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世界に痛みを(嘘) ー修正中ー

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ココヤシ村編
  交錯する意志

 アキトは眼下のココヤシ村を上空から見下ろし、島全体を俯瞰する。
 豊かな自然、何気ない日常、人々が求める幸せがそこにはあった。

 ただ一つ、島に大きくそびえ立つアーロンパークがその幸せを穢している。
 住民達は8年もの間、アーロンの支配に苦しめられている。
 アーロンの支配から解放されない限り、彼らが心からの笑顔を浮かべることはない。

 ネズミ大佐を潰した後、アキトはノジコから半ば強制的に彼女の家から押し出され、この島から一刻も早く立ち去るように強く念を押された。
 アーロンが卑劣な手段でナミのお金を奪うことを画策してきた時点でこの島に安全な場所など存在しない。
 アーロンはナミ以外の人間に価値を置いておらず、ココヤシ村を解放するつもりなど毛頭ないのだ。
 自分達の村の事情に巻き込まれる前にアキトをこの島から立ち去らせる、それが彼女なりの精一杯の部外者であるアキトへの思いやりだったのだろう。

 その場ではアキトは素直にこの島から出ていく姿勢を見せ、彼女の下から立ち去った。
 しかし、ノジコとナミ、そしてこの村の事情に関わった時点でアキトにこの島から立ち去る、という選択肢は存在しない。

 島の海岸にまでたどり着いたアキトはその場から一息に上空へ飛翔し、走り去ったナミの跡を秘かに追跡していた。
 脇目を振ることもなく、ナミはアーロンパークへと向かっている。

 ナミはアーロンパークへの扉を蹴り開け、アーロンと思しき魚人へと詰め寄った。
 アキトはその場の誰にも気取られることなく、建物の陰に隠れる形で事の成り行きを見据えた。

「……」

 ナミが必死の形相でアーロンの襟首を掴み上げ、問い詰める。

 あの海軍は何なのか
 お前はお金の約束は死んでも守るのではなかったのか
 ネズミ大佐はお前の差し金ではないのか

 しかし、アーロンは涙を流すナミを嘲笑い、ナミの顔をその大きな手で鷲掴みにした。


()がいつ約束を破った?


 ナミがこの島から逃げ出せば、村の住民は皆殺しであり、退路など存在しない。
 1億ベリーなどまた集めればいい、アーロンの言葉に涙を大量に流したナミはその場から駆け出した。

 魚人達は嘲笑と高笑いを浮かべながら、得意げに豪語する。

 ナミ程、優れた測量士は存在しない。
 お金の約束は死んでも守る。

 だが、それはナミとアーロンとの間に結ばれた契約であり、それ以上でもそれ以下でもない。
 世界の海の全ての測量を終え次第、ナミを解放してやる、とアーロンを含む魚人共は笑い続けた。

「……」


……そういうことか


 アーロンの思惑を目の当たりにし、ナミを取り巻く状況の全てを理解したアキトは静かにアーロンパークから飛翔した。





 アキトの前方で村人達が集まっている。
 誰もがただならぬ雰囲気を出しながら武器を持ち、険しい表情を浮かべていた。

 村人達を必死に止めようと立ちふさがるはオレンジ色の髪の少女
 件の少女、ナミだ。


「私、またお金集めるから!頑張るから!」

 ナミは今にも泣きそうになりながらも微笑む。
 誰の目に見ても無理をしているのは明らかだ。

 長年の必死の取り組みが無駄に終わったにも関わらず、今なお彼女はこの村を救うべく気持ちを奮い立たせている。

 その身を犠牲にし、精神が張り裂けそうになっても彼女は笑っている。
 無理をしているのは一目瞭然であり、痛々しくて見ていられなかった。
 目元には泣いた跡が薄っすらとだが残っている。

 自分が一番辛く、逃げ出しても誰も文句など言わないことを分かっているはずなのに笑っている。
 全ては大好きなこの村を救うために……

 この村が抱えている問題は自分が出張れば簡単に解決できるという自信があった。
 だが、村人達は8年という長い間ナミのことを信じて耐え忍び、魚人達の支配を戦ってきたのだ。
 最初は部外者である自分が出張るべきではないと考えていた。

