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おぢばにおかえり

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48部分:第八話 はじまってからその四


第八話 はじまってからその四

「子供に言うみたいね」
「だってちっち小さいから」
 それは余計です。それに。
「あんただってそうでしょ」
 すぐにこう言い返しました。彼女も小さいですから。私よりは高いですけれど。
「小さいのは」
「ちっちよりは高いわよ」
 やっぱり。こう言ってきました。
「それでもね」
「どうせ私は小さいわよ」
 何かこの台詞中学生の時から言っています。気にしていますけれどどうにもなりません。
「けれど仕方ないじゃない」
「気にしない気にしない」
「気にするように言っているのは誰よ」
「まあまあ」
 そんな話をしているうちに授業です。ホームルームがなくていきなり授業です。あとうちの学校には下駄箱というものがありません。そのまま靴で校舎に入ります。だからお掃除の時砂が多かったりします。
 授業が終わって部活が終わって。寮に帰る前に参拝です。
「今から帰るの?」
「あっ、はい」
 長池先輩が隣に来てくれました。凄く優しい顔で笑っています。
「そのつもりですけれど」
「デートとかはしなくて」
「デートなんてそんな」
 全然考えたこともありません。この学校に入ってから本当に。
「彼氏なんて」
「いないの」
「はい、やっぱりそういうのは」
 ここで先輩に言いました。
「結婚する人とですよ」
「何、それ」
 先輩は私の言葉を聞いて急に笑いだしました。
「結婚するまで、というか結婚する人としかデートしたり彼氏になったりとかしないの?」
「駄目ですか?」
「駄目じゃないけれど」
 黒門に向かう暗くなりかけの道で二人で話をしています。道が紫色になっていてお空は青と赤、白から少しずつ黒くなりだしています。何もかもが黒の中に消えようとしています。そんな中で二人で話をしています。
「ただ」
「ただ?」
「随分硬い考えね、それって」
 先輩はくすりと笑って私に言うのでした。
「今時そんな人がいるんだって思ったわ」
「そんなにですか」
「そうよ。まだそんな人がいるんだって驚いたわよ」
「はあ」
「まあちっちらしいかな」
 そのうえでこうも言われました。
「真面目で。私なんかにはとても」
「先輩も真面目じゃないですか」
 長池先輩って奇麗で優しいだけじゃないんです。とても真面目な人でもあります。それが私の同級生達からは怖いって言われたりもしますけれど。
「そんなことは」
「私だって真面目なだけじゃないわよ」
 それでもこう言ってきました。何か寂しい感じで笑いながら。
「色々あったからね」
「色々ですか」
「ええ。まあそれは何時かね」
 今はお話してくれませんでした。
「話させてもらうかも。けれど今は許してね」
「許すも何も」
 そんなの私が言えた義理じゃないです。とても。
「そんなのないですよ」
「そう、優しいのね」
 先輩は私の言葉に笑みを返してくれました。それもとても優しく。
「ちっちって」
「そうでしょうか」
「ええ、とてもね」
 また私に言います。
「優しいわ。優し過ぎる位」
「そうでしょうか」
「自分ではわからないものよ」
 こうも言われました。
「そういうことってね」
「はあ」
「けれど。気付く人は気付くから」
「そんなんですか」
「それでそれに気付いた人は」
 どういうわけでしょうか。先輩の顔が微妙に寂しくなりました。そうして私に言います。
 
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