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おぢばにおかえり

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47部分:第八話 はじまってからその三


第八話 はじまってからその三

「勉強しないと駄目なものよ」
「そうかしら」
「そうなの。関西で阪神はね」
「わからなくてもわかれってこと?」
「そういうことよ」
 だそうです。全然納得いかないですけれど。
「わかったらこの新聞読む?」
「ええ」
「そういえばちっちのおうちって新聞は何?」
「毎日だけれど」
「読売じゃないのね」
「それはないわ」
 お父さん、いえお爺ちゃんが大のアンチ巨人なんで毎日にしました。何かその時永田雅一がどうとか言っていたそうですけれど誰なのやら。
「だってうちの家も皆」
「アンチ巨人なのね」
「そうなの。それにあそこの社長が嫌いな家族が多くて」
「それって多分このクラスもよ」
 そうでしょうね、って思いました。ここは関西です。関西で巨人の人気はかなり低いです。それでもファンがいることにはいますけれど。
「まあ人の悪口を言うのは」
「おみちとしてあれよね」
 この娘も教会の娘さんなのでそうしたことには厳しいです。やっぱりちゃんとした教会の娘さんってそうした躾が昔からされていることが多いです。
「やっぱり」
「そういうこと。けれど褒めるのはいいから」
 そう言ってまた新聞を見はじめました。
「久し振りに打線が打ったのよねえ」
「へえ、本当に久し振りね」
「最近あまり打たないから」
 何かそれが阪神の伝統だそうで。ピッチャーの球団だって。
「打ってくれるとね。有り難いわ」
「そうよね、やっぱり打たないと」
 打ってくれないと勝てません。私が甲子園で散々見てきた試合です。
「どうしようもないわよね」
「そういえばうちの高校もどうかしら」
 不意に話がそっちに行きました。
「天理高校の?」
「ええ。今年は甲子園に行けるかしら」
「それは相手次第じゃないの?」
 私は首を少し傾げさせてこう答えました。
「やっぱり。相手が強かったら」
「それなのよね。智弁がいるから」
「郡山も」
 この二校と高田高校でしょうか、天理高校野球部の奈良でのライバルは。彼等を倒さないと甲子園には行けないのが毎年です。
「敵も毎年強いわよねえ」
「向こうも甲子園出たいしね」
 言うまでもないことですけれど。
「必死で練習してると思うわよ」
「敵もさるものね」
 彼女は少し溜息をついて述べました。
「困ったことに」
「毎年甲子園出られたらいいのにね」
 私もそう思います。あの白と紫のユニフォームを見るのが大好きです。あのユニフォームに憧れて子供の頃は野球部に入りたいなんて無茶を思っていたりもしました。
「それは簡単じゃないわね」
「そういうことね。まあ甲子園はまだ先だし」
 彼女はそう言うと新聞を収めてきました。そしてそれを私の前に出してきました。
「読む?」
「あっ、いいわ」
 それは断りました。
「もうわかったから」
「そうなの。それじゃあ」
「ええ。それにしてもうちの学校ってやっぱり阪神派なのね」
「だから。関西よ」
 それが第一の理由でした。
「阪神で当たり前じゃない」
「やっぱり」
「天理教自体教会が大阪とか奈良に多いし」
 奈良はやっぱりおぢばがありますから信者さんも教会も多いんです。そして大阪はおぢばの玄関口なので。人口も多いこともあって天理教の教会の十分の一があるそうです。
「そうなるわね」
「そうよねえ。けれど阪神かあ」
「ちっちだってファンじゃない」
「それはそうだけれど」
 さっきからお話している通りです。それは否定しません。
「何かなあ、って思って」
「何かなあって?」
「あまり神戸にいた時と感覚が変わらないのよ」
 少し慣れてきたせいでしょうか。寮での生活も学校でも不思議とお家にいるのと変わらない感じに思えてきました。実家が教会なのでそのせいかも知れませんけれど。
「何でかしら」
「阪神だけじゃなくて?」
「そうなの」
 私はこう答えました。
「不思議よね」
「それはちっちが教会の娘さんだからでしょ」
 そうしたらこう返事が返ってきました。私が考えていたことと同じです。
「そうなるのかしら、やっぱり」
「そうなるわ。ほら、おみちはここに入ってはじめての人だっているじゃない」
「ええ」
 そうしたクラスメイトも多いんです。私みたいな娘もいればそうじゃない人も。おみちの入り方はそれぞれでこれについてはわかっているつもりです。
「そうした人はまた違うこと言うわよ」
「でしょうね。それもわかっているつもりだけれど」
「実際に感じると違うでしょ」
「ええ。じゃあそうした人達は」
 ここでわかりました。
「私とは全然違う感触なのね、やっぱり」
「特にあれじゃない?」
 また言われました。
「何も知らないで寮に入った人なんかは」
「そうよね。かなり戸惑うわよね」
 何せ周りはおみちの人ばかりで。それで自分は何も知らないで急に二十四時間おみちのことばかりになるとかなりのショックを受けるのは間違いありません。実際にそうした人もいると思います。
「そうした人にこそ」
「色々と助けてあげてよね」
「わかってるじゃない」
 にこりと笑って言われました。
「感心感心」
「何か今の言い方って」
 微妙に引っ掛かるものがありました。
 
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