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ラジェンドラ戦記~シンドゥラの横着者、パルスを救わんとす

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第二部 原作開始
序章 王都炎上
  第十八話 一行合流

傭兵たちの調練に明け暮れていた俺だったが、ある日三人娘の一人、パリザードに打ち明けられたのだ。バハードゥルと男と女の関係になった。結婚の約束も交わしたので、吉日を選んで結婚式を挙げたいと。

ちょっと待て、パリザードお前年齢幾つだ?いや、アルスラーンと同じだから十四歳か。この時代だと女性の多くは十五から一八歳程で結婚する。多少早いが三人娘はみんな発育がいいし、十分に子供を産める体にはなってはいるだろう。

だが俺より五歳年長のバハードゥルは今二十九歳だ。倍も年齢が離れているし、現代日本に置き換えたら、アラサー男性とJCだぞ?いささか犯罪臭くないか?この作品のレーティング上大丈夫なのか?それにあいつは今では大巨人と謳われた往年の名プロレスラーよりも更にデカくゴツくなっちまってる。ちょっと人間やめてるだろ?って域に入りつつあるんだが、それでもいいのか?大丈夫なのか?

「大丈夫、問題ない。それに誘ったのあたしからだし」などとパリザードは言うのだ。そういや、原作では登場時既にザンデの情婦だったし、ザンデが死んでマルヤムからミスルに使者に来ていたオラベリアが拾い、彼がギスカールに献上しようなどと考えてる間にパラフーダとデキちまったりもした。こいつの貞操観念は一体どうなってるんだと前世では思ったものだったが、この世界でもその片鱗が…。乙女としての嗜みと恥じらいを弁えるよう育ててくれとカルナには頼んだんだが、無理な相談だったのか…。

だが、パリザードの好みは強く逞しい男性、それのみで、顔の美醜など一顧だにしない。その上、パリザードの体つきは大柄で骨太、豊満で生命力にはち切れんばかりですらある。生半可な女ではバハードゥルに夜な夜な求められたら壊れてしまいそうだが、パリザードならその心配は無さそうだ。元々、バハードゥルには然るべきところの令嬢を娶せようとはしていたのだが、豪族どもには打診する端から断られて来たという経緯もあった。よく考えてみると、パリザード以外にはバハードゥルに嫁の来てなんてないんだよな、確かに。

パリザードが一人で談判しに行ったと知り、血相変えて駆け込んできたバハードゥルも一緒になって頻りに頭を下げてくるので、俺は仕方なく二人の結婚を認めたよ。二週間後の出陣式に先駆けて…、いや出陣式と一緒に派手にド派手に祝うことにしよう。

さて、ラクシュとギーヴはどうなった?そろそろアルスラーン一行と合流できた頃合いだろうか?

◇◇

カーラーンの部隊がパルス北方の森林と山岳が錯綜する地帯に誘い込まれて進んでいく。それを尻目に私、シンリァンとラクシュ殿、ギーヴ殿の三人はアルスラーン一行と合流せんと森の中を進んだ。森の中としては不思議と開けた場所に差し掛かると懐の我が息子シャーヤールが急にはしゃぎ声を上げだした。それに気付いてか木陰で息を殺していたらしき者が姿を現し、声を発した。

「そ、その声、まさかシャーヤールか!」

声の主は森の闇から抜け出してきたかのような黒づくめの甲冑に身を包んでいた。それを私が他の誰かと見間違えることなど決してない。

「ようやく会えたのう、我が良人ダリューンよ。ちなみにシャーヤールはここじゃぞ、ほれ!」

私は懐からシャーヤールを取り出し、夫に渡してやった。夫はいつものようにオロオロしながら受け取るが、大丈夫じゃぞ、そんなに慌てなくとも。この子は物に動じぬからどんな抱き取り方をしてもむずがらぬ。その上、先程のように父親の気配にも誰より早く気づく。実に聡い良い子じゃ。この男の血が半分流れているとは思えぬほどにな。

