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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第25話 かつての敵は今日のダチ公!? 面倒臭ぇ事は酒に流して一気呑み

 
前書き
お酒は二十歳になってから・・・そんな話です。 

 
 重々しい空気が会場全体に広がっているのが体全体で感じ取れる。
 余りの重さに頭が垂れ下がってしまいそうになるのを番は必至に耐え忍んでいた。

(く・・・空気が重てぇ・・・)

 流石の番も今のこの現状には緊張せざるを得ない。
 今、番はバンチョウと合体している状態なだけでなく、何故か紋付を着せ付けられている。
 んで、そんな番とバンチョウと対面で座っているのはあのレッド本人なのだ。
 しかも、レッドもまた紋付を纏っている。

【すまんのぉ番。わしのわがままを聞いてもらって】
【なぁに、俺達ぁ共に死線を潜り抜けて同じ釜で飯を食ってきた仲だからな。お安い御用だぜ】

 申し訳なさそうに項垂れるレッドに番はそう言い放つ。
 その言葉を受け、少しはレッドの顔に晴れやかさが戻った。
 変に誤解されたら大変だから此処で説明をさせて貰うのだが、別に二人は恋仲になるとかそう言う事では断じてない。
 こう言った事に至った経緯は今よりもほんの少し位遡る事になる。




     ***




「盃を交わす?」

 事の発端はバンチョーベース内で起こった。

【そうなんじゃ。こうして星雲組も復活出来た事じゃし、組長の意識も戻ったそうなんじゃ。其処でじゃ、わしのかつての同胞達に番や地球の仲間たちを報せたいのと一緒に、地球人と半永久的な同盟を結びたいと考えておるんじゃよ】

 レッドが言うには、無事に星雲組の構成員や幹部、果ては組長までをも救い出す事が出来た。
 後は組の基盤を立て直しさえすれば星雲組は再びゴクアク組を揺るがす組織へと返り咲く事が出来る。
 だが、言うには簡単だが実際には結構難しかったりする。
 そもそも、現状の星雲組には何の後ろ盾がないただの放蕩集団でしかないのが現状だ。
 このままでは復活の宣言をしたところで袋叩きにされて終わりになりかねない。
 其処で、番達が住んでいるこの地球を拠点として星雲組の基盤を作り、其処から徐々にゴクアク組に奪われた土地を奪い返して行く。
 と、言うのがレッドの考えた作戦なのだそうだ。
 そして、その為に一番手っ取り早いのが番との盃を交わす事なのだそうだ。

「それは良いが・・・何で俺なんだ?」
【それはじゃのぉ、番を地球人代表としてわしが見込んだと言う訳なんじゃ】
「え!? 番が地球人代表!? それマジで言ってんのかぃ?」
「レッドさん、それは些か軽率なんじゃないかなぁ?」
「てめぇら、好き放題言いやがってーーー」

 守や茜に好き放題言われて番自身少しむっとしているご様子。

【違ぇねぇや! 番じゃ地球人代表としちゃ役不足だもんなぁ!】
【ちょっ、失礼ですよドリルさん! 確かに番さんは地球人代表と言うには些か落ち着きがないと言うかガサツと言うか大雑把と言うか(以下略】
「ドリル・・・後、何気にレスキューもひでぇ・・・」

 意外とレスキューは毒舌持ちだったようだ。今後は付き合いを改めないと痛い目をみそうだと心に誓う番なのであった。

【まぁ、各々方の意見もあるのじゃろうが、わしとしては番以上の適任者は居らんと思っちょるんじゃ。それにのぉーーー】

 ふと、言葉を切り、レッドは思いつめたような表情を浮かべていた。

「どうしたんだよ、レッド?」
【これは、わし個人の提案なんじゃが・・・わしは、番・・・おまんと『兄弟の盃』を交わしたいと思っちょるんじゃ】

 !!!!!

