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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica16-A犯罪者狩り~Thunder vs Freeze~

 
前書き
北海道からただいまです! 

 
†††Sideアリシア†††

執務官としてのお仕事で、執務官補佐の私、妹であり直属の上官でもあるフェイト、私と同じ執務官補佐のシャリオ(ニックネームはシャーリー)の3人は、広域指名手配を受けてる質量兵器密売組織の摘発のために、第59管理世界サピンへとやってきていた。

「今回の一斉摘発において、最重要にして最も警戒しないといけないのは、対魔導師用特殊弾です」

出撃前に行われてる現地の陸士505、506部隊との最終ミーティングで、フェイトがモニターに拳銃と弾丸を表示した。

「すでにこの質量兵器による犠牲者は、局員・騎士・民間人・犯罪者、およそ250人に上ります。その威力は、SSランクの防護服を貫通するほどで、魔法における防御ならびに物理防壁は一切通用しないと考えておいてください。密売品とはいえ、緊急時となれば使用してくる可能性も十分あります。くれぐれもこの質量兵器を確認したら、即座に対処に移ってください」

防御力の高さに定評にあるルシルの防護服を貫通させて傷を付けるほどだし、つい最近でもキジョウ陸曹っていう、シャルやルシルの部下だった陸戦SSランクの子も1発貰ったらしいし。私やフェイトじゃどうやっても防ぎきれないのは確実だよ。
それから綿密な打ち合わせをして、問題の拳銃以外にも違法物品を売り買いしてるブラックマーケットのある、広大な廃棄都市区画へと移動を開始。武装捜査官のための輸送車8台、逮捕した犯罪者や押収した物品を輸送する護送車8台、計16台の大移動。

「第2、第3先遣隊より報告。マーケットへ接近する者を監視・報告する役割を持った人間、十数名を逮捕したと」

「これまでの捜査で、監視カメラの類はなく警邏が目を役割をしていると判明しています。捕らえた連中の代わりに隊員を配置し、マーケット側に偽りの報告を続けてもらいます」

指揮車に乗り合わせてる505と506の捜査主任さんからの話にシャーリーが「失礼ですが、それってかなり危ない橋では?」って聞いた。見回り役の連中がごっそり捜査官と入れ替わって、しかも偽報告をさせるとなると、万が一に交代要員に見つかったり、変声魔法がバレたりでもしたら・・・。

「それまでに我々がマーケットに突入すれば良いことですよ」

「最悪なのは、私たちが突入を試みる前に気付かれてしまい、マーケットにいる人間に反撃や逃走の機会を与えてしまうこと。それさえ防げれば、今入れ替わっている隊員たちも突入に参加できる。これでどうだろうか、フィニーノ執務官補?」

「判りました、ありがとうございます」

若干しょんぼりしてるシャーリーに目配せで、ドンマイ、って送ると、あの子は小さく頷いた。確かにすべては時間の問題だよね。摘発に動いてる私たちの車列は、廃棄都市区画に入ってからというもの、ものすごい速さで悪路を駆け抜けてる。ガタンガタン揺れられること数十分、車列の速度が落ち始める。監視の目は潰したと入っても、十数台っていう大所帯の駆動音はどうしても響いてしまう。静寂に満ちた廃棄都市区画ならなおさらだ。

「では、予定通りマーケットが行われている施設直近まで、防護服および各種魔法を使用しないまま接近します」

「各班、突入時刻1500時までに指定のルートを進み、指定場所にて待機せよ」

というわけで私たちは車から降りて、4人1組の班に分かれる。そして事前に決めたルートを、防護服に変身しないままで駆け抜ける。いくら監視がないとはいってもちょっと恐ろしい。万が一にも魔法・物理問わずに攻撃されたら、当たり所によっちゃ死ぬこともある状況だし。

(でもこれくらいの死地、乗り越えられなきゃ執務官仕事はやっちゃいられない・・・!)

