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Fate/BBB ー血界戦線・英霊混交都市ー

作者:海戦型
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盗めない宝石とか負けない愛とか人類はすぐに不変の何かを求めるけど、変化だってそう悪いものじゃない。と思う短編

 
 HLに数多の英霊が召喚された際、実に多くの英霊が実に多くの選択をした。


 歴代ハサンたちは全員が初代様に首を刎ねられ――かけたものの、不思議と刎ねられていない。元マスターへの義理立てか、もっと優先すべき敵が多すぎたか、或いはあんなのでもライブラに置いておけば人の役に立つと思ったのかは定かではないが、とりあえず彼らは今すぐ刎ねられるべきとは認識されなかったらしい。
 結局、暗部の仕事の多いスティーブン・A・スターフェイズに雇われてハサンズは動いている。
 余りにも高潔過ぎるライブラリーダー、クラウスの補佐を務めるスティーブン(ザップからは番頭とも呼ばれる)は、クラウスにも極秘で私設部隊を持っている。その実態は謎に包まれているが、それは高潔なクラウスでは行えないであろう非人道的な活動も行っている。
 それだけ聞けば腹黒い奴、信用ならない奴と感じる者も多いだろう。しかし、実際にはスティーブンにはライブラの、人類の、そしてクラウスの為ならすべての泥を自分で被るだけの鋼の覚悟がある。その在り方は、取り繕うだけの愛想があるのを抜きにすればアグラヴェインに近いものがあった。

 或いは、そういうところがハサンたちを惹きつけたのかもしれない。
 実際静謐辺りはさりげなく近寄ろうとして、時々チェインと裏で睨み合いをしていたりする。さしものHLと言えど静謐レベルの毒となると解毒前に死ぬので厳しいものがあった。


 ちなみに召喚された円卓の騎士は、アルトリアがライブラについたことでもれなく全員やってきている。ただ、アルトリア当人に関してはオルタ・ランサー・ランサーオルタ・リリィと色々召喚されているが、セイバー以外の全員はややこしくなるからとライブラの協力者の立場を取っている。
 Xたちはいない。というか既に座に還った。内部分裂(いらんことしぃ)を恐れた全まとも時空アルトリア(リリィだけは蚊帳の外に置かれた)との壮絶な死闘の末に撃破されたのである。この件で計らずしも「HLで座に還った英霊は再召喚はされない」という説が有力視されている。

 他にも座に還った英霊はいる。

 クリストファー・コロンブスは協力者を集めて人身売買に手を染めたのだが、手間を省くために新型幻術で誤魔化していたのをレオに発見されてライブラに撃破されている。懲りない男だが、HLでは彼のような先見の明も謀り事のクオリティもイマイチな奴はいずれ同業者に喰われていたであろう。

 フランシス・ドレイクもなんと座に還っている。理由は特に何も考えずに海に出たら触手に叩き潰されたという初見殺しにも程がある酷い経緯である。彼女は知らなかったのだが、HL近海の海には異界の怪物さえ慄く凄まじい強さの神性生物が住んでおり、敵とか味方とかじゃなく「宇宙に生身で出たら死ぬ」みたいな物理現象の一つのレベルでカウントされているのだ。その光景を見た海系ライダーたちは一斉に海に出るのを諦めた。
 
 他にはそもそも弱すぎる英霊やマイナー英霊も結構街についていけずまぁまぁの数だけ倒されており、理性の薄いバーサーカーも斃れている。殺生院キアラも撃破されたのは以前にも話したが、アンリマユは現地人に普通に負けて消えている。クソザコだからしょうがないね。


 他、世界の秩序に興味のない王様系サーヴァントは協力の如何に関わらず独立して動いているし、そもそも根が悪党であるコロンブス系サーヴァントは普通にHLの闇社会に混ざっている。とまぁ、これが全体的な選択だ。


