| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epica12新暦78年:聖王教会騎士団独立~Historical Events~

 
前書き
お久しぶりです! 本日より連載を再開します!
んで、今話は前話の、シャルが意識不明になってから目覚めるまでの10日間、に何があったのかの説明回。 

 
第一世界ミッドチルダ、北部はベルカ自治領ザンクト・オルフェン。中央区アヴァロン、北区カムラン、西区カールレオン、南区ウィンザイン、東区ナウンティスからなる広大な土地だ。そのザンクト・オルフェン中央区アヴァロンには、管理世界で最も信者の多い宗教である聖王教、その本部がある。

「あぁ、今日もこんなに書類が・・・」

本部内のとある一室。そこは教皇執務室と銘打たれた、限られた人物しか入れない特別な部屋で、両側の壁には何百冊と納められた書棚がいくつも並び、天井にはベルカ魔法陣型のステンドグラス、床にはレッドカーペットが敷き詰められ、一番奥の壁は両開き窓が複数設けられている。

「これでも結構抑えられていますよ、マリアンネ聖下」

今現在、執務室には2人の女性と1人の男性が居る。1人は聖王教の教皇にしてSt.オルフェンの実質領主でもある女性、マリアンネ・ド・シャルロッテ・フライハイト。アンティーク調の執務机の置かれた書類の山を見て、ガックリと肩を落としている。

「そうは言っても、もう少し業務部のほうで処理し切れなかったの、ツィスカ?」

もう1人は教皇付きの秘書官、ツィスカ・ヴェールマン。シスターであり教会騎士団所属の騎士でもある。所属部隊は、騎士団内部の風紀を取り締まる無色花騎士隊ファルブロス・ブルーメ。かの騎士隊に所属する者は徹底的に公平にして公正であることを求めえられる。ゆえに教皇秘書官には必ず所属する者が選ばれる。

「その上での量です。今日は、4日後に控えています本局での意見陳述会に提出する書類の再確認ですので、頑張って処理してください」

「そうなのねぇ・・・。よし、やりましょうか!」

他の部署もまた多くの仕事をこなしていると知ったマリアンネは、両頬をパチンと叩いて気合を入れなおした後、黙々と書類に必要な事を書き直したり、サインを書いたりと仕事をこなしていく。それから1時間ほど経過した頃、執務室の出入り口である両開きドアがコンコンコンとノックされた。

「出ます」

ドア付近で足を肩幅に開き、両手を腰の後ろで組んで立つ休めの姿勢を取っていた男性が動き出す。ドアノブへと手を掛け、そっとドアを開けた。

「お疲れ様です、騎士パーシヴァル」

「お疲れ様です」

男性の名はパーシヴァル・フォン・シュテルンベルク。かつては教会騎士団に属する数居る槍騎士の頂点、シュペーアパラディンの称号を頂いていたが、今はフライハイト家の元女中長だったプリアムス・ゲーティアと結婚し、子供が生まれたことで称号を返上。それと同時に銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼを除隊し、教会の要人や依頼者の護衛を主任務とする桃茉莉花騎士隊ローザ・ヤスミーンへと転属していた。

「ツィスカ秘書官。業務部からのお仕事の追加です」

そう言って1人のシスターが執務室内へと通された。押しているキャスター付きワゴンの上には、山積みされたファイルが置かれている。その量を見たマリアンネは「うふふ~♪」と笑みを浮かべながら席を立ち、ワゴンの方へとすい~っと歩み寄った・・・かと思えば、「さらば!」と出入り口のドアへとダッシュ。公式の場で着る豪華絢爛な法衣は今は着ておらず、軽装ともいえるカズラのみを着用しているため動きが素早かった。

「ボイコットは許しませんよ!」

「聖下、お戻りを!」

ツィスカとパーシヴァルが立ち塞がるが、マリアンネは「とう!」と大きく跳躍。宙で前方伸身宙返り3回半ひねりを繰り出した。まさに体操選手さながらの動きだが、着地地点にはパーシヴァルがすでに移動し終えており、「いけませんよ、聖下」と落ちてきた彼女をお姫様抱っこで受け止めた。

