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真田十勇士

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巻ノ百三十七 若武者の生き様その六

「幕府の赤備えというとな」
「井伊殿ですな」
「四天王の家のお一つの」
「あの家ですな」
「まさに」
「武門の家じゃ」
 幕府の中でもとだ、木村は前を見据えて言った。
「相手にとって不足はない」
「ですな、ではです」
「一気に攻めまするか」
「その武門の家に」
「こちらも」
「そうしようぞ、では今から攻めるぞ」
 こう言ってだった、木村は兵を前に出した。そうしてだった。
 木村は井伊家の軍勢と果敢に戦いはじめた、その彼の戦ぶりにだ。
 井伊家の主井伊直孝は唸って言った。
「敵は木村長門守殿だな」
「はい、あの旗印はです」
「間違いありません」
「木村殿です」
「あの御仁です」
「そうか、若い方と聞いておるが」
 それでもと言うのだった。
「これはな」
「かなりですな」
「かなりの戦ぶりですな」
「お見事です」
「水際立ったものです」
「これは我等も恥じぬ戦いをせねばな」
 直孝は馬上からこうも言った。
「そしてな」
「そのうえで、ですな」
「木村殿に勝つ」
「そうしないとなりませぬな」
「そうじゃ、卑怯未練はせずにじゃ」
 こう言ってだ、直孝は木村に負けじと戦った、そうしてだった。
 両名は果敢に戦った、やがて流れは井伊家に傾き。
 木村は窮地に陥った、ここで大野から人が来た。
「ここはです」
「下がれとか」
「はい、言われていますが」
 大野がというのだ。
「ここは」
「そうか、しかしじゃ」
「それでもですか」
「拙者は退かぬ」
 こう言うのだった。
「最後の最後までじゃ」
「戦われるのですか」
「うむ」
 こう使者に言うのだった。
「そうしてよかろうか」
「そこまでされてですか」
「拙者は先に進んでな」
「そしてですか」
「井伊家の軍勢を退け」
 そしてというのだ。
「その先にいる将軍殿、そしてな」
「大御所殿もですか」
「討ち取る、それまではじゃ」
「退かれぬのですか」
「そのつもり、だからな」
 その言葉は無用と言ってだ、そしてだった。
 木村は実際に振り向くことなくそのまま先に進んだ。その軍勢が減っても戦い続けてそうしてであった。
 庵原助右衛門という男が前に出た、庵原は名乗ると木村に問うた。
「お相手致して宜しいか」
「願ってもないこと」
 木村は庵原に槍を手にして答えた。 
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