隣を走るフェイトの表情にも緊張の色が見える。今回の摘発で、今後の質量兵器による事件の有無が関わってくる。そう思うと本当に緊張してくるよね。

「止まってください。見回りがいるそうです」

フェイトが小声で私、それに陸士隊員2人にそう伝えた。監視を潰したとはいえ見回りまで潰したわけじゃなく、武装した男たちが2人1組で施設の周囲を見て回ってる(って以前からの捜査で判明済み)。今のところ視界には居ないけど、居るってことを知らせる合図があった。敵の監視役の代わりに区画内の高いところに陣取る複数の隊員たちが、鏡による光の反射で教えてくれてる。

(原始的だけど、念話による生まれた魔力すらも探知されるかもしれないって話だからな~・・・)

魔法文化が強い管理世界の現状、日本で使ってた携帯電話みたいな電波による通信手段なんて無いし。どうしてもこんな手段を採らざるを得なくなる。まずフェイトと頷き合い、次に後ろを付いてくる陸士隊員2人と頷き合って、いつ崩れるとも判らない廃墟ビルの中に入って見回りをやり過ごす。そのまま見回りの目を掻い潜りながら、道や廃墟を抜けて目的の施設前まで行く。

「アレだね・・・」

サッカーのフィールドの大体3倍くらいの大きさを誇る、地下2階・地上3階の5階建てのビル。地下に商品が溜め込まれていて、地上の階で売買するとのこと。建物を視認できたことで、あとはココ、指定場所で突入時間まで待機すればいいだけ。

「時間まで残り5分・・・」

フェイトが時刻を確認していたところで、「あの、見回りの動きが・・・!」って陸士隊員さんが、壁に開いた穴から外を指差した。私も覗き込むように外を見ると、見回りをしていた連中が大慌てでビルへ入って行く。直後、ドォーン!と轟音と一緒にビルの2階部分から「砲線!?」が3発と上がった。

「いったい何が・・・!?」

『緊急時に付き通信制限を解除する! 潜入班! 何があった、報告せよ!』

『ごほっ、げほっ。さ、最後の大隊の襲撃です! か、仮面持ちが・・・3人! 次々にマーケット関係者、客を殺害していま――っは!? ま、待て! 俺は客でも関係者でもない! 管理きょ――ぶぼぉ!?』

潜入班との連絡が、嫌な声を残して途絶えた。ビル内から銃声や悲鳴が響いてくる。

『各班、防護服を着用し次第、ビルに突入せよ!』

『最優先は関係者と客の脱出と逮捕です! 仮面持ちは、フェイト執務官、アリシア執務官補、部下を何名か付けます、お願い出来ますか?』

2人の陸士隊長からご指名に私とフェイトは「了解です!」って応じて、フェイトは「バルディッシュ!」を胸ポケットから取り出して、私は後ろ髪をうなじで結んでるリボンに付けた花のフリージアの形をしたクリスタルに「フォーチュンドロップ!」って呼びかけた。

「「セーットアップ!」」

私とフェイトは防護服へと変身して、フェイトは"バルディッシュ”をアサルトフォームへ。私は、元はキャンディポッドだったけど現在(いま)は円いファンデーションケース――コンパクト型である“フォーチュンドロップ”の蓋を開けて、丸く赤い宝石と丸く白い宝石を取り出した。

「ラッキーシューター、ハリセンスマッシュ、スタートアップ!」

右手に“ハリセンシュマッシュ”を、左手に“ラッキーシューター”を携える。そして“フォーチュンドロップ”はブローチとして胸元へ。後ろに控える隊員2人も武装隊服へと変身して、フェイトの「行きます!」っていう号令で、一斉に駆け出す。他の隊員たちもビル内になだれ込んでく。

「っ・・・! ひどい・・・!」

支柱以外に部屋を隔てる物が無いだだっ広い空間は・・・真っ赤だった。床にはまるでカーペットのように人の死体が積み重なってる。悲鳴や血の臭い、そして視界から入ってくる地獄絵図に吐き気を催すけど、必死に口を閉じて戻さないように勤める。

