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世界に痛みを(嘘) ー修正中ー

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アーロンパーク

「お前なんか俺達幹部、ましてやアーロンさんが相手にする必要があるかァ!!出て来い、巨大なる戦闘員モームよ!!」

 タコの幹部の魚人が声高らかに叫ぶ。
 長く突き出た口を右手で掴み、空に向かいラッパの如く辺り一帯に音を響かせる。

 それは合図
 この島の誰もが恐れを抱く破壊の怪物の呼び出しの合図だ。

 途端、アーロンパーク内の海の水が大きく盛り上がり、巨大な生物の姿形を形作っていく。
 海水の盛り上がりは止まるところを知らず、既にアキトの身長を優に越えていた。

 村人達が皆一様に騒ぎ出す。
 この尋常ではない動揺の様子からしてモームとはかなり恐れられている存在のようだ。





 やがてその全貌が現れる。

 海王類には劣るが30mを優に超す巨大な体躯
 頭部から延びる殺傷力の高そうな鋭利な角

 成程、怪物と言われるだけのことはある。

「さあ!殺ってしまえ!モーム!!」

 その掛け声と共に雄叫びを上げ、モームはアキトへと突進する。
 村人達はただ見ていることしか出来ない。

 しかし、アキトは突進してくるモームを見据えるだけでその場から動こうとしなかった。
 まるで眼中にないとばかりにその場に余裕の態度で佇み、依然としてアーロン唯一人を見据えている。

 ナミはモームが突進してくるにも関わらずその場を動こうとしないアキトに対して叫ぶ。

 当たり前だ。
 モームの恐ろしさはナミが誰よりも知っているのだから

 あの巨大な体躯で体当たりされてしまえばたちまち並みの人間など肉塊に変えられてしまうことは想像に難くない。

 やがてモームの巨大な体躯がアキトに回避不可能な距離まで迫る。
 村人達が悲鳴を上げ、ある者はこれから起こる惨状に目を瞑り、ある者は必死の形相で避けるようにアキトに叫んだ。
 そして遂に、モームの攻撃がアキトに直撃したように見えた。

 しかし、予想を裏切りアキトは吹き飛ばされてはいない。
 見ればモームの突進はアキトの直前で止まっており届いてなどいなかった。
 一体何が起きているのか。

 アキト自身何かをした様子はなく、ただその場に立っているだけである。
 理解が及ばない現象が目の前で起きていた。


 







 次の瞬間、アキトを中心に突風が吹き荒れ、モームは先程の突進とは比較にならない速度で後方に吹き飛ばされる。

 轟音、爆風、モームの悲鳴

 モームはアーロンパークの塀を突き破り、木々を砕き、島の沿岸まで地面を抉りながら吹き飛んでいった。
 象表である周囲の魚人達も同様に吹き飛ばされ、アキトを中心に何もかも一掃されていた。
 
 この光景に周囲の魚人を含め、誰も声を出すことが出来ない。

「何だ今のは!?まさか、貴様能力者か!?」

 魚人の1人が驚愕を隠せない様子で叫ぶ。
 周りの魚人達も皆一様に目の前で起きた奇怪な現象に驚きを隠せない様子だ。

「─」

 アキトは何も答えない。
 今なお鋭い視線で射抜くはアーロンただ一人

 アキトは最初から周囲の魚人など眼中にもない。

 そんなアキトの様子に激怒した魚人たちが攻撃を仕掛ける。
 だが、幹部でもない彼らがアキトに倒されるのに数分もかからなかった。



「ニュ~、やるな~お前~。幹部以外の魚人だけじゃなくモームまで簡単に沈めるとは」

 モームを呼び出したタコの魚人が、静かな怒りを携え、アキトへと歩を進める。
 腕をくねらせ、魚人の特性を活かした6本の手の全てに剣を有している。

「さあ、死ね!"蛸足奇剣"!!」

 先手必勝とばかりに攻撃を仕掛けてくるタコの魚人

 6本という腕の数の利を活かし変則的な動きで敵を翻弄するこの技は確かに奇剣であり、理にかなっている。

「ニュアッ……!?」

 しかし、アキトの身に届くことはなく、手刀によって6本の剣は全て砕け散った。
 タコは呆然と自身の全ての剣が砕け散る様を見ていた。 

 余りにもその刀身は脆く、余りにも技巧がお粗末過ぎた。
 言ってしまえば6本の剣を力の限り振り回しているだけであり、そこに剣士としての姿は存在しない。

 だが、敵もさるもの
 幹部クラスと言うのも伊達ではないらしい。
 己の剣が使えないと分かるやいなや剣を捨て去り、拳で攻撃を仕掛けてきた。

「タコ焼きパーンチ!!」

 どうやら剣士であるのと同時に拳闘家でもあったらしい。
 
 だが、アキトには通じない。
 6本の腕によって繰り出される猛攻を全て躱し、顔面を掴んだ後モームと同じ方向に能力を用いて勢いよく投げ飛ばす。
 波紋状の衝撃波を宙に描き、タコの魚人は地の放物線と共にアーロンパークから遠ざかっていく。

