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ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃

作者:紅夜空
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第三部 古都にけぶる月の姫
  月の姫、降臨


『文姫、状況を報告してくれ』

京都を模した巨大な疑似フィールド。その中で、私は曹操からの電話を受けていた。
実験が行われている二条城には私は入れない。少なくとも、実験が正常に開始して円滑に動き出すまでは待機を命じられている。
そこで、どうせ外にいるのならと転送されてきた赤龍帝たちの動向を観察し曹操に報告する役目を請け負ったのだ。リアルタイムの情報共有は大事。
ということで、今私は京都駅地下鉄ホームに潜伏して、赤龍帝と構成員の戦いを見ていた。
天井に細工し、こっそりとその裏側から見ているため、そうそう気がつかれないだろう。気配は消しているし。

「今、京都駅地下ホーム。赤龍帝は『闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)』…コンラと戦闘中。……遠からず撃破されそうだね。九尾のお姫様も一緒」

コンラの禁手(バランス・ブレイカー)闇夜の獣皮(ナイト・リフレクション・デス・クロス)』は直接攻撃を無効化し、遠距離攻撃なら影を通して転移させることができる。普通なら赤龍帝の苦手なテクニックタイプ、打つ手はないところだけど……
ほら、気がつかれた。赤龍帝の吐き出した大質量の炎が地下鉄のホームいっぱいに広がり、埋め尽くす。
点の攻撃が駄目なら面制圧で。正しい判断だと思う。
コンラが殴り倒され、赤龍帝たちが去って行ったのを確認して隠れ場所からするりと抜け出る。
パカッと携帯を開いて曹操の番号をコール。

『どうした』

「赤龍帝はそっちへ向かったみたい。どうする?」

『……よし、君は今から偵察しながらこちらに向かってくれ。可能なら赤龍帝たちの歓待、無理そうなら実験が始まったタイミングで戻ってきてくれ』

「わかった」

通話を切り、スカートのポケットに放り込む。とりあえず地上に出て、地図を開く。

「……よし」

地図をたたんで、誰もいない道路を駆ける。
目指すは、二条城―――だったのだが。

「……あれ?」

しばらく進んでも一向に二条城が見えてこない。いや、正確には見えているのに近づけない。
これはもしかして、迷っただろうか。でも、ちゃんと地形は把握したはずなのに……
いくら進んでもしばらくすると同じ景色に戻っている気がする。
もしかして、誰かの術だろうか?だけど、ここに招き入れた中にこんなことができるのは……空間の創造主のゲオルクくらいじゃないだろうか。

「……あんまり、疑いたくはないけど」

曹操に連絡を取ってみるか、もう少し粘ってみるか……
その思考は、ズォォオオオッ!という音に引き裂かれた。
咄嗟に音のした方に視線を向けると、ぶっとい15メートルほどに膨れ上がった巨大な聖なるオーラの刀身が見えた。

「…始まった」

となるとまずい、早くここから出なければ。
だがいくら走っても、同じ景色しか目に入ってこない。微かに苛立ちながら原因の起点を探すが、それすら見つからない。
こうなったら、最終手段を使うしかないかな……

◆◇◆◇
赤龍帝と対峙した俺は、そのオーラに歓喜しながら、同時に微かに焦りを感じていた。
合流してくるはずの文姫が一向に姿を見せない。

「お前、ヴァーリより強いのか?」

赤龍帝の質問に表面上は平静な―――口の端を吊り上げて肩をすくめる。

「さあ。だが、弱くはないかな。よわっちぃ人間だけど」

その時。俺の言葉を遮るように、着信音が鳴り響いた。
この音楽は、文姫の―――赤龍帝に攻撃されるかもしれないという思考すら無視して、通話ボタンを押す。

「どうした。今、どこにいる」

語気が強くなったのは自覚しているが、同時に不信感もぬぐえない。
いつもなら俺の指示だけは違えない彼女が、今回はなぜ来ないのか。
もしかして、計算違いでもあったか……

