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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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46話:要塞司令官

宇宙歴774年 帝国歴465年 4月下旬
首都星オーディン 宇宙艦隊司令本部
ザイトリッツ・フォン・リューデリッツ

「ミュッケンベルガー上級大将、宇宙艦隊副司令長官への着任、おめでとうございます」

「ありがとう、リューデリッツ中将。現在の戦況がシュタイエルマルク元帥と中将の合作であることは、私も理解している。引き続き軍部の重責をお互いに担うことになるが、よろしく頼む」

「身に余るお言葉です。私は思いついたことを取りまとめただけで、形にしてくださったのはシュタイエルマルク元帥です。そのように言われてしまうと恐縮する次第です。また、事前に人事の希望をご確認いただきありがとうございました」

定例昇進の際に、予定されていたミュッケンベルガー伯の上級大将への昇進と宇宙艦隊副司令長官への任官が行われた。俺も辺境自警軍の体制づくりが完了したとして、中将に昇進した。ここで内々に次の役職の希望を事前に確認された。と言っても、どこがいいか?という打診だった訳だが。打診の内容は正規艦隊の司令官・イゼルローン要塞の司令官・アムリッツァ星域の第11駐留基地の司令官の3候補の中から選んで欲しいという内容だった。
分艦隊司令として前線に出た事はあるが、後方支援部門を軸に軍歴を重ねてきた俺に、前線と後方支援の両面から選択肢を提示してきた訳だ。艦隊司令官は、おそらく大将に昇進したら予備役入りしない限りやらざる負えない状況なので、今回は自分が資材調達したイゼルローン要塞の司令官を希望した。求められているのは、前線の補給効率の向上といったところだろう。その辺は得意分野だし、アムリッツァ星域の第11駐留基地は5年近く滞在したから細かいところまで把握できている。いまさら赴任しても大きな改善はできないと判断しての決断だ。

要塞駐留艦隊は言ってみればミュッケンベルガー艦隊だったので、こちらも宇宙艦隊司令本部に転属することになる。要塞駐留艦隊の司令官の候補者も打診されたが、メルカッツ大将を希望した。気のしれた仲だし、長兄のローベルトを選ぶと、ルントシュテットの色が強くなりすぎると判断したためだ。先輩の方が階級が上になるので駐留艦隊と要塞防衛部隊の力関係に懸念もあったが、叛乱軍が要塞付近まで押し出してきた実績がない以上、主役は駐留艦隊だ。また、万が一要塞付近が戦場になるようなことがあれば、腹を割って話せて当てにできる艦隊司令官が欲しかったので、わがままを通した。先輩も事務仕事を俺に押し付けられるから悪くない人事だと思うだろう。
ミュッケンベルガー上級大将の宇宙艦隊司令長官への就任は既定路線なので、艦隊司令の時代からコンビを組んでいたグライフス中将が、総参謀長となり、次兄のコルネリアスは軍務省へ高等参事官として転出した。これは政府系と宮廷系の貴族が、戦況が優位なことを勘違いしたのか、攻勢を強める事を主張しだしたことが原因だ。
ガイエスブルク要塞の建設はあと3年は続く。資材価格が高止まりした中で攻勢を強めても余裕をもたせた戦力補充などできない。歯止め役としての転出だった。軍部には建国初期と、ルドルフ大帝崩御直後の40億人の反乱の資料が残っている。130億人の反乱などどうにもならないし、命を賭けて戦争に勝った先がそういう未来だと認識のすり合わせも軍上層部では完了している。
俺のイゼルローン要塞赴任は、ある意味この状況の保険ともいえる。叛乱軍との戦争で、消しきれない大敗を喫したダゴン星域をはじめ。もう一歩踏み込むにはさすがに最前線の補給拠点がイゼルローン要塞だけでは心もとない。仮に戦線を押し出すなら、どんな補給体制が望ましいかを立案することも、俺の役目になるだろう。

「中将に今更言うまでもないと思うが、前線の状況も知らずに好き勝手モノ申す者どもがおる。次兄のコルネリアス殿が軍務省に転出したのも、前進論を抑える為の人事だ。ただ、万が一前進するとしたらどんな体制が良いのかも検討してもらいたい。よろしく頼む」