 加えて、為す術無く吹き飛ぶ魚人の身に止めの一撃として一点に集束した衝撃波を飛ばし、コノミ諸島からモーム諸共遠方の彼方まで吹き飛ばした。
 轟音と爆風を伴いタコの魚人は海面を幾度もバウンドしながら跳ね、大海の藻屑と化していく。


「貴様よくもハチを!究極正拳"千枚瓦正拳"!!」

 格闘家を連想させる魚人の正拳がアキトへと迫る。
 狙いはアキトの心臓
 だが、アキトは眼前の魚人の正拳を難なく左手で受け止める。

「何ッ……!?」
 
 自身の必殺の正拳をいとも簡単に受け止められたことに魚人は驚きを隠せない。
 人間よりも10倍の力を持つ魚人の自分がどれだけ力を入れようともピクリとも動かないのだ。

「─」

 能力を使っている様子も見受けられない。
 つまり自分は素の能力で目の前の人間に劣っていることになる。
 その事実が自分の魚人としてのプライドを傷つけ、考えるよりも先に体を動かしていた。

「舐めるな!!究極正拳"千枚瓦正拳"!!!」

 先程と全く同じ技である正拳

 渾身の威力を込めて放った正拳は先程の正拳の威力を凌駕した。
 しかし、依然としてアキトに届くことはない。

 渾身の力を込めて放った正拳はまたしてもモームの時と同じようにアキトの眼前で止められた。
 まるでアキトの周囲に不可視の壁が存在しているかのようだ。

「─」

 アキトは構えを取らずにただ見ているだけである。
 皮肉にも全力で放った正拳が止められたことにより拳が無残にも破壊され、魚人は痛みで体勢を崩されることになる。
 魚人は何が起きているのか理解できなかった。

「潰れろ」

 アキトは相手に休む暇を与えない。
 続けて不可視の衝撃波を魚人に向けて加減することなく放つ。

 体勢を崩された魚人に避ける余力などあるはずもなく、アキトが放った衝撃波が無防備な魚人の体に直撃した。

 途端、魚人の身体に走る激痛

 動作無くして放った威力とは思えないほどの衝撃波が魚人を地面へと叩き付ける。
 地面にはクレーターができあがり、魚人の意識を暗転させ、地面一面に血のカーペットが広がった。


「"水鉄砲"!!」

 最後の幹部の魚人による攻撃

 銃弾にも匹敵する水が散弾銃のように発射された。
 どうやら近接戦では不利と考えたうえでの遠距離攻撃らしい。
 
 しかし、アキトは動じることなく、その場からその魚人へと突貫する。
 水の散弾銃はアキトの身体に届く前に霧散し、ただの水へと成り果てた。
 アキトは驚愕に大きく目を見開く魚人にラリアットを直撃させ、アーロンパークの城壁へと叩き付ける。

 巨大なクレーターが出来上がり、アキトはその魚人の頭部を鷲掴み、強く押し付ける。
 意識が朦朧とし、血だらけの状態と化した魚人の顔面を掴み、タコの魚人と同じく大海へと投げ飛ばし、衝撃波で遠方の彼方へと吹き飛ばす。

 満身創痍のその魚人は大海に沈み、二度と浮き上がってこなかった。 
 これで魚人の残党はアーロンただ一人







▽▲▽▲







 目の前に倒れるはアーロンを除く幹部を含めた魚人達
 全員がアキトの手によって瞬殺された者達だ。

 アキトとアーロン達との戦いが始まってから数分
 終始、戦いはアキトの有利に運び、誰もアキトに手も足もでない。

 これで実質残るはアーロンただ一人

 村人達は今なおアーロンに対して悠然と佇むアキトの背を呆然と見つめていた。
 彼らの顔に浮かぶは驚愕の表情

 ある者は口を大きく開け、ある者は瞳孔を大きく見開いている。

「我々は夢でも見ているのか?」
「何という強さだ。あの魚人達が手も足も出ないなんて……」

 村人達は誰もが目の前の光景に驚愕を隠せなかった。

「……凄い」

 ナミも眼前の光景に言葉が出なかった。
 これまで自分を苦しめてきたあの憎きアーロン達がアキトの手によっていとも簡単に潰され、血の池に沈んでいく。
 アキトはまるで作業の様に淡々と魚人達を殲滅し、容赦することなく魚人を撲滅していく。
 恐らくアーロン以外の魚人は生きてはいないだろう。

 ナミは眼前に広がる光景が真実なのかを何度も心の中で反芻する。
 だが、幾度確認しても目の前の現状は事実であり、本当にアーロンによる支配が終わるのだとナミは確信にも似た思いを感じずにはいられない。

「─」

 未だ眼前の光景を受け止めきれないナミは呆然とするしかない。
 アーロン達を凌駕するアキトの想像以上の実力に驚嘆するほかない。

 だが、それよりも─



─何故、初対面である自分の為にここまで彼は尽くしてくれるのだろうか─



 ナミはそう思わずにはいられなかった。

 聞けば彼、アキトは偶然この島へ訪れた外部の人間であるとのこと

 ノジコは彼に食事を振る舞い、この島の現状を説明したらしい。
 勿論、ノジコはこの島から即刻立ち去るように忠告し、実際にアキトはその場から立ち去っていた。  
 しかし、彼は何を思ったのかこの島を立ち去ることなく、魚人達と対面している。