「あらやだ」

「聖下、仕事の続行をお願いします」

「ありがとう、確かに書類を受け取りました」

「は、はい、了解です」

ツィスカはシスターの抱える書類に受け取りサインを書き、シスターが執務室を後にするのを見送った。パーシヴァルはマリアンネを抱きかかえたまま執務机と向かい始める。その時また、ドアがノックされた。彼は「失礼します」と一言断ってから彼女を降ろし、ドアへと戻ってそっと開けると、「閣下!」とビシッと佇まいを直し、ツィスカも新たな訪問者の姿を見て同様に佇まいを直した。

「聖下、あの件について再考をと思いまして、こうして押しかけてしまいました」

「はぁ・・・。その話は先の議会で否決された事を思い出してもらいたいわ、リナルド」

やって来たのは教会騎士団の統括、リナルド・トラバント騎士団長。ザンクト・オルフェンを統治するフライハイト家に連なる六家の一角、トラバント家の現当主。マリアンネが目に見えて不機嫌になった様子に、「あの・・・」パーシヴァルやツィスカが戸惑い始める。

「席を外しましょうか?」

「ああ、そうしてくれたま――」

「いいえ。元とはいえ、パラディンだったあなたにも関係があるから、このまま聴いていてちょうだい」

マリアンネは室内から出て行こうとしていたパーシヴァル達を引き止め、執務机の縁に尻を乗せるように楽な姿勢を取った。

「リナルド、あなたの言いたいことはまぁ・・・理解できないこともないわ。でもね、ザンクト・オルフェンや聖王教会騎士団を管理局法から脱退させる、なんて無理な話を通せるとでも?」

マリアンネの話にパーシヴァルはバッとリナルドへと体を向け、「本気ですか!?」と驚きや戸惑い、僅かなりの怒りを含んだ声でそう問うた。ツィスカも「そんな事になったら、孤立してしまいます・・・!」と声を震わせる。

「お前たちも今の管理局の不祥事の数々を知らないわけではないだろう? プライソン戦役など氷山の一角だ。それなのに本当にこのままあの連中にミッドチルダの安寧を任せていいのか? 少しはマシになったとはいえ、未だに派閥や縄張り争いの止まない。しかし我われ騎士ならば、かのような不祥事は起こさんし、内部争いもない。聖王陛下の御魂の下、公正公平を成すのが当然だからだ」

「内部争いは今まさにここでやっちゃっているけれど・・・。とにかくリナルドはそう考え、先の提案を議会に提出したの。もちろん私や他の当主たちはこれを却下したのだけど・・・。まだ諦められないと?」

「当然。そのために長い間ずっと準備を進めてきたのだ。ここで拒まれてはすべてが水泡に帰す。もう一度再考を、マリアンネ聖下」

リナルドとマリアンネが鋭い目つきで互いを睨み合う。十数秒と沈黙が流れた後、マリアンネは口を開いた。ただ一言、「却下」と。次いで「2人は同じ答えで良いかしら?」とパーシヴァル達に尋ねた。

「「はい」」

「というわけで、あなたの思惑はこれにて終了。さ、私たちはまだ仕事があるから退室をお願いね」

マリアンネがリナルドへと手を振った直後・・・

――トランスファーゲート――

彼女の背後の空間が揺らぎ、そこより1人の人間が出現した。黒いセーラー服に三日月模様の仮面を着けた女性だ。手にしているのは一振りの片刃剣。すでに剣を振り上げていて攻撃態勢だ。完璧な奇襲。立ち位置的にパーシヴァル達がいち早くそれに気付きはしたものの、それをマリアンネに伝えるには時間が圧倒的に足りない。仮面持ちの刃が振り下ろされる。刃面がマリアンネの右肩に打ち込まれるかという瞬間・・・

