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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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19話:法人設立

宇宙歴754年 帝国歴445年 4月上旬
オーディン ルントシュテット邸 
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

年明け早々にオーディンを出て、辺境の在地領主たちと交渉を重ねて一度領地に戻ったあと、俺はオーディンに移動して法人設立の準備をしていた。

辺境領主たちとの交渉は、大成功と言っていい成果が出せた。もともと帝国政府からも優先順位が下げられていたし、領主たちもカツカツなため、投資されれば可能性が花開くエリアではあった。

ルントシュテット家の領地があるシャンタウ星域では、領地は800万人という大規模な領民を受け入れる為、あらゆる資材が必要だったし、穀物も増産できているとはいえ、さらに買い付けたい状況だった。造船ドックも大規模に新設されることも含めると、資材は恒久的に必要とされる状況が整った。

ここで、自領の鉱山を大々的に開発する選択肢もあったが俺はこの資材特需を辺境領の活性化の機会として活用するつもりだった。辺境領からすれば、今まで買い手がつかなかった木材や鉱石、穀物が金に変わるチャンスだ。うますぎる話しに裏を疑う領主もいたが、すんなりまとまったのはケーフェンヒラー男爵の役割が大きかった。

なぜなら、俺の弱点が出てしまったからだ。まともな商売人なら、買う気がないのに買い付けの話などしないし、明確に造船ドックという資材を恒久的に必要とする材料があるにもかかわらずそんなうまい話があるのかと、疑う領主がけっこういたのだ。

ここで活躍したのが男爵だった。もともと難題を抱え込むような誠実な部分があったが、軍に志願する前は地方行政のプロだった経歴が活きた。彼は辺境星域がかなり中央政府に邪険に扱われている事を肌感覚で知っていたし、自分自身、予算があればと思うことが多々あった。

その経験をいかして、領主たちに共感を促しながら交渉してくれたのだ。結果、オーディン周辺で調達するより輸送費を含めてもかなり安い価格で資材を集める事が出来たし、鉱石の採掘も始まっている。資材を運搬するための輸送船の手配を終えてから、オーディンに戻ってきた訳だ。

男爵の経歴を確認したけど、対在地領主でも対軍でも交渉役としては申し分ない経歴なのでスカウトしたら二つ返事でOKしてくれた。元内務省の官僚で、地方行政が専門。軍でも30歳手前で大佐。最前線での従軍経験ありで爵位もち。他からも引く手数多だろうに即答だったので事情を確認したら、爺さまへの土産話におれの生きざまを近くで観たいからだとか言い出した。

俺は忠義みたいなあやふやなもので縛るつもりはないので、自分なりに区切りがついたタイミングで自分の幸せの為に生きると約束できないならこの話は無しにすると返答した。男爵は困った顔をしていたが、担当する仕事の成果は、辺境星域2億人を豊かにして幸せにする事なのだから、その当人が少なくとも幸せになる気がなければ任せられないだろうというと、区切りがついたら自分の幸せも考えると約束してくれた。

おそらくだが、浮気されて軍に志願した時と、捕虜になった時の2回、自分の人生を諦めたのだと思う。だからこそ区切りがついたらという形で猶予は設けたが、いつか男爵が新しい幸せを見つけてくれればいいなと思っている。
同行してくれた資材部の士官は、難癖を付けられても困るので適度に接待しながらお付き合い頂いた。別れ際に、父上には良くしてくれたと申し伝えますと言うと、満足げだった。実力を示してえらくなればまたご縁があるかもしれない。

話は戻るが、法人の設立だ。なぜ、法人の設立をするかというと、現状の組織だと領外に投資することが、厳しいからだ。仮にルントシュテット領が発展しきっていて福祉の面でも充実していれば可能性はあるかもしれないが、多くの領民を新たに受け入れ、他領に比べれば恵まれた統治が行われているが、予算が自領以外に投資されるとしたら不満を感じるはずだ。前世で言えば、自分たちの生活も決して楽ではないのに、他国に税金が投入されるようなものだろう。

だが、辺境星域と首都オーディンをつなぐ立地のシャンタウ星域は、辺境星域が発展するほど恩恵が受けられる。なので、惑星ルントシュテットが成長限界を迎える前に、辺境星域の発展を促す形で経済活動を活発にし、新たに生まれる利権から定期的な収益を得られるように動きたかった。

そういう訳で名目上ルントシュテット領から切り離して、投資を行う組織として法人が必要になる。法人設立の準備の最後の仕上げがこれから行われるのだが、さすがの伯爵家だ。法務局の担当者がわざわざ屋敷にきて、手続してくれるらしい。

