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ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃

作者:紅夜空
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第三部 古都にけぶる月の姫
  魔性の月姫


「………私?」

突然の指名に私自身は全く意味が分からなかった。
私が?目の前の九尾と同等クラスの……妖気を放っている女性の、血族?
それって……考えられると、すれば。

「ええ、そうよ。『月宮楓』の忘れ形見……『月宮四織』。私がほしいのは、あなた」

「……なるほど。つまりはあなたの子孫の誰かから生まれたのが文姫、というわけか」

「そういうことね。面白味も何もなくて申し訳ないけれど。子孫が京都に悪をなすのはさすがにねえ、しつけが必要でしょう?」

退屈そうに扇で口元を隠す輝夜。
……なるほど。京都に来てからけしかけられた百鬼夜行とかは、私のご先祖様の差し金だったらしい。もともと、無抵抗でついていくなんて最初から思っていないのだろう。
―――だったら、これは私の事情だ。曹操たちの実験に支障を出す前に、私自身がけりをつけるべきだろう。

「………曹操。この人が望んでいるのは、私みたい。だから、行ってくるよ。実験の方を、優先して」

「文姫!」

「大丈夫。大丈夫だから」

曹操の声を振り切るように、一歩前に出る。

「――話はまとまった?それじゃあ、始めましょうか?」

ふわりと。空気を踏みしめるように、輝夜は前に進む。
同時に私の足元に、見慣れない魔法陣が刻まれる。

「さあ、『再教育』を始めましょうか。私の不肖の子孫」

一瞬の暗転。
視界に映る風景が変わる。だけど赤龍帝たちの気配は感じられる……少し離れたところに転移?
そう思った刹那、背筋がぞくっとして慌てて飛び退る。
間髪入れずに先ほどまで私が立っていた場所に、天から極太の光が降り注いでくる。
ゴッ!という音と共に疑似空間の地面が消失(・・)した。

「っ!あらかじめ、術式を…?」

次々と降ってくる光の柱は間違いなく先ほどのデュランダルレベル。
土砂降りの雨のように降り注ぐ中でも、輝夜は全く、何一つ、挙動を見せることがない。
―――これは、魔法?もしかして、魔力…?

「余所見をするなんて随分余裕ね?」

ヒヤリ、と肌に粟を生じさせるような声が背後から聞こえた。
思わずそちらの方向に顔を向ける。その瞬間、ヒュパッ!と頬が避け血が飛び散った。

「あら、残念。耳くらいは飛ばしてあげるつもりだったのに」

いつの間にか背後に移動していた輝夜が、開いた扇を手に酷薄に笑う。
咄嗟に避けていなければ宣言通りに耳が飛ばされていただろう。

「はっ!!」

これ以上好きにさせると危険だ。そう直感した私は抜き打ちに斬りつける。
蒼いオーラを纏った刀身は輝夜の展開した防御術式を次々と斬り破る。
届いた!と思ったのもつかの間。輝夜が扇を一振りすると、風が刀身に絡み付き動きを止められる。

「…なるほど。忌々しい、世界そのものに対する呪い。確かにそれなら、私の魔力ですら呪い殺すことが可能でしょうね」

ピクリとも動かない刀身に絡み付く風。そこに魔力を感じる。
だが…その魔力は、悪魔が使う物とは何かが違う(・・・・・)。はっきりとは言えないが、そう感じた。
その魔力が輝夜の周囲に渦を巻くように満ちている…否、輝夜そのものが魔力の衣をまとっているようにすら見える。

「……その、魔力…」

「あら?これが見えるのね。流石は私の子孫、と言ったところかしら」

妖艶に笑った輝夜の周囲で、粒子状になったそれがキラキラと輝き、揺らめく。
今まで見たどんなものよりも異質で、しかし妖しいほどの魅力を放つそれを輝夜は、束ねて結晶と成す。

「月の力。月という星からの光より生まれし、妖の力。常夜に降り注ぐその力を、知覚し操れるのは私と、その血を受けた者のみ」

……気が付けば分かる。同質の魔力が大気のそこらじゅうに満ちていることが。それがいきなり変容し、魔法と同じ効果を発揮することが。
つまりこれは。悪魔の魔力と同じように、術式という過程を経ずに現実を歪める在り方。
だというのに。彼女は挙動も、仕草すらも使わずに、それをやってのける。
小さな仕草から次の行動を予測する私とは、めっぽう相性が悪い。

「当然でしょう?私は“月の落とし子”の最高傑作。宙に存在する魔性の象徴にして、その集合体。私にとって魔法を操ることは、それこそ息をするのと同義」

粒子がばらまかれ、爆風となって私の視界を阻む。
私の立つ地面すら爆破され、投げ出された私の体に、圧縮された空気の塊が目の前で弾ける。

「くっ!」

咄嗟に刃を振るってそれを弾く。やはり魔力を帯びたモノである以上、打ち消すことは可能だが…全てを消すことはできず、体に傷が増えていく。
じわじわと嬲られ、追い詰められていく感覚…分かっている、彼女にとっては完全にこれは「遊び」または「処刑」なのだ。
私程度を殺すのに本気になる必要などないほどの、圧倒的実力差。