 しかし、その希望はもはや潰え、ナミの手でこの村が解放されることはもうない。



─ これでは余りにも彼女が報われない。あんまりだ ─



 ナミの儚く、今にも崩れてしまいそうな笑顔を見て、アキトはこの問題に直接的に関わることを決意した。

 何より彼女の必死の努力を踏みにじったアーロンをアキトは許さない。
 断じて許してはならない。

 アキトは決意を固めた顔で村人達の方へと足を進めた。







▽▲▽▲







 ココヤシ村を殺気が支配する。
 今ここにココヤシ村の村人達による魚人への反逆が始まろうとしていた。

「もはや、やつらの横暴を許すわけにはいかん!武器を取れ、戦うぞ!!」

 彼の掛け声により村人達の士気が跳ね上がる。
 ナミの必死の制止を振り切り、村人達はアーロンパークへとアーロンを倒すために進んでいく。

 血濡れのナイフが足元に転がり落ち、ナミは途方に暮れることしか出来ない。


止められなかった

ゲンさん達を止められなかった

皆が行ってしまった

魚人との戦力差は明らかなのに

このままでは死んでしまう

アーロンに殺されてしまう


「……っ」

 怒りと憎悪、自責の念により歯ぎしりを抑えられないナミ

「畜生……」

 悔しくて堪らない。
 何度も項垂れる形で地面に両手を振り上げ、叩き付ける。

「畜生ッ……!」

 自分がもっとアーロンとネズミの動向に目を見張っていたら
 もっと自分に力があったら
 アーロンの非道な手口にもっと早く気付けていたら

「チクショウ……!!」

 爪が剝がれそうになるのも構わず、ナミは爪を地面の砂に食い込ませる。

「お前は、おまえは、オマエは……ッ!!」

何度、私を踏みにじり、ココヤシ村を、村の皆を苦しめば気が済むんだ!!



俺は約束を守る男だぜ?

1億ベリーだ、1億ベリー、俺の下に持ってこい

俺は金の約束を守る男だぜ?

チチチチ、何を言っているのか分からないな

1億ベリーだ!1億ベリーなんて大金、簡単に見つかるはずだろう!

あ?海軍だぁ?

とぼけるな!お前が海軍を差し向けたんだろうが!

俺がいつ約束を破った?

そりゃぁ不運だったな

また1億ベリーを集め終えた時に村を返してやるよ。俺は約束を守る男だからな

シャハハハ!

知っていたよ、全て。ナミ、お前が私達のためにアーロン一味に入り、お金を集めていたことも

どきなさい、ナミ!!

駄目、殺されちゃう……


 
 ココヤシ村の解放こそが自分の全てだった。
 どれだけ村の皆に無視されようとも、無垢な子供に罵倒されようとも、1億べリーが集まれば村が解放されると信じていたからこそ、頑張ってこれた。
 8年間、命懸けで生き、お金を集めてきた。