「お主、どうしてここに…。大人しく夫の帰りを待つようなしおらしい女とは元より思ってはいなかったが、まさかこんなところで会うとは…」

「ご挨拶じゃのう。お主なら戦に負けても必ず生き残って再戦を誓うじゃろうからな、そんな夫に力を貸そうと都から抜けてきたのだが、迷惑だったか?」

「いや、正直助かるが…、それでお主一人なのか?」

茂みが揺れ、他にも人影が現れた。髪の長い、貴族的な優美な顔立ちの男と、後ろには少年二人。少年の片方はもう一方の少年を守るかのようでもある。

「ダリューン、どうした?誰か来たのか?その女性は?ん、他にも居るのか?」

「やっほー、ダリューンさん、ナルサスさん、エラムくんとアルスラーン殿下!ラジェンドラ殿下の忠実なる部下ラクシュ、只今参上なのさー!」

ラクシュ殿が隠形を解いて現れ、全員の名前を言ってくれたか。有り難いのう。

「おい、俺も居るって言ってくれよな!おお、ダリューン卿、お主うまくやったな、こんな美女と結婚してるなんて!」

そう言えばこの男、ギーヴ殿もいたな。女たらしとラクシュ殿には言われているが、シャーヤールをあやしてもくれるし、それだけの男では無さそうじゃがな。

「ナルサス、前にも話したがこれが俺の妻シンリァンと息子のシャーヤールだ。…しかし、ラクシュ殿やギーヴ卿まで何故ここに?」

「カーラーンの部隊に追われて難儀してるであろうアルスラーン殿下御一行をお助けするようにって、うちの殿下に言われたのさー。殿下は軍勢を率いてペシャワールに向かうから、そこで会おうってさー」

その言葉にナルサス殿の表情が強張り、我が夫が顔をしかめる。おや、ラクシュ殿のところの殿下は好かれておらぬのか?だが、アルスラーンは目を輝かせておられるな?

「おお、ラジェンドラ殿が遣わしてくれたのか!あの御方は本当に私などをよく気にかけて下さる!それこそ、本当に我が兄であるかのように!」

更に二人の表情がひどいことに…。エラム殿まで…。



…まさか折れ曲がった槍がカーラーンに致命傷を与えるとは…。夫が抱え起こし、何やら聞いているが、もう駄目だな。私やナルサス殿やラクシュ殿も駆け寄りつつあるが、もはや手当は間に合わぬ。

「アンドラゴラスはまだ生きておる……。だが既に王位はヤツのものではない。正統の王が……」

言葉の途中で血の塊を吐き、一瞬激しく痙攣したかと思うと次の瞬間にはもう事切れていた。しかし、その言葉の投げかけた波紋は大きいようじゃ。

「正統の王だと……?」

我が夫とちょうど駆けつけたナルサス殿が顔を見合わせている。そして、ラクシュ殿がそこに更なる爆弾を投げ込む。

「ああ、それってヒルメス王子のことだねー」

「な、何だと!…それは先王オスロエスの嫡子のか?」

「うん、多分それ。マルヤムからずっとヒルメス王子はルシタニアに手を貸してるんだよー。シュミの悪い仮面被って正体隠してるけどねー。諜者仲間が何人も確かに見たって言ってたー」

「何と…」

ナルサス卿が絶句しているし、夫も二の句を継げないようじゃ。しかし、まあパルスの王室にもいろいろあるものじゃな。闇と血で彩られているのは我が故国の歴史のみではないということか。

◇◇

さて、ラクシュにはナルサスたちに少しずつ情報を流せとは言ってあるが、うまくやっているだろうか。あくまでも段階的に小出しにと言ってはあるんだが。

それはともかく、パルス暦320年11月25日の俺たちの率いる傭兵たちの宿営地ではとある問題が発生していた。

…あいつら本当にいい加減にしろよな!
 
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