 レッドのその言葉に番以外の面々が驚きの表情を浮かべだした。

「兄弟の盃? なんだ、そりゃ」
【れ、レッドの兄貴! いくら何でもそれは不味いんじゃぁ?】
【そうですよ! そう言うのって個人で決めちゃ後々面倒になりそうですしーーー】

 突然会話に入ってきたハジとサブ。こいつら、あれからずっとこのバンチョーベースに居座っていたりする。
 一応レッドの子分なので大目に見てはいるのだが、まぁ誰も気にしてなどいないので特に問題なしで良いだろう。

【それは重々承知しちょる。じゃからこそじゃ、それを大々的に行うつもりなんじゃ】
「話が見えねぇなぁ。要するにどうすりゃ良いんだよ?」
「つまり、レッド君はこう言っているのさ。地球人と同盟を結ぶのと、轟番君との兄弟の契りを交わす盃を同時に行おう・・・とね」

 突如別方向から声が聞こえてきた。
 聞き慣れない声だ。

「なんだ、バンチョウか? それともイインチョウか?」
【俺は何も言ってねぇぞ】
【私もだ。無論スケバンチョウも言ってないそうだ】

 そう言って、イインチョウの隣には何故かスケバンチョウが陣取っていた。
 しかも、妙に車間距離が近い気がする。

「おい、あれ・・・どうなってんだ?」
「なんか、スケバンチョウの奴妙にイインチョウの奴が気に入っちまったみたいでねぇ」
「あぁ、つまりお前と同じーーー」

 それ以降の言葉が放たれるよりも前に茜の踵落としが番の顔面に叩きつけられたのは言うまでもない。

「おやおや、これまた随分と活気に満ち溢れた場所だね。いやぁ、若いとは素晴らしい事だ」

 声の主がすっと姿を現してきた。
 見慣れないスーツを身に纏った男性だった。年は30代後半を行っている位に見える。
 落ち着きのある顔つきの裏には、年不相応ともとれる気迫が感じ取れるが、別に好戦的な訳ではない。寧ろその逆を行く感じにも見える。

「んだぁ? このおっさんは」
【番! し、失礼致しました!! ノルウェール一等空佐!】

 突然、イインチョウが畏まった感じで声を挙げる。が、その理由がわからない番は首を傾げるばかりだった。

「ノルウェール・・・何だ?」
「自己紹介が遅れてしまったようだな。私はノルウェールと言う。宇宙警備隊に所属する者で仲間からは『(炎の騎士)フレイムナイト』と呼ばれている」
「するってぇと・・・さっきのキザッたらしいロボットはおっさんだったって訳か?」
「その通りだよ。轟番君」
「な、何で俺の名前を知ってるんだよ? 俺はあんたの事なんて知らないぜ」
「君のご家族と前に知り合った事があってね。その時に君の事を教えて貰ったんだよ」
「それって・・・『心』の奴か?」

 番の表情に曇りが出てきた。その表情の番を見て、ノルウェールは軽くため息を吐いた。

「やはり、君は御父上の事を恨んでいるようだね」
「当たり前だ! どんな理由があろうと家族を見捨てて雲隠れしたような腰抜けなんざ親父じゃねぇ!」
「本当に・・・そう思っているのかい?」
「当たり前だ!」

 番の怒号が響き渡る。それ程までに番の中にある父に対する憎しみは深いと認識させられる。

「分かった。これ以上彼の話をするのは止そう。さてと、レッド君と言ったね。その様な大々的な行いをすると言うのであれば身内だけでやる訳にはいかないのではないかな?」
【ふむ、それはそうじゃのぉ・・・】
「よければどうだろう。その盃の会場その他諸々を私に一任させてはくれないかな?」
【宇宙警備隊のお方が、わしら極道の儀式に賛同するっちゅうぅんか?】
「まぁ、普通はしないだろうね。だが、今は悪が悪を食らう時代。弱い悪を強い悪が淘汰する弱肉強食の時代に置いて、弱い立場の人達を守る為には時には悪をも利用しなければならない時もある」
【つまり、おまんは己の目的の為にわしらを利用したいと言うんじゃな?】
「不満・・・かな?」
【・・・・・・】

 腕を組んだまま一言も口を開かないレッド。その表情は真剣そのものと言えた。

【是非お願いします】

 言うや否や、レッドの巨体がノルウェールの前に頭を下げた。

【あ、兄貴!】
【兄貴が、頭を下げるなんて!?】
【わしのこの頭一つ下げて事が済むんならいくらでも下げる。正直、今のわしらにゃ財力も兵力も土地も何も残っちょらん。じゃけん、あんたの言うようなでかい催しが出来ればそれは、この宇宙全体に星雲組の復活を告げる絶好の機会になる。その為ならばこのレッド。例え代価がわしの命と言われても喜んで差し出す覚悟じゃ】
「あぁ、勇み出てるところすまないけど、何も其処まで催促はするつもりはないよ。私の目的と言うのはその星雲組の復活を宇宙全土に広める事なんだからね」
「どう言う事だよ?」
「番君。今のこの時代が混迷を極めていると言うのは知ってるね?」
「まぁ、一応はな」
「正直なところ、我々の手だけでは宇宙に秩序を取り戻すのが困難になっているんだ。このままこんな時代が続けば、恐らくこの宇宙から生命体は絶滅する危険性すらある」