 だが、それも最早叶わぬ夢に過ぎない。
 幻想は儚くも散り、残るは残酷な現実だけ

 やっと、やっと1億ベリーを揃える目処が付いた。
 これで、このお金でココヤシ村を解放することが出来ると信じて止まなかった。
  
 しかし、理解した。
 理解してしまった。

 アーロンは最初から約束を守るつもりなどない。
 奴にとって大切なのは航海士である私のみ

 ココヤシ村などおまけに過ぎない。
 自分を縛り付ける枷としか思っていない。

 アーロンは最初から自分を解放する気など毛頭ないのだ。
 これまでの8年の頑張りは水泡に帰してしまった。

 その残酷な現実を聡明なナミが理解し、どうしようもない現実に打ちひしがれた時、遂にナミの心の防波堤が崩れ去ってしまった。

 その瞬間、ナミのナニかが壊れた音が聞こえた。

「……あ」










「ああ"ぁ"あ"ぁ"あ""あ"あ"ア"ア"ア"ア"!!!!」

 心身ともに限界を迎えたナミの絶叫が鳴り響く。
 一人で戦うと決意し、もう泣かないと決めた一人の少女の心が決壊した。
 涙が溢れ、絶叫は止まらない。
 
 ナミの絶望の咆哮に村人達が振り返る。
 嫌な予感を感じたノジコが目にしたのはナイフで自分の肩を突き刺そうとするナミの姿だった。

 ナミにとってアーロンは憎くて、憎くて仕方なかった。
 アーロン一味の象徴であるタトゥーが憎くて仕方がなかった。

 ノジコが必死の形相でナミの奇行を止めようと声を張り上げるも、ナミは止まらない。
 そして、遂にナイフがナミの肩に突き刺さる瞬間……



 後方から伸びた手によってナミが振り上げたナイフが止められた。

「あんた、さっきの……」
「……」

 涙で視界が曇る中、ナミは突如としてその場に現れたアキトを睨み付ける。
 どういう原理かナイフを握り締めるアキトの手から血は流れていない。

 ノジコはとっくにこの島から立ち去ったと思っていたアキトの登場に驚きを露わにしていた。

「あんたこの島から立ち去ったんじゃ……」
「……」

 ナミの射抜く視線とノジコの問いに応えることなく、アキトはナイフを握る左手とは逆の右手を前方へと振りかざす。
 状況の理解が追い付かないノジコ達の前に血だらけの再起不能と化した2人の魚人が投げ出された。

「あんた、それどうしたのよ……」

これ(・・)、魚人じゃない

 辛うじて息をしているが、瀕死の状態の魚人に驚愕を隠せないノジコと村人達

「俺はアキトという者です」

 当人であるアキトは当たり障りのない言葉を選び、簡潔に伝える。 

「アキト君か……。私はこの村の駐在のゲンゾウという者だ。それで私に何の用かな?」
「これからあなた達はアーロン一味に反旗を翻すつもりですよね?その件ですが俺にアーロンのことを任せてくれませんか?」 

 どこまでも真剣な表情で話すアキト
 先程までノジコと喋っていたアキトとはまるで別人だ。

「あんた……」

 ノジコはアキトの突然の提案に驚きを隠せない。

「……アキト君といったか。君の提案は嬉しいが、部外者である君を私達の問題に巻き込むわけにはいかん」

 アキトの言葉には譲れない強い意志が感じられた。
 予想通りの返答だ。

 当然の返答だろう。
 あくまでアキトは部外者に過ぎず、偶然、この島に立ち寄った人間に過ぎない。
 しかし、アキトも譲るつもりなど毛頭なかった。

「いえ、無関係ではありません。ノジコさんには先程、食事をご馳走になりましたからね」

 信じられない。
 一度限りの食事の振る舞いで救いの手を差し伸べてくれる人間がいることにノジコは驚愕を隠せなかった。

 アキトにとってはアーロンを潰す理由としては十分過ぎる程だ。
 目の前で理不尽に苦しんでいる人がいる。
 例え、海軍がアーロンの非道を黙認していようが、看過するなど有り得ない。
 どうやらアキトは理不尽に晒される人がどれだけ大層な理由を抱え、部外者の手助けを望んでいなくても見逃すことが出来る人間ではなかったらしい。

