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DQ3 そして現実へ…  (リュカ伝その2)

作者:あちゃ
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別世界より①

<グランバニア>

リュカが本へ吸い込まれてから2時間程が経過したグランバニアの国王執務室では…
リュカの息子のティミーと叔父で国務大臣のオジロンが、眉間にシワを寄せて黙り込んでいる。
「………はぁ………困ったもんだ………」
長き沈黙の後、溜息混じりで口を開いたのはオジロンであった。

「リュカは厄介事を呼び込む体質らしい…」
「あの人が居るがぎりトラブルの種は尽きないでしょう…」
リュカは一応グランバニアの王である…
他国で大臣等が自国の王に対して、この様な物言いをすれば不敬罪として処罰されるであろう!

しかしこの国の王はリュカである…
例え本人の前で言ったとしても『あはははは、1個も言い返せない』と言うだけで終わるだろう。
それが良いのか悪いのかは分からない。
それでも、この国の王であるリュカが行方不明になってしまったのは一大事なのである!


(バン!!)
乱暴にドアが叩き開けられ、王妃のビアンカが入室してきた。
「リュカが本に吸い込まれたというのは本当!?」
一言で言えば不機嫌…それが今のビアンカの表情だ!
「情報が早いですね、母さん。誰が言い触らしたんですか?」
「マリーよ…」

マリーとはリュカとビアンカの次女の事である。
そのマリーがビアンカの後ろからヒョコっと顔を出す。
「はぁ…マリーは誰から聞いたの?」
可愛い…既に嫁いだ妹より遙かに可愛らしい妹に、優しく問いただすティミー。

「うん、あのね…私、お父様にご本を読んでもらおうと思って、この部屋の前に居たの。そうしたらお兄様が大声で叫んでいるのが聞こえてきたのよ。だからお兄様が原因よ」
口調は可愛らしいのだが、内容が意外と辛辣で思わず彼女の姉を思い出してしまうティミー…

「………母さんもマリーも他の人には言ってないですか?」
「はい!お兄様!」
「言う訳ないでしょ。それより私の事は陛下と呼びなさい!貴方、一介の兵士なのよ!貴方が身分隠して兵士になるって言ったんでしょ!自分でバラしてどうすんのよ!」
母は母で、父の行方不明に対し不安と悲しみから、普段ではあり得ないようなキツイ口調になっている…
そして、その事を考慮に入れず秘匿しようとした自分に反省するティミー。

「す、済みません。王妃陛下」
「お兄様怒られちゃったね。元気出して」
ティミーはこの妹が愛らしくて仕方ない!
もう一人と違い、性格が父親に似なかった事を喜ばしく思っている。
「マリーもお兄様と呼んではダメよ!コイツはただの下っ端兵士よ!」
「はいお母様。よろしくね、下っ端さん」
ただ少し…言う事にトゲがあるのが難点だ…誰に似たのやら…

「さて、そんな事より…状況を詳しく説明して下さい」



「……と言う訳で、気付いた時には国王陛下は本に吸い込まれてました…」
「その本には、その後誰も手を付けて無いのね?」
「はい。吸い込まれたく無いですから…」
ビアンカはティミーの言葉を気にもせず、本のページを捲り始める。

「あ!ちょっと…母さ……陛下!不用意に触っては危険です!」
「触らなきゃ調べられないでしょ!雁首並べて唸ってても、リュカは戻って来ないのよ!」
ペラペラとページを捲り本を調べるビアンカ…
「何これ!?殆ど白紙じゃない!」
「はい。国王陛下もその事に憤慨しておりました」

「で、リュカは勝手にタイトルを書き換えたのね…」
ビアンカはタイトルページに戻るとリュカが書いた『そして現実へ…』の文字を指で撫でる…
そして再度次のページを開き、中途半端に書き綴られた本文を黙読する。
その光景に違和感を感じたティミーはビアンカに近付き本を覗き込む。
「母さん…失礼…王妃陛下。国王陛下はタイトルの続きページには何も書かれて無いと、憤慨してました…ですが、今この本には内容が書かれてます。中途半端ではありますが…」
「良い所に気付いたわね。さっきから見てるけど、少しずつ文字が増えているわ…この本!」
「え!?それって…」
「そうよ。今まさに物語が進行中なのよ。そして進行させているのが…リュカ…」
それは驚愕の事実である!