「こんな迷いだらけの剣など、見る間でもなく感じ取れる・・・!」

半歩分左に移動することで斬撃を躱し、仮面持ちが次の行動に移る前に上段後ろ回し蹴りを繰り出した。出現してからの奇襲斬撃。それを回避されたその直後では未だに仮面持ちは中空だ。その蹴りを回避することは出来なかったが、「くぅ・・・!」両腕を交差させての防御には成功した。仮面持ちは蹴り飛ばされながらも宙で体勢を立て直し、書棚のちょうど木枠に一旦着地し、そして床に降り立った。

「貴様! 指名手配を受けている仮面持ちだな! なぜ聖下を狙った!?」

パーシヴァルが自身の槍型アームドデバイス ・“ロンゴミアント”を起動させて構えを取り、いつでも突進できるように腰を僅かに落とした。そんな彼に「待ちなさい」とマリアンネが制止した。

「リナルド、あなたがまさか仮面持ちと繋がっているとはね」

マリアンネが襲撃されたにも拘らずリナルドは黙って佇んでいるだけ。仮面持ちとは仲間であると考えた方が自然である。口を噤んでいる彼から仮面持ちへと目を向けたマリアンネは「本当に馬鹿な子ね、プラダマンテ」とそうポツリと漏らした。

「「は・・・?」」

呆気に取られているパーシヴァルとツィスカの目の前で仮面持ちは仮面を外し捨て、目出し帽も脱ぎ捨てた。尻ほどまでに伸びた緋色の長髪と紫紺色の瞳。それはまさしくパーシヴァルの元上官でもあった「シスター・プラダマンテ・・・!」だった。

「なんで・・・! なんでですか!」

「パーシヴァル。リナルドを拘束しなさい。プラダマンテはこの私が――」

≪Anfang≫

「仕留める」

マリアンネの両手首にはめられていたブレスレットが太刀と小太刀の二刀となり、彼女の両手に握られた。太刀の銘は“キルシュヴァッサー”、小太刀の銘は“キルシュガイスト”。共に深紅の刀身を有している。

「さぁ、久しぶりの実戦よ・・・!」

先代シュベーアトパラディン・マリアンネと当代シュベーアトパラディン・プラダマンテ、騎士団長リナルドと元シュペーアパラディン・パーシヴァルの2組が対峙する。

「プラダマンテ。片付けるのは面倒だ、室内を荒らすことなく聖下を撃破しろ」

「・・・了解です、兄様」

「パーシヴァル。多少の被害は目を瞑るので、反逆者リナルドを撃破しなさい」

「ヤー!」

「ツィスカは逃げなさい。でも誰かに助けを求めないように。敵味方が判らない以上、増援は望まないわ」

「・・・! 了解です! 御武運を!」

ツィスカがリナルドとプラダマンテの間を無事に通り過ぎ、執務室より駆け出していった直後・・・

――閃駆――

マリアンネが仕掛けた。小太刀を逆手持ちしたうえで高速移動歩法を使い、一瞬でプラダマンテの懐に入り込んだ。そして「風牙烈風刃!」と小太刀を振るって放った風圧の壁を、プラダマンテへとゼロ距離で打ち込んだ。

「くぅぅ・・・!」

踏ん張りきれずに吹き飛ばされたプラダマンテが体勢を立て直すより先に、マリアンネはさらに閃駆を使い、彼女の直上へと移動した。

「迷いに溢れたへなへな剣で、しかもスキルを使わずに私を討とうなどとは笑わせる」

――双牙雷氷刃――

小太刀に電撃を、太刀に冷気を纏わせたマリアンネが小太刀から先に振るった。初撃をプラダマンテの右肩に打ち込むと、「があああ!?」と感電したことで彼女が悲鳴を上げた。間髪入れずに左肩へ太刀を打ち込むと彼女は「っ・・・!」強力すぎる冷気を浴びて、吹っ飛ばされた姿勢のまま氷漬けにされた。

「しばらく頭を冷やして反省なさい」

「くふふ・・・。俺も衰えたものだな・・・。まさか一撃で負けるとは」

そしてリナルドとパーシヴァルの闘いの勝敗は、静かに決していた。槍のパラディンではなくなったとしても、実力で言えば未だに教会最強の槍騎士であるパーシヴァル。鍛えてはいようとも実戦から離れて久しいリナルドに勝ち目は無かった。

