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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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47話:適性

 
前書き
100万PV達成!!ありがとうございます。(2018/10/22) 

 
宇宙歴777年 帝国歴468年 4月下旬
首都星オーディン 黒真珠の間
ザイトリッツ・フォン・リューデリッツ

「帝国軍イゼルローン要塞司令官ザイトリッツ・フォン・リューデリッツ殿~!」

近衛の前口上が思った以上に大きな声で述べられ、俺は赤絨毯を進む。2度にわたって繰り広げられたイゼルローン要塞防衛戦の論功として、双頭鷲十字星賞という勲章の受勲の為に、軍官と文官が勢ぞろいする中をテクテクと歩いていく。視線の先には玉座に座った兄貴ことフリードリヒ4世が笑顔で待っている。兄貴は軍と政府と大貴族のバランスを取るために、普段はそこまで政務に口を出さないが、前線で頑張る我らがザイ坊の活躍に、勲章で報いたいと考えたらしく、今回ばかりは勅命を出したらしい。
俺だけでなくメルカッツ先輩にも同じ勲章が授与されるし、パトリックやテオドールにも格は下がるが勲章が授与される。付いてきてくれた事に報いる事が出来て嬉しいと同時に、軍人としての適性がない事が自分の中でははっきりしたので、昇進はするだろうが、退役すべきなのではないか?と悩む日々が続いていた。

戦果としては、第一次イゼルローン要塞攻防戦にて2個艦隊を撃破し、第二次イゼルローン要塞攻防戦において3個艦隊を撃滅した。叛乱軍の戦死者は500万人を越えるだろう。正直、自分の功績という以上に、あちらの為政者や軍上層部の無謀さに怒りを覚える日々だった。それだけ社会の疲弊が進んでいるのかもしれないが、乾坤一擲の策にしても、人命軽視が過ぎるように思えた。

かなりの奥行がある黒真珠の間を歩きながら、2度に渡る攻防戦の事を思い出す。一昨年からイゼルローン要塞の司令官に着任した訳だが、帝国は現在戦争を優位に進めているし、最前線での会敵が減少傾向だった。メンテナンスも兼ねて、アムリッツァ星域の第11駐留基地とシャンタウ星域の造船工廠に前線で遊弋していた6個艦隊を戻した訳だが、そのタイミングで威力偵察の為だと思われるが、叛乱軍の2個艦隊がイゼルローン要塞付近まで進撃してきた。
これが第一次イゼルローン要塞攻防戦になる訳だが、回廊に侵入してきた時点で、第11駐留基地へ急報を送り、要塞を中心に駐留艦隊を左翼と右翼に二分し、回廊外縁部を使いながら後方遮断するそぶりをしつつ、要塞は対空砲と制宙戦力で対応した。そして、要塞の陰になる航路から2個艦隊が増援にかけつけ、駐留艦隊が一気に後方へ進路を取ったことに対応して叛乱軍が回頭をし始めたタイミングで、要塞の陰から一気に包囲殲滅戦を仕掛けた。叛乱軍側の回廊は意図的に塞がなかったので、多少は脱出を許したが、2個艦隊30000隻のうち、25000隻は沈める事が出来た。要塞主砲は、威力偵察であることを認識していたので、あえて使用しなかった。

これでしばらくは落ち着くと判断し、帝国軍が最前線に遊弋していない状況での叛乱軍の動きを確認する意味で、第11駐留基地に3個艦隊を駐留させながら哨戒活動に勤しんだ。叛乱軍は増援が来るまでの短期決戦なら、要塞を陥落させる余地があると判断したらしく、昨年に4個艦隊で来襲した。ここでも前回同様、すぐに3個艦隊の増援を頼むとともに、回廊外縁部を使いながら後方に出る素振りをしつつ、増援が来るとともに包囲宿滅戦を実施した。ただし、要塞主砲を今回は使用した。4個艦隊60000隻のうち、40000隻は沈める事が出来たが、正直、要塞主砲を斉射する際は、戦闘というより一方的な虐殺に近い戦況だった。周囲は喜んでいたが、俺は気分が悪かった。ボタンを押すだけで数十万人の命が消える。なぜ喜べるのか、直後は怒りすら覚えたほどだ。