 その言葉は正に衝撃を受ける程だった。
 宇宙から生命が消え失せる。それは認められる事ではない恐ろしい事だ。
 
「それを阻止する為に、我々が一丸となって動いているのだが、正直それも限界に近い。情けない話だが、現状の私たちの戦力ではこの宇宙全土の秩序を守り抜く事は不可能なんだ」
「随分と弱気だな。そんなに宇宙警備隊ってのは戦力が少ないのか?」
「戦力規模で言えば太陽系全土を防衛し切れる程はいる。だが、宇宙と言うのは広い。その広い宇宙の至る所に悪は存在している。そして、その悪と悪が互いに争い、弱き人々を食い物にしている。それが今のこの時代なんだよ」

 重々しい言葉が番達の脳裏に突き刺さる。宇宙の広さなど正直理解しようがない。ただだだっ広いとだけしか考えていなかった。
 そんな宇宙が今、大勢の悪同士でのぶつかり合いにより疲弊しだしていると言う。
 
「この事態を少しでも緩和する為には、誰から見ても圧倒的強大な組織の存在を宇宙全土にアピールする必要があるんだ。それも、ゴクアク組のような見境なく食らいつくすような悪ではなく、仁義を胸に抱き絶大な統率によって組織された悪が必要なんだよ」
「その為にも、星雲組の復活を大々的に行う必要がある・・・ってぇ訳か」
「そう言う事、理解出来たかな?」
「一応理解は出来たんだけどよぉ・・・何か霧消に腹が立ってくるんだが」
「ま、気にしない気にしない」




     ***




 そんな訳で場面は冒頭に戻る。ノルウェールはその後、会場の設置やら来賓への招待状の作成、その他様々な面でバックアップしてくれたお陰で式は思いのほかスムーズに事が運んでいた。
 そして、現在ーーー

 番とレッドが対面に立ち、その間に立つ形で星雲組組長とノルウェールことフレイムナイトが鎮座していた。

【ノルウェールさん、今回のこの式・・・資金援助から設置に至るまで貴方が負担して下さったそうで、星雲組を代表して礼を言わせて欲しい】
【若、今は星雲組の強大さを知らしめる重要な式典です。くれぐれも軽々しく頭を下げてはなりませんよ】
【そ、そうでした・・・】

 今回に限り、ノルウェールはこの式典内でのみ星雲組組長の護衛の役を買う一方で式典の仲介人を買って出てくれた。
 これにより、星雲組の名は全宇宙の悪党のみならず、宇宙各地で活動をしている宇宙警察や宇宙警備隊にも知れ渡る事になる。
 そうなれば自ずと力のない悪の活動が委縮するとノルウェールは睨んでいた。
 あわよくば力のない悪を星雲組に取り入れ、懐柔させた後人々に害のない悪へと変化させる。
 悪の根絶は不可能であっても、少なくとも一人でも多く悪の被害を抑える事が今回の式典の目的でもあった。

【しっかし、来賓の数がすげぇなぁ・・・あのおっさん、相当実力を持ってるんだな】
【当たり前だ。仮にも一等空佐の階級を持つお方だ。あのお方が声を掛ければ例え宇宙の彼方にいようと駆けつけなければならない程なのだからな】
【へぇ、要するにすげぇおっさんってこったろ?】
【どうして番と良いお前と良い、どいつもこいつもノルウェール一等空佐の凄さを理解していないんだ】

 会場内に置いて一人頭を抱えるイインチョウ。無論、彼もまた紋付を着用していたりする。

【でも、僕この格好嫌いじゃないですよ。何だか・・・偉くなった気分がしますよ】
【へへっ、まるで幹部にでもなった気分だな】

 紋付を見て、レスキューは少し嬉しそうだ。ドリルもまた紋付を着て大層ご満悦のご様子で。

【ほぉ、暫く見ぬ内にそれが似合う面構えになったか】
【男児三日会わざれば何とやら・・・どうやら我らが弟もそのことわざに漏れなかったようだな】
【似合っているぞ、弟よ】
【兄さん達!!】