「勝負あり、よ。大人しく投降なさい」

「くはは。確かに負けはした。が、所詮は本番前の遊びに過ぎん」

マリアンネの太刀とパーシヴァルの“ロンゴミアント”を突き付けられても余裕に満ちたリナルド。マリアンネは不審に思い、周囲をチラッと見る。そうして彼女の視界に入ったのは、貴族のような衣服を身に纏った二足歩行している猫。

――幻惑の乱景――

「か、か・・・可愛――」

マリアンネがそう言い掛けたが、パーシヴァル共々直立不動となった。リナルドが「良いタイミングだったぞ、エルフテ」と猫型融合騎であるエルフテを称えた。

「この私の幻惑劇に教皇聖下と元パラディンをお迎え出来るなど光栄の至りです、団長」

エルフテは幻術特化の融合騎である。特に催眠魔法はかなり強力で、ほぼ防御不可である。シルクハットを脱いで一礼するエルフテが、「しかしこれは・・・」と氷漬けにされているプラダマンテを見て慄く。

「マリアンネの魔法はどれも強力だからな。直撃を食らえばいくら我が妹でもこうなる」

横目で同志であり妹でもあるプラダマンテを見つつ、『ガリホディン、トルーデ。ゼヒツェーンテと共に執務室へ来てくれ』と念話を繋げる。

――トランスファーゲート――

「ガリホディン参上しました」

するとすぐにリナルドの側の空間が歪み、そこから男1人と女2人が現れた。男の名はガリホディン・ダムマイアー。外見年齢はおおよそ40歳前後。短く刈り上げられた青い髪とギラリと輝く青い瞳はまだしも、筋骨隆々とした体つきに神父服が似合ってはいない。そんな彼は拳闘騎士の現フォアストパラディンでもある。かつては幼少のアルテルミナスに敗れパラディンの称号を奪われたが、彼女が本格的に特務零課へ参加する事になって称号を返上。不本意ながらも再びパラディンとなった経緯を持つ。

「トルーデ・ロホルト参りました」

女の1人は修道服を着たシスター・トルーデ。外見年齢は25歳ほど。綺麗な金色の後ろ髪はリボンで二房に分けられ、ドリルのような巻き髪にされている。優しい目付きの瞳は青色。そんな彼女こそが、仮面持ちを至る所へと転送させていたスキルの持ち主だ。

「ワタシが呼ばれたってことは~、炎熱魔法が必要なんだね」

ガリホディンの肩には30cmほどの小さな少女が腰かけていた。炎の如き紅の髪はショートヘア。瞳は紫色。耳はエルフのように長い。どこか八神家の融合騎、アギトに似ている。服装はトルーデと同じ修道服。少女の名前はゼヒツェーンテ。意味は16。そう、かつてはイリュリア製融合騎の6番、烈火の剣精ゼクスと呼ばれていたアギトの改良型だ。

「ああ。我が愚妹を捕らえているこの氷塊を解除してほしい」

「閣下。それならば融合騎の力だと使わずとも自分ひとりで可能かと」

ガリホディンは炎熱の変換資質を有しており、その火力にも自信はあったのだが、リナルドは彼だけでは足りないと判断した。それがガリホディンのプライドを僅かに傷つけた。

「お前の炎熱資質は信頼しているが、なにぶん相手が悪い。マリアンネの氷結魔法は生半可なものじゃないからな」

「あぁ、聖下の・・・でしたか。了解です。ゼヒツェーンテ」

「ヤヴォール」

「「ユニゾン・イン」」

ガリホディンとゼヒツェーンテが融合を果たすと、彼の髪は薄らと輝く真紅色へと変わり、瞳の色も燃えるような赤色だ。彼は右手の平に橙色に輝く小さなベルカ魔法陣を展開。その状態で氷塊へと近付き、「熱衝打・・・!」と掌底を打ち込んだ。するとジュウジュウと勢いよく融け始めた。