「ああああっ!!」

左足が魔力の矢で撃ち抜かれた。神経に直接灼熱の棒を突っ込まれたような痛みが弾ける。
天を見上げれば、宙に浮いた輝夜の周囲に何千と展開された魔力の矢。次の瞬間には倍の数に、さらに倍に際限なく増えていく。
それが一斉に輝き、綺羅星のように落ちてくる。ちまちまと狙って落とすのではなく、この周辺一帯を更地にしてしまうような絨毯爆撃。
刀を振るって切り抜けても焼け石に水。無数の綺羅星の一つを刻んだところで、残りに撃たれるのが道理だ。
背中、腕、足、頭。ギリギリで避けてはいるもののあちこちに紅が散華する。

「まだあがくの?もういい加減、楽になればいいのに」

身体から力が抜ける。意識の糸が途切れ…かけたところで矢が右腕を打ち抜き、痛みで意識が覚醒する。
痛みで意識が遠のきそうだ。とっくに自分の体は限界を超えてしまっているらしい。もう楽になりたいと、これ以上は耐えられないと訴えてくるのが聞こえる様だ。
でも……

「……まだ、まだ」

ここで倒れるわけにはいかない。
だって、私が此処で倒れたら……輝夜は絶対に、曹操の実験を邪魔しに動くだろう。
私の力不足で、曹操に迷惑をかけるわけにはいかない。そんなことは、したくない。
だから、倒れるわけにはいかない。
今にも崩れ落ちそうになる体を、刀を支えにすることで何とか保つ。
―――でも、ごめん、曹操。もう、戻れそうにはないや
心の中で、小さく詫びる。

「無駄なあがきね」

再度、輝夜の周囲に無数の光の矢が出現する。
それを見ながら、私は静かに目を閉じる。
最後に、あの温かさが、私を包み込んだ気がした。



◆◇◆◇
「……………」

宙に浮いていた輝夜が、ゆらりと地上へと舞い降りる。
先ほど、この地を覆う結界を何かが通り抜けた。おそらくは、援軍に来ると言っていた初代孫悟空と五大龍王の玉龍だろう。
彼らが来たのならばあちらのテロリストたちも思惑をくじかれたことだろう。ならば万事解決というものだ。
派手に吹き飛んだ周囲の風景を無感動に眺め、扇で口元を隠して一点を見据える。
その中心には、ぐったりと倒れた四織の姿があった。意識はもうないのだろう、それでも刀をがっちりと握っている。
ピクリとも動かないその姿を中心に広がるクレーター。それを見ればどれだけ過剰な威力だったかを推し量るのは容易だろう。
だが……この少女はまだ「生きている」。微かではあるが、呼吸はまだ絶えていない。
それがおかしい。なぜ生きている?
明らかに過剰なほどの威力と数で撃ち放ったはずだ。防ぐ手段などなかった。それは撃った本人である輝夜が断言できる。

「……やはり、『あれ』ね。何と忌々しい…」

輝夜の眉間に青筋が立つ。あの刹那、確かに輝夜は見た
広がった漆黒(・・)のオーラが、四織を打ち抜かんとした矢「だけ」を飲み込み、そのまま消えたことを。
あれは危険だ。あれは世界そのものへの呪い。もっとも原初にして凶悪な、世界全てを否定する呪い。
そんな力をテロリストに預けるわけにはいかない。否、誰にも使わせるわけにはいかない。
輝夜の頭上に浮かんだ魔力の矢が、ぴたりと四織の心臓を狙う。その刹那。

「……あら?」

魔力の矢が、瞬時に向きを変え上空へと射出される。飛んできた聖なる波動と衝突し、爆発を起こして対消滅する。
一体誰が、と目を向けかけたところで、殺気を感じる。
見れば、四織の傍に一人の男が立っている。片方の目が潰れ、血を流している。四織を抱き起して、傷の状態を見ているらしい。
なるほど、例の聖槍使いかと納得したと同時に、地の底から響くような声が聞こえてくる。

「……輝夜姫と言ったか。四織に、何をした?」

手負いであるというのに、それを全く感じさせないプレッシャーを放つ聖槍使いの青年に、輝夜は首を傾げる。

「悪いことをした子孫にお灸をすえただけなのだけれど?」

「残念ながら、彼女は貴方の子孫である以前に俺の所有物(モノ)だ」

音高く舌打ちをした聖槍使いが、四織の体をそっと横たえる。壊れ物でも扱うかのように、慎重に。

「……殺す」

紡がれた低い声と、その表情には、明確な殺意と、怒りがあった。
 
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