「俺は既に魚人を2人手に掛けてますから、残党の魚人を潰すことに躊躇う理由なんてありません」

 同朋である魚人に手を掛けた時点でアーロンはアキトを許しはしないだろう。

「無理よ!そうやってアーロンに挑んでいった誰もがアーロンに殺されたわ!!」

 誰よりもアーロンの恐ろしさと強さ、その力の強大さを知っているナミが悲痛な面持ちで叫ぶ。 

「いや、しかし……」

 ゲンさんが部外者であるアキトを巻き込んでいいのか決めかねる。

 アキトの実力は未知数
 先程銃弾を素手で受け止め、海兵達を一掃し、足元に転がる魚人を撃破しているが、その実力がアーロンに通用するかは分からない。

「心配しないでください。俺は俺の勝手な意志でアーロンを潰すだけです」

 アキトは絶対に譲らないとばかりに畳み掛ける。
 ゲンさんは想像以上の意思の固さに思わず躊躇わざるを得ない。

「……それに、彼女の頑張りを無駄にしたくないんです」
「ナミの頑張りを……?」
「はい、彼女は貴方達が魚人達に戦いを臨むことを望んでいません。だったら……」



「俺が、代わりに戦います」
「それでは君が……」

 アキトはゲンさんを強い意志を宿した目で見据える。
 その瞳に迷いはなく、絶対に譲らないという意志で満ち溢れていた。

「任せてもいいのか、本当に……?」

 アキトの強き意志に気圧され、ゲンさんが遂に折れる。
 自分達だけでは魚人に勝つことは実質不可能であることは分かっているが故に、アキトの申し出を受けるざる得なかった。
  
「勿論です。それではアーロンパークへ行きましょう」

 アキトはもちろんその提案に快く即決し、歩き出す。

「ああ……」

 彼は未だ納得のいかないようだが、現状アキトに頼るしか手はない。
 今はアキトをアーロンパークに案内することしかできなかった。

 こうしてアキト達はアーロンパークに向かうことになった。







▽▲▽▲







 アーロンパークの前に着いたアキト達
 前方には天を貫くが如くアーロンパークがそびえ立っている。

「皆さんは直ぐにこの場から立ち去ってください。戦いの巻き添えは俺の望むものではないですから」
「ああ、分かった……」

 ゲンさんを含めた村人達が渋々と直に引き下がる。
 やはりこの島の人達は優しい方達だ。

 部外者である自分をこんなにも心配してくれる。
 誰かの為に命を懸け、尽くす少女がいる。 

 アキトが悠々とした足取りでアーロンパークへ向けて歩き出す。
 アキトは表面上は表情を取り繕っているが、内心ではアーロンに対して殺意にも似た感情がこみ上げていた。

 魚人至上主義だが何だか知らないが利己的な理由で他人を苦しめるやつを許すつもりは毛頭ない。
 何より一人の少女を心身共に追い込み、あんな姿になるまで苦しめる奴らは生かしておくわけにはいかない。

 アキトはアーロンパークを手元の魚人を投げ飛ばすことで轟音と共に吹き飛ばす。


「何だ!」
「何者だ!!」

 魚人達が騒ぎ、臨戦態勢へと移行する。
 中には青筋を浮かべている者までいた。

 そして、彼らが取り囲む形で居座るあの巨大な魚人がアーロンだ。
 貫禄が周囲の魚人とは一線を画している。

 前方に座するは2メートルを優に超え、人間など容易く捻ることが可能な巨大な体躯を持つ男

 顔から延びるギザギザの鼻が目を引いている。
 その様は正に魚人至上主義を掲げる絶対強者

「おいおい、手前ェは誰だ?」
「……」

 アキトは手元に残ったもう一人の魚人をアーロンの足元に乱暴に投げ飛ばす。
 血の放物線を描き、その魚人はアーロンの前へと瀕死の状態で転がった。

 同朋の満身創痍の血だらけの状態にアーロンは青筋を浮かべ、今にも怒りが爆発しそうでだ。

「ニュ~、待ってくれ、アーロンさん!あんたがこんなやつらに出張る必要はねェ!」
「あんたに暴れられちゃこのアーロンパークが粉々になっちまう。そこで大人しくしててくれ、チュッ♡」
「ここは幹部である俺達に任せてくれ」

 幹部である魚人3人が今にも怒りが爆発しそうなアーロンを宥める。

 周囲の魚人達はアキトに射殺しそうな視線を飛ばしている。
 対するアキトは鋭い眼光でアーロンだけを睨み付ける。

 正に一触即発の雰囲気
 ナミと村人達は固唾を呑み、遠方から状況を見守ることしかできない。

 こうして多対一という状況でアキトは魚人達と対峙した。 
 

 
後書き
ナミの痛みを知らずとも立ち上がり、ナミの助けに応じたルフィ
ナミの痛みを知り、ナミに助けを求められずとも立ち上がったアキト

アーロンがナミのお金を卑劣な手段で奪うシーンで"ハチ"も他の魚人と一緒に笑っているんだよなぁ……
よくナミはハチを許したなぁ、切実に思う 
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