、そうして長益は彼の前から去ったが。
 自身と同じく茶が好きな古田のところに行ってこう言った。
「あ奴、やはりな」
「油断出来ませぬか」
「あそこまで怪しい者はおらぬわ」
「やはりそうですか」
「だからじゃ」
「はい、これからもですな」
「目を離してはならん」
 絶対にというのだ。
「我等もな」
「ではそれがしが」
 古田は自分から述べた。
「あ奴がおかしな素振りを見せれば」
「茶の席であってもじゃな」
「刀がなくとも」
 それでもというのだ。
「この手で」
「成敗するな」
「そうします」
「頼むぞ、わしは自分ではあ奴を殺さぬと言った」
「それではですな」
「わしは約束は守る、特に茶の席ではな」
 茶を愛する者としてそうするというのだ。
「しかしな」
「それでもですな」
「他の者が何をしてもな」
 それでもというのだ。
「止めぬ、お主もじゃ」
「その時は」
「好きにせよ、そしてじゃ」
「あ奴の首をですな」
「兄上に差し出すのじゃ」
 信長、彼にというのだ。
「よいな」
「わかり申した」
「そしてじゃ」
 さらに話す長益だった。
「わかっておると思うが」
「あ奴の煎れた茶はですな」
「飲むでないぞ」
「承知しております、あ奴が煎れた茶なぞ」
「絶対にな」
「毒が入っております」
 そうなっているとだ、古田も見ているのだ。
「間違いなく」
「だからじゃな」
「はい、ですから」
 それ故にというのだ。
「それがしも飲むことはしませぬ」
「そうせよ、己は大事にせよ」
「わざわざ毒入りの茶を飲むなぞ」
「するでない、あ奴はな」
 松永、彼はというのだ。 
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