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真田十勇士

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巻ノ百三十七 若武者の生き様その七

「貴殿のお名は聞いております」
「それでは」
「はい、そして」
「そうしてですな」
「討ち取らせて頂く」
「それはこちらも同じこと、では」
「生きるか死ぬか」
「勝負しましょうぞ」
 二人で話してそうしてだった。
 木村は庵原と一騎打ちを演じそのうえで倒れた、そしてその首を取られてだった。
 家康がその首を見た、すると彼がその首を見てすぐに言った。
「この首じゃが」
「はい、兜をですな」
「被ったままであるが」
「実は兜の紐がです」 
 首を出した庵原は家康の前に畏まって話した。
「結んだところが切られていまして」
「二度と解けぬ様にか」
「しておられまして」
 木村がというのだ。
「それで、です」
「そのままか」
「左様です」
「成程な、見事じゃな」
 澄んだ顔で己の前にいる木村を見ての言葉だ。
「これは」
「大御所様もそう言われますか」
「うむ」
 庵原に一言で答えた。
「そう言うしかないわ」
「左様でありますな
「しかもじゃ」
 さらに言う家康だった。
「香りがするな」
「はい、かぐわしいまでに」
 庵原はまた家康に答えた。
「木村殿から漂ってきます」
「己にも具足にもな」
「香をですな」
「焚いておったわ」
 そうだったというのだ。
「無論兜にも髪にもな」
「だからここまでですな」
「香りがするのじゃ」
「そうでありますな」
「そのことも見事、まだ若いというのに」
 木村のその若々しい顔も見てだ、家康はさらに言った。
「こうした典雅なたしなみ、誰が教えたのでありましょうな」
「それは」
「後藤又兵衛か、いや」
 すぐに彼のことを思ったがすぐにだった、家康はそれはないとした。
「それはないな」
「後藤殿は見事な武人でありますが」 
 大久保が言ってきた。
「しかしそうした香を焚くことはです」
「せぬな」
「はい、これはどうも」
「この者がか」
「自身で学び備えたのか」
「そうであるか、さらに見事じゃ」
 家康は目を閉じて述べた。
「しかも頬がこけておる、食も節しておったな」
「では」
「首を取られた時や腹を切った時にな」
「飯が出ぬ様にじゃな」
「しておったな、そこまで考えておったか」
「よもやここまでの者が今いるとは」
 大久保も瞑目して述べた。
「思いも寄りませんでしたな」
「うむ・・・・・・」
 家康も瞑目して応えた。
「よもやな」
「ここまでの者が今天下にどれだけいるか」
「その者がこの若さで散るとはな」
「無念ですな」
「それが戦のならいとはいえな」
 それでもと言うのだった。
「残念じゃ、しかし助右衛門よ」
「はい」
 庵原は家康の言葉にあらためて応えた。 
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