 其処には、これまた紋付を着こなしたバトル三兄弟の姿があった。
 しかし、その風貌は依然よりも力強く、猛々しく変貌を遂げていた。

【弟よ、我らも地球と言う星にて修練を重ねた】
【その結果。我らは更に強くなれた。今まであれが我らの限界だと思っていたのだが、どうやらまだまだ我らは成長が出来るようだ】
【これを教えてくれたのもお前のお陰だ。兄として誇りに思うぞ】
【そんな・・・僕は何もしてないよ。強くなったのは兄さん達自身の鍛錬のお陰だし、僕なんかじゃまだ兄さん達の足元にもーーー】
【謙遜するでない弟よ。お前も誇り高きバトル星人の血を引く猛者。その姿を今は亡き父上や母上達にも見せてやりたかった】

 バトル太郎のその言葉に少しだけ四人の空気が湿っぽくなってしまった。
 続いてバトル次郎も、三郎も、そしてレスキューまでもが俯いてしまう。

【すまんな。つい湿っぽい話をしてしまった。今日はめでたい式典の日、今宵は大いに盛り上がろうではないか】
【兄者。盛り上がるのはもう少し後だぞ】
【そうだ、今は静粛にせねば式が台無しになってしまうだろうが】
【む、そ、そうだったな】

 弟達に諭されて黙り込むバトル太郎。相変わらず長男は脳筋まっしぐらなようで。

【ふん、相変わらず頭の中まで戦いの事しかないのだな。バトル太郎よ】
【むむん! その声、そしてこの鼻をくすぐる塩の香り!】
【き、急に太郎兄さんが説明口調に!】

 レスキューの驚きはさておき、バトル太郎の視線の先には、常人の二回りも三回りも大きな巨体が其処にはあった。
 クジラを彷彿とさせる顔を持ち、3サイズ位上の紋付が今にもはち切れそうに悲鳴を上げている。

【久しいのぉ。こうして顔を合わせたのは数百年ぶりだったかなぁ?】
【そうだな。正確な年数は忘れたがそれくらいだと思うぞ。久しぶりだな・・・我が宿敵、≪ホエール・ガイスト≫よ】

 両者が並び立ち、互いに熱い視線をぶつけあう。
 視線と視線がぶつかり合い、火花が散る光景は回りからも見て取れる程だった。

【おい、あれって・・・宇宙海賊ガイスターの頭目じゃないのか?】
【あいつがか? あのゴクアク組ですら戦いを拒否したって言う大海賊の頭目】
【俺、初めて見たぞ・・・・にしてもでっけぇなぁ・・・流石は頭目なだけはあるな。すげぇ貫禄】

 周囲の呟きもそうだが、確かにとレスキューは納得が出来た。
 今、こうしてバトル太郎と並び立っていても分かる。バトル太郎は兄弟一の巨体を誇る。
 そのバトル太郎よりも巨大な存在が目の前に居る。
 まるで巨大な山だ。

【んで、其処のちんまいのが・・・例の末っ子と言う訳か?】
【そうだ、我ら自慢の弟だ。まだ名前は拝借されていないのが残念なのだがな】
【お前の弟だ。いずれ名を貰えるだろうが。焦る事はあるまいて】
【そうだな】
【おっと、そう言えばだ・・・おい!】

 ホエールガイストが声を掛けると、それに応じるかの様に後方から誰かが歩み寄ってきた。
 ホエールガイストに比べると小柄ではあるが、それでも巨体である事に変わりはない。
 こちらはシャチを彷彿とさせる顔立ちをしていた。

【紹介しよう。わしのせがれだ。ほれ、自己紹介せぃ】
【・・・・オルカ・ガイストだ。今回の式典に来た目的は一つ。俺が狩るに値する獲物がいるかどうか見定める為だ。雑魚に用はない。強者だけが俺の望みだ】

 堂々と、周囲に聞こえるように宣言するオルカガイスト。その言葉を聞いた周囲の来賓達の視線がオルカガイストへと注がれるが、当の本人は全く気にしてなどいない様子だった。