「ひぃーーーーっ!」

「助けてーーーー!」

「し、死にたくない・・・!」

「局員でもいい! 頼む、助けてくれ!」

「俺を優先して助けろ! 金ならいくらでもやる!」

「馬鹿野郎! わしが先じゃ! わしを助けんか!」

部屋の中央に築かれた死体の山に立つ女性の仮面持ちは、「クズ共め。死で償え」逃げ惑う人たちを見下ろしながら何かを呟いて、足元の死体を掴み上げた。右手には初老の男性、左手には若い青年。何かをしようとしてる。でも動けない。目を離せない。私、完全に仮面持ちの殺気に飲まれてる・・・。

――アオゲンブリック・フリーレン――

それはホントに一瞬。仮面持ちの足元にベルカ魔法陣が展開されると、仮面持ちもろとも2人の男性の死体が氷漬けになった。仮面持ちだけはすぐに全身を覆ってた氷を剥がしてその姿を現したけど、死体は凍ったまま。

「これ以上は・・・!」

「フェイト・・・!?」

「シュロットフリント・アイス・・・!」

フェイトが駆け出すより早く仮面持ちは死体を上に向かって放り投げて、前方に落下したところでぶん殴った。死体は体内まで凍り付いてたようでバラバラに粉砕されて、その破片が逃げ惑う人たちに直撃。これまで生きてきた中で聞いたこともないような音と一緒に当たった箇所を穿った。

「っ・・・!」

撒き散らされる血と臓物、そして声にもならない被害者たちの悲鳴。とここでフェイトが「もうやめろ!」って床を蹴って、高速で仮面持ちへ突っ込んだ。私もここで再起動。“ハリセンスマッシュ”で、こっちにも飛んできた死体の破片を仮面持ちへ打ち返して、さらに“ラッキーシューター”の銃口を仮面持ちへ向ける。

「あなた達は避難誘導を最優先で! 仮面持ちは私とフェイトで捕まえるから!」

さっきの潜入班からの通信じゃ4人いるらしいんだけど、今のところ仮面持ちはあの女ひとりだけしか居ない。なら目の前の仮面持ちをまず潰して、それから他の3人を順次捕まえよう。仮面持ちは裏拳で破片を弾き飛ばして、その仮面に隠れた顔をこちらに向けた。

「はああああああッ!」

フェイトの一振りを横に跳ぶことで回避した仮面持ちに私は高速魔力弾の「スティンガーレイ!」を連射する。威力は低いけど、その速度でアイツを足止めできればそれで十分。両腕で顔面を覆っての防御姿勢に入った仮面持ちに、高速弾が全弾ヒットして魔力爆発。

「バルディッシュ!」

≪Haken Form≫

“バルディッシュ”が大鎌形態に変形して、黄金に輝く雷の魔力刃を展開。フェイトが煙に向かって「ハーケンスラッシュ!」と全力の一振りを払った。それで煙が横に寸断されて晴れてくんだけど、フェイトの一撃は空を斬った。それでも私の目は仮面持ちを捉えたまま。アイツはフェイトの一撃に合わせて天井付近までジャンプしてた。

――ホーミングシュート――

「シューット!」

仮面持ちをロックオンした状態で撃ち放つ魔力弾12発。アイツは足元に小さなベルカ魔法陣を展開して、ソレを蹴ることで空中で方向転換。でも一度ロックオンした以上、防御されるか迎撃されない限りは追い続けるよ。

「っ・・・!」

仮面持ちが宙で構えた。足元と右手首に展開される魔法陣に、フェイトも迎撃を察して追撃をいったん中止して、“バルディッシュ”の柄を両手で握り締めた。

(さあ、どんな魔法で迎撃するのか見せてよ!)

速攻で決めに行きたいけど、一発逆転のような魔法を持っていたりでもしたら一転劣勢になっちゃうかもしれない。まぁ使わせる前に瞬殺するのがいいんだけど、それが出来ないような相手には慎重にならざるを得ない。

「氷結武装」

――パンツァー・クリスタル――

両前腕部と両足に氷で出来た籠手と脚甲を装着した仮面持ちは、迫り来る私の魔力弾を殴るって形で迎撃する中で、フェイトは「ハーケンセイバー!」って“バルディッシュ”を振るって、三日月状の魔力刃を放った。完璧な直撃コース。

「ふん・・・!」

「な・・・っ!?」

「うっそ。片手で掴み取った・・・!?」

フェイトと私は愕然とした。ハーケンセイバーの切断力はシールドやバリアだって破壊できる、ホントにすごいもの。だけど仮面持ちはその勢いまでは完全に止められず、両手の氷の籠手をガリガリ削っていってる。このままなら、籠手を切断して直撃させられるんだけど・・・。

(そう簡単にはいかないよね・・・!)