俺は辺境エリアの資料を見ながら、オーディンの屋敷で担当者の到着を待っていた。すると聞きなれたカツカツ音がしてノックがされるとおばあ様が部屋に入ってきた。

「ザイトリッツ、宜しいかしら?あなたが当家に不利益になるような事はしないと皆が信じていますが、設立の前にもう一度、思う所を説明してほしいのです。特にニクラウスはまた貴方が好き勝手するのではと不安なようですし。」

「左様ですか、おばあさま。造船ドックの件やら、帰還兵らの受け入れやらで前代未聞のことが多くございました。父上のご不安もごもっともな事でしょう。お時間を頂けるなら、ご安心頂くためにもご説明いたしましょう。」

「それでこそレオンハルト様の生まれ代わりです。あの方も家族の不安にはしっかり配慮されておりました。」

おばあ様は悦に入りだした。ケーフェンヒラー男爵からも話を聞いたが、爺さまは伯爵家当主としては、門閥貴族を基準とすると傑物と言っていい人物だ。戦死していなければ宇宙艦隊司令長官の芽もあったと思う。正直、金儲けの能力は譲る気はないが、将中の将という観点では及ばない。おばあ様の期待が少し重かった。

おばあ様をともなって遊戯室に移動すると、父上と母上がお茶を飲んでいた。

「父上、母上、お待たせしました。おばあ様から法人設立にご不安をお感じとの旨、伺いました。ご説明のお時間を頂ければと存じますが。」

「うむ。ザイトリッツよ。今年は領民の増加や造船ドック群の起工とただでさえ事が多い状況だ。さらに手を広げるのはいささか危険ではとも思ってな。」

「ご不安はごもっともです。改めて整理いたしますが法人を設立するからといっていきなり大規模に動かす予定はございません。帰還兵の比較的消耗が少ない層を雇用し、辺境星域を周回してシャンタウ星域に戻る輸送船団を運用するくらいでしょう。」

そこまで言うと、父上は少し安心したようだ。おばあさまと母上はお茶を楽しんでいる。

「であれば法人設立を急ぐ必要はないとお感じになられるかもしれませんが新しく設立するルントシュテットコンサルティング(以後RC社と記載)は辺境星域の方々にも同じような法人を設立頂き、法人間を通じて投資を行いたいと考えているのです。

従来の貴族間のやり方ですと、当家が辺境星域に影響力をつけようとしている様に取られかねませんし、仮に資金を融通したとしても、上手くご活用いただけるかが不明です。政府が消極的だったとはいえ、投資を引き出す事業案が作れていなかったのも事実な訳ですから。

そこで名目上は企業活動としつつ、投資とその運用のご提案まで行いたいと考えているのです。仮に失敗するようなことがあっても、RC社の損害になりますから当家がなにか矢面に立つような事態になることは防げるでしょう。もちろん細かい交渉が必要になりますので、今年度に大きく動くようなことは無い思いますが。」

俺がここまで話すと、父上は納得したようだ。
ため息をつくと、わかった。と言ってくれた。

「ニクラウス、ザイトリッツが当家に不利益になることをすることは無いわ。領地経営の方でもいろいろ力になってくれてるし、多少の事はやらせてあげましょう。ただし、ザイトリッツ、私に寂しい思いをさせてはいけませんよ。」

おばあ様が援護なのか釘を刺しているのか判断に悩むことを言い出した。もちろん配慮は欠かしませんとも。

RC社の最初の契約はルントシュテット領とのコンサルティング契約だ。今期の契約料は20億帝国マルク。ただし、レオの事業を除いて、領地の増収分の10%をもらう約束は先月で終了した。契約料以上に収益を出せるように努めるつもりだ。

出資比率は対等で、ルントシュテット家と俺の口座からそれぞれ120億。あとは契約料の20億の計260億帝国マルクでスタートする。

やりたい放題するつもりはないが、やりたい事は十分にできるだろう。ドアがノックされ、法務局の担当者が到着したらしい。今回は実務に関わることは無いが、経験として見ておこう。

本当はこの事業も兄貴の後ろ盾を頼もうかと思ったが、辺境星域の貴族を派閥化しようとしていると思われても困るから、今回は頼まなかった。ただし、叔父貴には顧問として名を連ねてもらうし、ケーフェンヒラー男爵も代理で交渉してもらう機会があるだろうからそれなりの立場を用意しないとな。
 
 

 
後書き
ルントシュテットコンサルティング(RC社)

代表取締役会長:ニクラウス(父)
代表取締役社長:ザイトリッツ(主)
監査役:ローベルト(長兄)コルネリアス(次兄)
顧問:グリンメルスハウゼン子爵・ケーフェンヒラー男爵

完全な親族経営です。 
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