【全く、此処は神聖な式典を行う場だと言っておいた筈だぞ。軽はずみな行動は控えるようにと言っておいただろうに】
【興味ない。俺にとってはゴクアク組も星雲組も同じ獲物に過ぎない。だが、今回の式典で見定めるとするさ・・・星雲組が俺の腹を満たす器なのかどうかをな】
【・・・・・・】

 そう言い放ち、周囲の視線など気にする様子などもなく、オルカガイストは式典が終わるのをひたすら待っていた。
 そんなオルカガイストの若さ故の血の気の多さに父ホエールガイストは小さく溜息を吐くばかりなのであった。




 余談ではあるが、このオルカガイストが後に父の跡を継ぎ片腕とも呼べる部下達を従えて宇宙全土を荒らし回る事になるのだが、それはまた別の時代の話と言う事でーーー




     ***




【やれやれ、流石にこれだけ来賓が多いと誰が誰だか分からないねぇ】
【良いじゃないか。賑やかなのも僕は好きだよ】
【あんたはねぇ、祭りじゃないんだから】

 相変わらずどこか能天気な守に茜は少しばかり溜息をつく。こいつに番と同等のツッコミを入れたところで簡単にかわされるのが目に見えているのでやらないようにしている。
 それに、今はイインチョウと合体している状態なので今の状態だとスケバンチョウが言う事を聞いてくれないのだ。

【ったくぅ、いらいらしてくるねぇ・・・この紋付だって黒だし・・・何で赤色がないんだぃ!】
【そりゃぁ紋付だしねぇ。】
【理由になってないじゃないかぃ!】

 あぁだこぅだと茜と守の口論が周囲の視線に止まりだす。が、絶賛口論中のお二人にとってそれは些細な事だったりなようでーーー




     ***




【なぁ・・・来賓って・・・一体どんだけ来るんだよ?】

 大勢の来賓達の注目の的にされてしまってる番はぞろぞろとやってくる来賓達の数に流石に焦りを感じだしたのかぼそりとノルウェールに尋ねてみた。
 パッと見ただけでも100人は超えていると思われる。

【どれくらいって・・・宇宙全土にばら撒いたに決まってるじゃないか。それこそ宇宙中の悪党達がやってくるよ】
【マジかよ・・・】
【見てごらん。あそこに居る二人は、ホエール・ガイストとその息子のオルカ・ガイストだな。二人は宇宙海賊ガイスターの頭目と副頭目なんだ。頭目の強さはあのゴクアク組ですら戦いを拒むほどだと恐れられているね】
【へぇ、あのでっけぇクジラとイルカの親子がねぇ】
【正確に言えばオルカはイルカではなく(しゃち)なんだけどね】

 案外イルカとシャチを間違える事があるみたいですのでそう言った方は一度水族館などに足を運んで確認をお願いします。
 間違えると地味に恥ずかしいですし。

【それから、そのすぐ横には宇宙の戦闘屋と恐れられているバトル星人の中でも頂点に君臨しているバトル三兄弟だね。彼らの個々の強さもそうだが、三身一体の連携技は脅威との噂だよ】
【あぁ、俺も前に一度食らった事がある】
【おや、そうだったか、それじゃ彼らはどうかな?】

 ノルウェールが指さす方。其処にはこれまた見覚えのある顔ぶれが其処に居た。
 遠くに居たから声は聞こえないがこちらを認識した両者がこちらに合図を送っているのが見える。

【あれって、ピッチャー星人にケンゴウ星人! あいつらも来てくれたのか?】
【何だ、もう知り合っていたのか。二人も割と名の知れた強豪だよ】

 他にもノルウェールが指し示す方向にはそれこそ名の知れた悪党達が参列していた。
 どれもこれも強者揃いと言った顔ぶれだ。

【驚いたかい番君。宇宙と言うのは広いんだ。その広大な宇宙でこれだけの悪達が己の名を轟かせんとばかりに戦いを繰り広げている。そしてそれの一番の被害を受けるのは罪のない力なき人々なんだよ】
(力ない人々・・・かぁ)

 番の脳裏に幾人もの人の顔が浮かび上がる。
 母、弟、駒木のおっちゃん、町内会のおじさんやおばさん達、学校のクラスメイトや先行、それにーーー

(美智・・・)

 大勢の人々の中でひと際強く輝いたのは彼女の姿だった。何時も喧嘩ばかりしている自分の事をひたむきに心配してくれているのは肉親以外では彼女しかいない。
 が、番自身が女性への扱いが苦手なのと超絶的な初心なせいもあってか中々進展しないのが現状だったりする。
 因みに家族の方は既に了承済みらしく、隙あらば彼女と籍を入れさせようと企んでいるとかいないとか。