仮面持ちは受け止めきれないって判断したみたいで、軌道を逸らせるべく左手も添えようとした。でもそれより早くフェイトが「セイバーブラスト!」ってコマンドトリガーを告げ、アイツもろとも魔力刃を爆破した。

「アリシア!」

「オーケー! ドロップ!」

≪スマッシュを待機に戻し、スナイパーを起動!≫

胸元にあるケースの蓋を“フォーチュンドロップ”のAIが開けて、黒い宝石をポン♪と飛び出させた。ソレを右手でキャッチして、“ハリセンスマッシュ”を待機モードである白い宝石にしてケースに戻すと蓋も閉じた。

「ブレイブスナイパー!」

――ソニックムーブ――

床を蹴って、煙の中から飛び出してきた仮面持ちへ再接近。アイツの氷の籠手は完全に砕け散ってるけど、私の接近に対して迎撃するべく右腕を引いた。

(でも長さが足らないよ!)

今の私の体格に合わせて造り直されてる“ブレイブスナイパー”を構えてしまえば、仮面持ちのパンチが届く距離の外からその銃口を突きつけられる。

「ジャベリン・メテオ!!」

それでも魔法かなんかで迎撃されても嫌だから、悠長にタイミングを計ることなく即座にトリガーを引いて、ほぼゼロ距離で威力重視の炸裂魔力弾を撃ち込むことに成功。また爆発に飲まれた仮面持ちは、私との間に生まれた煙の影響で私から見えなくなっちゃったけど・・・。

『いい感じだよ、アリシア! 2時の方向、射角25度! 撃って!』

フェイトからの念話で、私はダメージをしっかり与えられたみたい。フェイトの指示に従って銃口を向け直して、「セクステット・バレット!」って、発射シークエンスや弾速といった速度を重視した高速魔力弾を6連射した。

†††Sideアリシア⇒フェイト†††

アリシアのメテオからのバレットっていうコンボの直撃を受けた女性仮面持ちは、着弾時の魔力爆発時に生まれた煙にまた呑まれたけど、彼女は前面にシールドを張った状態で煙の中から出てきた。見たところダメージは入ってない。

(このまま屋内で戦闘を行うと、遺体の損傷や証拠品などがめちゃくちゃにされちゃう・・・)

だったら、やる事は決まっている。砲撃魔法をスタンバイしてから高速移動魔法のソニックムーブを発動。仮面持ちが体勢を立て直すより早く彼女の側面へと移動。

「このまま外に押し出す!」

――プラズマスマッシャー――

前面に展開した魔法陣から砲撃を発射。回避も防御もさせない速さで仮面持ちに直撃させ、壁を突き破って屋外まで吹っ飛ばした。私はアリシアに『先に外に行ってるね!』と念話で伝えて、足元にフローターフィールドを展開して、いったん着地する。死体や血や臓物が撒き散らされている床に降り立つ勇気が私には無い。

「おおおおおおッ!」

――ハーケンセイバー――

足場を蹴って仮面持ちが開けた穴から飛び出し、魔力刃による直接斬撃を繰り出す。仮面持ちは徒手空拳の格闘スタイルだからか、私の斬撃を見切って回避してからの打撃によるカウンターを打ってくる。それを柄で受け、弾いてはもう一度“バルディッシュ”を振るうけど、彼女も裏拳で魔力刃の腹を殴って弾いてきた。強い。確かに強いけど、チーム海鳴内で行う模擬戦で培った、格闘戦の経験からすれば「ぬるい!」よ。

