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真田十勇士

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巻ノ百五十二 迎えに向かう者達その一

               巻ノ百五十二  迎えに向かう者達
 伊佐は今も無明と闘っていた、彼は自身の錫杖で無明の右手の槍と左手の短筒に対していた。しかし。
 そのどちらも防いでだ、こう言ったのだった。
「お見事です」
「貴殿も。流石は十勇士」 
 無明は表情のない顔で伊佐に応えた。
「それがしの攻撃をここまでかわすとは」
「左様ですか」
「それは貴殿がはじめて」
 まさにというのだ。
「それがしも感服しました」
「有り難きお言葉、ですが」
「それでもでありますな」
「拙僧は引き分けるつもりはありませぬ」
 しかと構えを取ってだ、伊佐は無明に答えた。
「間違いなく拙僧にとって最後の戦となります」
「それ故に」
「これは煩悩になるかも知れませんが」
 それでもという口調で言うのだった。
「最後の戦ならば」
「勝って終わらせたい」
「そう考えていますので」
 だからこそというのだ。
「ここは勝たせて頂きます」
「それはそれがしも同じこと」
 ここでも表情のないまま言う無明だった。
「ですから」
「いよいよですね」
「決着をつけますか」
「そうしましょう」
 是非にと言うのだった、伊佐も。
「これより」
「それがしもそのつもりでした」
「そうですか、では」
「これより」
「お互いに秘術を出して」
「死合いましょう」
 二人共構えに入った、そしてだった。
 まずは無明が仕掛けた、何とだった。
 その場が闇に覆われた、そうして。
 その闇の中左手の短筒から銃弾を放った、右手からはだった。
 槍を繰り出し伊佐の気を感じる場所に攻撃を仕掛けた、だがその無明に対して。
 伊佐は法力の念を込めた、するとその念が。
 地震を起こした、それは今彼等がいる場所だけでなく。
 空気まで揺らした、それでだった。
 無明の攻撃も揺らした、それで銃弾も槍も乱れその気が乱れた場所に対してだった。伊佐はその錫杖を右から左に振るい。
 無明を吹き飛ばさんとした、だが無明も流石にだった。
 攻撃をかわした、そうして後ろに着地して体勢も立て直した。しかし地震の衝撃が残っていてだった。
 着地しつつも姿勢を崩し片膝をつき闇も消えてしまっていた。そうして元に戻った周りを見つつ言った。
「負けですな、それがしの」
「何故そう言われますか」
「周りを包む闇を破られ」
 この術がというのだ。
「攻めをかわしても姿勢を崩してしまいました」
「そうなったからですか」
「それがしに負けでござる」
 このことを認めての言葉だった。
「まさに」
「そう言われますか」
「はい、まことにお見事でした」
 無明は伊佐にこの誉め言葉も贈った。
「ではそれがしの首を」
「いや、待たれよ」
 伊佐は無明の今の言葉は即座に断った。
「拙僧は戦に勝つことだけを求めていました」
「それがしの命は」
「求めていませんでした、そして拙僧は僧侶」
 この立場もあるからだというのだ。
「ですから」
「それがしの首は」
「いりませぬ」
 一切という言葉だった。 
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