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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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20話:入学

宇宙歴756年 帝国歴447年 4月初頭
オーディン レストランザルツブルク特別室 
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

「ザイトリッツ。入学生代表挨拶は立派でしたよ。レオンハルト様にもぜひ見て頂きたかったわ。」

おばあ様が、感無量と言った表情で涙ぐんでいる。目線を横に向けると、我らも励まねば!その通りですね。などと声が聞こえる。最初のは堅物。次のは腹黒の発言だ。堅物は心からの発言のようだが、腹黒は若干にやにやしている。からかい半分お祝い半分といった所だろう。

「おばあ様、兄上方、私よりもパトリックを褒めてください。私の場合身近に元情報参謀がおりましたし、装甲擲弾兵有資格者に鍛えられたのです。首席は取って当たり前ですが、パトリックは私に並ぼうとかなり励んでおりました。これぞ忠義の現れです。首席は毎年誰かがなりますが、真に忠義を尽くしてくれる乳兄弟を得る人生を歩むものが何人おりましょうか。」

幼年学校の入学式を終え、俺の首席合格を祝う意味で、家族揃って少しお高いレストランの特別室にきている。お祝いなので、今日に限って乳兄弟のパトリックと専属従士のフランツも下座についている。パトリックは予想外の称賛のが振られ、すこし照れていた。

「うむ。パトリック。これからもザイトリッツを支える意味でも励んでくれ。では皆の手元にグラスが揃ったようだ。乾杯しよう。」

そう父上が乾杯の音頭を取ると会食が始まった。俺からすれば、幼年学校なんて前世の小学校に毛が生えたようなものだし、実技は元大佐と装甲擲弾兵からみっちり仕込まれた。これで首席が取れない訳がない。まあ、皇族とか公爵家の嫡男とかがいたら別かもしれないが、同学年に門閥貴族も含めて嫡男はいなかった。つまり実力があれば首席という事だ。

ただ、俺の首席よりパトリックの上位合格の方がすごいと思う。俺は軍部系貴族の直系男子だから、幼年学校行きは確定の進路だったが、乳兄弟としては、幼年学校以外の進路を選んでも良かった。パトリックは自分の意思で幼年学校を目指すと決め、どんなに不調でも俺が上位合格をするだろうという話を聞いてから、自分も上位合格をしようとかなり頑張っていた。普通の10歳にできる事ではない。俺はパトリックが誇らしかった。

「領地経営もRC社も順調だけど、ザイトリッツが幼年学校に行ってしまうと領地が寂しくなるわね。ニクラウス?予備役編入はまだ無理なのかしら?」

おばあ様が本音を漏らした。
RC社が設立されて2年が経ったが、好調の一文字と言っていいだろう。ルントシュテット家はコンサルティング契約料を年間20億、RC社に払っているが今期の利益配分は40億を超えるはずだ。想定以上の高収益の要因は、辺境星域領主たちのあせりと、優秀な人材が確保できたことが大きかった。

RC社は設立してすぐに帰還兵を雇用して輸送船団の運航を開始したが辺境星域の各星系ごとに、出資比率1:1で投資を目的とした合弁会社の設立を提案した。ただし、出資金が出せない場合は将来の収益を担保とすることを容認する形で契約のひな型を作った。意図としては、星系ごとに共同出資した企業を主体に、インフラ・農園・鉱山に投資する事だが、想像以上に交渉が早くまとまった。

理由としては原資がない辺境貴族たちを意識して、将来の利益配分から後払いを認めた点にあった。当初は話がうますぎると疑う者もいたようだが、RC社の資金が無限でない以上早く契約しなければ話がなくなるという噂が流れ、競うように話がまとまった。

とは言え開発計画を立てるにあたって、俺自身が視察に回れる案件数を超えていた。帰還兵の中で後方支援に関わっていた者たちや、ケーフェンヒラー男爵の伝手で、地方行政を専門としながら予算が無いので無力感を感じている者たちに声をかけて引き抜いた事で、辺境星域全体の投資計画を立てる事が出来た。結果、想定以上に早く収益化ができた。個人的には優秀な人材が確保できて喜ばしかったが、RC社は決して破格の条件を出しているわけでは無い。不遇を囲う人材がここまでいるのかと帝国の今後がかなり心配になった。