「っ・・・!?」

繰り出された右拳をパシン!と右手の平で受け止めて、体の一部に電撃を纏わせて触れたものに強力な電撃を流す、攻防一体の「サンダーアーム!」を発動する。

「ぐぅぅーーーーーっ!?」

アインスすらも感電させて数秒間の隙を作らせた、私の対近接タイプへのカウンターだ。仮面持ちも例に漏れず感電して、激しく痙攣した。そこに「フェイト!」ってアリシアも合流してくれた。

「ごめん! こっちは私ひとりで大丈夫みたい! 屋内の手伝いをしてあげて!」

せっかく出て来てもらったけど、この仮面持ちならたぶんだけど私だけで倒せる。格闘術で言えばアインスより圧倒的に格下。あとは魔法に気を付ければきっと・・・。

「・・・判った! でもくれぐれも無茶しないように!」

――ラピッドジャンプ――

アリシアが地面から2階までジャンプして屋内に入っていったのを横目で確認しつつ、感電しながらも足元に魔法陣を展開した仮面持ちを背負い投げする。仮面持ちは隣のビルの外壁に背中から叩き付けられた。地面へと落下するけどギリギリで体勢を立て直して着地。そしてすぐ、直径5mほどの魔法陣を展開。

「ユーバーファル・アイスベルク・・・!」

大小様々な氷で出来た尖塔が何十本と魔法陣から突き出してきた。しかも尖塔は何かに当たると、そこを凍結させてから方向転換してくる。後方に下がりつつ「プラズマランサー、ファイア!」と電撃の槍を尖塔に撃ち込む。着弾時の炸裂で尖塔を穿つけど、新しい尖塔によって砕かれた箇所が飲まれるから焼け石に水状態。

「くっ・・・!」

尖塔に挟み込まれるより早く飛行魔法を発動して空高く上がる。本体である仮面持ちは、ウニのようになっている氷の中。あれを砕くにはハーケンフォームじゃ足りない。

「バルディッシュ、フルドライブ!」

≪Limit Break form. Riot Zamber Calamity≫

“バルディッシュ”を大剣形態へと変形させる。3rdフォームのザンバーや4thフォームのライオットブレイドより遥かに高威力を叩き出せる限界突破の“カラミティ”なら、一撃で仮面持ちを墜とせるはずだ。迫り来る尖塔を避けては着地して駆け抜けるを繰り返し、仮面持ちの居る地上へと向かいながら“カラミティ”を上段に構える。氷の中に居る仮面持ちの顔が私の方に向いた直後、真正面から尖塔が飛び出してきた。

「カラミティ・・・ザンバァァァーーーーッ!」

それに構わず全力で“カラミティ”を振り下ろした。目の前にまで来ていた尖塔を真っ向から縦にかち割って粉砕。さらに仮面持ちが閉じ篭ってるウニのような氷も真っ二つに寸断した。

「~~~~~っ!? これが、チーム海鳴の魔導師の力・・・!」

足元の魔法陣を破壊したおかげか周囲に伸びていた氷の尖塔群が次々と崩落を始める中、仮面持ちが砕けた氷塊の上に立った。

「最後の大隊の構成員であるあなたを逮捕します。罪状は言わなくても判っていますね?」

「容疑は殺人か? 馬鹿馬鹿しい、我々は害獣を駆除しているに過ぎん。知っているか? 我々がこのマーケットに赴いた際、商品として売られていたのは管理外世界の幼い子供たちだ」

「・・・っ!」

「管理外世界に位置づけられている世界の中には、魔力資質に優れた者、何かしらの特殊な技能を持つ者など、希少な人材が多く眠っている。それを拉致してきては、あのようなマーケットで実験素材、愛玩物、臓器摘出などなど、下種な事をさせられる売り物として扱われる」

プライソンやプロフェッサー・ヘンリーなどの犯罪者が脳裏に過ぎる。人を人とは思っていない外道。次元世界じゃ未だにそういった特別な人が犠牲になってる、なり続けてる。それは食い止めたい事だけど、だからって「殺害するなんて・・・」って握り拳をつくる。

「ならば管理局は逮捕すれば良かったのだ。我々がこのような手段を採る前に。逮捕して、裁判を行い、刑を確定させ、牢に入れる。毎日毎日食事を与えながら生かす。犠牲になった者たちが生きられなかった時間を、連中に与えている」