人間が本に吸い込まれ、その人間が物語を紡ぎ出して行く…
「読んでご覧なさい。登場した人物の描写を…」
ティミーは2ページと書かれていない内容を読みだす。
「確かに…この口調もあの人らしい…」
ティミーには文字を読んでいるにも拘わらず脳内で、あの緊張感の欠落した声が響いていた。

「でも…それなら心配する必要は無いのでは?この物語が完結すれば、戻って来ると思いますが…」
「貴方はこの物語の結末を知ってるの?」
ビアンカの冷たく厳しい口調に、皆緊張する。
「い、いえ…結末は…」
「リュカが物語りの途中…いえ、最後でもいい…死んでしまったらどうするの?此処までを読む限り、魔王討伐という冒険の物語よ!」

ビアンカは恐怖と不安の混じった声で呟く。
思わずティミーはビアンカの顔を見つめてしまった…
青く美しい瞳にはリュカに対する心配と不安で満ち溢れている…
この母にとって、父は全てなのだ…

「では救出しないと!」
オジロンが声を震わせ叫ぶ!
「えぇ、そうね。異世界へ行く方法を探さないと…ティミー、貴方はこれから特使としてラインハットへ行きなさい」
「特使…?ラインハットへ?」
「どうせ国王不在は知れ渡るわ!だから正式に世界中へ通達します。こうしておけばグランバニアへ侵略しようとしている国に対しての、対抗措置を取りやすいでしょ」
「しかし…可能な限り秘匿した方が…」
国務大臣として国政を預かるオジロンは、国王不在を極力隠したいのだ。

「オジロンの心配も分かるけど、何時知れ渡るか分からないと動きづらいのよ!バレないようにと制約がつきまとうから!」
「なるほど…」

「で、王妃陛下は私に何をさせたいのですか?」
「まずラインハットに知らせて軍事、政治両面で支援をしてもらいます。ラインハット以外に此処まで期待できる国はありません。それからポピーを連れてきて下さい」
「………ポピーを~…混乱に拍車がかかりませんか?」
双子の妹であるポピーに、この事態に協力を依頼する事に難色を示すティミー…
彼は妹をトラブルメーカーだと思っている。

「貴方がルーラを使えればあの娘には頼りません!」
「………なるほど…ルーラ…ですか…」
「ポピーに接触したら、直ぐさまマーサ様をグランバニアにお連れして下さい。異世界への門を開くのにマーサ様のお力が必要になるかもしれません…」

テキパキと指示を出すビアンカ…
ティミーはそんな母を見て《このまま女王に就任してくれればいいのに…》と、とんでもない事を考えてしまっていた…
別に父の事が嫌いな訳では無い!
しかし、あの父の部下として日常を送っていると、時折イヤになってしまうのだ…
それがリュカという男である。

「それと!…もう一つ重要な事があります」
「そ、それは?」
「この本の管理です!」
「………何故…それが重要なんですか?」

オジロンは有能である。
ただそれは政においてであり、軍事や陰謀事には向かない。
「この本が燃やされたらリュカがどうなるのか分からないわ…」
「………なるほど…では、どのように管理しますか?」
「この部屋ごと管理します。私とスノウとピエールで指揮します。配下はモンスターのみで構成します。私達3人の許可が無い限り、オジロン…貴方でもこの部屋への入室は禁止します!よろしいですね!?」
こうして緊迫した状況のまま事態は進んで行く…

どちらの世界でもリュカだけが緊張感無く事態を受け入れている。
一番の当事者なのに、一番他人事の様に…



 
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