「マリアンネの無力化で準備は整った。さて、あとは・・・」

――そして、この4日後。

時空管理局本局で開催された公開意見陳述会。本局や支局、各地上本部の幹部がモニター越しだが一堂に会して様々な議題を話し合う大会議だ。数年に一度に開催され、その模様は管理世界に放映される。今回の陳述会も例に漏れず、淡々と会議映像が管理世界の一チャンネルに放映された。そして終盤。聖王教会代表のマリアンネ教皇とリナルド騎士団長が、こう提案した事で議会が揺れた。

――ザンクト・オルフェンと聖王教会騎士団を管理局法から脱退させる――

参加している幹部どころかテレビ視聴の一般人、局員、さらには騎士団員までもが聞き間違いではないかと自身の耳を、頭を疑った。幹部たちから上がるマリアンネとリナルドへの叱責。しかしそれでも構わず2人は、その理由を語った。
それはリナルドの主張と同じで、管理局への不信から、というもの。不祥事ばかり起こし、大規模な組織特有のしがらみなどで不安定が目立つ、と。しかし教会騎士団は一枚岩で、その不安定はないと。すぐには承認することも出来ず、休憩を挟むことになった会議。それは2時間と掛かり、結論が出た。

――ベルカ自治領ザンクト・オルフェンの要求を受け入れることを決定とし、教会騎士団は独自に戦力を整え管理世界の安寧に全力を尽くす事。しかし管理局法からの脱退により、管理局からの支援は一切受けられないことを覚悟する事――

それは、新暦となってからの78年、これまで共に戦ってきた管理局と聖王教会騎士団の決別を意味していた。

†††Sideルシリオン†††

ティファから、シャルが目を覚ました、という連絡を受けた俺は医務室へと向かっていた。当初はみんなで見舞いに行こうと言っていたはずなんだが・・・

――いや~、やっぱり大勢で押しかけるのは・・・ね――

――ここはやっぱり副隊長が代表として行くべきと思うよ?――

――お腹空いた――

――え?・・・あ! そ、そうですね! ルシル副隊長、シャル隊長のお見舞い、お願いします!――

ルミナ、セレス、クラリス(は平常運転だが)、ミヤビがそう言って俺ひとりだけを送り出した。アイリも、マイスターが行ってあげればいいと思うんだけどね、と言って残った。はやてを応援し、シャルを応援し、トリシュを応援し、自分も頑張る恋する乙女だ。ホント彼女たちを幸せに出来ない俺はクズ過ぎるよな。

「・・・というか、母様は何やってるの!? 母様がこんな無謀な事を許すとは思えない!」

医務室の前にたどり着いたところで室内からシャルの怒声が漏れ聞こえてきた。と同時にドアがスライドして開く。するとシャルとティファの2人の視線が俺へと向いた。

「ルシル・・・!」

敵の銃撃の集中砲火を受けてことで髪が短くなったシャルが、さっきまでの怒気を抑えて俺の名前を呼んで、後ろ髪を気にするかのようにイジりながらもじもじとした。彼女は後ろ髪を本当に大切にしていたからな。だから「その長さでも十分可愛いぞ」とフォローしておく。お世辞でもなんでもなく、髪の短いシャルでもとても魅力的な女性だと思うから。

「・・・! う、うぅ・・・うぅ~~」

シャルの顔が一気に真っ赤になり、体育座りのまま布団を頭から被った。珍しい。いつもならすごい喜んでくれるはずなんだが。ティファと顔を見合わせて小首を傾げていると、シャルが「ホントに? 髪、変じゃない?」と聞いてきた。

「ああ、変じゃないよ。似合ってる」

「私もそう思うよ、イリス」

「・・・ありがとう。そう言ってもらえてすっごく嬉しい」

布団から顔を出したシャルは照れくさそうにはにかんでいた。しかしすぐに「ティファ。制服ちょうだい」とベッドから降りようとして、両足を床に着けた途端シャルは「いっつ・・・!」と苦痛に顔を歪めた。