「それは、罪を償うために・・・」

「償うため? 刑期を終えて出てきた者がまた、罪を犯す事が多々あるのは判っているか? 犯罪組織に身を置いている者の大半が再犯となる。管理局法には極刑というものがない。捕まっても生きて外界に出られると判っているからまた罪を犯す。だから我々は、そういった犯罪者に示しているのだ。罪を犯せば、相応の罰が下される、と。これくらいの事をしなければ、害獣どもは学習しない。そして必ず恐れるだろう、罪を犯す事を。犯せば最後の大隊が、その命を狩りに来ると」

仮面持ちがそこまで語った直後、3階部分のすべての窓から爆炎が噴き上がった。

「え・・・? なっ、アリシア!?」

「これからも我われ最後の大隊は、犯罪者に死を与えていく」

――トランスファーゲート――

「しまっ――待て!」

――リングバインド――

マーケットビルから仮面持ちへ視線を戻したところで、彼女の足元に歪みが発生していたのに気付いて、逃がさないためにバインドを発動した。でも拘束するより早く仮面持ちは歪みの中へと消えていってしまった。

「くぅ・・・! アリシア、応えて! アリシア! こちらハラオウン執務官! 応答願います!」

仮面持ちの逃亡を許したことに対しての自責の念は、今は後回しだ。ビル内に居るはずのアリシアや他の陸士隊へと通信を繋げる。最初はノイズばかりだったけど、『フェイト! 屋内の陸士隊は全員無事だよ!』って応答があった。

「良かった・・・」

ブラックマーケット一斉摘発作戦は、最後の大隊による奇襲で失敗。マーケット関係者および客、死体の身元を確認できたのは48名。実際の死者は身元不明でプラス数十名かと思われる。管理局側の死者は0で、重軽傷者が19名だった。地上部隊の応援を呼んで、事後調査を行う中・・・

「フェイト。ちょっといい?」

「どうしたの、アリシア?」

アリシアに呼ばれてたから側に寄ると、「ちょっとこれ観て」って小さなモニターを出して、ある映像を流した。それはこのビルでの戦闘で、アリシアが他の陸士隊員と一緒に仮面持ち3人を撃破したものだ。

「すごいね、アリシア」

「そんな事ないよ。そんなに強くなかったもん。・・・問題はこの後」

バインドや手錠で拘束し終えた仮面持ち3人の仮面を外し、さらに目出し帽も脱がせた。うち2人は女性で、もう1人は男性なんだけど、「あれ・・・?」って私は首を傾げた。どこかで見覚えのある顔のような・・・。

「・・・あ・・・ああ・・・あああ! そんな、まさか・・・!」

「そう。ミッドチルダ地上本部捜査部・捜査一課、バイロン・ロゴ係長だよ、どう見ても」

プライソン戦役時、“レリック”捜査を円滑に行うための合同捜査会議の際にお会いしたことがあった。というか、「これってかなりまずい事じゃ・・・」って頭を抱える。現役の管理局員が、最後の大隊の一員として殺人を犯した。ただでさえプライソン戦役でのバッシングが今なお少なからずあるなか、この事実が公にされたら・・・。

「この後、女性の仮面持ち2人が自爆したの。魔法じゃない単純な爆発だったから私の防御魔法でも防げたけど・・・」

3階で起きたあの爆発はそういう理由だったみたい。私が「ロゴ係長は?」って聞くと、「意識がないから病院に運ばれたよ。なんとか自爆から庇えたから」ってアリシアは沈んだ声で答えてくれた。

「また、管理局が叩かれる理由が出来たね・・・」

「うん。・・・これ絶対プライソンの呪いだよ、フェイト。最後の大隊って、きっとプライソン一派と繋がってたはずだし」

どうやら次元世界はプライソンが死してなお、彼にもてあそばれてしまう運命のようだ。
 
 

 
後書き
2週間も投稿が遅れてしまい、申し訳なかったです。
前書きでも書きましたように、震災時に北海道に居りましたゆえ。
亡くなった方々には心よりお悔やみ申し上げます。
次話からは通常通りに週一で投稿します。 
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