【良いかい番君。君がこれから行う事はこの宇宙を揺るがすほどの大事件なんだ】
【そうなのか?】
【仮にも宇宙全土にまで知れ渡っていた星雲組の次期組長とまで言われた彼と兄弟の契りを結ぶ上に、地球人を代表として同盟を結ぶんだ。それはつまり君を亡き者にすればその同盟は破棄される事になる。つまり、今まで以上に君の命は狙われる事となるんだよ】
【なるほど、要するに今まで以上に強ぇ奴と喧嘩出来るってぇ訳なんだろ? 好都合じゃねぇか】
【中々図太い神経をしているみたいだね。それなら心配はなさそうだ】
【どうでも良いけど早く始めてくれよ。いい加減この紋付ってのがきつくて適わねぇんだ】
【そうだね。それじゃそろそろ始めるとしようか】

 流石に痺れを切らしてきた番に対し、ノルウェールは笑みを浮かべると、そそくさと組長の隣へと立つ。そして、組長に手を貸しながら前へと歩み出て、大勢の来賓達に向かいマイクを傾ける。

『皆さま、本日はお集まり頂き感謝します。知っての通り、我ら星雲組は、かつてゴクアク組の策謀の前に屈し、屈辱を味わう日々を過ごす結果となりました。その過程で大勢の部下を失い、また幹部達も同様に宇宙の塵となりました。ですが! 未だこの胸にある仁義の炎は尽きてはいません! この燃え滾る仁義の炎がある限り、星雲組は永久に不滅なのです! その事を、今日お越し頂いた方々に理解して頂くべくこうして式典を設けました』

 流石にまだ本調子ではないのだろう、軽く息を整えるべくスピーチを止めて深呼吸を数度行う。

『今! この場に居る猛者達、そしてこの場に居らずとも、この式典を見ている猛者達よ! 我らの仁義の炎を掠れ火と笑いたいなら笑うが良い! 無謀な行いだと思いたければ思うが良い! されど、我ら星雲組の仁義の炎は、何人たりとも消し去る事など出来はしない! それを、今日この日を以て証明する事を此処に宣言する! 今、今日この太陽系第三番惑星≪地球≫と言う星にて、我ら星雲組は復活した事を此処に宣言する! 我らと志を同じくす者があるならば集うが良い! 我らに挑む猛者達は挑むが良い! 我ら星雲組は、如何なる者達の挑戦も受ける所存である!』

 組長のスピーチが終わり、深い深呼吸を行う組長を下げ、今度はノルウェールが前に出る。

【皆さまも既にご承知の通り、星雲組は今この場を以て復活を宣言しました。それに伴い、星雲組若頭のレッドと、地球人代表轟番との、兄弟の契り及び、地球人との半永久的な同盟を結ぶ誓いの盃を酌み交わして貰う。星雲組の仁義の炎と鉄の契りを結ぶ者は盃を受け取って欲しい。我らの意思に従わず、反抗の意思ある者は今すぐにこの会場より去ってくれて構わない。無論、去り行く者を背後から討つような愚かな真似はしない事を此処に宣言する! 来賓の方々、反応は如何に?】

 宣告をした後、ノルウェールは来賓達へと視線を移した。
 会場にずらりと並べられた大勢の来賓達。その来賓達の中に、会場を後にする者は・・・一人としていなかった。

【全員賛同の意思と受け取る。ならば、盃を!】
【【はい!】】

 ノルウェールの命を受け、数名の宇宙警備隊員達が大勢の猛者達に盃を配り、酒を注ぐ。
 当然番とレッドは特別な誓いと言う訳なので特大の盃に並々に酒が注がれていく。

【本来なら未成年の飲酒はご法度なんだけど、今回は形式だからこの一杯だけだよ】
【ガキ扱いすんなっての!】
【ははは、私からしたら君なんてまだまだお子様さ】
【んだとぉ、おっさん!】
【Don’t say !four or five!!】
【え? どせ・・・・ほは・・・な、何だ?】
【四の五の言うな!! って事だよ。昔私が若い頃に言われた言葉でね】
【んだよそりゃ?】

