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おぢばにおかえり

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41部分:第七話 学校に入ってその一


第七話 学校に入ってその一

                    学校に入って
 卒業したのはこの前ですけれど入学したのは当然ながらそれより三年前です。もう三年にもなるんだなあ、としみじみ思ったりします。
 天理高校での試験を終えて暫くして合格通知が来てそれからまた面接に行って。その間詰所と自宅を行き来していました。
「これから色々あるわよ」
 私と一緒に来てくれているお母さんが私に言いました。よくそっくりの母娘だって言われます。実は私はお母さん似なんです。お母さんもやっぱり小さいです。
「色々?」
「ええ」
 詰所の部屋の中で私に言いました。
「高校の三年と、若しかして大学の四年かしら」
「四年?あっ、そうか」
 そこは言われて気付きました。
「天理大学があるからね」
「そうよ。大学も行けたら行くのよ」
 お母さんは私にそう言います。
「勉強になるし。それに」
「それに」
「お母さんもそこでお父さんと知り合ったのよ」
 お母さんも天理教の人なんですけれどお父さんとは別の大教会の系列でしかもお父さんより一つ上で。だから高校では知り合いじゃなかったんです。同じ天理高校だったんですけれど。
「いい出会いもあるしね」
「出会い、なのね」
「人と人の出会いも親神様のお引き寄せなのよ」
 お母さんはにこりと笑って私に言いました。
「千里はそれを勉強するといいわ」
「学校のよりも?」
「そうね。それは二番目」
 うちではまずおみちのことが最初で。学校のお勉強は二番目なんです。けれど恥ずかしい成績じゃ自分で嫌なんでそっちは自分で頑張っています。
「二番目でいいから」
「そうなの。いつも通り」
「そう。だからまずは色々な人を知りなさい」
 にこりと笑って私に言いました。
「わかったわね」
「わかったわ。いよいよ明日なのね」
「制服の準備は出来た?」
「うん」
 それはもう済ませています。制服も鞄も教科書も全部準備ができています。何時でも行けるって感じです。
「入学式、晴れるといいね」
「そうね。桜と黒門を見ながらね」
 そんなことを詰所で話しました。あと一日だけお母さんと一緒にいられるけれどもう明日の夜からは違うんだ、そのことを心に刻みながらその日は寝ました。これからどうなるか物凄く不安でした。泣きたくもなりましたけれどそれを必死に堪えて。
 次の日朝御飯を食べて身支度を整えて。そうして黒門をくぐりました。お母さんと二人並んで。
「この黒門もこれからは毎日くぐるのね」
「ええ、毎日よ」
「今までは本当に年に何回かだけだったのに」
「不思議?」
「何か信じられない」
 私は黒門をくぐりながらお母さんに答えました。もう天理高校の制服を着ています。何気に好きな制服ですけれどちょっと地味かな、って感じもします。
「これから毎日見るなんて」
「嬉しい?」
「よくわからない」
 私はお母さんにそう答えました。
「何て言ったらいいか。何て言うんだろう」
「何か今の千里ってあの時のお母さんと同じね」
「お母さんと」
「ええ。お母さんもそうだったわ」
 にこりと笑って私に言ってきました。
「どうなるか。物凄く不安でね」
「そうだったの」
「誰だってそうなのよ」
 またにこりと笑って私に言うのでした。
「凄く不安で。けれどそれに何とか耐えて」
「そうしてやっていくのね」
「そうよ。これから本当に色々あると思うわ」
 お母さんは黒門の前を見ました。そのずっと前に天理高校があります。瓦の屋根で何か普通の校舎とは随分違ったお屋敷みたいな建物の。テストで行ったからそれはもう知っていました。
「それでもね。頑張るのよ」
「頑張っていけるかしら」
 やっぱりそれが不安になりました。
「私、これから」
「お友達ができるわ」
 お母さんはまずはお友達を出してきました。
「寮にいるわよね」
「うん」
 それももう決まっていました。それが一番不安なんですけれど。
「色々とお友達ができてね。やっぱりこれも最初は凄く不安なんだけれど」
「今の私がそうよ」
 お母さんにもそのことを言います。
「怖い先輩とかいないかしら」
「絶対いるわよ」
 やっぱり。そうだと思いました。
「それでも。優しい人も一杯いるから」
「だったらいいけれど」
「だから。安心していいわ」
 にこりと笑って私に告げてきました。
「そんなに酷いことにはならないかしら」
「本当!?」
 それが全然信じられませんでした。寮生活って何かととんでもないしきたりとかあるんだって聞いているのでそれが怖くて。正直今ここから逃げ出したい気持ちもあります。
「悪いけれどそれは」
「信じられないのかしら」
「ちょっと」
 それを正直に答えました。何だかんだで歩いているうちに信号を越えて。天理大学の下に近付いてきました。本当にもうすぐです。
 
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