『迷子になった』

………は?待て、聞き間違いということもある。もう一度…

「…もう一度聞くぞ。今、どこにいる?」

『だから、迷子になった』

聞き間違いではなかったらしい。いつも通りの淡々とした口調で言い切られた。
全く、世話の焼ける……

「迎えに行くからちょっと大人しくしていろ!」

怒鳴りながら携帯の電源を切る。呆けている赤龍帝を無視し、全員に声をかける。

「文姫を迎えに行ってくる。少しの間だが、任せた」

「待て曹操!君が抜けたら誰が赤龍帝の相手をするんだ!?」

ジークが当然のように問い返してくる。まあ、それでやめる気はないが。

「すぐに戻るから問題ないだろう。任せたぞ」

言い捨てて跳躍し、城壁の上へ上る。
さて、どこに行った……

◆◇◆◇
曹操に電話を叩き切られた。
最後のほう大人しくして色って言っていた気がしたけど……あの、まさかこっち来る気じゃないよね?
優先順位は実験>私なのだから。私のためなんかに大切な実験を放り出すなんてあってはいけないことだ。
そう思いながらも、どこか安堵している私もいて、それが私を戸惑わせる。
とりあえず、指示通りに待ってようと、腰を下ろした。
それから、しばらくして。

「―――見つけた。手間をかけさせてくれるな」

スタッと目の前に降りてきた曹操がため息をつく。それに、どこか安堵の色が漂っていたように感じたのは、願望だろうか。

「ごめん、手間をかけさせて」

「いや、それはいい。君に気がつかせないほどの結界(・・)だ、相当の実力者が此処に入り込んでいるな……計算違いにならなければいいが」

そう言って、すっと手を差し伸べてくる曹操。その手を自然につかむと、グイッと引っ張られて…
え、ちょっと、この体勢は……

「そ、曹操…」

「暴れるな。落ちてもいいのか」

「そ、そういう問題じゃない…!」

何だってこれから戦場に行くのに、お姫様抱っこされなければならないのか。
私の抗議なんてどこ吹く風で抱え上げ、跳躍した曹操に咄嗟にしがみつく。
すると少しだけ、曹操が笑ったような気がした。

「さて、着いたぞ」

「……赤龍帝が呆然としているように見えるのは、気のせい?」

まあ、気持ちはわかるけれど……だって、退治した相手がいきなりいなくなったと思ったら、私をお姫様抱っこして帰ってくるなんて、理解の外側だろうし。
着地した曹操にようやく下ろされて、地面に立つ。

「……………久しぶり、赤龍帝」

「あ、あの時の…!」

目を見開いて驚いている赤龍帝に苦笑しながら、刀の鍔に指をかけ、一歩前に―――出ようとしたところで、曹操の腕に遮られる。

「赤龍帝とは俺がやる。文姫、君は後ろで見ていてくれ」

「やだ、私もやりたい」

そう言うとすごく大きな嘆息をする曹操。
それに思わずムッとして睨みつけると、こつんと頭を叩かれる。

「いいか、君はここで大人しくしてるんだぞ。何もしなければ特に問題はないはずだ、飛び火したらあっちに跳ね返せばいい。わかったか?」

「そこまで子供じゃない」

私を何だと思っているのか。むくれた私だが、ふと思い出す。
そもそも、私が外に配置されたのは実験の経過が安定するまでの緊急措置ではなかったか。

「でも、大丈夫なの?」

「………君が動かなければ何の問題もないはずだ。戦力的に少し厳しいかもしれんが、いざとなれば俺がフォローすれば済む話だ」

「……ん、分かった」

そこまで言うのなら仕方がない。私は、心苦しいけれど観戦にまわろう。そう心に決め、周囲を見る。
ゲオルクは実験の運用中、ジークは木場祐斗、デュランダルと剣戟を交わしている。数的不利こそあるものの、すでに禁手(バランス・ブレイカー)状態、『阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)』になって六刀流になっているので問題ないだろう。
ジャンヌのほうもすでに禁手『断罪の聖龍(ステイク・ビクティム・ドラグーン)』を発動させ、ミカエルのAと戦っている。多分、大丈夫だろう。ヴリトラは九尾と戦っているようだ。
ヘラクレスの姿はすでに遠くの方にしか見えないが、あの破壊規模から察するに禁手になっているのだろう。私は名称は知らないけれど。
曹操のほうはきっと大丈夫―――その時、ズシュッ!という鈍い音が近くで響いた。
慌てて曹操のほうに視線を戻せば、ちょうど落ちてきた何かを右脇で抱えたところで。その抱えたものに焦点が合う。あれは……左腕…?
曹操の左腕を……赤龍帝が、斬った?
それを確認した瞬間、抑えきれない殺気が零れる。それを感じ取ったのかこちらに目を向けた赤龍帝に、抜き打ちに一撃浴びせてやる―――