 半ば釈然としないながらも、番はそれ以上の追求はしなかった。
 別に興味がなかった訳ではない。だが、今は別に聞く必要もないと判断したからだ。
 そうして、レッドと番。双方が注がれた酒を飲み干す。それに続くように来賓の客達も一斉に盃を傾ける。





     ***




 堅苦しい式典が終わった後は、それはもう飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎが待っていた。
 皆形式だの堅苦しい事は抜きにして大いに飲んで歌って騒ぎまくっている。

【おぉい、エビはないのか? エビをもっとくれぃ! 後バーボンのオイル割お替りなぁ】
【こっちは焼酎のオイル割を頼む! 後つまみで宇宙鶏のから揚げを頼む!】

 そう言っているのは黒い表面が真っ赤になるまでグデングデンに飲みまくったホエールガイストがバトル太郎と共に酒を飲みつまみを食い散らかしている光景だった。

【星雲組か・・・面白い連中が多いみたいだな。近い内に軽く小突いて見るのも面白いかもな】

 そんな中、一人シリアスな事を呟きながら酒を煽るオルカガイスト。
 だが、そんなオルカガイストを背後からホエールガイストとバトル太郎が抑え込む。

【なぁに辛気臭い顔してんだぁせがれよぉ! お前ももっと呑め呑めぇ!】
【な、お、親父! う、酒臭っ! 飲みすぎだろうが!】
【馬鹿野郎! こんなのまだ飲んだうちに入らねぇよ! それよりもっとのめのめぇ!】
【がぼごぼぐぼぼぼぼぉぉぉ!】

 ホエールガイストに無理やり瓶を数本口に突っ込まれて酒を流し込まれるオルカガイスト。
 その後、彼が目を覚ましたのは式典から3日後の午後辺りだと言うそうだ。

【ぢぐじょう! ぎいでぐでよぉレズぎゅー!】
【ど、ドリルさん・・・まさか酔っぱらってる?】
【ざいきんさぁ・・・ドリ子さんがデートすっぽかしてるんだよぉ。俺ふあれちあったんあなぁ?】

 酔っぱらいまくっているせいか呂律が回っていないのだが、要するに彼女がデートに中々応じてくれないようだ。
 まぁ、彼女と言っても相手は無機物なので別にドリル個人が気にする事ではないのだが。

【うおぉぉぉぉぉぉぉぉん! 俺の何がいけなかったんだよぉぉぉ! ドリ子ざああああああああああああああん!!!】
【えっと・・・どうしよう・・・僕、酔っぱらった人の対応なんてした事ないんだけどなぁ・・・兄さん達は皆酔っぱらっちゃってるし・・・何で僕は酒が飲めないんだろう】

 一人酒が飲めなかったレスキューは哀れ、ドリルの介護役をやらされる羽目になるのだとか。

【ちょいと守ぅぅ! あんた少しはしゃきっとしなさいよねしゃきっとぉ!】
【うん、そうかなぁ? 僕は今でも十分しゃきっとしているつもりだけどなぁ】
【全然してない! あんらぐニャンぐニャンだよぉ! あたぃの目は誤魔化せないんだからねぇ!】
【ははは、そんな目で見られたら誤魔化しようがないね。可愛いよ、茜さん】
【・・・ふぇっ? 今何か言ったかぃ?】
【さぁね、空耳じゃないかな?】

 しれっとした顔をする守だが、その顔には言ってやったと言った顔が浮かび上がっていた。

【番君、ちょっと良いかい?】
【んだよ? ちゃんと酒はあれ以降呑んでねぇよ】
【それは結構。だけど、私が話したいのはそれじゃないんだ】
【???】

 何時になく意味深な態度をとるノルウェールに番は怪訝そうな顔をする。

【今回は私は助力しただろうが、これ以降私は君たちの戦いに一切介入はしない】
【・・・そうか】
【即答だね。質問しないのかい?】
【大体分かるさ。あんたが例の宇宙なんちゃらって組織の中でもそれなりに上の人間だってのがさ】
【こりゃ驚いた。思ったより頭良いんだね】
【んでもって、そんなあんたが俺達みたいな悪同士の戦いに介入したとあっちゃぁ、世間の目は一体どっちを頼れば良いか分かんなくなっちまう。そうだろ?】

