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ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃

作者:紅夜空
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第三部 古都にけぶる月の姫
  また二人で


―――目が覚めると、京都の拠点にしていた建物の天井が視界に映った。
窓の外が少し明るくなっているので、おそらくは夜明けごろだろうか?
私はあわてて起き上がろうとして…全身を苛む激痛に思わず呻いた。
だが不思議と、目に見えるほどの傷はそう多く残ってはいない。誰かが治療してくれたのだろうか…?

「―――あ、文姫様!目を覚ましたんですね!」

起き上がって傷の状態を見ていると、ドアの開く音がして明るい女性の声が響く。
小柄な体、雪の様な銀色の髪、そして草原の色をした瞳。

「……ブリギッド?」

「あ、はい!」

以前、私が曹操に頼まれて戦闘技術諸々を教えていたうちの一人、ブリギッドがそこにいた。曹操によると、アイルランドの守護聖人・キルデアのブリギッドの子孫だとか。本当かどうかはわからないが、神器を持っているため曹操が連れてきた一人ではある。

「…曹操は?というか、なんで本部待機だったブリギッドが此処に…?」

「リーダーに呼ばれたんです。リーダーは今、ちょっと外してますけど…」

「そっか……ゲオルク達は?」

「―――それについては、俺から説明しよう」

上半身を起こしたところで、いつもの声が聞こえてきた。少し不機嫌に聞こえるのは、気のせいかな?
姿を見せた曹操に恐縮して一礼するブリギッドを見ながら、曹操に視線を向ける。
……片目に、眼帯が付いている。戦闘で失ったのだろうか。
そっと手を伸ばすと、ぎょっとしたように身を引く曹操。

「……眼、どうしたの?」

「あ、ああ、赤龍帝にやられてね。だが大丈夫だ、代わりの眼は移植した」

「…まともな眼じゃないよね?」

ちりちりとした感覚を感じて質問してみれば、曹操がため息をついた。
やっぱり、まともなものじゃなかったようだ。というか…

「それに、怪我してるよね?―――足と、背中」

「……全く、感覚が良すぎるというのも考え物だな」

大きく嘆息した曹操が、私の傍に座る。
伸びてきた手が、いつものように私の髪を挟んで梳いている。そこだけはいつものままだ。
だけど。これくらいで誤魔化される気はない。
じっと見つめていると、観念したように渋々と口を開いた。

「…移植したのはメデューサの眼だ。ペルセウス経由で手に入れてな」

「………ペルセウスが?」

曹操の口から出てきたのは、この作戦が始まる前に袂を分かち脱退した元メンバーの名前。
どうやら、その彼が最後の土産として曹操に代わりの眼を用意したというのが真相らしい。

「…それで、その怪我は?」

「君を庇った際に負傷した。心配するな、そこまで深刻な怪我じゃない」

「……ごめん」

「気にするな。輝夜姫に君を渡すわけにはいかなかったからな」

どうやら、私が無様に負けて気絶した後は輝夜から曹操が守ってくれていたらしい。
申し訳ないやら、自分が情けないやらで思わず顔を伏せてしまうが…そう言えば、まだ大切なことを聞いていない。

「実験はどうだったの?」

「失敗だ。寸前で初代孫悟空に邪魔されてね」

淡々と言っているあたり、実験の結果に未練はないようだ。
と、ここで静かに控えていたブリギッドが口を開く。

「ですがリーダー。ゲオルク様たちは、その…」

「ああ、そうだな。文姫……ゲオルク達は、ここで手を切らせてもらうと言ってきた」

「………え?」

どうして、そんなことに?

「…俺が、君にばかりかまけているのが気に入らなかったようだな。君のせいというわけではないから安心しろ。場合によっては一時的に敵対はするかもしれないが、叶うのならば呼び戻そうと思っている」

そう言った曹操は少しだけ寂しそうに眼を閉じ、私の髪を梳く。
気持ちいいから甘えていたいところだけど、まだ疑問はある。

「残ったメンバーは?」

「構成員の半分と、コンラ、マルシリオ、ブリギッドと言ったところか。ジークとジャンヌとは相互に連絡を取り合っているが、レオナルドはゲオルクが連れて行ってしまったしな」