こうして俺のイゼルローン要塞司令官の任期は終了した。叛乱軍の500万人をこえる血によって回廊を彩ることになったわけだ。叛乱軍から見ればイゼルローン要塞を落とせれば国防体制を抜本的に改善できるのは確かだ。だが、無謀な進撃で将兵の命を浪費する姿に、門閥貴族と似た匂いを感じた。そうこうしているうちに、終着点まで歩いたらしい。跪いて、兄貴の言葉を待つ。

「リューデリッツ伯ザイトリッツ。貴公は近年生じたイゼルローン要塞攻防戦において、抜群の功績を上げた。よってこれを賞するとともに、その功績をたたえ、双頭鷲十字星賞を授ける。帝国歴468年4月銀河帝国皇帝フリードリヒ4世」

「ありがたき幸せ。帝国の興隆の為、より一層はげむことを誓います」

兄貴直々に右胸に勲章をつけてもらう。大変な名誉だし、光栄だとは思うが、心から喜べないのは主砲発射を命じたときの葛藤だけでなく、おばあ様が亡くなったこともあるのかもしれない。イゼルローン要塞の司令官を拝命した段階で覚悟はしていたが、最後の時に傍にいられなかったのは、殺戮者となった俺に相応の罰なのではないかなどと、暗い思考の輪に囚われていた。
勲章を付け終わると、再度最敬礼をし、身をかがめて5歩下がり、振り返って退室する。帝国の国家であるワルキューレよ永遠なれが鳴り響くが、俺の心にはあまり響くものがなかった。俺には軍人としての適性は無かったのだろう。内心を探られぬようにあえて勲章を誇るように胸を張って歩く。前世も含めれば80年以上生きてきて、こんな虚勢を張ることになるとは思わなかった。
唯一の光明は、政府と宮廷で主張されていた前進論が形をひそめた事だ。俺の方では過大に見積もったダゴン・アスターテ・パランティアの駐留基地新設計画書と、アムリッツァ星域の第11駐留基地を6個艦隊クラスの駐留基地に増築する提案書を提出した。
高額な最前線駐留基地新設費用と、兄貴が
「そこまで言うなら、侵攻して得た領地は任せるゆえ。今の領地から異動してくれると思って良いな?」
と、言ってくれたおかげもあり、前進論は形をひそめる結果になった。来期には第11駐留基地の増築案が採用される見込みだ。
ガイエスブルク要塞の方は、居住区画を各門閥貴族に割り振ったのは良いが、もはや笑い話の種になりたいのだろうか?設計図は認識していたものの、各々が少しぐらいなら大丈夫を繰り重ねたらしく、結果、誰も設計図と合う物を造らなかったらしい。笑い話としてなら、歴史に残る高額な費用を使った話になるだろう。俺が苦悶している中、宇宙レベルの茶番をしていたのかと思うと、腹立たしい。
一旦洗面台を使って落ち着こう。これから受勲を祝う宴が開催される。主役のひとりがしかめっ面では盛り下がる。俺はそれなりに空気を読む人種なのだ。洗面室から控えの間に戻る途中で、近衛から声を掛けられる。付いていくと叔父貴がおり、兄貴が内々で話したいらしく、バラ園へ一緒に来て欲しいとのことだった。バラ園か。兄貴がやりたいことは何もできない為、無為を埋めるために始めた趣味らしいが、どんな心境でバラの世話をしているのだろう。仲睦まじかった皇后殿下も体調を崩され、昨年身罷れたとも聞いているが。


宇宙歴777年 帝国歴468年 4月下旬
首都星オーディン バラ園付近 
リヒャルト・フォン・グリンメルスハウゼン

「これが兄貴のバラ園か。ゾフィーから少し聞いた話だけど、花は丹精込めて世話をした分だけきれいに咲くらしいね。この美しさを素直に喜べないのがつらい所だけど」

勲章の授与式を終えたザイ坊と、陛下のバラ園へお忍びの態で移動してきた。咲き誇るバラを見て、ザイ坊が悲し気に感想を漏らす。こやつも陛下が本来なされたいことをウスウスは感じている所がある。あのまま行けば、帝国は門閥貴族達に貪りつくされると判断して、動いた結果がこれだ。したくもないバラの世話を陛下がされた結果の美しさ。儂も心からこの美しさを楽しめたことは一度も無い。今少しやりようがあったのではないかと思わぬ日はないが、あの一件は秘したまま、あの世にもっていくつもりだ。