「無茶はよせ、シャル。俺とティファで君の負った傷は治したが、受けたダメージまでは完全には治せていない。あと2~3日は安静だぞ」

「ルシル副隊長の言うとおり」

ティファがわたしをお姫様抱っこすると「もうこれで最後ですから、それまでは安静にしていてちょうだい」ってベッドに横たえさせて布団を被した。

「でも母様と話をしないと・・・。それに・・・それに・・・。ねえ、最後ってなに?」

シャルが目を丸くして聞いてきて、俺とティファはもう一度顔を見合わせてどう答えようか迷った。が、誤魔化しても騙してもすぐにはバレる話だ。ティファと頷き合い、教会騎士団の独立による余波が、俺たち特務零課にまで及んでいることを伝えることに。

「聖王教会本部より、管理局に勤める騎士に通達があったの。現在教会騎士団に所属している者、かつて所属していた者は、指定日までに管理局を休職し、騎士団に復帰するように、と」

「は?・・・はあ!? それってわたしやルミナ、セレス、クラリス、それにティファもそうじゃん! ちょっ、ちょっと待って! 特騎隊の前線ほぼ全滅じゃん!」

「そうだ。・・・脅威対策室・特務零課課長、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト二等陸佐。上からの指令を伝える。本件の報告書を提出後に特務零課は無期限の活動停止とする。指定された騎士は速やかに休職届けを提出し、教会騎士団に出頭せよ」

そう伝えるとシャルは「うそでしょ・・・」って文字通り頭を抱えた。無期限って聞こえはいいが、教会騎士団の独立が発端でシャルたち騎士が召還されるということは、再び管理局法に入らない以上永久に局に戻ってこられない、かもしれないという話になる。

「わたしって27歳までしか局に勤められないのに・・・。これじゃルシルとまた離れ離れになっちゃうじゃない・・・。せっかく一緒の部隊で最後まで居ようって思ってたのに・・・」

俺と一緒に居られないという理由で本気でヘコむシャルだが、俺は小さく息を吐いて彼女の前にモニターを1枚と展開させた。

「なに・・・?」

「総務部から辞令が下りた。ルシリオン・セインテスト一等空尉およびアイリ・セインテスト空曹長を休職扱いとし、聖王教会騎士団へと派遣する、だそうだ」

「マジで?」

「マジで」

「やったぁぁぁーーーーー!!」

さっきまでの泣きそうな顔から一転、満面の笑顔で大喜びするシャル。正直、俺は局でも騎士団でもどこでもいいと考えている。俺の残り時間は多く見積もっても5~6年だ。ガーデンベルグの居場所を唯一知るリアンシェルトと闘う条件は、あの子とガーデンベルグを除く“堕天使エグリゴリ”を救う事。

(そしてリアンシェルトに勝ちさえすれば、ガーデンベルグとの最期の闘いへ赴ける)

なら最後はどこに所属していても関係ない。仮面持ちと関わりさえすればな。ただ、これだけは言っておかないと。

「シャル」

「なぁ~にぃ~♪」

「俺を騎士団へ派遣する事を決めたのは、リアンシェルトだ。この意味が解るな?」

シャルの蕩けきった表情が真面目なキリッとしたものへと変わり、「エグリゴリとして何か企んでるってこと?」と聞き返してきた。

「管理局が騎士団の独立を認めたことにも何か裏がありそうなんだ」

「なるほど。これはいよいよ母様を問い詰めないとダメっぽいね」

「ああ。俺たちで今回の騒動を調べるぞ、シャル」

「~~~~っ! よぉ~っし! やってやるぜい!」

こうして特務零課、特別機動戦闘騎隊は一時活動停止となった。
 
 

 
後書き
1ヶ月以上も空けてしまってすいませんでした。
やはり当初の予定なんて当てにならないレベルで改変したので、結構かかりました。
その結果、2年で完結を予定していた本エピソードですが、1年で終わりそうです。
ベルカ編と同じ、ほぼ戦闘回がメインとなるので、サクッと終わってしまうかと思います。
まぁそれでもVivid編はやりませんが。
あ、すでにご存知かと思いますが、スキュラ姉妹の内、デルタ、イプシロン、ゼータのイラストを投稿しました。次は残りのアルファ、ベータ、ガンマの3人となります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