「そっか……」

「ああそれと、君の護衛兼世話役にブリギッドを任命することにした。構わないな?」

なるほど、ブリギッドが起きた時にいたのはそう言う訳か。
でも別に、私にお世話役なんていらないのになぁ…曹操って時々、過保護だと感じる。

「文姫様、必要なときには声をかけてくださいね!誠心誠意、努めますから!」

「ん、よろしくね」

ブリギッドに対して微笑みかけると、曹操が髪を手放し立ちあがる。

「とりあえずブリギッド。彼女はもう少し寝かせておいてくれ。勝手に抜け出そうとするかもしれないが二時間は安静にするよう見張っていろ。こちらの作業が終わり次第、ここは退きはらって本部に戻ることにするからそのつもりで」

「わ、分かりましたリーダー!」

私が勝手に抜け出すことは織り込み済みだったようだ。本当に、曹操はよく分かってるよね。
とりあえずは大人しくしておくかと、私はベッドにもぐりこむ。
……最後に、赤龍帝の顔でも拝んでみるかな?



◆◇◆◇
お昼頃。
人でがやがやと賑わっている新幹線のホームに、私は変装用のあの制服一式を着てもぐりこんでいた。
赤龍帝の乗る新幹線は……あれかな?
と、ここでポケットの中に入れている携帯電話が専用メロディを奏でる。
ポケットから取り出して通話ボタンを押すと、地を這うような声が聞こえてくる。

『…………文姫。今どこに居る』 

「ん、今は京都駅にいる」

『なんだと!?京都駅にはまだ赤龍帝達が居るから早く帰ってこい!!』

「あ、赤龍帝だ。曹操、後で掛け直すよ」

『おい文姫!まだ話はブツンッ……』

通話を切って歩き出す。後々何か言われるだろうけど、まあ今はいいや。
ちょうどよく赤龍帝は新幹線に乗車するところみたいだ。堕天使総督や、私達が捕らえていた九尾とそのお姫様も見える。現レヴィアタンもいる。

「―――やっほ、赤龍帝」

カツカツと歩み寄ってそう声をかけてやれば、周りにいたメンバーも含めてぎょっとした表情になる。直接の面識のない堕天使総督とレヴィアタンはただの警戒態勢で済んでいるようだが。

「あ、あんた英雄派の…!」

赤龍帝のその言葉に全員が身構える。
そんなに殺気立つようなこと…はしたけど。ま、嫌われ役は慣れっこだし。

「戦いに来たわけじゃないよ。別にやってもいいけど…誰にも見られずにやるのは、難しいんじゃない?」

ただでさえ人の多い駅のホーム、そして何より、赤龍帝たちの乗る新幹線までもう時間がない。
そんな状態でこちらを討ちに来るほど無謀ではないだろう。そう判断してこのギリギリの時間まで待ったわけだが…賭けには勝ったようだ。赤龍帝たちが構えを解く。

「…じゃあ、何をしに来たんだよ?」

「赤龍帝の顔を最後にもう一度見たくなった。それだけ」

なんとなく、会いたくなった。
言葉にしてしまえば、ただそれだけのことだ。
曹操があれほどまでに夢中になっている姿は、初めて見たから。一体どんなものだろうって、興味がわいた。

「じゃあ、バイバイ。次に会うのがいつか、保証はできないけど」

「あ、おい!」

目的は果たした。そう判断して背を向けた私に、赤龍帝の声がかかる。

「何?」

「あんたは、なんであいつに協力してるんだ?あいつに洗脳されてたり、ただ利用されているだけじゃ、ないみたいだけどな…」

あいつ、とは間違いなく曹操の事だろう。
曹操に協力する理由、か。そんなの決まっている。

「彼に、私は命も含めた全てを救ってもらった。だから、彼の力になりたい。それだけ」

生命の借りは、生命で返すしかない。
ならば、私の全てを捧げるなんて当たり前のことだ。
彼の傍にいたい。そのために必要なら、全てを捧げよう。
それができないのならせめて彼のために動く、それだけの『道具』であろう。
思いなどなくても構わない。対価など望まない。
――だって、もう、私は十分すぎるほどに、貰っている(救われている)のだから。
赤龍帝の声に振り返らず、ひらりと手を振ってホームを後にする。
ポケットから携帯を取り出し、少しの間操作する。

『…どうした?』

「今からそっちに帰るね。心配かけてゴメン」

『………ああ。君が戻ったらすぐに本部へ帰還するぞ』

「ん。ね、曹操」

『なんだ?』

「また、二人で頑張ろうね?」

『当たり前だ。そのためにも、早く帰ってきてくれないと困るが』

「分かってる。それじゃ、またあとでね」

通話を切って、携帯をしまう。さて、それじゃ戻ろうかな。
一つ伸びをして歩き出した私の髪が、穏やかな風に静かに揺れた。
 
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