「そうじゃな。陛下が本当に美しさを評されたい者達はこの美しさを素直に喜べぬ。陛下のお心を知らぬ者どもはどこかで読んだような口上をしたり顔で述べてくるな」

「叔父貴も言うようになったね。まあ、俺との場でぐらいはそうでないと、腹に色々溜まり過ぎるからね。こっちも似たようなものだし」

少し乾いた笑い声をあげてから、こちらを気遣うような視線を向けてくる。こやつは儂が秘していることもウスウス気づいておるのかもしれぬ。初めて会った時からすでに25年。いつの間にやら身長も抜かされ、儂が見上げる側になっている。あの時の飲み屋街での思わぬ出会いが、深い縁になるとは、この歳になって思うが、人との縁とは面白いものじゃ。

バラ園の入り口から、レンガ敷きの通路を少し進むと、小さめの広場が見えてくる。いちばん奥まった所に屋外用のダイニングセットが用意され、陛下がお茶を飲みながら寛いでおられるのが目に入る。嬉し気にティーカップを少し持ち上げながらこちらに視線を向けられた。とはいえ、誤解を避けるために走り寄ることはできない。小走りにもならない様な速さで歩み寄り、跪く。後ろでザイ坊がそれに倣う気配を感じる。

「陛下、リューデリッツ伯をお連れいたしました」

「リューデリッツ伯ザイトリッツでございます。先ほどは直々の勲章授与、ありがとうございました」

「うむ。久しぶりの楽しい政務であった。超硬度鋼生産施設の火入れ式を思い出しながらお茶を楽しんでいたところじゃ。マリア殿の事は残念であったな」

「ありがとうございます。陛下のお言葉を聞けば、祖母も喜んだことでしょう。イゼルローン要塞司令官のお話を受けた際にこういう事もあろうかと覚悟はしておりました。お心遣いありがとうございます」

内々とは言え、近衛やお付きの者たちがおる。お忍びの様な話し方をすればあとあと不敬罪でザイ坊が責められかねぬ。言葉遣いでさえ自由にならぬとは、銀河帝国の皇帝の地位のなんと不自由なことか、御いたわしさを改めて感じてしまう。

「うむ。受勲の場ではいささか表情が芳しくない様子であったが、マリア殿の事以外にもなにか懸念があるのか?前進論は形をひそめたと聞いておるが。」

「は。臣は戦場で100万の敵を倒すことよりも100万の臣民を養う事に志向があると再度認識した次第で。今更ではございますが色々と考えております。今回の戦果も叛乱軍が犠牲を厭わぬ無謀な作戦を実行した部分が大きいのです。自軍の兵士の命を浪費するような場に出くわし、面喰っているのかもしれませぬが......」

陛下もザイ坊も生まれに縛られた人生を歩んでおる。ザイ坊の志向は軍人ではなく事業家であろうに。周囲から賞賛を受けても、本人の心は乾いていく一方なのであろう。それにマリア殿が身罷られた。もう本心から祝って欲しい方もおらぬ。そこでふと、このバラ園に思考が移った。陛下にとってのバラ園が、ザイ坊にとっての軍務なのかもしれぬ。

「そちが望むなら、退役を許可する勅命を出しても構わぬが、如何する?」

「陛下、それはさすがにお願いできませぬ。守りたい家族も、報いてやりたい部下も。戦場を共にした戦友も出来ました。それに生まれついての責任を果たされている方を存じ上げております。私だけ、楽隠居して生きたいように生きるにはいささかタイミングが遅いかと存じまする」

陛下は気遣うような表情をしながら退役の可否を問われたが、ザイ坊は少し間をあけてから、今の生き方を続けると答えた。この2人を見ていると儂まで悲しくなってくる。

「生きたい様に生きられぬか。何やら心当たりがあるのう。儂は近いうちに14歳の寵姫を持つことになるようだ。お互い苦労が絶えぬな」

陛下は苦笑されているが、ある子爵家がもう二進も三進もいかなくなり、宮廷貴族に賄賂を渡してねじ込んできた話だ。娘を売ったに近いやり口だが、断れば子爵家は完全に没落することになる。その娘も陛下に袖にされたとなれば、嫁ぎ先は無くなると言ってよい。陛下は話を受ける代わりに、しばらくの間は同じような話を持ってこぬように指示を出された。祝宴まではまだ時間がある。今少し思う所を吐露する時間はあるだろう。 
 

 
後書き
金髪さんと赤毛さんが昨年生まれてます。 
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