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真田十勇士

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巻ノ百五十一 決していく戦その十二

「この様に」
「ううむ、矢が尽きてもまだ戦えるとは」
「何という凄い御仁か」
「これは勝てぬ」
「百発百中だけではない」
「矢が尽きても戦えるとは」
「敵ながら見事」
 こうまで言う者がいた、そして。
 彼等を率いている旗本の一人が侍達だけでなく忍の者達にも話した。
「ここはな」
「ここは?」
「ここはというと」
「どうせよと言われますか」
「我等の相手になれる御仁ではない」
 到底というのだ。
「だからな」
「ここはですか」
「間合いを離し」
「そうしてですか」
「そのうえで」
「うむ、遠間に離れたままな」
 今の様にというのだ。
「動けぬ様にしよう」
「それしかありませぬか」
「無念ですが」
「ここは囲んだまま」
「迂闊に動かぬ」
「その様にしていきますか」
「それしかない、下手に動けば」
 それこそというのだ。
「また多くの者が倒れるぞ」
「ですな、明石殿の弓は百発百中」
「しかも気の矢です」
「幾らでも放てますから」
「下手に動けば」
「また倒される者が出ますな」
「ここは仕方ない、後ろや横から攻めようとも」
 例えだ、そうしようともだったのだ。
「撃たれてきておるな」
「はい、実際に」
「素早く矢を放たれ」
「そうなっています」
「これでは仕方ない」
 最早というのだ。
「だからな」
「はい、それでは」
「ここはです」
「我等もです」
「動かないでおきましょう」
「その様にな」
 こう命じてだった、明石に迂闊に近寄らない様にした。しかしそれを見逃す明石ではなく。
 侍達にだ、櫓の屋根の上から言った。
「ではそれがしはこれで」
「むっ、まさか」
「これで去るのか」
「足止めはこれで充分、後は共に去るのみ」
 自分の言葉にまさかとなった侍達に述べたのだった。
「それではこれで」
「帰るのか」
「そうするのか」
「さすれば」
 こう言ってだ、そうしてだった。
 明石もまた幸村の下に向かった、彼もまた自身の最後の戦を終えてそうして幸村を迎えに行ったのだった。同志である彼を。


巻ノ百五十一   完


                 2018・4・15 
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