「はい。その辺りは心得ております。もう一歩踏み込むとしてダゴン・アスターテ・パランティアのラインが戦線となりますが、そこまで踏み込むならイゼルローン回廊のあちら側に補給基地が必要になります。計画は作成しますが、帝国全体で考えれば入植できる訳でもなく、叛乱軍の補給線への負担を減らすだけですから、その辺りも含めて計画案を作成いたします」

おれは敬礼をし、副司令長官の答礼を待って、執務室を退出した。宇宙艦隊司令部を出て、地上車に乗り込みリューデリッツ邸へ向かう。イゼルローン要塞は最前線の入口だ。赴任中は戻ってこれないだろうから、色々と手配りしておきたい。


宇宙歴774年 帝国歴465年 4月下旬
首都星オーディン リューデリッツ邸 
ワルター・フォン・シェーンコップ

「まもなく旦那様がお戻りになられるとのことです」

先ぶれが到着し、リューデリッツ邸は少し騒がしくなる。閣下からは話を聞いていたが、イゼルローン要塞の司令官に着任するとのことだった。今夜の晩餐が終わればしばらくはオーディンに戻れない。ご家族での晩餐に水を差してはいけないと思い、席をはずそうと思ったが、余計な気遣いはしなくて良い。とのことで、俺も今夜の晩餐に招待されている。赴任期間は短くても2年。大奥様はもう80歳を越えているし、一緒に過ごせる最後の機会になるかもしれないとお話になられていた。ご嫡男もご息女もまだ幼く、奥様も懐妊されている。こんな時期に前線への勤務を命じるなど、軍部の連中は無粋な連中だと怒りを覚えたが、よくよく考えれば、俺自身、閣下としばらく会えなくなるのが寂しいのだと自覚した。幼年学校に入ったばかりだし、さすがに従卒としてついていくのは無理がある。

「シェーンコップ卿、まずはお役目をしっかり果たそう。我らにできる事でまずはお役に立つしかあるまい」

「オーベルシュタイン卿は良いですよ。進路相談もしっかりして頂いてましたし、RC社の方でも活躍されていると聞いてますし」

声をかけてきたオーベルシュタイン卿は、RC社の事業の分析をしたり、奥様の事業にもあれこれと提案をしている。士官学校に進むか、経営系の大学に進むか悩まれていたが、閣下と相談して士官学校へ進路を決めたらしい。RC社の事業は軍関連の物が多いから、大佐くらいになっておくと外部との折衝に役立つとのことだ。
俺は幼年学校を出たら、陸戦隊の育成校を志望していたが、そんな話を聞いてから、まだ誰にも言っていないが士官学校を志望することに決めた。どうせなら役立てる場を広く持ちたいと思ったからだ。

「たまたま私の志向に合っていたというだけだ。それより、幼年学校の対象者限定とはいえ、ザイトリッツ様の日の演出を任されたそうではないか。卿はマナーのアレンジも得意だ。私はどうもそっちの方は型通りにしかできない。言わば閣下の名代だ。うらやましくないと言えば嘘になる」

そう、俺は閣下が留守の間、幼年学校在籍者の会食だけだが、もてなしの内容を考える事を任された。主賓は閣下のご兄弟方にお願いすることになるが、認められたようで嬉しかった。大奥様にも色々と教えて頂いたのだ。文句の付け所のないものにするつもりでいる。
そんな事を考えていたら、少し大きめの地上車が屋敷の門から入ってくるのが見えた。ロータリーに入り、玄関前で停車する。閣下が降りてこられた。すかさずカバンを預かる。俺が従士見習いを始めて最初に任された役目だ。疎かにするつもりはない。
一息つく間を置いて、晩餐が始まる。今日の前菜は少し俺の趣向を入れ込んだものだ。次に晩餐を共にできるのは2年先になる。ザイトリッツの日の演出を任された以上、ご安心頂く意味も込めてと、料理長に頼み込んだ。乾杯が交わされ、前菜が食卓に配膳される。何食わぬ顔をしていたが

「ワルター。今日の前菜は新しいアレンジだね。これなら演出の方も安心だ」

閣下が嬉しげに感想を話す。大奥様も奥様も、俺のアレンジだと気づいたらしい。柄ではないが少し照れてしまう。一日も早く、またこんな晩餐を皆で楽しめる日が来て欲しいと思う。 
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