 そして、フェムトが事を起こす前、召喚事件の直後に一つの事件を起こした英霊がいた。



「全ての文明を、破壊する」

 アッティラ・ザ・フン――フン族の王、アルテラである。

 彼女は別に破壊や殺戮を好んでいるサーヴァントではない。むしろ、どこかそれを虚しく思っているようにさえ感じることもある。しかしながら、彼女という存在は性質として「文明を破壊する」という要素を内包している。
 人間が生きていれば意識せずとも息をするように、彼女は生きていれば当然のように文明を破壊するという解を弾き出す。戦いとあらば勝利し、破壊する事が当たり前。本人なりに壊す文明と壊さない文明の区別はあるらしいが、少なくとも彼女にとってHLは破壊すべきものに映ったらしい。

 或いはそれは、今になって思えばHLそのものが破壊の対象ではなかったのかもしれない。ただ、HLには外に存在しないありとあらゆる生物、法則、要素、監視者、文化がありすぎる。カルデアのマスターと接して破壊しかしない自分に一区切りをつけた筈の彼女が突然そうした行為をしたのは、一種の「文明酔い」だったのかもしれない。そういった事が起こりえる程に、HLは混沌の釜の中なのだ。

 そして、アルテラの宝具『軍神の剣』は巨大ビームも撃てれば刃の形状や長さも変えられ、接近戦でも無類の威力を発揮するという非常に単純な「破壊」の力を持っていた。これが都心に出てきて、文明を破壊しようとしたのだ。その事件はまさに壮絶だった。

 次々にビルを薙ぎ倒し、やってきた警察を吹き飛ばし、アルテラはまさに破壊の限りを尽くした。しかしその派手な破壊ぶりが逆にライブラにすぐ事態を察知させる結果になり、彼女の前に1人の男が立ちはだかった。

「私の名はクラウス・フォン・ラインヘルツ――貴公の破壊活動を止めに来た者だ」
「行く手を阻むのか――私の」

 その戦いもまた、熾烈を極めた。なにせアルテラは軍神の性質さえ持った最上位サーヴァントの一角である。対してクラウスは生身の人間――などと侮ることなかれ。半分とはいえ神と切り結ぶ底なしのポテンシャルを秘めたあのザップでさえ対人では一度たりとも勝ったことがないライブラ最強の男、クラウスもまた人類最上位の一角。特にそのメンタルの強さたるや、英霊たちが己を恥じるほどの鋼鉄っぷりである。

「全てを粉砕する――軍神の剣(フォトン・レイ)ッ!!」
「ブレングリード流血闘術、117式!!絶対不破血十字盾(クロイツシルトウンツェアブレヒリヒ)ッ!!」

 勝敗を決めたのは、ある意味、その一撃だったのかもしれない。

 絶対不破血十字盾(クロイツシルトウンツェアブレヒリヒ)。クラウスの精神性を象徴するような、世界の何よりも硬い盾。時間という絶対的な法則さえ『固めた』それはエルダー級さえ砕けなかった人類最強の盾だ。恐らくこの光景を某デミ・サーヴァントが見ればレオニダスに次ぐ第二の盾先輩だと感極まったであろうこの技を、アルテラは何度も何度も破壊しようとした。
 
 そして、出来なかった。

「そう、か……砕けないモノもこの世界にはある……私は、それを知っていた筈、なのにな……」
「……戦いながら、感じていた。貴公はもしや、破壊をしながらも心のどこかでそれを望んでいないのではないか?」
「それは、違うな。間違いも偽りもなく、破壊すべき文明は破壊する。それが私と言う存在。私というサーヴァントの本質だ。そこに疑いもなければ齟齬もない。ただ――」
「ただ――?」
「もしも。もし、この身がサーヴァントならざる何かとなって新たな生を得ることがあったのならば――破壊しない生き方をしてみたいと思うことは、ある。ただ、それだけの話だ」
「……………」

 こうして、HL最初のサーヴァントによる事件は、犯人ことアッティラ・ザ・フンの消滅によって幕を閉じた。


 ――そう。


「ならば、破壊の人生ではない生き方を今から選べばいいと、私は思う。貴公――いや、君にそうしたいと思うだけの意志があるのならば、それに向かって進むことも出来る」
「しかし私は、どうしようもなく文明の破壊者だ。見よ、我らの周りを、広がる瓦礫の山を。これを築く存在であることを私は自ら認めているのだぞ」
「戦いのない人生という望みがあるのも確かな筈だ。ならば進むべきだ。光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北する事など断じて無い――君が勝利すべきは、昨日までの君自身だ」
「何がお前をそうする。血か、立場か、文明か?」
「それに育まれたものもあるだろう。だが、今ここに立って喋る私をそうさせるのは、外ならぬ私自身だ」
「盾だけでなく言葉さえ砕けないな、お前は。そうか……それが、人間の生き方ならば、私は――」

