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おぢばにおかえり

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40部分:第六話 レポートその九


第六話 レポートその九

「全く。入学式の時からねえ」
「ああ、あの時」
 私も新一君もあの時のことは今でもはっきりと覚えています。とにかく一生忘れられないような思い出です。当然いい思い出ではないです。
「あの時は本当にねえ」
「失礼だったわよ」
 口を尖らせて言ってやりました。
「何、そもそもね」
「だって本当のことじゃない」
 またにこにこして私に言います。
「先輩が小さいのは。あの時から」
「これでも小学生の時は背が高い方だったのよ」
「またまたそんな」
 全然信じていないのがすぐにわかる言葉でした。
「そんなこと言っても」
「本当よ。それがね」
 五年か六年の頃から伸びなくなったんです。丁度成長期に。牛乳だって飲んだんですけれど全然駄目でした。体型は基本的にあの時のままです。
「新一君は昔からそんなの?」
「背が低いって言われたことないよ」
 羨ましい。おまけにスタイルもいいし顔だって中々だし。悔しいけれどそれは認めます。
「そう。よかったわね」
「うん。先輩をお姫様抱っこできるだけのはあるしね」
「何でそこで私?」
 訳がわかりません。
「しかも風と共に去りぬじゃあるまいし。お姫様抱っこなんて」
「先輩古い映画知ってるね」
 今度はこう切り返されました。
「また随分と」
「そうかしら。名作だとは思うけれど」
 古いのは事実ですけれどそれ以上に名作だと思います。私はそっちだと思っているんですけれど新一君は違っているみたいです。
「まあいいや。それでさ」
「ええ」
「そもそもおぢばって小さい人多いし」
「あっ、そうね」
 言われてみればそうです。今それに気付きました。
「何かそういう人多いかも」
「ここに来てすぐに気付いたんだ」
 新一君は私にそう答えます。
「小柄な女の人が多いかもってね」
「よくそんなことに気付いたわね」
 ある意味感心です。
「それもすぐに」
「女の子ってすぐ目につくし」
「結局それなの」
 実に新一君らしいです。そんなことだろうと思いましたけれど。
「まあそうだけれどさ。天理高校だってそうだよね」
「うちの学校は阪神ファンと小柄な女の子が名物だってこと?」
「そうかも」
 考えたら凄い不思議な話です。全国から集まるから差があって当たり前なのにどういうわけか阪神ファンばっかりですし女の子も。何故なんでしょう。
「近鉄ファンから見たらね」
「そもそもまだ近鉄なんて」
「だってオリックスなんか死んでも応援しないし」
 まだこんなこと言うんです。オリックスと巨人が負けた日は新一君の機嫌のいいこと。けれど朝神殿に行く前に詰所までスポーツ新聞を持って来るのは止めて欲しいんですけれど。
「僕の血にはバファローズレッドの血が流れてるしね」
「またそれは変わった血ね」
 そんなものがあるだけでびっくりです。
「僕だけだろうね、それは」
「そうでしょ、幾ら何でも」
 そういえば天理高校でもここまでの近鉄ファンは他にいません。制服の下にどうやって作ったのか知らないですけれど三色のユニフォーム着てたこともあります。確か番号は二十だったような。それをえらく自慢していたのを覚えています。
「今時あの三色のユニフォーム着ている人なんて知らないわよ」
「あの帽子も今でも持ってるよ」
 新一君はまた笑顔で言います。
「やっぱりあの帽子だよね」
「私は縦縞だから別に」
 阪神の帽子が一番じゃないかなって思っています。やっぱりファンですし。
「あの帽子って女の子にも似合うし」
「そうなの」
 これは初耳でした。新一君の勝手な解釈でしょうけれど。
「小さな女の子にもね」
「そういうことね」 
 私に目を向けてきたので成程と思いました。
「けれど。本当に小さな女の人多い場所だと思うんだけれど」
「全国から集まるのに」
「やっぱりあれかな」
 新一君はふとあることに気付いたような顔を私に見せてきました。そうして言います。
「親神様も教祖も小柄な女の子がお好きなのかな」
「そんなの聞いてないわよ」
 これも初耳です。そんなことは教典にも書かれていないことですしそもそも天理教は人の容姿は一切問題にしない宗教ですけれど。
「それはないわよ、絶対に」
「そうかな。それにしても」
「第一新一君大きいし」
 これもまずあるんじゃないかなって思います。大きい人から見れば誰だって小さく見えます。そりゃ私は小さいですけれどね。自覚しています。
「それもあるんじゃないの?」
「いや、だってさ」
 また私を見ての言葉です。
「それでも先輩を最初見た時はそりゃ」
「ええ、覚えてるわよ」
 絶対に忘れません、あの時のことは。
「何が何でもね」
「そうなんだ、そんなに」
「全く。最初から失礼だったんだから」
 勝手ながらこれから高校の時のことをお話します。卒業したのはほんの少し前だったのに凄く大昔に思えるんですけれど。今からお話しますね。



第六話   完


                 2007・10・29
 
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