 番の問いにノルウェールは答えず、ただ拍手で応じるのみであった。

【素晴らしい。正にその通りだよ】
【あんたの言い分は飲む。これから先、俺達はあんたの助力は受けない。あんたらはあんたらで力のない人たちの縋る希望にでもなってくれれば良い。汚れ役は俺達が引き受けるさ】
【ふふふ・・・似てるなぁ、君は】
【は?】
【昔ね、君に良く似た若者に出会った事があるんだよ。その若者は遥か遠い未来から来たと言っていた。今のこの時代からだとそうだなぁ・・・約20年後と言ったところかな?】
【20年後? 随分先じゃねぇか】
【そうでもないさ。20年なんてあっと言う間だよ】
【うへぇ、怖ぇ怖ぇ・・・んな事言ってたら俺なんてあっと言う間に爺さんだぜ】

 軽口を叩きながらも、番のその目にはぎらついた闘志が宿っているのが見えた。
 益々似ている。その目の闘志と言いひょうきんそうな態度と言い、何処となく≪彼≫に似ている。

【彼は時を渡る術を持っている。恐らくもしかしたら君たちの居る時代にも顔を出すかも知れないよ】
【へっ、面白ぇじゃねぇか。だったら未来の番長ってのがどれほどの強さか拝められるって訳だな】
(まぁ、彼らは勇者と名乗ってたから番長ではないのだろうけどね)
【良いかい番君。君が今立っている場所はこの後に現れるであろう大勢の勇者達が現れる前の時代なんだ。だからこそ、今君たちが悪に屈する訳にはいかない。どんなに過酷な戦いであったとしても、決して負けは許されないんだ。これだけは肝に銘じておいてくれ】
【良く分かんねぇけどよぉ、要するに喧嘩で負けなきゃ良いんだろ? 任せておけって。どんな奴が相手でも負けやしねぇよ】
【そうかい、その言葉が嘘偽りでない事を切に願うよ】

 そう言い残し、ノルウェールは静かにその場を去った。彼がこれ以上残っていても意味などないし、逆に疑いの目を向けられる危険性もないとも限らない。
 それに、これから先、自分は悪同士の戦いの余波で苦しむ人々を救済すると言う大任が残っているのだから、此処で時間を潰している暇はない。

「ふぅ、久々に大勢の人の前で演説したもんだから肩が凝ったよ。やっぱりこう言う系の仕事はやり辛いねぇ」
「その割には随分立派に果たしていたじゃないか。ノルウェール一佐殿」

 ふと、自分を呼ぶ声が聞こえた。声のした方を向くと、其処には番長と書かれた仮面を被った長ラン姿の男が立っていた。

「君か・・・どうだい、今日の彼は」
「まだまだだな。まだあいつは戦いと喧嘩の区別が出来ていない。この様子では近い内・・・あいつは負ける事になる」
「手厳しいね。私から見ても彼は十分やっている筈だけどなぁ」
「それで済まない相手がいる事をお前も分かっている筈だ」
「それって・・・奴らが動いたのか?」
「嫌、まだ動きはない。恐らく・・・奴らが動くのはこの二つの組のぶつかり合いが終結した後だろう」

 仮面を被っている為に表情は見えないが、相当険しい表情をしているのはノルウェールにも伺えた。

「とりあえず、私は今後二つの組の抗争には一切関与しない事を告げてきた」
「それで良い。この戦いは奴自身の力で切り抜けねば意味がない」
「それで、もし切り抜けられなかったときはどうするんだい?」
「その時はその時だ・・・この程度の戦いを乗り越えられない程度ではこれから先の時代に現れるであろう勇者達の妨げになる可能性もある。最悪の場合ーーー」
「分かっている。エクスカイザーやファイバード達には連戦になるだろうが赴いてもらう」
「ノルウェール、すまんがもう一つ無茶を聞いてはくれんか?」
「やれやれ、こっちの頼みを聞かない癖に無茶ばかり頼む君には呆れるよ」

 苦笑を浮かべながらも、ノルウェールは彼から言い渡される無茶ぶりに応じようとする心構えを持っていた。
 それが、この後の宇宙の為だと言うのならばーーー




     つづく 
 

 
後書き
次回予告


「無事に星雲組も復活! ってな訳でこれからも変わらず喧嘩しまくりだぜぃ! って思ってたら、何か変な奴が出てきやがった。何ぃ!? 未来から来ただとぉ!?」


次回、勇者番長ダイバンチョウ

「激戦開幕!喧嘩相手は未来からやってきた!?」

次回も、宜しくぅ!! 
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