「行くな、文姫」

動き出そうとした私を、残った右腕だけで遮る曹操。
なんで。曹操と同じように、腕切り落としてやらないと気がすまないんだけど。
そんな私の視線を受けて、曹操が懐から小瓶を取り出す。あるなら最初から使おうよ。
そう思いながら曹操の左腕を取り上げ、切断面にくっつける。
曹操が切断面にフェニックスの涙を振りかける。上がった煙に、赤龍帝が驚愕したように目を見開く。

「な、なんでお前がそれを!」

「裏のルートで手に入れた。ルートを確保し、金さえ払えば手に入るものさ。フェニックス家の者はこれが俺たちにまわっているなんて露ほども思ってないだろうけど」

そう。裏ルートを確保してしまえば、案外手に入るものだ。
事実、私たち英雄派は肉体的な強度の面で使用することが多いからよく知っている。
曹操のほうは心配なさそうなので、いざとなれば誰かのフォローに入れるように周囲へ意識を戻す。

―――その時。皮膚に粟を生じるような、凄絶な気配が、突如として現れる。
ぐにゃりと曲がっていった空間。同時に、夜空にかかっていた月が煌々と輝きだし、降り注ぐ月光が力を増す。
私も、曹操も、赤龍帝も。敵味方の全てが、驚いたように天を見上げている。
気配のほうに目を向けてみれば、それはここから少し離れた二の丸の庭園のあたり。
四織たちには見えなかったが、庭園の中では池の水面に映った月が怪しく輝き始める。周囲にいくつもの波紋が連鎖的に生じるのに、水面の月は乱れない。

『―――ああ、面倒だこと。こんな空間まで作ってくれて。これだから神滅具(ロンギヌス)は厄介で、おもしろいのだけれど』

全ての波紋が交差した水面に映る月。
そこを起点に、水面にぽっかりと穴が開き、同時に周囲の空間にビキビキビキッ!と罅が入る。

「ゲオルク!なんだこれは?」

「分からん!だが、何者かが無理やりここに干渉してきているようだ!」

だが。上位神滅具(ロンギヌス)で作った空間すらあっさりと干渉し、こじ開けるなんて並大抵のものにはできるはずがない。
一体何者だ、と警戒心をあらわにする一同の視線の先、空中に現れた亀裂の中から、悠々と人影が進み出てくる。
身にまとう豪奢な十二単。月をバックに背負い、艶やかな黒髪は長く伸び、扇子を広げた姿が妖しい魅力を醸し出している。
人のものとも思えない白皙の美貌は、どこか作り物めいてはいるがやはり美しい。
だが。その姿を視界に収めた瞬間、どくどくと動悸が早くなる。
何、これ……血が、暴れ……?

「……これはこれは。予定はしていない来客があったようだ。まあ、どこの誰かとは俺にはわからないが。失礼ながら、名をお聞かせ願えるだろうか?」

突如として現れた女性に、曹操が警戒を隠して問いかける。
それを見ながら私は、自らの体の中を暴れまわる衝動を何とか抑える。

「―――うふふっ、知らぬとあれば名乗りましょう。我が名は、月宮(つきみや)輝夜(かぐや)
かつて月より来たりし、永遠者の姫にして魔性たる月の具現。
さあ、英雄の子孫たち。そこにいる、やんちゃが過ぎる私のかわいいかわいい末裔を、渡してもらいましょうか?」

艶然と微笑んだ輝夜は、ついと白魚のような指を動かす。
その指先は――――過たず私のほうを向いていた。
 
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