 例えその後クラウスが褐色の肌で白髪の少女をライブラに連れて行き、スティーブンに「正気かクラウス!?考え直せ!!」と盛大に怒鳴られても頑なに意見を変えずに彼に諦めさせ、その後「本当に倒したのか」としつこく探ってくるダニエル警部に疑われる程に犯人――「アッティラ・ザ・フン」に酷似した少女がライブラの人間と行動を共にしているのを目撃されたとしても、アッティラ・ザ・フンは消滅したのである。

 クラウスの意見を聞いて最大限譲歩しそういうことにしたスティーブンは、そういうことでダニエル警部の追及をのらりくらりと躱していた。

「彼女はアルテラだ。アッティラ・ザ・フンなどという堅苦しい名前ではないよ」
「発音が限りなく似てるだろッ!!」
「しかし、犯人の姿を捉えた映像は――『だいぶ解像度が荒いが』白髪の長髪だ。対して彼女の髪はショートヘア。サーヴァントが身体的特徴を変える事は特殊なスキルでもないと不可能なことは警部もあのいけ好かない探偵のサーヴァントにご高説を受けた筈だが?」
「あいつの言う事なんぞ真に受けられるか!だいたい髪じゃなくて長髪に見える装飾だったという目撃証言もある!というか、手に持ってるあの三色の剣が!!」
「剣?はて、僕はあれが剣には見えませんよ?だいたい犯人の武器は『鞭』とも『大砲』とも言われていて正体がはっきりしない。彼女の持つカラフルな棒とそれを結びつけるのは、流石に無理があるんじゃないかい?」
「………チッ!今回は令状取るのに情報が足りねぇから引くがな、二度三度同じ手を使えると思うんじゃねえぞ?」

 実際の所――あれだけの破壊を巻き散らしながらも「死者そのものはゼロだった」という事実がなければ、引き下がりはしなかっただろう。クラウスはそのことに気付いていたからこそ、彼女は変われると確信した。

 こうして、アッティラのそっくりさんことアルテラは今日もライブラにいる。
 ただし、クラウスの強い要望で戦いには基本的に参加させない、という条件付きで。

「色んなサーヴァントと技術者に作ってもらったこの因果律絶縁手袋なら、以前のようにジョウロを軍神の剣に変える事はない筈だ。では……(ちょろちょろちょろ)」
「うむ、そのまま葉や茎にかけず適量だ。……しかし、最初にやるのは園芸でよかったのかね?ギルベルトに頼めば他にもっと女の子らしいことも教えてもらえると思うのだが……」
「そうかもしれない。しかし、こうして植物を育て見守っていると……何か、懐かしい感覚が湧いてくる。きっと私はかつて、こうして何か、いや誰かを育て見守ったことがあるのかもしれない」

 そう語るアルテラの横顔はとても穏やかで、戦いなど知らない草原の少女のようだった。 
 

 
後書き
実はアルテラは私の手に入れた記念すべき二人目の星5鯖でして、感想で要望もあったので自分なりに考えて書いてみました。正直使い勝手は特別いいとは言い難いですが、今も助けてもらっています。
絶望王と絡ませるのも考えたりしたのですが、絶望王と対峙したクラウスの方が相手としてしっくり来たのでこんな感じになりました。

ちなみにダニエルが警部補じゃなく警部になってます。つまりそれぐらいの時系列です。
そのうち教授とホワイトの話とか書きたい。一部なんかアニメ一期のオリジナル要素アンチいるらしいけど、私は好きです。というか内藤先生のチェックも入ってるんだからほぼ公式キャラでしょ。


どうでもいい豆知識
梅毒について調べてたら、梅毒をヨーロッパに持ち込んだ感染源ってコロンブスの部下という説が濃厚らしいです。マジかよコロンブス最低だな。最初からネイティブアメリカンにとっては最低だけど。 
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