 恐らく彼が自分達をアーロンパークから立ち去るように忠告したのも、これ以上村人に被害が及ばないようにするためだろう。

 これまで求めた救いの手は全て潰され、アーロンに服従するしかなかった。
 頼みの綱の海軍でさえあの始末
 あの日、突如として訪れた絶望は、突如として一人の少年の手によって覆されたようとしている。


─本当に人生は─


「本当、人生って何が起きるか分からないものね……」

 ノジコがナミの気持ちを代弁する。
 見ればどこか呆れた表情を彼女は浮かべていた。

「ノジコ……」

 そうだ。
 ノジコの言う通りだ。

 偶然この島を訪れたアキトの手によっていとも簡単に魚人達の支配が終わろうとしている。
 驚くなというほうが無理な話であろう。

「ええ、そうね。本当に何が起こるか分からないものね」

 ナミはそう答えることしか出来なかったが、どこか憑き物が落ちたような表情をしている。

 ナミとノジコの2人は今はただアキトと魚人達の戦闘の成り行きを見守ることにした。

 これで残るはアーロンただ1人─







▽▲▽▲







「これで幹部とやらは片付けた。残るはアーロン、お前だけだ」
「ハチ、クロオビ、チュウ、よくも俺の大切な同胞達を……!手前ェ!死ぬ覚悟はできてんだろうなァ……!!」

 アーロンは怒りを隠そうともせずに立ち上がる。
 表情はまるで般若の様だ。

「お前達は8年もの間、ナミとこの村の人達を苦しめてきたんだろう?だったら報いを受けるのは当然、因果応報ってやつだ。自分達だけが搾取するだけとは都合が良すぎるんじゃないか?」

「舐めるな!下等種族が!!」

 その言葉を合図に両者は同時に駆け出した。

 先に攻撃を仕掛けてきたのはアーロン
 成程、幹部や下っ端の魚人たちとは違い、一線を画す実力だ。
 魚人至上主義を掲げるだけのことはある。

 アーロンはその剛腕をアキト目掛けて振り下ろす。
 魚人の力によって繰り出された攻撃は並みの防御を破壊するだろう。
 
 だが、言ってしまえばその程度に過ぎない。
 アキトには通じない。

「下等種族が!くたば……!?」

 アーロンが口を開けたのはそこまでだった。
 いつのまにか自身の眼前にいたアキト

 まったく認識できなかったことにアーロンは驚きを禁じ得ない。

 次の瞬間、激痛を体中に感じた。
 余りの痛みに立ち止まってしまうほどである。

 アキトはアーロンの攻撃を掻い潜り、アーロンの顎・心臓・腹・膵臓の位置に掌底を叩き込む。
 能力なしの唯の掌底だ。

 しかし、長年己を研鑚してきたアキトの攻撃は並みの掌底の威力を凌駕する。

 アーロンは意識を保つだけで精一杯である。
 それに加えて顎に掌底を叩き込まれたことにより軽く脳震盪を起こしかけていた。

 朦朧とした意識の中、受け身を取ることもできずにアーロンは後方に吹き飛ばされる。アキトはそれでもなお攻撃の手を止めるつもりはない。

 後方に吹き飛んでいくアーロンに一瞬で追い付き、回し蹴りの要領で横に蹴り飛ばす。
 
 水しぶきが勢い良く上がり、アーロンが海水の中へと沈んでいく。
 
 アーロンは浮き上がってこない。
 暫くその場に静寂が続いた。

「死んだのか?アーロンは……?」

 村人達がアーロンが死んだのではないかと騒ぎ出す。
 ナミとノジコもアーロンが死んだのではないかと思い始めた。
 
 それに反してアキトはただじっと水面を見つめている。







 次の瞬間、アーロンが水の中から勢いよく飛び出してきた。
 途轍もない速度だ。

「"鮫・ON・DARTS"!!」

 魚人の特性を活かした正にアーロン必殺の攻撃
 狙いはアキトの心臓

 食い千切る勢いでアキトに突っ込む。
 アーロンにはアキトの心臓を食い破るイメージが出来ていた。

 アーロンの強靭で鋭利な鼻がアキトに迫り……



「何!?」 

 しかし、アーロンの必殺の攻撃をアキトは左手でいとも簡単に受け止める。
 アーロンは自身の必殺の一撃が容易く防がれたことに驚きを禁じ得ない。

 アキトはアーロンの長鼻をへし折り、アーロンパークへとアーロンを蹴り飛ばす。
 轟音が轟き、爆風が吹き荒れ、煙が巻き上がる。

 アーロンとの戦いも終盤に差し掛かってきた。 
 

 
後書き
ナミの過去が重過ぎる……
物語を書いているこっちも辛くなってくる 
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