「母上、それほどお待たせすることは無いでしょう。RC社の貢献もあり軍の方でも後方支援という観点ではかなり余裕が出来ましたし、私ももう45です。そろそろ領地経営を担って領民に顔を覚えてもらわねばなりませんし、母上がオーディンに来て下さるなら貴族対策の面でも安心ですから。」

父上が大将に昇進して3年。上級大将になるには後方支援だけでなく前線での戦功が必要だろう。とはいえ、父上の本来の役目はルントシュテット家の当主として領地経営を行う事だ。戦死のリスクを冒してまで昇進を狙う必要もないだろう。

「そうなってほしいわ。私も気づいたら64歳。引継ぎしておかないと不安でもありましたからね。」

おばあ様はにこやかな表情で言葉を紡いだ。俺自身、おばあ様孝行ができる内に孝行しておこうと思っている。シリアスな話が続くが、この2年でおめでたい事もあった。

ケーフェンヒラー男爵の再婚が決まったのだ。お相手はなんと俺の主治医でもあったローザだ。領地の医療施設を充実させる観点から、おばあ様は信頼できる医師資格所持者ローザを、アドバイザー的な立場で呼び寄せていた。

ローザ自身も、人口の多いオーディンの方が結婚相手が見つかりやすいと考えオーディンの軍病院に勤務していたが、良さそうな相手は既婚者だったり戦死したりした為、色々感じることがあったようだ。当初はルントシュテット領の医療機関立ち上げに携わっていたが、辺境星域全体の動きを担当する男爵に、色々とアドバイスを求められたのがきっかけで縁ができ、結婚する運びとなった。男爵は今年39歳、ローゼは35歳だ。少し高齢出産になるだろうが、幸せな家庭を築いてほしいと思う。

男爵はRC社の投資計画策定の中心的役割を担ってくれている。視察に交渉にと大忙しだ。領地は無いが男爵として見られる為、手元に資金があった方がいい。年俸100万帝国マルクで契約していてRC社では高給取りのひとりだ。

「ザイトリッツ。RC社の監査役の件、ありがたく思っている。手元に費えが無ければあの功績は立てられなかったかもしれん。」

「兄上、軍人は時に身銭を切って国家につくすと何かの本で読みました。とはいえ、偶々費えがあったとはいえ、功績をあげられたのは兄上です。謙遜なさいますな。」

長兄のローベルトは、士官学校を卒業して地方星域の哨戒部隊に任官されたが、RC社の監査役という名目で支給された資金を、情報取集に使い功績をあげていた。戦時中なので任官後一年経てば中尉に昇進するが、長兄は任官半年で中尉になり、定例昇進で大尉になっていた。

「コルネリアス兄上のご活躍も、私の耳に入っておりますよ。」
「あまりおだてないでね。今日の主役はザイトリッツだよ。」

次兄のコルネリアスも上手いお金の使い方をしていた。俺たち目線でまともな人間に限ってだが、金銭問題などを解決し、貸しを作っている。将来的には力になってくれるだろう。悲しいが、まともな家やまともな人間ほど報われない状況なのだ。門閥貴族だけが原因とは言わないが奴らが消えれば今よりまともになるだろう。

「私としては、兄上方が費えを有効に使って下さり、感謝しております。不安はございませんでしたが、中にはお酒やらに仕送りを使い倒してしまう方もおられるようなので。」

長兄も次兄も、活きるお金の使い方をしてくれている。自画自賛ではないが、監査役という名目で給与を支払った甲斐はあった。

「これからザイトリッツも実感すると思うけど、将来的に背中を任せる相手だからねえ。お互いに最低限の関係性は創っておきたいのさ。」

次兄のコルネリアスは、様になるセリフを様になるように言える辺り、サマになる男なのだろう。これは長兄にない強みだ。ただはっきりしているのは、俺は軍人を志向していないという事だ。色々と学べば変わるかと思ったが、国防費は消費されるだけで何も生まない。

俺からすると、100万の敵兵を殺すより100万の臣民の生活を成り立たせる方が大業だと思う。とはいえルントシュテット家は軍に近い貴族だ。そんなことを言い募っては、父上や兄上たちの立場を害すだろう。何よりおばあ様の期待に背くことにもなってしまう。

まずは無難に幼年学校の優等生を演じようと思う。正直、成績云々の前に、士官学校に進む意欲は今は無い。ただそんなことを言い出せば問題になる立場だ。もう少し黙っていようと思う。 
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